この記事でわかること
- 雇用契約書の概要や労働条件通知書との違い
- 絶対的明示事項と相対的明示事項それぞれの具体的内容
- 正社員、契約社員、パート・アルバイト、試用期間それぞれで記載するべき事項
この記事でわかること
雇用形態に限らず、パートタイムやアルバイトを含むすべての従業員を雇用する場合、雇用契約の締結と労働条件を書面(メールやFAXも可)で通知する必要があります。
今回は、雇用契約書の基本知識や、雇用契約書と労働条件通知書の違い、書き方、作成時の注意点を解説します。雇用契約書の無料テンプレートも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
雇用契約書とは、賃金や労働時間、就業場所、休日など、労働条件を事業主と雇用者双方が確認し、労使契約を取り交わす契約書です。
雇用契約書は書面での締結の義務はなく、口頭でのやりとりでも雇用契約が成立します。しかし、雇用後の労働トラブルを回避するために、雇用契約書は書面化(電子化)した上で保管することが一般的です。
雇用契約は労働契約とは異なります。
雇用契約に関する社労士の見解
雇用契約は民法に定めがあります。労働者が「労務に服すること」を約束し、使用者が「報酬を与えること」を合意することによって成立(民法上は口頭でも可能)。
しかし、雇用契約は労働者の生活の基盤を支えるために重要であるため、労働基準法には雇用契約(労働法では「労働契約」と呼びます)の内容を、使用者が労働者に対して書面等で交付しなければならない旨が定められています。
労働基準法に従って作成された雇用契約書を締結すれば、契約内容に法的効力が発生します。ただし、雇用契約書が労働基準法に違反する場合、契約内容は無効です。
たとえば、労働基準法で時間外労働は原則「1日8時間週40時間」と定められていますが、この基準を超えた残業を定めた契約は認められません。雇用契約書で締結した契約内容と実際の労働条件が異なる場合、労働者は労働基準法に則り雇用契約を即時解除できます。
雇用契約書は電子化が可能です。これまでは雇用契約を書面にて締結する必要がありましたが、2019年4月の労働基準法改正により、FAXやメールなど電子データで労働条件を明示できるようになりました。
ただし、書面による締結が原則で、電子データによる労働条件の明示は労働者が希望した場合のみ認められます。
労働条件を電子データで明示する場合は、雇用契約書に「電子データで雇用契約書の工夫を希望する」という内容を盛り込んで締結するなど、労働者の同意を得るようにしましょう。
雇用契約書と労働条件通知書には、主に以下3つの違いがあります。
1つ目は「作成義務の有無」です。雇用契約書は、特段作成義務が設けられていませんが、労働通知条件書は労働基準法および施工規則により作成が義務化されています。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金および労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
2つ目は「記載事項の指定があるか」です。雇用契約書は記載事項が指定されていませんが、労働通知条件書は労働基準法によって記載事項が指定されています。
定められた記載事項を労働条件通知書に明示しなかった場合、労働基準法違反として労働条件通知書は法的効力を失います。
3つ目は「署名押印(記名捺印)」が必要かどうかです。雇用契約書は、使用者(企業)と労働者で合意した証として署名押印または記名捺印が必要です。一方で、労働条件通知書は使用者(企業)が労働者に対して労働条件を明示する書類であり、署名押印や記名捺印が必要ありません。
雇用契約書と労働条件通知書の違い | ||
雇用契約書 | 労働条件通知書 | |
---|---|---|
主体 | 事業主と労働者の間で交わす | 事業主から労働者に通知する |
内容 | 2部作成し、署名・捺印後に事業主と労働者がそれぞれ保管 | 労働基準法第15条(労働条件の明示)で絶対的明示事項が定められている |
様式指定 | なし | なし |
未発行による罰則規定 | なし | あり |
雇用契約書を発行する方法は書面交付が原則ですが、労働者が希望した場合は以下の方法で電子交付が可能です。
上記の方法で雇用契約書を交付する場合、PDFファイルなど印刷して書面に出力できる形式で工夫する必要があります。
雇用契約書を発行するタイミングは、雇用前が原則です。一般的には、内定を出した後の入社手続きをおこなうタイミングなどで締結されます。また、雇用契約書の締結時には、労働条件通知書も同時に労働者へ交付しなければなりません。
雇用契約書が労働条件通知書の記載すべき事項を満たしている場合、労働条件通知書を兼ねる書類として発行することが可能です。
