こんな疑問を解決します
- 現在の社会保険の加入条件について(2023年時点)
- 2022年と2024年に施行される社会保険の適用範囲拡大について
- 企業や労務担当者が適用範囲拡大に伴い注意すべきこと
一定時間以上働く労働者が加入できる社会保険は、大きく分けて「健康保険」と「厚生年金」があります
日本では社会保険への加入条件を緩和し、より多くの人が加入できるような取り組みが進められています。これまでも2016年・2022年と段階的に社会保険の適用範囲の拡大がおこなわれており、2024年10月にはさらに適用範囲が拡大される予定です。
原則、社会保険の加入対象となる正社員に対して、パートタイム・アルバイトの方は加入対象であるかどうか、社会保険の加入条件を確認する必要があります。この記事で改めて、社会保険の加入条件について確認していきましょう。
こんな疑問を解決します
みのだ社会保険労務士事務所 社会保険労務士
https://www.minodashahorou.com/
大学卒業後、鉄鋼関連の企業に総合職として就職し、その後医療機関人事労務部門に転職。 約13年間人事労務部門で従業員約800名、新規採用者1,000名、退職者600名の労務、社会保険の相談対応にあたる。 社労士資格取得後にみのだ社会保険労務士事務所を開設し、独立。
目次
健康に気をつけて生活をしていても、病気やけがなど自助努力だけでは予防しようのない事故などは誰にでも訪れる可能性があります。
たとえば、会社員が加入する社会保険の種類は健康保険と厚生年金が挙げられ、健康保険は最長で74歳まで加入(75歳以降は後期高齢者医療制度)でき、厚生年金は70歳まで加入ができます。
もしも保険事故(たとえば近年増加傾向である精神疾患など)が生じた際には、各被保険者の報酬によって定められた保険料を財源として、保険事故に見舞われた被保険者に必要な保険給付がおこなわれます。
そのために社会保険加入者は、毎月の給与(または役員報酬)支払時に保険料を支払います。なお保険料は労使折半とされ、企業が半分を支払う構造となっています。
社会保険のポイント
社会保険の加入対象となるかは、まずは事業所(事業)で判断します。社会保険には、
の2種類があり、強制加入か任意加入かによって必要な手続きが異なります。
強制適用事業所とは、社会保険の加入が法律によって義務(強制加入)化されている事業所です。以下に該当した場合、事業主の意思などに関係なく必ず社会保険に加入しなければなりません。
上記のとおり法人事業所(株式会社など)の場合、給与を支払っている従業員・役員が1名でもいれば社会保険への加入手続きをとらなければいけません。強制加入義務の事実が発生した日から5日以内に「新規適用届」を年金事務所に提出しましょう。
個人事業所においては、従業員数が5名以上か5名未満かで判断します。なおここで数える従業員とは、性別や国籍・雇用形態を問いません。5名未満の場合、次に紹介する「任意適用事業所」に該当します。
任意適用事業所とは強制適用事業所に該当しない事業所のことで、一定の条件を満たせば任意加入が可能です。
非適用業種とは主に、農業・林業・水産業、サービス・自由業、宗教などです。任意適用事業所の場合、以下の書類を年金事務所に提出する必要があります。
では次に、社会保険に加入する事業所において、社会保険に加入しなければならない従業員の条件を見ていきましょう。
社会保険に加入義務がある人の条件は、以下のとおりです。
常時雇用されている従業員とは、
のいずれかに当てはまる従業員のことを指します。法人企業を例に取ると、代表取締役・取締役などの役員や正社員はすべて社会保険の加入対象です。対象者は、試用期間中でも社会保険への加入義務があります。
また、パートタイムやアルバイトとして勤務している従業員も、正社員の週および月の所定労働時間の4分の3以上勤務していれば、社会保険の加入対象となります。
