この記事でわかること・結論
- 時間外労働とは
- 時間外労働の上限規制について
- 時間外労働を命じられる条件とは
この記事でわかること・結論
2019年4月から順次施行されている「働き方改革関連法」では、大きな社会問題となっている”長時間労働の是正”を目的に、時間外労働(残業)に上限規制が設けられました。
時間外労働をさせる場合は、事業主と労働者間で協定を締結しなければいけなく、上限を超えた労働をさせた場合は事業主が労働基準法違反として罰せられます。
そこでこの記事では、そもそも時間外労働とはどんな労働のことを指すのか、時間外労働の上限規制の詳細、時間外労働を命じる際の条件となってくる”労使間の協定”について解説していきます。
目次
まずは、働く上で基本となる時間外労働・法定労働時間・所定労働時間の違いについて理解しておきましょう。
法定労働時間とは、労働基準法第32条に定められている労働時間を指します。
時間外労働には残業代が発生します。原則として深夜労働(午後10時~午前5時)や法定労働時間外に労働させた場合には、2割5分以上の割増賃金を支払わなければいけません。
多様な働き方が推進されるなか、残業代の計算方法も多岐にわたります。残業代の計算は各企業の就業規則にもよりますが、一定の指針が示されています。詳しい計算方法については、下記の記事をご確認ください。
所定労働時間とは、労働者が会社との契約で定めた労働時間を指します。
雇用契約書や就業規則などで定められており、休憩時間を除く始業時間から終業時間までのことです。所定労働時間は法定労働時間の範囲内で、会社側が自由に設定できます。
たとえば、始業時刻が9:00、休憩時間が12:00~13:00、終業時刻が17:30の会社であれば、所定労働時間は7時間30分となります。この場合に、9:00に始業し18:00に終業した労働者のいわゆる”残業”は30分になりますが、法律上の”時間外労働”は無しとなります。
法定労働時間内の労働は、法律上では残業(時間外労働)とみなされないため注意をしましょう。前述のとおり、法定労働時間外の労働を時間外労働と言います。
法定労働時間と所定労働時間の違い | |
法定労働時間 | 労働基準法で定められている労働時間 (1日:8時間、1週:40時間) |
---|---|
所定労働時間 | 会社で定められている労働時間 |
時間外労働 | 法定労働時間を超えた時間に発生する労働 |
ただし、残業手当の算定基準を
は労使の定めによって決められます。
接客業の場合、勤務時間中であればお客様がいない時間帯も会社の指揮命令下にあると考えられるため、労働時間に該当します。
仮眠を伴う警備業務では、勤務時間中の仮眠も労働時間に含まれます。警備員の仮眠は仮眠場所を決められているなどの制約があるほか、緊急事態に対応する必要がありますので、労働時間とみなすことが妥当とされています。
建設事業や製造業など作業服に着替える必要がある業界では、作業服の着替え時間も労働時間と判断されます。
ただし、事務職の職員が制服に着替える時間も労働時間になるとは必ずしもいえず「社会通念上必要であると認められる」着替えが労働時間と判断されます。
時間外労働で注意するべきポイントとして、以下の2つが挙げられます。
時間外労働の注意点
法定時間を超えた時間外労働には、割増賃金が発生するため注意が必要です。具体的には労働の種類に応じて、以下の割増率が設定されています。
区分 | 割増率 |
---|---|
法定労働時間 (1日8時間/週40時間) および限度時間 (1カ月45時間/1年360時間) を超えた時間外労働 |
25%以上 |
月60時間を超えた分の時間外労働 | 50%以上 |
法定休日労働 | 35%以上 |
深夜 (午後22時〜午前5時) の労働 |
25%以上 |
企業が法定労働時間を超えて従業員を時間外労働に従事させる場合、上記の種類に応じて割増賃金を支払う必要があります。
たとえば、所定労働時間を午前9時から午後5時(休憩1時間)で設定している場合、時間外労働をおこなうと以下の割増賃金が発生します。
時間外労働 | 割増賃金の計算方法 |
---|---|
午後5時〜午後6時 | 1時間あたりの賃金×1.00×1時間(法定時間内残業) |
午後6時〜午後10時 | 1時間あたりの賃金×1.25×4時間(法定時間外残業) |
午後10時〜午前5時 | 1時間あたりの賃金×1.50(1.25+0.25)×7時間(法定時間外残業+深夜) |
上記の場合、午後6時までは法定労働時間となるため、通常の時給で賃金を支払います。午後10時〜午前5時の間は、深夜と法定労働時間外の時間帯が重なるため、両方の割増率を合わせて50%の割増賃金を支払わなければなりません。
