公的年金・国民年金の目的
公的年金では、働いている世代である加入者(被保険者)が一定の保険料を納めることで、働けない世代である高齢者に年金として給付を行うという「世代と世代の支えあい」といった考えで運営されています。
また国民年金は、老齢になったときの経済的な保障だけでなく、障害や死亡など万が一のことが起こった時に安定した生活を送れる社会保障制度のひとつです。
2022年10月25日に開催された「第1回 社会保障審議会年金部会」において、国民年金保険料の支払い期間を65歳までと延長する試算が示されたことが話題となりました。
現在日本では、国民年金保険料の支払いは60歳になるまでとされていますが、65歳までに延長される可能性がある理由とは何なのでしょうか。
この記事では、国民年金保険料は月にいくら支払う必要があり、いつから・満額でいくらもらえるのか、2023年度版の最新情報をご紹介します。
労務SEARCH(サーチ)は、労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディアサイトです。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
目次
国民年金とは、日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の全ての国民が加入を義務付けられている公的年金です。基礎年金とも言い、公的年金は国民年金と厚生年金のことを指します。
公的年金では、働いている世代である加入者(被保険者)が一定の保険料を納めることで、働けない世代である高齢者に年金として給付を行うという「世代と世代の支えあい」といった考えで運営されています。
また国民年金は、老齢になったときの経済的な保障だけでなく、障害や死亡など万が一のことが起こった時に安定した生活を送れる社会保障制度のひとつです。
国民年金の被保険者は、下記の3種類に分けられます。
種類 | 具体例 |
---|---|
第1号被保険者 | 第2号および第3号被保険者に該当しない自営業者など |
第2号被保険者 | 厚生年金保険や共済組合に加入する会社員、公務員など |
第3号被保険者 | 第2号被保険者の扶養家族である配偶者で、20歳以上60歳未満の方 |
日本の年金制度は「3階建て」です。具体的には、1・2階に国民皆年金※という特徴がある公的年金、3階に任意加入の私的年金という構造です。
20歳以上60歳未満の全ての国民に加入が義務付けられていること。
年金制度 | 加入対象 | |
---|---|---|
1階部分 | 国民年金 (基礎年金) |
日本に住む 20歳以上60歳未満の全国民 |
2階部分 | 厚生年金保険 | 会社員 (公務員、私学教職員を含む) |
3階部分 | 企業年金、 個人型年金(iDeCo)など |
任意で加入 |
国民年金の保険料は、20歳になってから60歳になるまでの40年間(480カ月)の支払いが法律で義務づけられています。保険料を40年間支払い続けることで、満額の年金を受け取ることが可能です。
60歳になったら、国民年金保険料の支払義務はありません。ただし次に該当する方は、60歳以降も任意加入することができます(厚生年金加入者は除く)。
前述のとおり現時点(2023年8月)では、20歳〜60歳までの40年間が年金の納付期間です。しかし、少子高齢化の進行が速いことや将来の受給金額水準の低下防止のため、現時点(2023年8月)で厚生労働省は納付期間の5年延長を検討しています。
納付期間の延長について、詳しくは後述しています。
国民年金保険料の納付期限は「納付対象月の翌月末日」です。たとえば8月分の保険料は9月末日が納付期限となります。ただし、月の末日が土日・祝日または年末年始の場合は、翌月最初の金融機関の営業日が納付期限です。
納付が遅れても納付期限から2年分までは後から納付できます。国民年金保険料が未納の場合、障害基礎年金や遺族基礎年金などを受給できない可能性があるため注意しましょう。
国民年金の第1号被保険者の保険料は、1カ月あたり16,520円です(令和5年度)。納付期限である翌月末までに支払いが必要です。
保険料をなるべく安くしたい方は、前払い(前納)をしましょう。まとめて前払いすると割引があり、更に口座振替による割引もあります。
