法律による支給義務はないものの、多くの企業では賞与(ボーナス)支給がおこなわれています。給与と別に支給される賞与は、従業員のモチベーションにつながる報酬のひとつです。
しかしそんな賞与にも、給与と同じく金額に応じた社会保険料・所得税がかかります。ただし、差し引く額の計算方法は給与とは異なります。
この記事では賞与の基礎知識、賞与から控除される社会保険料・所得税の計算方法、賞与支給に関する注意点を解説します。
目次
賞与とは、毎月支払われる給与とは別に支給される「報酬」です。毎月固定の金額が定期的に支払われる給与とは異なり、賞与は支給額が固定されていません。
一般的に、賞与は企業の業績や従業員の成績、固定給与額に応じて支給額が決定されます。また多くの企業では、夏期と冬期の年に2回、賞与が支払われるケースが多いでしょう。
賞与の代わりに「ボーナス」という言葉が用いられることもありますが、給与以外の「一時的に支払われる報奨金」を指し、基本的に賞与とボーナスは同じ意味合いで使われています。
また企業によっては、賞与を指す言葉としてボーナスのほかにも「特別手当」などと呼ぶこともあります。
賞与の種類は、主に以下の3つに分けられます。
「基本給連動型賞与」とは、従業員の基本給に応じて賞与の支給額が決定する賞与の計算方式であり、多くの企業で採用されています。
賞与の計算方法は企業によってさまざまです。基本給連動型賞与では「基本給◯カ月分の賞与支給」というように、個人の業績というよりも基本給で賞与額が決定します。
「業績連動型賞与」とは、企業の業績や従業員個人の成績などに応じて賞与の支給額が決定する賞与の計算方式です。
成果主義型の賞与である業績連動型賞与は、従業員のモチベーション向上につなげやすく、成果主義の考え方が強くなりつつある近年では、業績連動型賞与を採用する企業が増えています。
「決算賞与」とは、決算月の前後に支給される企業の業績に応じた賞与です。
企業によっては年に2回支給される賞与とは別に決算賞与も支給する場合もあれば、決算賞与のみ支給する場合もあります。
賞与の計算方法は、支給項目から控除項目を引いて算出します。算出した金額が従業員が受け取る賞与額です。
企業の担当者は人件費に関わってくるため、正しい計算が求められます。
賞与にも、毎月支給される給与と同様に社会保険料などがかかります。賞与から差し引かれるのは、
です。もし賞与を受け取るのが45歳以上60歳未満の場合は、介護保険料もかかります。
各種保険料がいくら賞与から差し引かれるのかは、賞与支給額に料率をかけて算出します。毎月の給与から差し引く保険料の計算方法とは異なるため、人事担当者は注意をしましょう。
健康保険料は「標準賞与額」と「健康保険料率」を用いて計算します。
「標準賞与額」は支給する賞与額の1,000円未満を切り捨てた金額です。「健康保険料率」は全国健康保険協会により定められた料率で、給料と同じ料率です。
賞与から差し引かれる健康保険料=標準賞与額(1,000円未満を切り捨てた賞与支給額)×健康保険料率
厚生年金保険料は「標準賞与額」と「厚生年金保険料率」を用いて計算します。厚生年金保険料率は、183/1000です。
賞与から差し引かれる厚生年金保険料=標準賞与額(1,000円未満を切り捨てた賞与支給額)×厚生年金保険料率(183/1000)
厚生年金保険料は「賞与総支給額(支給する賞与額)」と「雇用保険料率」を用いて計算します。
賞与から差し引かれる雇用保険料=賞与総支給額×雇用保険料率
雇用保険料率は事業の種類によって料率が異なり、令和5年度の保険料率は以下のとおりです。
▼令和5年度の雇用保険料率
雇用保険料率 | ||
従業員負担 | 事業主負担 | |
一般の事業 | 15.5/1000 | |
6/1000 | 9.5/1000 | |
農林水産・ 清酒製造の事業 |
17.5/1000 | |
7/1000 | 10.5/1000 | |
建設の事業 | 18.5/1000 | |
7/1000 | 11.5/1000 |
所得税(源泉徴収税)は、社会保険料などを差し引いた「賞与の金額」と「源泉徴収税率」を用いて計算します。
源泉徴収税率は「前月給与(総支給額)から社会保険料を差し引いた金額」と扶養親族の数に応じて税率が決定します。
賞与から差し引かれる所得税(源泉徴収税)=社会保険料などを差し引いた賞与額×源泉徴収税率
企業が賞与の支給をおこなう際には、いくつか注意点があります。
退職予定者の賞与について、支給する必要があるのか疑問に思う場合もあるでしょう。退職予定者に対する賞与支給は就業規則など、社内規定によって決定します。
企業が定める規定において賞与支給が定められていない場合は、従業員および退職予定者に賞与支給する必要はありません。
しかし賞与支給に関する規定がある場合は「支給日在籍要件」によって、退職予定者に対し賞与支給する必要があります。
賞与支給日において、従業員が在籍している場合に、賞与支給を認める定めのこと。
退職予定者と賞与の問題はトラブルにつながりやすいため、あらかじめ就業規則などで明確に規定を定めておきましょう。
賞与にかかる社会保険料には上限があります。
健康保険の上限は、年間累計額(毎年4月1日から翌年3月31日までの累計額)が573万円です。また厚生年金保険の上限は、1カ月あたり150万円となっています。
また従業員(被保険者)より、標準賞与額の年間累計額が上限573万円を超える旨の申出があった場合、企業は「健康保険標準賞与額累計申出書」を賞与支給日から5日以内に年金事務所に提出する必要があります。
従業員へ賞与を支給した場合「賞与支払届(被保険者賞与支払届)」を提出する必要があります。
賞与支給日から5日以内に日本年金機構に提出しなければならないため、賞与支給時は忘れずに手続きをおこなうようにしましょう。
賞与計算は、給与計算と同様に社会保険料や所得税の控除項目の計算が必要です。
「賞与額(賞与総支給額)」と「標準賞与額」との違いなど、賞与計算に必要な項目を正しく理解し、計算ミスのないよう注意する必要があります。
また複雑な賞与計算は、自動計算ツールが搭載された「賞与計算クラウドサービス」などを活用することで簡単に正確な賞与計算がおこなえます。
賞与計算における業務効率化につなげるためにも、クラウドサービスの活用がおすすめです。
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