この記事でわかること
- 育児休暇と育児休業の違いについて
- 育休中の手当の種類
- 育休中の給与補償について
この記事でわかること
人事・労務担当者も、常日頃からは対応することのない育児休暇中の給料処理。新しく労務担当になると「育児休暇中の給与はどのような扱いになるのか」「休業中の従業員に対しての保険や年末調整はどのようにすればいいのか」など、疑問を感じることも多いはずです。
また、従業員からは「手当はどの程度支払われるのか」と問い合わせが入るなど、日々あまりない対応に頭を抱えることになります。
今回は、そんな育児休暇の給与に関する悩みについてまとめてみました。
目次
そもそも、育児休暇と育児休業の違いは皆さんご存知ですか。
育児休暇は自主的に休暇を取得することで、育児休業は育児休業法に則って休暇を取得することです。企業では、法律に則って対応するほかにも、会社内の制度として、育児休暇を推進しているところもあります。
育児休暇とは、子どもを養育する労働者が、育児のために取得する休暇を指します。育児休暇は、法律の適用外であるため、給付金制度などはありません。
育児休暇制度を設けることは、会社の努力義務であり、就業先によって、育児休暇制度の内容や条件もさまざまです。
育児休業とは、育児・介護休業法に基づいて取得する、育児のための休業制度で、いわゆる「育休」を指します。
育児休業は、労働者が育児をしながらも長期的に仕事を継続していけるよう、子どもの養育と仕事の両立を目的として定められた制度です。
育児休業は、満1歳未満の子どもを育てる労働者が対象となります。また、非正規雇用労働者・契約社員の場合は、子どもが1歳6カ月になる日まで、契約が継続していることも、対象の条件となります。
期間は原則として子が1歳に達するまでですが、保育所に入れない等の場合に育児休業は延長が可能です。
育児休業中の労働者は、基本的に無給となりますが、育休中の労働者の収入を補うために育児休業給付金など、給付金制度が設けられています。
育児休業は、男性も取得できます。育児・介護休業法の新たな法改正により、2022年10月1日より産後パパ育休(出生時育児休業)が施行されるようになり、今後ますます男性の育児休業が促進されることとなります。
そのため企業は、男性従業員も育児休業を取得しやすい職場環境づくりを意識していかねばなりません。
産後パパ育休(出生時育児休業)とは、子供の出生後、8週間以内に4週間まで取得可能な育児のための休暇のことを指し、育児休業とは別に取得することができます。
また、産後パパ育休は、2回に分割して取得することも可能であるため、必要な時期に合わせて取得がしやすくなります。
育休・産休中は労働することはありませんが、企業からの給料は支払われるのでしょうか。
育休中や産休中は、基本給料が支払われないことがほとんどです。「育児・介護休業法」のなかでは、育休中や産休中を予定している労働者の権利についての規定はありますが、その期間の給料については明記されていません。
上記のように、育休中や産休中は労働をしていないことになるため、給料を支払うということは基本的にはありません。しかし、企業によっては基本給の何割かを支給するというところもあるため、絶対ないとは言えません。
2022年に育児・介護休業法が改正したことにより「産後パパ育休(出生時育児休業)」という言葉を耳にするようになりました。男性も育休を積極的に取得するようになりましたが、給料は支払われるのでしょうか。
実は、男性も育休期間は原則会社からの給料が支払われません。ですが、給与とは別で雇用保険の給付金として「最初の6カ月は「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」、その後は50%を受け取れるため利用する方も多いです。
民間企業のサラリーマンとは異なり、お役所などに勤めている公務員についてはどうなのでしょうか。公務員が育休中や産休中である場合、給料は支払われるのでしょうか。
民間企業の社員とは異なり、公務員は産前・産後の休暇期間中でも一定の給料や手当などが支払われます。そのなかでも、労働した日にもらえるような手当(通勤手当など)は対象外となります。
また、公務員の場合は産前休業・産後休業のいずれも8週間になります。民間企業の社員は産前については6週間と労働基準法で決められているため、公務員であれば産前については2週間多く取得できます。
そして、育休期間の場合は公務員であっても原則給料は支払われません。しかし、民間企業の社員でも公務員でも、もし健保組合や共済組合に加入しているのであれば育休中や産休中でも給付金が受け取れます。
どういった給付金があるのかなど、後ほど産休・育休ごとに説明します。
では、企業にとって、育児休暇中の従業員の給与が無給であることは違法にあたるのでしょうか。答えはNOです。
育児休業法には、育児休暇中に企業からの給与支払いについては書かれていません。これは雇用保険から、育児休業給付金という手当が支給されるためです。そのため、育児休業もしくは休暇中に企業から給与を支払わない例も多々あります。
ただ最近の傾向として、ワーキングマザーを支援しようという企業も多く、独自に制度を設けているところも少なくありません。例えば、給与は支払わないが手当として月々数万円の支給をしている企業もあります。
ただし、手当が一定額を超える場合は対象者が受け取る育児休業給付金に調整がかかり支給額が下がる可能性があるため注意が必要です。
まずは産休期間について、どういった手当・給付金があるのかそれぞれ解説します。
傷病手当金は長期にわたる病気や怪我により仕事を休まざるを得ない場合に、収入の一部を補償するために支給されます。これは健康保険の一環として提供され一定の条件を満たす被保険者が対象です。
手当金は、休業第4日目から支給が開始され、給与の約3分の2が支給されることが一般的です。
出産手当金は、産前産後の休業中に働けないために収入が途絶える女性に支給されるものです。
この手当は、一般に出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から産後8週間までの期間に日額で支給されます。その額は、休業前の給与の約3分の2に相当します。
