2022年10月25日に開催された第1回社会保障審議会年金部会において、国民年金の保険料納付期間を65歳までへと延長する試算が示されたことが話題となっています。
本記事では、国民年金の保険料の納付について解説します。
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目次
国民年金の仕組みは3階建てと呼ばれます。
具体的には、2階建ての公的年金に、任意加入の3階部分が加わります。
1階部分:20歳以上60歳未満の全員が加入する国民年金(基礎年金)で、3種類に分けられます。
2階部分:厚生年金保険
3階部分:企業年金や個人型年金(iDeCo)など任意加入の年金
国民年金(基礎年金)の保険料は、20歳になってから60歳になるまでの40年間(480カ月)の支払いが、法律で義務づけられています。
60歳以降は国民年金保険料の支払義務はありません。
次に該当する人は、60歳以降も任意加入することができます(厚生年金加入者は除く)。
・納付済期間が40年間に満たないため、国民年金の満額支給が受けられない見込みの人
・納付済期間が10年間に満たないため、国民年金の受給資格がない人
国民年金の第1号被保険者の保険料は、月額16,590円(1カ月分)です。
納付期限である翌月末までに支払いが必要です。
保険料をまとめて前払いすると割引があり、更に口座振替による割引もあります。
国民年金の月額の保険料に、任意で付加保険料を月額400円納付することで年金支給額が加算される、付加保険料制度もあります。
国民年金(基礎年金)の受給額は、2022年4月分から満額支給で年額777,800円、月額64,816円です。
2021年の780,900円より0.4%引き下げられています。
国民年金(基礎年金)としてもらえる額は、毎年変わることに注意が必要です。
国民年金をもらうためには、最低10年(120回)以上の加入が必要です。
国民年金への加入期間が40年(480回)に満たない場合は、支払回数(保険料を支払った回数と支払免除や減額納付した回数の合計)に応じて、減額された金額がもらえます。
保険料を支払った回数による受給額の計算式は次のとおりです。
( )内の数字は計算例です。
例) 満額(780,900円)×支払った回数240回÷480回 =390,450円となります。
納付免除や減額納付したことがある場合は、満額支給の金額から減額されます。
計算式は次のとおりです。
付加保険料制度を利用して、付加保険料を支払った場合は、「200円×付加保険料を納めた月数=付加年金(年額)」が加算されます。
たとえば、付加保険料を40年間(480回)納付した場合は、
200円 × 480回 = 96,000円(年額)
を、国民年金(基礎年金)に加えてもらうことができます。
国民年金(基礎年金)の受給者で、一定の所得条件などに該当する人は、老齢年金生活者支援給付金や補足的老齢年金生活者支援金を受け取ることができます。
国民年金と厚生年金とを合計したもらえる金額のイメージは次のとおりです。
国民年金をもらえる年齢は、原則として65歳からです。
受給する人の希望によって、国民年金を受け取りはじめる年齢を60歳から70歳(または75歳)までの間の好きな年に変えることができます。
65歳未満で前倒して年金を受け取りはじめることを「繰上げ受給」といいます。
「繰上げ受給」を申請すると、繰上げした年数に応じて、年金受取額が最大30%減額されます。
66歳以降に受け取りはじめることを「繰下げ受給」といいます。
「繰下げ受給」では、受給を遅らせた年数に応じて、年金受取額が最大42%(または84%)増額されます。
2022年4月1日以降に70歳となる人(1952年4月2日以降の生まれの人)は、繰下げ受給開始年齢を、最大75歳まで延長することが可能となりました。
65歳での満額支給と比較した、繰上げ受給による減額、繰下げ受給による増額のイメージは次のとおりです。
2022年4月以降の繰下げ、繰上げ受給額の割合のイメージ
年齢 | 繰上げ支給時の 支給額の割合 |
年齢 | 65歳からの 支給時 |
年齢 | 繰下げ受給時の 支給額の割合 |
