この記事でわかること・結論
- 2026年施行予定で取適法により変わる、対象範囲・禁止行為・支払方法など取引実務の前提
- 委託事業者は契約書・価格協議・支払条件・社内研修の見直しが必須となる
- 中小受託事業者は、対象性の確認、根拠資料を用いた価格交渉、相談窓口の活用で権利保護が強化される
- 元請・下請の双方がフローを整備することで、持続可能で公正な取引関係を構築できる

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ニュースこの記事でわかること・結論
2026年にこれまで「下請法」と呼ばれてきた法律が「中小受託取引適正化法(取適法)」へと改正される予定であり、元請け・下請け双方の取引実務に大きな影響がおよびます。適用対象の拡大や禁止行為の明確化、価格協議のあり方、支払条件の見直しなど、企業が対応すべき項目は多岐にわたります。
本記事では、改正の背景や意図を押さえつつ、企業が施行前に確認すべきポイントをわかりやすく整理します。初めて改正内容を確認する担当者でもイメージしやすいよう、実務に直結する論点を中心に解説していきます。
目次
2026年に予定されている改正では、法律名称だけでなく、対象事業者の呼称、取引区分など、これまで慣れ親しんだ用語体系が大きく変更されます。
単なる名称変更にとどまらず、適用対象の明確化や取引関係の捉え方を整理する目的があり、社内規程や契約書・取引マニュアルなどの表記を統一するうえでも重要なポイントです。まずは、改正後の基本用語を押さえるところからスタートしましょう。
改正後は、親事業者・下請事業者という上下の関係ではなく、「委託をおこなう側」「委託を受ける側」という中立的な表現に統一。取引関係をより構造的に把握しやすくする狙いがあります。
これまで「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」と呼ばれてきた法律は、名称が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」へと改められます。
名称が長いため、公正取引委員会ではこれを「中小受託取引適正化法」という略称で、さらに「取適法(とりてきほう)」という通称で案内しています。
従来の名称は「支払遅延・買いたたきへの対応」に焦点がありましたが、新名称では“中小の受託者の取引環境を適正化する”という目的がより明確に示されています。企業としては、法令名だけでなく社内規程や取引基本契約書の記載も、改正後の名称に揃えておく必要があります。
・正式名称:製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
・通称 :中小受託取引適正化法(取適法)
・旧称 :下請代金支払遅延等防止法(下請法)
用語変更の大きなポイントは、これまでの「親事業者」「下請事業者」という上下関係を示す表現が改められ、「委託事業者」「中小受託事業者」という、より中立的な呼称に統一される点です。
この変更には、法律上の立場の優劣を強調せず、あくまで取引構造として “委託する側” と “委託を受ける側” を明確にする目的があります。企業内部の文書では、用語混在による誤解や運用ミスを避けるため、早めに統一しておくことが重要です。
特に契約書・発注書・社内マニュアルでは、旧来の用語が残ったまま運用されているケースも多く、改正施行前に表記統一をおこなうことで、社内外の混乱を防ぐことができます。
今回の法律改正は2026年に施行予定です。施行日以降におこなわれる委託取引は新ルールが適用され、既存の契約関係にも実務上の影響がおよぶため、企業側は遅くとも2025年内に準備を進める必要があります。
改正法は施行日以降の取引に適用されますが、契約書や発注方式、支払手段の見直しは施行前から準備が必要です。特に支払サイトや価格交渉プロセスについては、既存取引先との調整が必要となる場合があります。
また、改正では対象となる事業者の範囲も整理されており、従来の資本金基準に加えて“従業員数”による判断も加わるなど、新たに適用対象となる企業が出てくる可能性があります。自社が委託事業者・中小受託事業者のどちらに該当するか、事前にチェックしておくことが欠かせません。
