高齢化社会が進むなかで、公的年金を補完するものとして企業年金や個人年金が注目されています。企業の福利厚生として古くから企業年金は導入されていましたが、今後は社員の定着率を上げるためにも、企業年金制度の見直し・選定・導入が人事労務担当者にとって重要な課題といえるでしょう。
企業年金制度について解説するとともに、確定拠出年金、確定給付年金、厚生年金基金など、各制度についても詳しく解説していきます。
企業年金はその名のとおり企業が独自で設立する年金です。公的年金(国民年金や厚生年金)に、さらに上積みで受け取ることができ退職した社員の老後が、より安定したものになります。
もともと誕生したときは「退職一時金」だったのですが、公的年金制度が整備されるにつれて、今のような公的年金を補完するという立ち位置になりました。近年は公的年金の給付水準が低下してきています。
それに伴い、企業年金の役割はますます重要になってきました。もう一度ここでしっかりと企業年金について確認し、福利厚生のしっかりとした事業所を目指しましょう。
企業年金は大きく「確定拠出年金」「確定給付年金」「厚生年金基金」の3つに分けられます。確定拠出年金は、まず初めに掛け金を決め、そして積み立てた年金を資産として運用していくのが特徴です。運用の結果、もし利息が出れば支給される年金は増えますし、反対に損失が出てしまえば支給額も減ります。リスクもリターンも両方ある年金です。
この確定拠出年金には、企業型と個人型があります。企業型は掛け金の金額を企業が決め、その費用も企業が負担する方式です。実施するのは事業主で、ひとつの事業所が単独で行ってもかまいませんし、複数の事業所と共同で行うことも可能です。
この企業型の確定拠出年金を導入する場合はそのための規約を作成します。規約内容に労使が合意したら、厚生労働省へ承認をもらってください。その後、資産管理契約を信託会社・生命保険会社などと締結します。積立金の運用は労働者自身がこの管理先に指示を出しながら行います。
一方で個人型年金は、年金の拠出や積み立て、および管理まですべて個人で行う方式です。どちらかといえば、自営業者や企業年金のない事業所で働く労働者が、独自に加入することが多い方式です。資産の管理先は国民年金基金連合会で、こちらも運用は労働者自身で行います。
確定給付年金は確定拠出年金とは対称的に、まず給付金を確定させてから、掛け金を決めるのが特徴です。積み立てた年金は資産として管理・運用されますが、もし損失が出た場合でもその補填は企業が行います。反対に利益が出た場合でも、従業員にその分上乗せすることはありません。
この確定給付年金も大きく分けて規約型と基金型の2つに分けられます。規約型は、まず年金規約を作成するところから始まります。規約について労使の合意が得られれば、厚生労働省から承認をもらってください。その後、資産運用会社と締結し年金資産の管理・運用を委託します。
一方で規約型は企業年金基金という独立した法人を設立し、そこで積立金の管理・運用を行っていくのが特徴です。年金規約を制作した後(規約型と同様に労使の同意と厚生労働省の承認を得てください)、企業年金基金を設立し、そこで管理・運用を行います。
厚生年金は法人または5人以上の従業員を雇っている適用事業所であれば、かならず加入する保険です。国が運営している公的年金に当たり、加入するのも事業所になります。その一方で厚生年金基金は企業年金です。
事業所が独自に設立する基金に従業員が加入し、老齢厚生年金の一部を国に代わって支給する(代行部分)、老齢厚生年金の支給額にさらに上乗せで支払う(加算部分)という年金になります。
しかし、近年この厚生年金基金は終わりを迎えようとしています。平成23年から27年の5年間で基金数は、なんと300以上も減少し(577→256)、平成26年4月1日からは基金の新規設立もできなくなりました。
これは、本制度の大きな特徴である代行部分が機能しなくなってきたからです。本来は公的年金の支払いに使われる金額の一部を基金の方で積み立て、それを資産として管理・運用しながら代行部分および加算部分を確保してきました。
しかし、不況などもあってか、資産運用で利益を出すことも難しくなり、いつしか代行部分の金額すらも確保できないことも多くなったのです(代行割れ)。この状況では基金に入ったために、支給額が減るということも起きてしまいます。
こういった事情もあり、国は代行割れが発生している企業を調査し、解散させているというのが厚生年金基金の現状です。
近年は企業年金を取り巻く環境が大きく変わってきています。公的年金の支給水準が減るなか、厚生年金制度も機能しなくなり、非常に厳しい環境になっていると言えます。企業の財政が悪いなかで、無理に継続しても企業にとっては大きな足かせになってしまうこともあります。
そして、それは間違いなく従業員のためにはなりません。企業年金はあくまで企業の任意です。20年後、30年後を見据え、導入・継続・廃止の決定は慎重に行いましょう。
社会保険労務士法人|岡佳伸事務所の代表、開業社会保険労務士として活躍。各種講演会の講師および各種WEB記事執筆。日本経済新聞、女性セブン等に取材記事掲載。2020年12月21日、2021年3月10日にあさイチ(NHK)にも出演。
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