労働形態ごとに、時間外労働の取り扱いが異なるため注意しましょう。具体的には、労働形態に応じて時間外労働の取り扱いが以下表のように異なります。
労働形態 | 概要 | 時間外労働の取り扱い |
---|---|---|
みなし残業制 | 一定時間分の時間外労働の賃金を、給与に含めて支払う制度 | 想定した残業時間を超えた場合に割増賃金が発生 |
フレックスタイム制 | 始業・就業時刻を労働者が自ら設定できる制度 | 想定を超えた労働時間となった場合、もしくは週平均50時間を超えた場合に割増賃金が発生 |
変形労働時間制 | 月・年単位で労働時間を調整できる制度 | 月・年単位で法定労働時間を超えた場合に割増賃金が発生 |
裁量労働制 | 実際の労働時間ではなく、企業と労働者で「契約した労働時間分働いた」とみなし、その分の給与を支払う制度 | 時間外労働の概念がなく、割増賃金は発生しない |
一部で例外もありますが、ほとんどのケースで時間外労働の割増賃金は発生するため、時間外労働となる基準を労働形態ごとに確認しておきましょう。
2019年4月に順次施行されている働き方改革関連法では、時間外労働(残業)の上限規制が設けられました。大企業では2019年4月1日から、中小企業は2020年4月から随時施行されます。
この月45時間・年360時間の上限規制には、休日労働は含まれません。
また、働き方改革法では法定の年次有給休暇付与日数が10日以上のすべての労働者に年次有給休暇を年5日取得させることが義務となっています。そのため、残業時間の上限規制を遵守しつつ、従業員に確実に有給休暇を取得させなければいけません。
上記の上限を超えた残業時間が発生した場合、6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
2024年の法改正にて、下記に該当する事業・業務においても2024年4月からは時間外労働の上限が設けられることになります。
事業ごとに細かく規制が決まっているため、猶予期間終了前に厚生労働省が公表している資料を参考にしておくと安心です。
法定労働時間を超過する場合、労使間で「36協定(サブロク協定)」を締結し、労働基準監督署に届出をしなければなりません。
36協定とは、労働者に1日8時間週40時間の法定労働時間を超えて時間外労働や休日勤務を行わせる場合、労使間で必ず締結しなくてはならない労使協定です。
正式名称は「時間外・休日労働に関する協定届」ですが、労働基準法第36条に定められていることから、「36協定」と通称名で呼ばれるようになりました。
使用者と労働組合などで書面にて協定を結び、所轄の労働基準監督署長に届け出ることが義務付けられています。
引用:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説
これまでは36協定を結び労働基準監督署に届け出さえすれば、事実上、使用者が労働者に上限なく時間外労働を命ずることが可能でした。
しかし法改正により限度時間が設けられ、もっとも長い場合でも以下の上限を超えることができません。
引用:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 時間外労働の限度に関する基準
臨時的な「特別の事情」で労使が合意し、特別条項付き協定を結べば、限度時間を超えて時間外労働を行うことが可能です。しかし、特別条項の延長時間も上限が設けられており、以下の範囲を超えて時間外労働させることはできません。
特別条項で認められる「特別の事情」は、臨時的なものに限られています。
一時的、または突発的に必要となる時間外労働であり、届出をする際は限度時間内の「時間外労働をさせる必要のある具体的事由」よりも、さらに限定した理由を記載しなくてはなりません。
時間外労働の上限規制が始まり、2019年4月から新しい様式での届出が必要になりました。
これまでは特別条項は設けられていませんでしたが、新しい様式では一般条項(様式第9号)と特別条項(様式第9号の2)に分けて提出しなくてはなりません。
▼時間外労働・休日労働に関する協定届(特別条項)様式第9号の2
どちらも厚生労働省より記載例が公表されていますので、参考に記入を進めましょう。
▼時間外労働・休日労働に関する協定届(一般条項)様式第9号の記載例
▼時間外労働・休日労働に関する協定届(特別条項)様式第9号の2の記載例
また以下の36協定届を記載する際に気をつけるポイントも参考にしてみてください。
36協定は本社による届出だけで完結はできず、支店や営業所がある場合は事業所ごとで届出が必要です。
時間外労働(残業)が発生する可能性のある事業所は、会社名や支店名、屋号や所在地などをすべて記載し、届け出なくてはなりません。
36協定の締結は、基本的に労使間で時間外労働が必要な理由について話し合い、合意する必要があります。業務を細分化し、業務の種類ごとに時間外労働が必要な具体的理由をあげることが大切です。