正社員の週の所定労働時間が40時間の場合、パートタイム・アルバイトは週に30時間以上勤務しており、月の所定労働日数が4分の3を超えている場合、社会保険に加入しなければいけません。概ね週30時間以上働くパートタイム・アルバイトは、社会保険の対象となることを覚えておきましょう。
ただし4分の3未満の場合であっても、以下の条件をすべて満たすパートタイム・アルバイトは社会保険の対象となります。
派遣労働者も、
の場合には社会保険の加入対象となります。上記の条件を満たさない場合においても、以下の条件をすべて満たす方は加入対象です。
担当者は従業員の社会保険の加入手続きを忘れないためにも、以下の3点を覚えておきましょう。
社会保険の加入条件のポイント
社会保険は、現時点では2024年10月に適用範囲の拡大が予定されています(2023年6月時点)。これまでも社会保険の適用範囲の拡大はおこなわれており、2016年10月と2022年10月に実施されています。
2016年10月~ | 2022年10月~ | 2024年10月~ | |
---|---|---|---|
従業員数 | 501名以上 | 101名以上 | 51名以上 |
週の所定労働時間 | 20時間以上 | ||
見込み雇用期間 | 1年以上 | 2カ月以上 | |
賃金月額 | 88,000円以上(年収106万円以上) | ||
職業 | 学生以外 |
2022年10月以降、社会保険の適用範囲拡大の変更により「継続して1年以上雇用見込みがある」から「2カ月を超える雇用見込みがある」に条件が変更されました。
また、以前は従業員規模に関して「501名以上の事業所に勤めていること」が条件でしたが、現在は「101名以上の事業所に勤めていること」が条件となっています。
なお2024年10月には、”101名以上の事業所であること”が「51名以上の事業所であること」に変更され、規模が小さい事業所に勤める方も社会保険の加入対象となる予定です。
2024年10月以降の
社会保険の適用範囲拡大の変更点
そのため50名以下の会社に勤めている場合は、これまでどおりおおよそ週の労働時間が30時間以上・2カ月以上の雇用の見込みがある場合のみ、パートタイム・アルバイトの方も社会保険に加入する必要があります(2023年6月時点)。
社会保険の適用範囲拡大の要件となる従業員数(101名など)の数え方は、その企業に所属する労働者数ではなく、厚生年金の被保険者※のみで数えます。
正社員やフルタイム労働者の4分の3以上の労働時間で働くパートタイムなど。
そして一度適用されると、その後従業員数が下回ったとしても原則として拡大後のルールが引き続き適用されることとなります。
国内の出生数は2019年に統計開始後初めて90万人を下回り、当分の間、労働力人口減少に歯止めがかからないことが明らかとなりました。社会保険制度を持続的に運営していくには保険料徴収が欠かせず、労働人口の減少は保険料徴収においてもマイナスと言わざるを得ません。
年金制度を例に取ると日本の年金制度は「世代間扶養」を採用しており、現役世代が納めた保険料を原資として年金受給者を支える構図となっています。
以前と比較して、現在は一人で支える高齢者の数が増加しており、社会保険の適用範囲拡大は日本の社会保険制度の持続的な運営のためには必要不可欠といえます。
社会保険の適用範囲拡大に伴い、企業や労務担当者は変更内容だけじゃなく変更に備えた体制を整備しなければなりません。
社会保険の適用範囲拡大により、被保険者数の増加が予想されます。社会保険料は月々の報酬や賞与と比例するため、年換算すると決して安価とはいえません。
社会保険の性質上、保険料の支払いは労使折半となることから、経営上の観点で「どの程度の従業員が対象となるのか」をあらかじめ把握しておく必要があります。
社会保険は逆選択(本人の都合により加入するか否かを選ぶこと)ができません。労働契約上、要件を満たす契約を結んでいる場合、社会保険への加入義務が生じます。
しかし、従業員によっては「扶養の範囲内で働きたい」という家庭の事情もあり得ることから、早いタイミングで改正内容を周知し、場合によっては契約内容の見直しをするなどの選択肢が想定されます。