これまで「下請法」と呼ばれてきた「下請代金支払遅延等防止法」は、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」へと改正され、通称も「中小受託取引適正化法(取適法)」に変わります。
従来の遅延防止・買いたたきの規制に加え、適用対象の拡大や新たな禁止行為の追加など、元請け・下請け双方にとって実務への影響が大きい改正です。
特に、価格転嫁交渉への対応や手形払いを含む支払条件の見直し、適用対象事業者の範囲の再確認などは、改正法施行前に着手しておく必要があります。これまで「自社は下請法の対象ではない」と認識していた企業でも、従業員数基準の追加や対象取引の拡大により、新たに規制対象となる可能性があります。
改正により、法律名・適用範囲・禁止行為が見直され、価格交渉や支払条件に関する実務対応が一段と重視されます。元請け・下請けの双方が、新ルールを前提にした取引関係へと早期にアップデートしておくことが求められます。
「下請代金支払遅延等防止法」は、正式名称が改められるとともに、通称も「中小受託取引適正化法(取適法)」として運用されます。
従業員数基準の追加や対象取引の拡大により、新たに対象となる企業・取引類型が生じるほか、価格協議に応じない一方的な代金決定や手形払などが禁止行為として明確化されます。
今回の改正の背景には、原材料価格やエネルギーコスト、人件費の上昇が続くなかで、下請け・受注側の立場にある中小事業者が十分な価格転嫁をおこなえず、収益力や賃上げ余力が損なわれているという問題があります。
政府は「価格転嫁円滑化」の施策パッケージや各種ガイドラインを通じて、発注側・受注側双方に対し、適正な価格交渉と取引慣行の是正を強く促してきました。
取適法への改正では、こうした流れを踏まえ、単に支払遅延や買いたたきを防止するだけでなく、「価格について十分な協議をおこなわないまま一方的に価格を決めること」や、「受注者の資金繰りを圧迫する支払手段を用いること」といった行為を、明確に問題視・規制する方向に舵が切られています。
その狙いは、サプライチェーン全体でコスト増を適切に分担しつつ、中小事業者の持続可能性を高め、公正な取引環境を整備することにあります。
取適法では、従来の買いたたき規制に加えて、価格協議に応じない一方的な代金決定の禁止や、手形払等の禁止など、価格転嫁のプロセスや支払条件そのものに踏み込んだルールが整備されました。企業は、自社の発注・受注実務を、これらの観点から総点検することが求められます。
取適法の施行により、企業の法務・コンプライアンス担当だけでなく、経理・購買・事業部門など、実際に取引条件を設計し、日々の発注・支払をおこなう現場にも影響がおよびます。
特に、取引基本契約書や個別発注書のひな形、支払サイト・支払手段、価格交渉の進め方、取引データや交渉記録の管理方法など、見直しが必要となる論点は多岐にわたります。
【参考】中小受託取引適正化法(旧・下請法)に関する情報|公正取引委員会
【参考】取適法特設ページ(改正ポイント等)|公正取引委員会
取適法の改正では、単に禁止行為が増えるだけでなく、「取引の進め方そのもの」が変わる項目が数多く盛り込まれています。特に対象範囲の拡大、価格決定のプロセス、支払方法、書面交付の方法などは、日常的な業務フローに直結する内容です。ここでは、委託事業者・中小受託事業者の双方に大きな影響を与える5つの核心ポイントを整理します。
改正では、支払方法や価格協議、書面交付の仕組みなど、従来の慣行が法令上の問題となる可能性があります。自社の業務フローをゼロベースで見直す必要があります。
従来の下請法では、対象事業者の判断は「資本金基準」が中心でしたが、改正取適法ではこれに加えて「常時使用する従業員数」が新たな基準として加わりました。
| 委託内容 | 委託事業者(旧:親事業者)の従業員数 | 中小受託事業者(旧:下請事業者)の従業員数 |
|---|---|---|
| 製造委託・修理委託・特定運送委託 | 300人超 | 300人以下 |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託 | 100人超 | 100人以下 |
