退職証明書のもらい方・発行までの流れ
- 記載事項の確認
- 離職票との整合性を確認
- 退職日に合わせて発行・譲渡
- 発行済み退職証明書のコピーを保管
従業員が会社を退職する際、会社側が発行する書類のひとつに退職証明書が含まれることがあります。では、退職証明書とはどのような役割を持つ書類なのでしょうか?
この記事では、退職証明書の基礎知識や発行までの流れ、離職票との違いなど、退職証明書に関する疑問をまとめて解説していきます。今すぐ使える退職証明書の無料テンプレートも公開しているのでぜひ参考にしてください。
目次
退職証明書とは、会社を退職していることを証明するための書類です。
従業員が退職する際、退職についての事由や従事していた職務の内容などについて証明を求められたとき、事業主は退職証明書を発行することが義務づけられています。そのため、退職する従業員から退職証明書を請求された場合は、早急に発行する必要があります。
事業主側は、退職証明書の発行依頼を拒否することができないとされており、拒否した場合は労働基準法違反になってしまいます。罰則もあるため、しっかりと対応しましょう。
この退職証明書は公文書ではなく、従業員の申請に対して事業主が発行する文書となります。書式や様式の指定もなく、従業員から請求がなかった場合は発行する必要はありません。
退職時に必要な書類には、退職証明書のほかに以下のものがあり、それぞれ役割が明確に違います。
書類名 | 概要 |
---|---|
離職票 | 退職者がハローワークで求職活動・失業給付申請するために必要な書類 |
在籍証明書 | 従業員が企業に在籍していることを証明する書類 |
離職票は退職者が発行を希望した場合、必ず発行しなければなりません。また、離職日時点で59歳以上の退職者に対しては、本人の意思に限らず発行の必要があります。
在籍証明書は、従業員が保育園の申し込み・住宅ローンの申請などをおこなう際に求められるケースがあります。在籍証明書に発行義務はありませんが、発行を断ると従業員の会社に対する信頼が失われるでしょう。従業員が希望した場合は、速やかに発行しましょう。
退職証明書が必要になるケースは、主に以下の3つです。
1点目は、国民健康保険・年金に加入するときです。退職後に企業の社会保険に加入しない場合は、国民健康保険と国民年金に加入する必要があります。国民健康保険と国民年金の加入手続きには、退職日を示す書類が求められ、退職証明書や離職票の提出が必要です。
離職票は発行までに時間がかかるため、多くの退職者は退職先の企業から退職証明書を発行してもらい、国民健康保険・国民年金の手続きをおこないます。
また、失業手当や再就職手当などの受給手続きをおこなうときも、離職票が手元にない場合、退職証明書で代用できることがあります。
2点目は、転職時に退職証明書の提出を求められるケースです。転職先が退職証明書を求める理由は、転職者の経歴を確認するためです。退職証明書の記載内容を確認し、履歴書や面接時の発言と相違ないか確認します。
3点目は、扶養者の健康保険に加入するときです。退職者が扶養者の健康保険に加入する際、健康保険の重複加入を防ぐ目的で、退職証明書の提出を求められることがあります。
退職証明書を確認し、退職先の健康保険から脱退したことを確認した上で、扶養者の健康保険加入手続きを進めます。
退職証明書は、以下の流れで発行します。
退職証明書のもらい方・発行までの流れ
まずは、退職証明書に記載する項目を退職者に確認します。退職証明書には、退職者が希望しない任意項目は記載してはいけないルールが制定されているためです。
退職者の希望を確認し、任意で記載する項目を確認しましょう。一般的に退職証明書が必要とされる場面では、必須項目のみの記載で問題ありません。
もし社内に退職証明書の様式がない場合は、無料テンプレートの活用がおすすめです。弊サイトでも自由に編集ができる退職証明書の無料テンプレートを公開しています。必要に応じて下記からダウンロードの上、ご活用ください。
退職証明書の記載事項を確認したら、離職票との整合性を確認します。退職証明書を発行する場合、同時期に離職票も発行しており、離職票には退職証明書と重複する記載項目もあるためです。具体的には以下の項目が該当します。