雇用契約書 兼 労働条件通知書には必ず明示する絶対的明示事項と、企業ルールに沿って明示する相対的明示事項があります。2つの記載事項が記載されている場合、雇用契約書および労働条件通知書の様式は問われません。
絶対的明示事項の内容は、以下の通りです。
絶対的明示事項 | |
労働契約期間 | 契約期間のない正社員の場合は「なし」と記載し、契約期間を設ける場合はその期間を記載 |
---|---|
就業場所 | 実際に勤務する場所を記載 勤務地が変わる予定がある場合は、雇入れ直後の勤務地を記載 |
業務内容 | 実際に従事する業務内容を記載 従事する業務内容が幅広い場合、複数記載しても問題ありません |
始業時刻と終業時刻 | 始業・終業時刻が定まっている場合は、その時間を記載 シフト制など勤務時間帯が決まっていない場合、ルールを記載しても問題ありません |
所定労働時間を超える労働の有無 | 残業の有無を記載 |
休憩時間 | 所定労働時間に対する具体的な休憩時間を記載 労働基準法では、所定労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は45分の、所定労働時間が8時間を超える場合は1時間の休憩が必要と定めています |
交替制勤務 | 労働者に交替制勤務が発生する場合、交替順序あるいは交替期日を記載 |
休日・休暇 | 就業規則に従って休日を記載 労働基準法では、1週間に1日以上、4週間に4日以上休日を与えることと規定 毎週決まった曜日である必要はなく、シフト制の休日でも可能。休暇は、年次有給休暇、育児・介護休暇、その他会社で定める休暇などを記載 |
賃金計算方法・支払日 | 月給や日給、時給などの計算方法を記載 賃金の支払方法や社会保険料や税金、控除についても記載 |
退職 | 定年退職の年齢や、雇用継続制度の有無、自己都合退職の場合に何日前の連絡が必要か、解雇になる事由など、退職手続きに関する内容を記載 |
昇給(文書でなくてもよい) | 昇給がある場合に記載 |
相対的明示事項の内容は、以下の通りです。
相対的明示事項 | |
退職手当 | 退職手当制度がある場合、支払日と計算方法を記載 |
---|---|
臨時の賃金・賞与 | 業績によって支払われる報奨金、およびボーナスの支払日と計算方法を記載 |
食費や作業用品(労働者の負担分) | 社内食堂がある場合、労働者が負担する食費や、制服の購入費用が発生する旨を記載 |
安全衛生 | 健康診断の時期や、喫煙所の場所、災害補償に関する内容などを記載 |
職業訓練 | 職業訓練の受講など、会社規定がある場合は記載 |
災害補償・業務外の疾病扶助 | 労働者が勤務中にけが・病気になった場合の会社の補償制度を記載 |
表彰・制裁 | 表彰制度や制裁制度がある場合は記載 |
休職 | 産前産後休暇・育児休業など法定休職制度以外で、独自の休職制度がある場合は記載 |
雇用契約書の書き方・作成のポイントとして、以下の5つが挙げられます。
雇用契約書 兼 労働条件通知書として作成する場合、先述の「絶対的明示事項」を漏れなく記載する必要があります。また、企業で該当する制度がある場合、「相対的明示事項」の明示も必要です。
雇用契約書が「絶対的明示事項」「相対的明示事項」を網羅しているかチェックしてから締結しましょう。
雇用契約書には労働時間制の明示も必要です。企業ではフレックスタイム制や裁量労働制など、さまざまな労働時間制を導入する企業も多いでしょう。企業で導入する労働時間制は、すべて雇用契約書に明示する必要があります。
なお、労働基準法で定められている法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて従業員に残業させる場合、36協定を締結しなければなりません。36協定について詳しくは以下の記事で解説しています。
雇用契約書には、転勤と人事異動の有無も記載しましょう。会社の人材状況によっては、人手不足の部署へ労働者を異動させることもあります。転勤などの人事異動は企業でよくあるため、雇用契約書に明示しておくことが大切です。
もし雇用契約書に人事異動があることを明記していなかった場合、必要な部署に労働者を転勤させられなくなってしまいます。
試用期間を導入する企業においては、雇用契約書に試用期間を明記しておくことも大切です。試用期間であっても雇った労働者を自由に解雇できるわけではありませんが、本採用後の解雇よりも要件を満たすハードルは低くなっています。
なお、あまりに試用期間が長いと労働契約として認めてもらえない可能性があるため、3〜6カ月程度の範囲で留めておきましょう。
雇用後に雇用契約書の内容を変更する場合、変更内容に関して労働者の同意が必要です。原則として労働者に不利となる労働条件の変更は認められませんが、労働者の合意があれば就業規則内で労働条件を変更できます。