しかし先述したとおり、公務員の場合産前は出産予定日の8週間前から取得可能です。
出産育児一時金は、出産にかかる費用を支援するために健康保険から支給される一時金です。この金額は一律で、2023年後半期の時点で1出産につき50万円※が支給されることが決まっています。
これは、直接医療機関に支払う「直接支払制度」を利用することも、出産後に申請して受け取ることも可能です。
妊娠週数が22週に達していないなど、産科医療補償制度の対象とならない出産の場合は、支給額が48.8万円となります。
出産・子育て応援交付金は、地方自治体が独自に設ける支援金で出産や子育ての経済的負担を軽減することを目的としています。
この交付金の内容は自治体によって異なり、条件や金額も多様です。一部の自治体では、出産育児一時金の上乗せや出産に関わる追加経費の支援などをおこなっています。機になる方はお住まいの地域の自治体についてよく確認しておきましょう。
また、会社の制度は企業によってさまざまで出産の祝い金や、育児休業もしくは休暇中の補助、ベビーシッター制度などがあります。育児休業法では、育児休業に関する情報を社員へ周知することが努力義務として設定されています。
ぜひ従業員やその配偶者が育児をする状況になった際には、制度が利用しやすい環境を作るように心がけてください。
育休中は「出生時育児休業給付金」や「育児休業給付金」という給付金が利用できます。
出生時育児休業給付金とは、雇用保険の被保険者の方が、子供が産まれてから8週間の期間内に合計4週間分 (28日)を限度として、産後パパ育休を取得した場合に以下を満たす場合に給付されます。
支給対象期間中は最大10日まで働くことができますが、休業期間が28日間より短い場合は、その日数に比例して短くなります。
なた、支給額は「休業開始時賃金日額 × 休業期間の日数(28日が上限)× 67%」となります。たとえば、賃金日額が8,000円で14日間の出生時育児休業を取得した場合は、「8,000 × 14 × 67%」で75,040円になります。
育児休業給付金は雇用保険の被保険者の方が、原則1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した場合、一定の要件を満たす場合に給付されます。
育児休業給付金の給付条件は、基本的に出生時育児休業給付金と変わりません。どちらも2回まで分割取得できるため計画的に利用しましょう。
育児休業給付の給付金は給料の何割が貰えるのでしょうか。給付金の計算式は以下です。
ここでいう「休業開始時賃金日額」というのは「育児休業前の6カ月間の賃金 ÷ 180」で算出します。
上記の場合、最初の180日間は「5,000 × 30 × 67% = 100,500円」、181以降は「5,000 × 30 × 50% = 75,000円」の支給になります。
ちなみに、育児休業給付の上限は2023年現在310,143円(67%時)と、231,450円(50%時)になります。
また、出生時育児休業給付金については、289,466円が上限として定められています。
給付金の上限 | |
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育児休業給付 | 310,143円(67%時) |
231,450円(50%時) | |
出生時育児休業給付金 | 289,666円 |
3歳に満たない子を養育するための育児休業等の期間は、健康保険や厚生年金保険料が免除されます。
具体的には事業主側が「産前産後休業取得者申出書」や「育児休業等取得者申出書」を日本年金機構の事務センターなどに提出することによって事業主分・労働者分双方の負担を軽減できます。
基本的には育休・産休の休業開始月から終了日の翌日の属する月の前月までの期間の保険料が免除されます。
どのくらい保険料が免除されるのでしょうか、まずは育休や産休前にかかる保険料を2023年度における東京都在住で取得期間は1年間のケースで見てみましょう。参考にするのは、全国健康保険教会が公表している保険料表です、
年収300万円・東京都在住・1年間の取得期間である場合、保険料表より健康保険料の自己負担額は「15,000円」であり、厚生年金保険料の自己負担額は「27,450円」です。
通常時であれば合計「42,450円」が毎月差し引かれてますが、免除される額は今回12カ月なのでそれぞれ一年分をすべて足すと「42,450円 × 12 = 509,400円」が免除されます。
年収300万円 東京都在住 育休・産休を1年間取得するケース |
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いつも支払っている保険料 | 健康保険料と厚生年金保険料で42,450/月 |
免除される額 | 509,400/年 |
上記のように、育休・産休前であれば同額の保険料が給料から差し引かれることになるためかなりの節約になります。
いかがでしたでしょうか。育児休業・育児休暇だけでもたくさんの制度があります。大半が、従業員の申請により給付されるものです。企業側が、育児休暇・休業中に給与の支払いをしない場合、給付金制度は従業員とって大事な資金源になります。
長期的に勤務してもらうためにも、従業員への出産・育児に関する情報の周知徹底はもちろん、企業独自の制度設計にも力をいれるようにしましょう。
1984年生まれ。社会保険労務士。
都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談(病院側・労働者側双方)や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名以上。独立後は年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。
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