上記項目は、離職票と退職証明書に矛盾がないように記載しましょう。
離職票との整合性を確認できたら、退職日に合わせて退職証明書を発行・譲渡します。退職証明書は特に発行期限が定められていないものの、労働基準法にて”遅延なく”速やかに交付することが義務づけられています。
退職日よりも前に退職証明書の発行を求められた場合は、退職日に渡せるよう準備しておきましょう。
発行済みの退職証明書は、企業側でもコピーを保管しておきましょう。退職者から再発行を求められる場面や、退職証明書が届かないなどのトラブル時にコピーが役立ちます。
なお、労働関連の書類は5年の保存期間が設定されているため、退職後から5年間は書類のコピーを破棄しないよう注意してください。
事業主が退職証明書において証明しなければならないことは、次の事項です。
ただし、この退職証明書で証明しなければならないことは従業員が請求した事項のみであり、請求されていない事項については記載してはならないとされています。ここからは、退職証明書の書き方を「必須項目」と「任意記載項目」に分けて紹介します。
まず、必須項目として以下6つの項目が定められています。
項目名 | 概要 |
---|---|
書類名称 | 「退職証明書」であることを名称として記載 |
証明年月日 | 退職証明書の発行年月日を記載 |
退職者名 | 退職者の名前をフルネームで記載 |
退職年月日 | 退職者が退職した年月日を記載。下記の証明内容に含めた場合は省略可能 |
証明内容 | 退職した事実を記載 例)貴殿が当社を退職したことを証明します。 |
発行した事業所名・住所・事業主名 | 雇用主の事業者名・住所・事業主名を記載 本社で採用された場合は本社住所、支社で直接採用された場合は支社住所を記載 |
上記の項目は、退職証明書に漏れなく記載する必要があります。なお、厚生労働省が公表している退職証明書の様式は、以下のとおりです。
ただし退職の事由に関しては、退職者が希望したときのみ記載することができます。
従業員から退職の事由について記載を求められた場合、どのようなことを記載すればいいのでしょうか?まず、従業員の退職の理由によって記載する内容が変わります。
従業員の自己都合退職の場合、一般的には「自己都合」と書き、その退職事由については詳しく記載しないことが多いようです。そして、事業主は従業員が再就職する際に不利になるような事項を意図的に記載してはならないとされています。
しかし、退職の事由が解雇であった場合、その従業員を解雇するに至った理由について、退職した従業員本人から請求のあった際には、詳しく記載する必要があると行政から通達されています。
さらに、その解雇理由が就業規則に則ったものだった場合は、解雇理由に該当すると判断した事実関係について退職証明書にしっかりと記載しなければならないと通達されているためご注意ください。
退職者が希望した場合には、以下の任意項目も記載できます。
項目名 | 概要 |
---|---|
使用期間 | 退職者が企業に在籍していた期間 |
業務の種類 | 退職者が従事していた業務・職種 |
事業における地位 | 退職者の役職名 |
賃金 | 退職者の賃金 一般的には退職日の月給を記載 |
退職の事由 | 退職者の退職理由 |
上記の項目は、退職者が希望した場合のみ記載可能です。退職証明書を発行する前に、上記項目の記載が必要か退職者の希望を伺いましょう。
解雇理由証明書は、記載する内容自体は退職証明書における退職の事由についてと同じ内容となることが多いようです。ですが解雇理由証明書は、退職証明書とは違って退職日前においても従業員は請求することができるといわれています。
一般的に、事業主は従業員を解雇する際には解雇予告をしていなければならないため、解雇予告をしてから退職するまでの間に従業員は解雇理由証明書を請求することができるということです。
ただしここで従業員が請求できることは、あくまでも解雇の理由についてのみとなっており、そのほかの内容については請求することができません。
従業員が退職する際に請求される可能性のある書類が退職証明書ですが、それ以外にどのような書類を発行しなければならないのでしょうか。ここからは、退職証明書以外の書類について確認しておきましょう。