労働者数と所定労働時間は業務の種類ごとに記載しなくてはなりません。時間外労働や休日労働の可能性がある労働者数を記載します。
ただし、18歳未満の労働者は時間外労働や休日出勤を業務命令として出せないため、注意が必要です。
36協定の締結は、上限なく時間外労働や休日出勤を可能とするものではありません。「36 協定における上限規制」で紹介した「延長時間の限度」を参照し、上限を超えない範囲で時間数を記載しなくてはなりません。
時間外労働の限度時間は定められていますが、突発的な業務により限度時間を超えてしまう場合も考えられます。
そうした事態には特別条項付き協定を結び届け出ることで、限度時間を超えて時間外労働を延長できます。特別の事情が臨時的かつ具体的である場合に限り、特別条項を届け出ることができます。
36協定届は正副2部を届け出なくてはなりません。また、郵送の場合は返信用封筒を同封する必要があります。詳しい記載方法については、以下の見本を参考にしてください
引用:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説
厚生労働省では、36協定届の作成支援ツールや新様式を配布しています。詳しくは厚生労働省が運営する「スタートアップ労働条件」の作成支援ツールページをご覧ください。
残業時間の上限規制に伴い、事業主側はさまざまな改善を行わなければいけません。以下のポイントに注意して、適切な労働環境を構築しましょう。
残業時間の上限規制は長時間労働の是正や過労死防止を目的にしており、日本企業の生産性向上にもつながる取り組みです。
そのため、事業主は法令に則り、残業時間の上限規制を遵守すると同時にITツールの導入や業務内容の見直しを行い、労働環境を整備しなければいけません。
中でも労働時間を適切に把握し、管理するためには勤怠管理システムが必要であり、従業員の安全配慮や残業時間の上限規制を徹底できる効果があります。
勤怠管理システムを導入する際、以下のような適切に時間外労働を管理できる機能をもったシステムを導入すると勤怠を適切に把握できます。
時間外労働の上限規制をすべて手作業で管理することは非常に難しいため、上記の機能を備えたシステムを活用することで時間外労働を効率的かつ適切に管理できます。
勤怠管理システムを導入する際は、時間外労働を管理できる機能が充実しているかを確認して選びましょう。
システムによる適切な時間外労働の管理以外にも、仕事の負荷自体を軽減する仕組みも積極的に構築しましょう。たとえば、以下のように仕事量の適正化、労働時間を短縮できる仕組みが挙げられます。
仕事量の適正化や労働時間を短縮化する仕組みを導入することで、多様なライフスタイルを労働者は実現できるでしょう。その結果、雇用できる人材の幅が広がり、優秀な人材確保の可能性も高まります。
仕事の負荷を軽減する仕組みを積極的に構築し、企業の生産性の向上や人材の定着化を図りましょう。
臨時的な特別な事情により、残業時間の上限規制を超える場合、企業は産業医による面接指導や休暇付与といった健康・福祉確保措置を定める必要があります。36協定の範囲内でも、企業は労働者に対する安全配慮義務を負います。
また、時間外労働・休日労働を行う場合は業務区分を細分化し、業務の範囲を明確にする努力が必要です。
働き方改革法の施行後も、残業時間の上限規制が猶予・除外される事業が存在します。
建設事業、自動車運転の業務(タクシー)、医師に関しては、2024年3月31日まで残業時間の上限規制に猶予期間が設けられ、上限規制は適用されません。
また、鹿児島県・沖縄県における砂糖製造業では、時間外労働時間と休日労働の合計が月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内の上限規制が適用されません。
一方で、2024年4月1日以降は上限規則のすべて、または一部が適用されます。2024年4月1日以降の各事業の上限規制の適用については、厚生労働省のホームページをご確認ください。
2019年4月に施行された働き方改革関連法では、時間外労働(残業)の上限が規制されました。原則として時間外労働は月45時間・年360時間までとなり、上限を超えると労働基準法違反として事業主に罰則が発生します。
また時間外労働や休日労働を命じる際には、労使間で「36協定」を締結する必要があります。しかし36協定を結んでも時間外労働の上限は無くならず、45時間以上の時間外労働を超える期間は、年間6カ月までなどと細かく規定されています。
時間外労働の上限規制に伴い、企業には労働環境の整備が求められています。事業主は、勤怠管理システムなどを利用して、従業員の労働時間を適切に把握するようにしましょう。