近年、育児・介護休業法の改正が段階的に施行されており、これから子供が生まれる労働者・幼い子供を養育する労働者、そして企業の実務担当者にとっては複雑に感じるかもしれません。
そこでこの記事では、2024年版の育休(育児休業制度)について徹底解説。育休が取得できる条件・期間・もらえる手当、育児休暇との違いなど気になる最新の情報をまとめて解説していきます。
目次
育休(育児休業制度)とは、原則として1歳に満たない子どもを養育する労働者が、会社に申し出ることで養育する期間を休業できる、育児・介護休業法により定められた制度です。
期間を定めずに雇用される「無期雇用」・期間を定めて雇用される「有期雇用」の労働者のどちらもが、次の下記の条件に該当すれば育休を取得することができます(2023年時点)。
子が1歳6カ月に達する日までに、労働契約※の期間が満了することが明らかでないこと。
更新される場合には更新後の契約
2022年3月までは、雇用された期間が1年以上ないと有期雇用労働者は育休を取得できませんでしたが、同年4月より条件が緩和されました。ただし、事業者は労使協定の締結により、以下の要件を満たす労働者を育休の対象外とすることも可能です。
また、日々雇用される方(日雇労働者)も育児休業を取得できません。
育休申請時には、従業員が会社に「育児休業申請書(育児休業申出書)」の提出を義務づけているケースが一般的です。育児休業申請書(育児休業申出書)の提出は法的な義務はありませんが、実務上重要であり、ほとんどの場合で必要とされます。
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育児休業制度と育児休暇はどちらも育児に関連する休業制度ですが、両制度の大きな違いは以下の2点です。
育児休業制度は、育児・介護休業法によって定められた1歳未満の子供をもつ親が利用できる法的な休業制度です。そのため、取得条件なども細かく定められており、労働者の権利として全会社の従業員が利用できます。
一方で育児休暇は未就学前の子供をもつ親を対象としており、育児休業と比べて「対象となる子供の年齢」が高いのが特長です。また、育児休暇は育児・介護休業法で企業による設置を努力義務としている制度です。そのため、就業規則など企業の規定に定めがないと利用できません。
育児休業 | 育児休暇 | |
---|---|---|
対象となる子供の年齢 | 1歳未満 | 未就学前 |
法的な保障 | 〇 | ー |
産休(産前産後休業)とは、産前は出産予定日を含む6週間前※・産後は8週間以内の休業のことを指します。パートタイム社員・派遣社員・契約社員を含む、すべての女性労働者が対象です。
多胎妊娠の場合は産前14週間
産前の休業は、期間内のいつから休業をするかを本人が会社に申請します。対して産後の休業は、本人の申請に関わらず産後6週間は就業させることはできません。産後6週間を過ぎた後は、本人が就業を希望し医師が認めた場合のみ就業できます。
もし産休がいつからいつまで取れるのか具体的に知りたい方は、厚生労働省が提供する産休の計算ツールを利用してみましょう。
企業は産休を取得する従業員に対して、妊娠・出産後も仕事を続けたいかどうかを事前に確認をすることが重要です。また労働者から妊娠健康診査を受けるための時間確保の請求があった場合、妊娠期間に応じた受診回数を確保しなければなりません。
妊婦健康診査に必要な回数 | |
---|---|
妊娠23週まで | 4週間に1回 |
妊娠24~35週まで | 2週間に1回 |
妊娠36週~出産まで | 1週間に1回 |
医師等がこれと異なる指示をした場合はその回数が必要
産休中の給料について、有給・無給は会社の定めによります。また企業は妊娠中の従業員より下記のような職場生活の請求があった場合、対応が必要です。
なお労働者の妊娠・出産・産前産後休業を取得したことを理由に解雇することは、法律で禁止されています。
育休は子供1名に対して1回のみ取得可能で、子供が1歳の誕生日を迎える前日までの間に希望するタイミングで取得できます。原則として子供が1歳になるまでの間しか取得できませんが、条件を満たせば例外的に子供が2歳になるまで育休の延長も可能です。
育休の延長期間と延長条件は、以下の項目が定められています。
延長期間 | 条件 |
1歳6カ月に なるまで |
1歳になる時点で子供が保育所などに入所できない場合など |
---|---|
2歳になるまで | 1歳6カ月になる時点で子供が保育所などに入所できない場合など |
育休の延長は従業員から「育児休業期間変更申請書」を任意の書式で提出してもらい、社内処理で延長が可能です。育休とともに育児休業給付金の支給も延長する場合は、従業員から以下の書類を提出してもらい、企業がハローワークに申請する必要があります。