短期的な部分にのみ着目して扶養から外れると、社会保険料の負担も生じることから、家計単位では手取り額がマイナスとなる可能性があります。
しかし社会保険に加入することで、老後の年金増額や万が一働けなくなった場合に傷病手当金(概ね給与の3分の2)を受けることができ、長期的にプラスにもなり得るため懇切丁寧に説明することが重要です。
社会保険適用対象となった場合は、正社員同様に「標準報酬月額」に基づき、毎月保険料を徴収する必要があります。
(所得税に着目すると)社会保険料控除後の額に対して月々控除される所得税が決まることから、適用拡大前後で総支給額が変わらない場合、所得税額は低くなることがあります(最終的には年末調整時に適正な納税額が決定)。
万が一適用要件に合致するにもかかわらず、加入できていないパートタイムがいた場合、さかのぼって加入させる必要があり、その分の保険料の納付も必要です。
社会保険の加入対象にもかかわらず未加入であった場合、以下のような罰則を受ける可能性もあるため注意が必要です。
社会保険の加入対象にもかかわらず必要な手続きなどを怠っていると、日本年金機構より加入状況に関する案内文書が届き、必要に応じて加入指導がおこなわれます。
社会保険について虚偽の申請をおこなった場合や、日本年金機構からの加入指導に従わなかった場合などは、健康保険法第208条により6カ月以上の懲役、もしくは50万円以下の罰金が科せられることもあります。
日本年金機構による加入指導に対し必要な手続きをおこなわず、強制加入が執行された場合、本来納付すべきであった社会保険料について、過去2年間にさかのぼり納付が必要となり、退職者も対象となります。
厚生労働省では、社会保険(厚生年金など)の加入の有無は、ハローワークで求人の申請をおこなう際に、重要な求人情報として適切に明示する必要があるとしています。そのため、社会保険に未加入の事業所は、ハローワークで求人掲載を受け付けてもらえません。
多くの企業が抱える課題のひとつである採用活動において、ハローワークの活用は有効的な手段です。ハローワークを活用するためにも、社会保険への加入は適切におこないましょう。
勤務日数や労働時間の変更などにより社会保険の加入条件に満たなくなった場合は、対象従業員が加入条件を満たしていないことを認識しているか確認し、資格喪失の手続きをおこなう必要があります。
労使間トラブルが起きないように、必要な手続き(資格喪失手続き)をおこなう前に必ず、該当従業員に社会保険の加入条件を満たさなくなったことについて、確認・説明をおこないましょう。
年間収入が130万円未満※1かつ被保険者(扶養者)の収入の2分の1未満※2となり、親族や配偶者の扶養に入った場合は、以下の書類を提出する必要があります。
1: 60歳以上または一定の障害者の場合は180万円未満
2: 同居の場合
パートタイムやアルバイトなど、労働時間・日数に変動があり社会保険の加入条件を満たさない月が発生する場合は、以下のように対応します。
1年を52週、1カ月を12分の52週とする
働き方改革以降、副業をおこなう者や兼業者の割合も増えています。副業先が社会保険の適用外の業務委託契約などの場合、問題は生じませんが、実務上はいずれか一つの企業を選択する「選択届」を届出します。
今後起こり得る問題は、いずれの企業でも「短時間労働者」として本業先・副業先双方で社会保険の適用対象となった場合には注意が必要です。
社会保険の適用範囲拡大のみでは、社会保険の持続的な運営が保障されるとまでは言えませんが、被保険者数が増えることで、今後の働き方や老後の生活設計について考える機会が増えると予想されます。
現在は法律上、原則として60歳を下回る定年が違法とされていますが、定年後も雇用形態を変えるなどして、社会保険に加入しながら働くビジネスパーソンは増加傾向にあります。
社会保険の適用範囲拡大を契機に、企業としても一個人としても今後の働き方などを見直す必要性が高まっています。