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人材・組織人件費とは企業が利益を上げる過程において必要な経費のひとつです。経費の中でも大きな割合を占める場合が多く、その扱いによって利益が変動することがあります。今回は、人件費の基礎知識やその種類と範囲、生産性を向上するために重要な人件費の取り扱について解説します。
キャンバス社会保険労務士法人・創業者兼顧問
https://www.canvas-sr.jp/
税理士事務所勤務時代に社労士事務所を立ち上げ、人事労務設計の改善サポートに取り組む。
開業4年で顧問先300社以上、売上2億円超達成。
近年では企業の人を軸とした経営改善や働き方改革に取り組んでいる。
人件費とは、企業にかかる経費の中で「ヒト」全般に関わる費用です。毎月従業員に支払う給与や、賞与(ボーナス)、福利厚生費などが含まれます。
法定福利費は健康保険や厚生年金保険、介護保険を含む社会保険料を指し、人件費の中でも大きな割合を占めています。また、退職一時金などの退職給付費用は、企業によって規定が大きく異なるため、確認が必要です。
人件費は2種類に分けられ、それぞれに以下の項目があります。
人件費の種類 | 項目 | 詳細 |
---|---|---|
現物給与総額 ※1 (所定内賃金と 所定外賃金、 賞与・ 一時金の総額) |
所定内賃金 | 毎月支給される給与の基本給や 家族手当・営業手当など |
所定外賃金 ※2 | 時間外労働賃金(残業代)、 深夜労働の割増賃金、 休日出勤手当など |
|
賞与・一時金 ※3 | 毎月の給与とは別に 支給される賃金(ボーナス) |
|
現物給与以外 | 退職金 ※4 | |
法定福利費 | 介護保険を含む社会保険、 健康保険、厚生年金保険など 会社負担分 |
|
法定外福利費 ※5 | 交通費、住宅手当、 社宅、社員食堂、 レクリエーション費、 特別休暇など |
|
人材採用費・ 教育研修費 ※5 |
1:昇進・昇格などで所定内賃金が増加すると比例して所定外賃金も増加するため、人件費が逼迫しないように注意が必要。
2:労働時間によって、変動します。
3:所定内賃金や成果に連動して、支給額が決定。
4:退職金費用には、将来の退職金支給に備えて準備する「退職給付引当金」と「退職金掛金」があり、退職金額の算出方法は企業毎に異なります。
5:任意で企業が実施する福利厚生に関わる費用。
人件費とは、企業活動において人が労働をした場合に支払われる報酬や各種手当を指しますが、役職や雇用形態によって、人件費として計上するかどうかの判断が必要です。
対象 | 契約内容 | 人件費の該当可否 |
---|---|---|
役員 ※1 | 委任・準委任契約 | × |
パートタイム・ アルバイト |
雇用契約(労働契約) | 〇 |
派遣社員・ 業務請負 ※2 |
雇用契約がない場合でも常駐勤務の場合、 人件費として計上できる |
〇 |
1:使用人兼務役員の場合、役職としての労働は人件費として計上できる。
2:派遣社員や業務請負の社員が常駐勤務する機会が増えているため、派遣社員や業務請負で発生する総額の人件費や労働生産性を適切に把握しなければなりません。
人件費が企業活動に与える影響は大きく、総額人件費が適正な水準か確かめることは重要です。確認した総額人件費水準は人件費の適正度を把握することに役立ちます。
総額人件費を算出する際は現物給与(基本給・諸手当)、賞与、退職金、法定福利費や福利厚生費が含まれていることを確認します。所定内賃金を100とした場合に、総額人件費の値がいくつになるかを計算します。
総額人件費を分析するうえで重要になる指標は、
などが該当します。指標を数値化すると同業他社の平均値やベンチマーク企業の数値と比較することができ、人件費はもちろん経営改善の手掛かりを見つけることができます。
経営状況を分析するうえで欠かせない指標として「跳ね返り率」があります。跳ね返り率とは、昇給などによる基本給の上昇が経営にどのように影響を及ぼすかを総額人件費から算出する指標です。
跳ね返り率を算出する際は、基本給の増減に合わせて変動する項目(法定外賃金、賞与、法定福利費など)に限って算出します。
また、総額人件費から経営状況を分析する場合、固定する条件と変動する条件を設定することで正確性が高まります。たとえば、条件に「売上高」「付加価値率」「固定費」「昇給率」を含めると、
を算出できます。
算出された総額人件費の値が高ければ、今後の経営方針を含めて是正を行うことが必要です。人材は重要な経営資源のひとつであり、短期的なリストラや人件費カットは社内の士気を急激に低下させるリスクを生み出します。中長期的な視点で是正に取り組み、経営計画と合わせて人件費抑制計画を設計し、複数年をかけて適正な労働分配率の実現を目指しましょう。
人件費の分析は人事部を中心とした人事部門で取り扱われています。企業の屋台骨として企業全体を支える、バックオフィスや間接部門と呼ばれる人事部は企業活動において不可欠です。一方で、営業や製造などの企業の売上や利益に直接結びつく直接部門と比べて、目標や評価基準の数値化がしにくく、人事部が担う業務である給与計算や諸手続の事務処理は他社へのアウトソーシングを含めた業務効率化の対象になりやすい傾向があります。
近年では戦略人事への注目が高まっており、人事部門として組織の生産性向上を担う部門として役割の変更が求められています。経営陣と連携して事業戦略を進めながら、生産性の向上につながる社内制度の構築や人材マネジメントの実施が重要となります。
人事部門をはじめとする間接部門や、組織全体の定型業務を削減することで、人にしかできない分野に労働力を集中させることができます。
A IやRPAなどを活用したシステムの導入はコスト削減だけでなく、定型業務や煩雑な事務処理を簡略化することに繋がります。今後は電子申請義務化が進み、マイナンバーをはじめとした個人IDで対応する手続きが増えるため、経営戦略としても活用できるメリットもあります。
組織全体で必要になる顧客管理には、営業活動に特化している「営業支援システム(S F A)」や、マーケティングに特化した「顧客関係管理(C R M)」の導入がおすすめです。社内での密な連携が取りやすくなることで、売上の向上が期待できます。
決算賞与制度を取り入れることも総額人件費水準を是正する手段として有効です。年2回の賞与とは異なる決算賞与は、必ず支給されるわけではないため、「臨時ボーナス」の位置づけとなります。また、会社の業績が好調であることの証となるため、従業員エンゲージメント・モチベーションの向上施策としても有効です。
定年退職を迎えた社員を採用する再雇用制度は、これまでの経験や知識を活かし、若手の育成に活用できます。一方で、ベテランの意見に若手が躊躇してしまうなど世代交代が進みづらいデメリットもあるため、人事部が両者の仲介として、マネジメント研修や交流促進施策を実施することが求められます。