「パパ・ママ育休プラス」とは、夫婦でともに育児休業を取得した場合に育児休業期間を延長できる制度のことです。以下の要件を満たせば、育児休業の対象となる子供が1歳2カ月になる期間まで延長できます。
なお、個人あたりの育休取得可能最大日数は変わらないため、注意しておきましょう。
「産後パパ育休」とは、子供の出生後8週間以内に最大4週間の育児休業を取得できる制度です。既存の育児休業制度とは別制度であり、父親は育児休業制度の期間にプラスで4週間(最大)の期間が加算される仕組みとなります。
「産後パパ育休」は出生・退院時、そのほか必要なタイミングに応じて、分割して2回取得することが可能です。
育児休業中に受け取れる手当(給付金)は、以下の4つがあります。
育児休業給付金とは、1歳未満の子供※を養育するための育児休業を取得した被保険者に対して「休業開始前の2年間に賃金支払基礎日数11日以上ある月」(完全月)が12カ月以上あれば、受給資格の確認を受けることができるというものです。
一定の要件に該当した場合は1歳2カ月。支給対象期間の延長に該当する場合は1歳6カ月または2歳
そのうえで、育児休業期間中に「育児休業給付金」が支給されます。
休業期間中に賃金が支払われていない場合の支給額は、以下の通りです。
支給額の計算方法 | |
育休開始から6カ月以内 | 休業開始時賃金日額×支給日数(30日)×67% |
---|---|
育休開始から6カ月経過後 | 休業開始時賃金日額×支給日数(30日)×50% |
育児休業給付金の申請は事業主が手続きをおこないますが、育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書と育児休業給付金支給申請書は、電子申請義務化の対象帳票です。
電子申請義務化対象の特定法人は、電子申請での手続きが必須となります。
出生時育児休業給付金とは、産後パパ育休(出生時育児休業)取得時に受給できる給付金です。出産後8週間経過後翌日から2ヶ月経過する月の末日までの期間内に、最大4週間(28日)分の給付金を受け取れます。
具体的な支給額は、以下の計算式で算出可能です。
出生時育児休業開始時賃金日額×出生時育児休業をした日数(上限28日)×67%
出生時育児休業開始時賃金日額:休業開始時賃金月額証明書にある金額の休業開始前の6カ月の賃金を日割りにした金額
ただし、出生時育児休業開始時賃金日額は15,190円の上限額が定められています。そのため、支給額は最大28万4,964円(15,190円×28日×67%)です。
出産手当金は、出産のために就業ができず事業主から報酬の受け取りがない場合に支給される手当です。出産日(出産が予定日より後になった場合は出産予定日)以前の42日※から、出産日の翌日以降56日の範囲内で支給されます。
多胎妊娠の場合は98日
出産手当金は1日単位で支給額が決定され、以下の計算式で算出できます。
出産手当金の1日当たり支給額=(支給開始日以前12カ月間の各標準報酬月額を平均した額)÷30日×(3分の2)
標準報酬月額:厚生年金保険料や健康保険料の算出に利用される、従業員の月給を1〜50の等級(厚生年金は1~32)に分けて表すもの
出産育児一時金は、出産した1児につき支給される一時金です。妊娠4ヵ月(85日)以上の方が出産した場合が対象で、以下の出産育児一時金が支給されます。
令和5年4月1日 以降の出産 |
令和4年1月1日~ 令和5年3月31日までの出産 |
令和3年12月31日 以前の出産 |
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産科医療補償制度に加入の医療機関などで妊娠週数22週以降に出産した場合 | 50万円 | 42万円 | |
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産科医療補償制度に未加入の医療機関などで出産した場合 | 48.8万円 | 40.8万円 | 40.4万円 |
産科医療補償制度に加入の医療機関などで妊娠週数22週未満で出産した場合 |
育児休業制度は女性だけでなく男性も取得できます。また、2022年10月1日より「産後パパ育休(出生時育児休業)」が新設され、育児休業制度に加えて取得可能です。
夫婦がともに育児休業を取得することで育休期間を延長できる「パパ・ママ育休プラス」もあり、近年男性の育休制度は充実度を増しています。
父親にとっては子供との時間を大切にできるだけでなく、家庭と仕事のバランスを取る支援が提供されるため、育児をおこなえる環境が整いつつあります。