一方で、就業規則は労働者の合意がなくても変更可能です。そのため、一般的には就業規則を調整して労働条件を変更する企業が多くあります。
雇用契約書の決まったフォーマットがない場合は、無料テンプレートを活用するのがおすすめです。
弊サイトでも雇用契約書の無料テンプレートを公開しています。このテンプレートは雇用期間や賃金の条件、業務内容、退職に関する事項など雇用契約に必要な労働条件の内容を網羅しています。下記からダウンロードの上、ご自由にご活用ください。
雇用契約書の「テンプレート」を使用する場合は、必ず企業の雇用実態に即した内容に修正しましょう。特に労働時間制に関しては、テンプレートでは一般的な正社員を対象としたものが多く、フレックスタイム制やみなし労働時間制などに対応していないケースがあります。
もし、テンプレートどおりに雇用契約書を作成し、合意した労働条件を網羅できなかった場合、法令違反となる可能性もあります。テンプレートを使用する場合は、必ず労働者との労働契約を確認した上で、必要に応じて記載項目を追加しましょう。
雇用契約を結ぶ対象となる従業員は、正社員だけでなく、パートタイムやアルバイトも雇用契約書 兼 労働条件通知書を作成しなければなりません。
雇用契約書 兼 労働条件通知書の対象者
契約書 兼 労働条件通知書に記載する内容は、前述の絶対的明示事項と相対的明示事項をそれぞれ記載しますが、雇用形態に応じて、記載には注意が必要です。
作成における注意時刻 | |
雇用形態 | 注意事項 |
---|---|
正社員 | 転勤の可能性がある場合、「全国(あるいは国内外)の支店へ転勤を命ずる場合がある」と追記が必要 「配置転換によりその他の業務を命ずる場合がある」と追記することで、労働トラブルを回避できます |
契約社員 | 契約期間と契約更新の有無を明示しなければなりません。 契約更新の可能性がある場合、更新基準を明示 労働条件を変更せずに契約を更新する場合は、新たな雇用契約の締結が必要 |
パートタイム・アルバイト | *有期・無期を問わず、絶対的明示事項と相対的明示事項を記載 |
試用期間 | 絶対的明示事項内に、試用期間の開始日と終了日、試用期間中の賃金を記載 経歴詐称や無断欠勤など、就業規則上の解雇事由に該当した場合など、正式採用を見送る可能性について解雇事由を説明しておきます |
*週間の所定労働時間が正社員の所定労働時間と比べ短い者
契約社員の場合、契約期間以外は同一の条件で、従前の契約と同期間の雇用契約が締結されたものとされ、労働トラブルに発展する可能性があります。そのため、更新内容(契約更新の有無や更新基準)を必ず明示します。
雇止めの事由
契約社員の明示例 | |
契約更新の有無 | 「自動的に更新する / 更新する場合があり得る / 契約の更新はしない」 のいずれかを記載 |
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更新の基準 |
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そのほか、一定の条件を満たす契約社員には、契約期間満了日の30日前までに通知しなければなりません。
雇用契約書・労働条件通知書を作成しないリスクや生じるトラブルは、以下の項目が挙げられます。
雇用契約書を作成しない場合や労働条件が雇用契約書に網羅されていない場合、労働者と雇用条件における認識の違いが発生する可能性があります。
たとえば、口頭で伝えていたものの雇用契約書に残業の有無が記載されていなかった場合、いざ残業があったときに「労働条件と違う」などトラブルになる可能性があります。訴訟など法的なトラブルにまで発展する可能性があるため、合意した労働条件はすべて盛り込んだ上で雇用契約書を作成しましょう。
労働条件通知書は労働基準法にて作成義務があり、作成しないと法令違反となり30万円以下の罰金が科されます(労働基準法第120条)。
労働基準法違反となれば、労働者をはじめ社会的な信用を失うこととなり、経営にも大きな悪影響が出るでしょう。コンプライアンスの観点や労働者とのトラブル回避のためにも、労働条件通知書は必ず作成しましょう。
入社手続きでは、雇用契約書 兼 労働条件通知書の発行を一緒におこなうことが多く、法令に従って、絶対的明示事項と相対的明示事項を記載する必要があります。
雇用形態に応じて、明示事項が異なります。特に契約社員は更新に関わる事項をしっかりと記載することで、入社後の労働トラブルリスクを軽減できます。
雇用契約書のポイント
社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
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