国民年金保険料の納付方法は以下3つです。
金融機関や郵便局・アプリなどを利用して納付する際には、納付書を用いて手続きをおこなう必要があります。口座振替の場合は保険料は毎月自動で引き落とされ、納め忘れの心配がありません。
またクレジットカードで支払う場合は、カード会社が継続的に立て替えて支払います。
国民年金(基礎年金)の受給額は、2023年4月分から満額支給で年79万5,000円、月6万6,250円です。
67歳以下の場合。2023年で68歳以降の方の受給額(満額)は、月66,050円。
2022年と比較して、67歳以下の方は2.2%の引き上げ、68歳以降の方は1.9%引き上げられています。国民年金(基礎年金)としてもらえる額は、毎年変わることに注意が必要です。
国民年金と厚生年金を合計したもらえる月額は、次のとおりです(67歳以下の場合)。
2023年 | 2022年 | |
---|---|---|
国民年金 (満額) |
66,250円 | 64,816円 |
夫婦の 国民年金額+ 厚生年金額 の標準 |
224,482円 | 219,593円 |
国民年金保険料を支払った回数による受給額の計算式は、次のとおりです。
納付免除や減額納付したことがある場合は、満額支給の金額から減額されます。計算式は、下記の画像のとおりです。
もし年金の受給額を増やしたい場合は「付加保険料制度」の活用がおすすめです。国民年金保険料+任意で付加保険料(月400円)の支払いをすることで、年金支給額が加算されます。
たとえば、付加保険料を40年間(480回)納付した場合は、200円×480回=96,000円(年額)を、国民年金に加えてもらうことができます。なお付加保険料を納付することができるのは、国民年金第1号被保険者や任意加入被保険者です。
上記の付加年金に加入することができる任意加入被保険者とは「任意加入制度」を活用している被保険者のことを指します。任意保険加入制度とは、年金額の増額を希望する場合、以下の条件を満たすことで任意加入できる制度です。
国民年金(基礎年金)の受給者で一定の所得条件などに該当する人は、生活の支援のために年金に上乗せして下記の給付金を受け取ることができます。
それぞれ支給条件があり、条件をすべて満たしている方が受給対象となります。
支給要件 | |
---|---|
老齢年金生活者 支援給付金 |
・65歳以上の老齢基礎年金の受給者 ・同一世帯の全員が市町村民税非課税 ・前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計額が88万1,200円以下 |
障害年金生活者 支援給付金 |
・障害基礎年金の受給者 ・前年の所得が472万1,000円以下 |
遺族年金生活者 支援給付金 |
・遺族基礎年金の受給者 ・前年の所得が472万1,000円以下 |
国民年金をもらえる年齢は、原則として65歳からです。受給する人の希望によって、国民年金を受け取りはじめる年齢を60歳から70歳(または75歳)までの間の好きな年に変えることができます。
65歳未満で前倒して年金を受け取りはじめることを「繰上げ受給」、66歳以降に受け取りはじめることを「繰下げ受給」といいます。
意味 | メリット・ デメリット |
|
---|---|---|
繰上げ受給 | 65歳未満で前倒して年金を 受け取りはじめること |
繰上げした年数に応じて 年金受取額が最大30%減額 |
繰下げ受給 | 66歳以降に後ろ倒しで年金 を受け取りはじめること |
受給を遅らせた年数に応じて年金受取額 が最大42%(または84%)増額 |
2022年4月1日以降に70歳となる人(1952年4月2日以降の生まれの人)は、繰下げ受給開始年齢を最大75歳まで延長することが可能となりました。
65歳での満額支給と比較した、繰上げ受給による減額・繰下げ受給による増額のイメージは次のとおりです。
年齢 | 繰上げ支給時の 支給額の割合 |
年齢 | 65歳からの 支給時 |
年齢 | 繰下げ受給時の 支給額の割合 |
60歳 | 76.0% | 65歳 | 100% | 66歳 | 108.4% |
61歳 | 80.8% | 67歳 | 116.8% | ||
62歳 | 85.6% | 68歳 | 125.2% | ||