2021年に育児・介護休業法は大きく改正され、2022年より段階的に施行されています。企業の担当者は最新の法令を遵守した対応ができるよう、改正ポイントをよく確認しておきましょう。
施行日 | 改正ポイント |
2022年4月1日 | 雇用環境整備 労働者への制度周知・意向確認措置の義務づけ |
---|---|
有期雇用労働者の育児休業取得要件の緩和 | |
2022年10月1日 | 産後パパ育休の新設 |
育児休業の分割取得 | |
2023年4月1日 | 育児休業取得状況の公表義務づけ |
この改正では、育児休業や産後パパ育休が円滑に取得されるようにするため事業主に以下の雇用環境整備措置を義務づけています。
雇用環境整備措置
また、妊娠・出産を申し出た従業員に対し、以下の育児休業制度の周知・意向確認措置が義務づけられています。
周知事項
個別周知・意向確認の方法は、面談/書面交付/FAX/電子メールなどのいずれかです。事業主は、従業員に対して育児介護休業制度の存在や取得方法、給付金などの情報を提供し、従業員の意向を確認することが求められます。
面談はオンライン面談も可能。FAX、電子メールは労働者が希望した場合のみ。
この改正では、有期雇用労働者が育児休業を取得するための要件が緩和されました。具体的には、以下のとおり要件が変更となっています。
改定前
① 引き続き雇用された期間が1年以上
② 1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかでない
改定後
①の条件を撤廃し、②のみが取得要件
※有期雇用労働者も無期雇用労働者と同様の取り扱い
※育児休業給付金制度についても同様の条件緩和
以前は育児休業取得に「1年以上の継続雇用」が必要でしたが、新たな改正によりこの条件が撤廃されています。これにより、継続雇用が確約されていない有期雇用労働者も育児休業の制度をより利用しやすくなりました。
この改正では、「産後パパ育休(出生時育児休業)」という新しい制度が導入されました。
子供の出生後8週間以内に最大4週間の育児休業を取得できる制度で、既存の育児休業制度とは別制度となっています。具体的な制度概要は、以下表のとおりです。
対象期間・取得可能日数 | 子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能 |
---|---|
申出期限 | 原則休業の2週間前まで |
分割取得 | 分割して2回取得可能 (初めにまとめて申し出ることが必要) |
休業中の就業 | 労使協定を締結している場合に限り、 労働者が合意した範囲で休業中に就業 可能 |
この改正で「育児休業の分割取得」が可能になりました。これまでの育児休業制度では、従業員は子供が1歳に達するまでの間に1回しか育児休業を取得できませんでした。
2022年10月1日からは取得する際に事前の申請は必要なものの、最大2回に分けて育児休業を分割取得できます。そのため、ライフスタイルに合わせて柔軟に育児休業を取得することが可能です。
この改正では、事業主に対して育児休業の取得状況を公表する義務が科されました。具体的には、従業員数1,000名以上の企業に対し、年に1回育児休業などの取得状況を公表しなければなりません。
公表内容は、以下の2点のいずれかが指定されています。
インターネットなど、一般の方が閲覧できる方法で公表することを義務づけています。
育児休業制度を利用した労働者が復職する場合だけでなく、育児する労働者が状況に応じ利用できる制度づくりは、優秀な人材の確保・定着や企業価値の向上が期待できます。
利用できる復職制度 | |
子どもが1歳に なるまで |
・育児時間の確保 |
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子どもが3歳に なるまで |
・短時間勤務制度 ・所定外労働の制限 ・子の看護休暇 ・時間外労働、深夜業の制限 |
また復職のほか、妊娠中の女性に対し、母性健康管理措置や労働基準法による母性保護規定にも配慮する必要があります。
また、その他の注意点について育休中は年末調整が必要です。忘れないようにしましょう。
育休(育児休業制度)は取得には一定の条件が必要ですが、産休(産前産後休業)は出産予定の女性ならどの労働者でも取得できます。いずれも育児休業・産前産後休業の取得を理由に解雇などの労働者の不利益になる行為は法律で禁止されています。
卒業後、服飾関係企業にて事務・販売・営業職を経て、2007年11月に社会保険労務士に合格。さくら Human Plusの代表を務めるワークスタイルコーディネーター/特定社会保険労務士。
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