2022年10月18日に開催された税制調査会において、退職金の課税を一律とする案が検討されました。
現行の退職金にかかる税金は、勤務年数が長くなるほど優遇される制度となっています。
働き方の多様化や転職の増加に対応するため、勤務年数に応じた優遇とは異なる考え方で課税する議論がなされています。
本記事では、退職金の課税、退職金控除の計算方法などから、退職金一律課税案について解説します。
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目次
退職金は、所得税や復興特別所得税、住民税などの税金がかかります。
退職金から一定の控除額を差し引いて計算した退職所得に対して、退職所得の金額に応じた税率で課税されます。
勤務年数が長いほど控除額が大きく、税金が少なくなります。
また、退職金は老後の生活資金を支える重要な収入として税金が優遇され、結果的に税金がかからないこともあります。
退職金にかかる税金を考えるときに大切な、退職金と退職所得の考え方について解説します。
退職金とは、勤務先から退職するときに支払われるお金です。
退職時に一括で受け取る「一時金」方式と、年金のように一定額を分割して受け取る「年金」方式があります。
退職所得とは、退職によって受け取るお金の合計額から控除額を差し引きます。
計算式は次のとおりです。
「退職に伴う収入の合計」には、勤務先から受け取る退職金のほかに含まれるものがあります。
なお、確定給付企業年金制度で、勤務期間に従業員が負担した保険料は、退職に伴う収入から差し引くことができます。
退職金は、年収には含まれません。
退職金を一時金として一括で受け取る場合は、給与所得ではなく退職所得として、分離課税されます。
退職金を年金方式で分割してもらう場合は、給与所得ではなく雑所得となりますが、総合課税の対象になります。
雑所得の対象である、公的年金や副業による収入のうち、公的年金に該当するためです。
退職金を年収に含めると、給与とともに総合課税(累進課税)され、多額の納税が必要となってしまいます。
老後の生活や転職活動中の生計費である退職金(一時金)は、総合課税とは別の計算をおこなうことで、税金を軽くできるように考慮されています。
退職所得控除は、勤務年数が20年以下か20年超であるかによって大きく変わります。
2021年の税制改正によって、2022年1月1日以降を退職日とする退職金から、退職金の考え方と計算式が改正されています。
従業員で勤務年数が5年以下の場合の退職金について、短期退職手当という考え方が新設され、退職金にかかる税金の計算も変更されました。
改正後の退職金は、次の4つの種類に分けて考えます。
勤務年数5年以下 | 勤務年数5年超 | |
従業員の場合 | 短期退職手当(新設) | 一般退職手当 |
役員などの場合 | 特定役員退職手当 | 一般退職手当 |
従業員の場合で勤務年数5年以下の場合は短期退職手当となり、退職所得を計算するときの2分の1の減額を300万円まで(300万円を超える部分は2分の1にならない)とすることに改正されています。
退職所得控除は次のとおりに計算します。
勤務年数が20年を超えると、退職所得控除の金額が急増し、以後、勤務年数とともに控除額が増加するため、退職金にかかる税金が少なくなります。
勤務年数 | 退職所得控除 |
20年以下 | 40万円×勤務年数(合計が80万円に達しない場合は、80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数―20年) |
勤務年数については、1年に満たない月数は、1年に切り上げします。
このため、短期退職所得の基準である5年と、退職所得控除の計算式が変わる20年の節目については注意が必要です。
退職金を計算するときにはよく、「5年ルール」が用いられます。
5年ルールとは、退職金(一時金)を複数回(または複数か所)に分けて受け取るとき、5年以上の間隔をあけると、その度に通常の退職所得控除を受けられることを指します。
注意点は、退職金(一時金)にかかる退職所得控除の5年ルールであるため、iDeCoなどには適用できないことです。
つまり、iDeCoを受け取ってから5年以上の間隔をあけて退職金(一時金)をもらうことにすれば、iDeCoを受け取るときと退職金(一時金)をもらうときの2回とも、原則的な退職所得控除を受けられます。
逆に、退職金(一時金)をもらってから5年あけてiDeCoを受け取ると、iDeCoの受け取り時には原則的な退職所得控除が受けられません。
退職金には税金がかかります。
所得税、復興特別所得税、住民税の3つです。
退職金は給料と異なる取り扱いをすることで、税金の負担が軽くなるように設計されているため、結果的に退職金に税金がかからないこともあります。
退職金は、一括で受け取る一時金方式、毎年分割してもらう年金方式、退職金を一時金と年金に分けて受け取る方式の3つがあり、課税方法も異なります。
勤務先の退職金の決まりを事前に確認しておきましょう。
退職金よりも退職所得控除が多いと退職所得は0となり、税金はかかりません。
具体的な退職所得の計算例と退職所得がある場合の税率は、次のとおりです。
1 退職金から勤務年数に応じた退職控除額を差し引きします。
2 退職控除額を差し引きした金額に2分の1をかけて、退職所得を計算します。
3 退職所得に応じた税率をかけて、所得税額を計算します。
A 課税退職所得金額 | B 税率 | C 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
4 所得税額に所得税額の2.1%の復興特別所得税を加えると、税金が計算できます。
退職金を一括でもらう一時金方式の場合は、給料とは別に扱う退職所得として取り扱います。
退職所得は分離課税となり、退職所得控除などを行って、単独で税金を計算します。
退職金を、毎年分割で受け取るなどの年金方式の場合は、雑所得として総合課税の対象となり、退職金を年金方式でもらうときは、収入である退職金(年金)から公的年金控除額を差し引いて計算します。
公的年金控除は公的年金の合計金額によって変わるため、退職金(年金)以外の年金を含めて計算する必要があります。
退職金にかかる税金は、年末調整で納付する源泉徴収が簡便ですが、確定申告をおこなったほうがよい場合もあります。
退職金にかかる税金は、源泉徴収で納付することができます。
退職金をもらうまでに勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出することが必要です。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合は、退職金をもらうときに、退職金の支給金額(税引き前)に一律20.42%の税金が差し引かれます。
この場合は、確定申告により払いすぎた税金の還付を受けることが可能です。
退職金をもらった年について、確定申告をしたほうが望ましい例は、主に次の例です。
退職金を受け取るまでに「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、確定申告は不要です。
確定申告をしたほうが良い例は、確定申告をしないと納めすぎた税金は返ってこないことです。
退職金に関する税金の特長は、勤務年数が長いほど退職控除額が大きくなる、つまり税金が優遇されている点と、一時金方式で受け取る場合と年金方式で受け取る場合によって課税方法が異なる点、の2つです。
退職金一律課税案では、勤務年数や退職金の受け取り方法にかかわらず、退職金額によって一律の税率にしてはどうかという議論がなされています。
議論の背景には、転職の増加や退職金がない代わりに給料が高めになっている会社の増加などがあります。
現時点ではあくまでも検討の段階であるため、今後の議論によって、退職金にかかる税金の考え方が大きく変わることもあり得ます。
従来、終身雇用を前提とした働き方にあわせて、退職金にかかる税金の考え方が決められてきました。
しかし、近年の雇用の流動化や働き方の多様化に伴い、退職金への課税の考え方が大きく変わる可能性があります。
退職金は、老後の生活を支える重要な収入であり、退職金にかかる税金は、会社だけでなく従業員も関心が高い事柄です。
従業員自身も事業所も、今後の退職金制度のあり方や税制の見直しについては注意することが大切です。