資本金が大きくても従業員規模が一定以下であれば中小受託事業者に該当するケースが生まれ、適用対象が広がることになります。
委託事業者側は、取引先の従業員数を確認する手順を明文化し、契約・取引開始時に初期確認をおこなう体制を整えておくことが重要です。
今回の改正では、物流現場の取引実態に対応するため「特定運送委託」が新たに適用対象として追加されました。これまで下請法の適用範囲外だった元請運送事業者への委託や荷主企業との取引も、要件を満たせば取適法の対象となります。
・荷待ち時間・付帯作業の押しつけなどが「不当な行為」に該当しやすくなる
・運賃・料金決定の透明性が強く求められる
・元請企業は取引基本契約や運送委託書の改訂が必須
物流業界は構造的に元請・下請の階層が多く、取引慣行の見直しが不可欠となる領域です。委託側・受託側双方での意識改革が必要になります。
改正取適法の中心となるのが「価格協議義務の強化」です。受託事業者から協議の申入れがあったにもかかわらず、委託側が協議に応じないまま従来の代金を維持する行為は、明確に禁止されました。
委託事業者は、協議の流れ(申入れ → 対応期限 → 協議記録 → 合意内容の明確化)を社内ルールとして整備し、調達担当者が迷わず対応できる仕組みを構築する必要があります。
改正では、旧下請法で問題視されていた「手形払い」が原則禁止となりました。中小受託事業者が満額を早期に受け取れるよう、銀行振込などによる確実な支払方法が求められます。
手形払の禁止により、60日以内の支払を実現する企業が増えることが想定されます。
経理・調達部門は、決裁フローや稟議手続きの見直しが必須となります。
資金繰りに直結する領域であるため、委託事業者側は実務影響を踏まえて早期に準備を進めることが求められます。
改正取適法では、契約内容等の明示について「書面または電磁的方法」による対応が可能であることが明確化されました(取適法第4条第1項)。
これにより、契約書・発注書・仕様書などを、メールやPDFファイル、ウェブシステム等の電磁的方法で明示することが認められています。
紙ベースの書面交付が禁止されたわけではなく、従来どおりの運用も引き続き選択可能です。そのため、企業ごとに取引の実態や相手方の状況に応じた方法を採用することが重要となります。
なお、委託事業者が中小受託事業者に対して電磁的方法により発注内容を明示する場合には、原則として書面による交付義務が課される点に留意が必要です。(同条第2項)
委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、中小受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。ただし、中小受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない。
電磁的方法の活用は業務効率化や記録管理の高度化につながる一方で、法定義務の履行方法を誤るとリスクとなる可能性もあります。
制度趣旨と条文構造を踏まえたうえで、段階的に対応方針を検討することが重要です。
取適法の改正によって、企業の取引プロセスはこれまで以上に透明性と説明責任が求められるようになります。特に委託事業者(元請)側は、契約書・発注書の整備、支払方法の見直し、価格協議の運用ルール、現場担当者への教育など、複数の部門にまたがる改善が必要です。ここでは、各部門が優先的に取り組むべき実務ポイントを整理します。
いずれか一つの部門が対応しても、他部門のフローが従来のままでは法令違反リスクが残ります。全社的な統一ルールの構築が重要です。
法務部門では、今回の改正を踏まえて契約書・発注書のひな形を全面的に点検する必要があります。特に、旧来の「親事業者」「下請事業者」などの用語が残っているケースや、支払方法・価格協議の手順が曖昧な契約書は、改正後に不適切となる可能性があります。
特に表明保証の整備は、取引先にも適切なルール遵守を求めることで、社内外の運用を統一しやすくなる重要なポイントです。改正後のひな形は全社共通フォーマットとして一元管理することが望まれます。
