今日では少子化や子育て世代労働者のワークライフバランスという観点から、労務管理上、使用者に求められる義務が複雑になっています。
しかし、労働者が安心して育児と仕事を両立させるためには、これらをきちんと把握しておかなければなりません。ここでは産休や育休中の労働者に関する義務を整理します。
目次
労働基準法では、労働者保護を目的としたさまざまな規定があります。その一つが「産前産後休業(産休)」です。
同法第65条により、出産予定日を基準として6週間前(多胎妊娠の場合は14週間)以内の女性労働者から休業の請求があった場合は、その労働者を就業させてはいけないと規定されています。
なお、出産予定日の当日は産前休業に含まれます。あわせて、妊娠中に仕事を続けることを希望している場合でも、労働者から請求があれば簡単な業務に転換させる義務も発生します。
一方で産後の場合は少し規定が異なっており、実際の出産日から8週間以内は原則的に就業させることはできないと定められています。仮に労働者から職場復帰を希望する請求があったとしても、定められている期間を経過していなければ、就業させることはできません。
ただし、産後6週間が経過しており労働者が職場復帰を希望している場合は、医師が支障ないと認めた業務に就業させることは可能となっています。
労働基準法では、産前産後休業に関するものだけでなく、労働時間や労働内容に関しても数多く定められています。
同法第66条では妊産婦から請求があった場合、フレックスタイム制を除く変形労働時間制を採用している会社であっても、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働させてはならないと定められています。
同様に妊産婦から請求があった場合は、時間外労働や休日出勤・深夜業もさせてはなりません。
同法第67条では1歳未満の子供を育てる女性労働者は、就業規則に定められた休憩時間とは別に、育児のための時間を少なくとも30分、1日2回まで申請することが可能とされています。
また事業主側は、この育児のための時間内に労働者を就業させることは禁止されていますので注意しましょう。
産前産後休業に関するものとしては、同法第19条でも産前産後休業期間およびその後30日間は解雇してはならないと定められています。
このように労働者の権利や労働条件については、労働基準法上さまざまな規定で保護されています。しかしながら、解雇については休業期間からたったの1ヶ月程度しか制限されていません。
これだけの期間しか補償されていないのに、女性が安心して子育てすることはできるのでしょうか?
そこで登場するのが、男女雇用機会均等法です。同法では「婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取り扱いの禁止等」が第9条によりまとめられています。その名前のとおり、結婚・妊娠・出産を理由として労働者に退職を迫ったり、不当に解雇したりすることを禁止している規定です。
労働基準法と大きく区別されている点は、解雇制限の期間です。
男女雇用機会均等法では、妊娠中の労働者、および出産から1年以内の女性労働者に対してなされた解雇は無効にすると定めています。もちろん妊娠や出産以外で正当な解雇理由がある場合は、それを事業主が証明することで解雇できます。
正当な解雇理由の証明責任を事業主に負わせている点や、定められている解雇制限期間についても、労働基準法と比べるとその差は歴然でしょう。
あわせて、男女雇用機会均等法 第9条における「不利益な取り扱い」についても説明しておきましょう。この不利益な取り扱いは、厚生労働省令で定める事由を理由とするものとされています。以下が例です。
このように女性労働者が妊娠・出産前と同様の立場で働けなくなる、低い立場に追いやられてしまうような行為、並びに減給等をいいます。
労働基準法では労働者の労働環境に焦点があてられていましたが、男女雇用機会均等法では労働者の権利について詳しく規定されているという印象です。
育児・介護休業法においても、育児休業の取得を契機とした労働者の解雇や不利益取り扱いを禁じています。
また、同法においての育児休業は、原則として1歳未満の子供を養育する男性労働者、女性労働者のどちらも対象になっています。労働基準法や男女雇用機会均等法が、妊娠している労働者や出産後の女性労働者のみを対象とする規定が多い一方、こちらは男性労働者も取得することができるのです。
あわせて、同法の解雇については例外があり、育児休業の申請または取得を契機としない正当な解雇理由がある場合に加え、労働者自身がこれらを契機に退職を希望している(いわゆる寿退社)という場合は、同法に違反していることにはなりません。
それ以外の不当な取り扱いについては基本的に男女雇用機会均等法と同様、違反となりますので注意しましょう。
そして、育児・介護休業法では「所定労働時間の短縮措置」が定められています。こちらは3歳未満の子供を養育する労働者が希望する場合、事業主はその労働者の1日の所定労働時間を、原則として6時間まで短縮する措置を講じなければならないという制度です。
本制度の対象となるのは、
これら4つの条件をすべて満たしている労働者です。また「4. 労使協定により適用除外された労働者ではないこと」についてもう少し詳しく説明すると、
これらに該当しない労働者の場合は、対象から外れてしまいます。あらかじめしっかりと確認しておきましょう。
このように、育児休業中の労働者はさまざまな法律で保護されています。労働基準法だけでは不十分だった解雇の制限期間も、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法でしっかりと保護されているのです。
3つの法律が絡み合っている分、一見するとかなり複雑なようにも見えますが、「労働時間」「不利益な取り扱い」「解雇が制限されている期間」に注目し整理すると良いでしょう。
1982年生まれ、東京都豊島区出身
2016年:社会保険労務士開業登録
2018年:特定社会保険労務士付記
2019年:行政書士登録
ワイエス行政書士・社会保険労務士事務所の特定社会保険労務士
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