60歳 | 76.0% | 65歳 | 100% | 66歳 | 108.4% |
61歳 | 80.8% | 67歳 | 116.8% | ||
62歳 | 85.6% | 68歳 | 125.2% | ||
63歳 | 90.4% | 69歳 | 133.6% | ||
64歳 | 95.2% | 70歳 | 142.0% | ||
71歳 | 150.4% | ||||
72歳 | 158.8% | ||||
73歳 | 167.2% | ||||
74歳 | 175.6% | ||||
75歳 | 184.0% |
繰上げ受給、繰下げ受給ともに、増減された年金額は一生変わらないため、十分な検討が必要です。
国民年金を支払う期間を60歳以降にする議論は以前からありましたが、2022年10月の年金部会で、65歳まで支払期間を延長する試算が明らかにされました。
国民年金保険料の支払期間の上限を40年から45年へ延長し、納付年数に応じて、国民年金(基礎年金)が増額される仕組みとする内容です。
国民年金の保険料納付を65歳までに延長する、という試算が検討されています。
以下の「オプション試算の内容」のうち、青色枠の部分です。
国民年金を65歳まで支払うことについての検討理由として、所得代替率が上昇するという試算結果を上げています。
所得代替率とは年金の給付金額の水準を、現役世代の手取り年収と比較した比率です。
所得代替率 = 年金をもらえる金額 ÷ 現役男子の平均手取り収入額
(計算例)
62.9% = (夫婦2人合計の基礎年金13万円 + 厚生年金9万円)
÷ 平均的な現役男子の手取り収入35万円
今回の資料に記載されている試算結果では、
①基礎年金の拠出期間延長、すなわち国民年金を65歳までの45年間支払う、
④年金の繰下げ受給を75歳まで可能にすると、年金受給額を確保しやすい
とされています。
このうち④国民年金の繰下げ受給については、2020年に法改正され、2022年から開始されています。
今回の国民年金の支払いを65歳まで延長する議論の背景には、高齢者の増加に伴い、国民年金(基礎年金)の給付額の低下が予想されることにあります。
国民年金(基礎年金)の支給財源である国民年金の保険料を確保することで、給付額を確保する必要があるためです。
今回の国民年金を65歳まで支払う案が現実化すると、第1号被保険者である個人事業主や、60歳になる前に早期退職した人などは、負担が増えることとなります。
今回の国民年金保険料の納付期間延長に関連して、厚生年金についても改正の議論がなされる予想です。
具体的な検討内容は、被用者保険適用事業所の範囲の拡大です。
個人事業主で非適用業種を営んでいる事業所の強制適用、企業規模要件の撤廃などと推測されています。
厚生年金保険については、2022年10月からの従業員規模引下げに続いて、2024年10月から、もう一段の規模要件引下げ(対象の拡大)が決まっています。
内容としては、短時間労働者を雇用している事業所の人数の条件を、現行(2022年10月)100人超から50人超に引下げる改正内容です。
従業員数の考え方や適用後のポイントについては、以下の記事で詳しく説明しています。
これらの厚生年金保険の対象拡大は、国民年金の給付水準維持にも貢献するといわれています。
年金部会での報告内容は、今後の国民年金、厚生年金などの制度改革の方向性を予測する、重要な手掛かりとなっています。
もともと年金制度は、5年ごとに制度を検証することになっています。
早ければ2024年に改革内容の結論が出て、2025年の通常国会での法改正成立が見込まれています。
今回の国民年金を65歳まで支払う制度改正についてだけでなく、厚生年金や退職金に関する事柄は、経営者や60歳を超えて働く社員の関心も高い分野ですので、今後の議論の方向に注意しておく必要があります。
また、社会保険事務は複雑で、頻繁な法改正の見落としで徴収漏れが発生する可能性があるなど、的確な処理をおこなうためにはコストがかかる業務です。
法改正内容をスピーディに把握し、必要に応じて専門家に相談する、クラウドサービスの導入で社会保険事務を効率化するなど、適切な対応が大切です。