まずは、雇用保険の離職票です。従業員が退職をした後に、事業所の所轄のハローワークに離職証明書を提出する手続きをおこなって、ハローワークより離職票の発行を受ける必要があります。
手続きの期限は、離職日の翌日から10日以内とされています。退職者本人から不要との希望がない限り、離職票は必ず発行する必要があります。
また事業主は、従業員の退職日から1カ月以内に、従業員の給与や賞与に関する源泉徴収票を発行する必要があります。源泉徴収票は従業員が再就職先に提出する場合や、確定申告する場合に必要となります。
また、退職金の支給がある場合は、それとは別に源泉徴収票を発行しなければなりません。
さらに、従業員の雇用保険被保険者証を会社が預かっている場合については、それを返却する必要があるため確認しておきましょう。
退職証明書に関する注意点として、以下の3つが挙げられます。
従業員から要望があった場合、退職証明書を発行しなければなりません。要望があったにもかかわらず退職証明書を発行しなかった場合、労働基準法第22条第1項違反となり、30万円以下の罰金が科されます。
なお、退職証明書の発行期日は定められていませんが、大幅に遅れると発行の意思がないものと判断され上記罰則が下される可能性もあります。そのため、従業員が希望した場合は速やかに退職証明書を発行しましょう。
退職証明書の申請期限は2年間までと、労働基準法で定められています。特に国民健康保険・国民年金の手続きは、退職後数カ月経ってからになるケースもあるため、希望があった場合はすぐに発行できるよう手続きしましょう。
2年以内であれば退職証明書の発行は複数回申請できるため、退職後2年間で退職者から退職証明書の発行希望があった場合、企業はその都度、発行手続きに対応しなければなりません。
従業員が希望しない内容は、退職証明書に記載できません。先述のとおり、必須項目以外の内容は、従業員本人が希望した場合のみ記載できます。
たとえば転職先の企業から「退職証明書に退職理由と賃金を記載して欲しい」と記載内容を指定されても、退職者が希望していない場合は記載できません。人事担当者は、退職証明書の記載内容について必ず確認を取りましょう。
退職証明書に関するよくある質問は下記のとおりです。
もし、発行の義務があることを伝えても企業が応じない場合は、管轄の労働基準監督署に相談しましょう。
国民健康保険・国民年金の手続き | ・健康保険資格喪失証明書 ・厚生年金保険資格喪失証明書 ・離職票 |
---|---|
転職 | ・在籍証明書 ・離職票 |
上記の資料で手続きする場合は、企業から退職証明書を発行してもらえない旨を先方に伝え、資料を提出しましょう。
退職証明書は労働基準法により、企業が退職者の要望にしたがって発行することが義務づけられています。退職証明書を発行してもらえない場合は、企業に発行義務があることを伝えましょう。それでも応じてもらえない場合は、労働基準監督署に相談してください。
ただし、退職者が依頼をしなければ発行してもらえないため、忘れずに請求しましょう。
退職証明書をなるべく早く欲しい場合は、退職前に発行手続きを依頼し、退職日に受け取れるよう手配した方が良いでしょう。
今回は、退職証明書や解雇理由証明書、そしてそのほかの退職の際に従業員に発行する書類についてご紹介させていただきました。退職証明書や解雇理由証明書については、従業員からの請求がなければ発行する必要性はありません。
また、従業員が自主退職することを決定した場合は、解雇理由証明書を発行する必要性はないため、間違えないよう気をつけてください。従業員が退職する際に必要な書類も含めて、社内管理表などで漏れなく処理できるようにルール化をしておくとよいでしょう。
社会保険労務士法人|岡佳伸事務所の代表、開業社会保険労務士として活躍。各種講演会の講師および各種WEB記事執筆。日本経済新聞、女性セブン等に取材記事掲載。2020年12月21日、2021年3月10日にあさイチ(NHK)にも出演。
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