経理部門では「支払方法」、調達部門では「価格交渉フロー」の整備が急務となります。手形払いの原則禁止や支払サイト短縮の流れにより、資金繰りや請求処理の運用も変える必要があります。
・手形払の全面廃止に伴う銀行振込への一本化
・60日以内の支払を前提とした社内決裁フローの調整
・価格協議の記録(メール・ミーティング記録)の保存体制づくり
・原材料高騰時などにおける「再協議ルール」の標準化
調達部門では、協議の申入れから決定・記録までの流れを標準化し、担当者全員が同じフローで対応できる状態を整えることが不可欠です。価格決定の透明性が求められる点に留意が必要です。
コンプライアンス部門は、現場担当者の理解度向上と運用ルール定着を担う重要部門です。禁止行為を正しく理解していないまま従来の慣行を続けてしまうと、意図せぬ法令違反を招く可能性があります。
特に禁止行為の理解不足は最もリスクが高く、誤解による運用ミスを防ぐためにも、部門別の研修と相談しやすい体制の構築が不可欠です。
契約書の改訂だけ、支払方法の見直しだけ、といった部分的対応では運用が破綻します。
契約 → 調達 → 支払 → 教育 の流れを一体で整備することが、改正対応の最重要ポイントです。
取適法は、委託事業者側だけでなく、中小受託事業者側の立場を守るための法律でもあります。
「自社が保護対象となるのか」「どこまで価格交渉を求めてよいのか」「不当な取引に直面したときにどこへ相談すべきか」といったポイントを押さえておくことで、日々の取引の安定性や持続可能性が大きく変わります。
ここでは、中小受託事業者として知っておきたい権利と、実務での活用方法を整理します。
まず最初におこないたいのが、「自社が中小受託事業者として新たに保護対象となるか」の確認です。改正により従業員数基準が追加されたことで、これまで対象外と考えていた企業でも、発注元との関係によっては取適法の保護対象に含まれる可能性があります。
自社が中小受託事業者として保護対象に該当する場合、価格協議の申入れや支払条件に関する要望について、法律に基づいて主張できることになります。まずは顧問社労士・顧問弁護士と連携しつつ、自社の位置づけを整理しておくと安心です。
取適法の趣旨を踏まえると、原材料費・エネルギーコスト・人件費などの高騰分を適正に価格に転嫁することは、中小受託事業者にとって重要な権利です。ただし、「値上げしてほしい」と伝えるだけではなく、根拠資料に基づいて説明することで、委託事業者側も判断しやすくなります。
価格交渉に向けた準備の流れ
・「感覚」ではなく、データと数値で説明する
・相手にとっても受け入れやすいよう、段階的な改定案を用意する
・一方的な押しつけではなく、双方の持続可能性を重視した提案にする
こうした準備をおこなったうえで協議を申し入れることで、委託事業者側も社内決裁を取りやすくなり、結果的に交渉の成立可能性が高まります。
価格協議を申し入れても一切応じない、一方的に代金を引き下げられる、不当に支払を先延ばしされる、といった状況が続く場合には、「我慢する」以外の選択肢も用意しておくべきです。取適法違反が疑われるケースでは、公的な相談窓口を活用することで、具体的な助言や是正への働きかけを受けられる場合があります。
不当な取引が疑われる場合でも、やり取りの記録が残っていなければ、後から事実関係を整理することが難しくなります。
見積もり・発注条件・価格協議のやり取り・支払状況などは、メールや書面、メモとして必ず残しておくことが大切です。
取適法は、中小受託事業者が「声を上げられる環境」を整えるための法律でもあります。自社だけで抱え込まず、早めに相談・記録・情報共有をすることで、取引関係を適正なものに近づけていくことができます。
取適法は、中小受託事業者が適正な条件で取引できる環境を整えるための重要な改正です。従業員基準の追加により新たに対象となる企業も増えるため、まずは自社が保護対象か確認することが大切です。
そのうえで、根拠資料に基づく価格交渉や記録管理を徹底し、不当な取引には公的窓口を活用することで、持続可能な取引関係を構築できます。
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