63歳 | 90.4% | 69歳 | 133.6% | ||
64歳 | 95.2% | 70歳 | 142.0% | ||
71歳 | 150.4% | ||||
72歳 | 158.8% | ||||
73歳 | 167.2% | ||||
74歳 | 175.6% | ||||
75歳 | 184.0% |
繰上げ受給、繰下げ受給ともに、増減された年金額は一生変わらないため、十分な検討が必要です。
国民年金保険料を期日内に支払うことが難しい場合は、以下3つの制度・措置を利用しましょう。
国民年金保険料の免除制度や納付猶予制度とは、収入減少や失業などにより、国民年金保険料の支払いが難しい場合に救済措置を受けられる制度です。
未納のまま放置すれば一部年金の受給資格を失う可能性がある一方で、免除や納付猶予が承認されると支払いができない期間は保険加入期間としてカウントされます。
学生の場合は、在学中に保険料の納付が猶予される「学生納付特例制度」が適用できます。学生納付特例制度の適用条件は、以下のとおりです。
申請可能期間は原則4月から翌年3月で、審査の対象となる所得は前年です。たとえば2023年4月から2024年3月までに申請する場合、2023年4月以降の申請となります。
国民年金保険料は、追納制度を利用すれば後払い(追納)できます。保険料を後から払うことで、老齢基礎年金の年金額を増やすことが可能です。
また追納すれば社会保険料控除を受けられるため、所得税や住民税の負担が軽減されます。ただし、追納ができる期間は追納が認められた月の前10年以内の承認期間に限られます。そのため追納を検討している人は、早めに手続きを進めておきましょう。
国民年金を支払う期間を60歳以降にする議論は以前からありましたが、2022年10月の年金部会で、65歳まで支払期間を延長する試算が明らかにされました。
国民年金保険料の支払期間の上限を40年から45年へ延長し、納付年数に応じて国民年金(基礎年金)が増額される仕組みとする内容です。
国民年金の保険料納付を65歳までに延長する、という試算が検討されています。以下の「オプション試算の内容」のうち、青色枠の部分です。
国民年金を65歳まで支払うことについての検討理由として、所得代替率が上昇するという試算結果を上げています。
所得代替率とは年金の給付金額の水準を、現役世代の手取り年収と比較した比率のこと。
今回の資料に記載されている試算結果では、
①基礎年金の拠出期間延長、すなわち国民年金を65歳までの45年間支払う
④年金の繰下げ受給を75歳まで可能にすると、年金受給額を確保しやすい
とされています。このうち「④国民年金の繰下げ受給」については2020年に法改正され、2022年から開始されています。
今回の国民年金の支払いを65歳まで延長する議論の背景には、高齢者の増加に伴い、国民年金(基礎年金)の給付額の低下が予想されることにあります。国民年金(基礎年金)の支給財源である国民年金の保険料を確保することで、給付額を確保する必要があるためです。
今回の国民年金を65歳まで支払う案が現実化すると、第1号被保険者である個人事業主や、60歳になる前に早期退職した人などは、負担が増えることとなります。
今回の国民年金保険料の納付期間延長に関連して、厚生年金保険についても改正の議論がなされる予想です。具体的な検討内容は、被用者保険適用事業所の範囲の拡大です。
個人事業主で非適用業種を営んでいる事業所の強制適用、企業規模要件の撤廃などと推測されています。
厚生年金保険については、2022年10月からの従業員規模引下げに続いて、2024年10月からもう一段の規模要件引下げ(対象の拡大)が決まっています。
従業員数の考え方や適用後のポイントについては、社会保険の加入条件に関する記事で詳しく説明しています。これらの厚生年金保険の対象拡大は、国民年金の給付水準維持にも貢献するといわれています。
なお、厚生年金保険・健康保険の適用対象となるのは正社員だけではなく、条件を満たせばアルバイト・パートタイム従業員も対象です。アルバイト・パートタイム従業員の厚生年金保険・健康保険の加入条件については「パートの社会保険の加入条件」の記事で詳しく解説しています。
年金部会での報告内容は、今後の国民年金、厚生年金などの制度改革の方向性を予測する、重要な手掛かりとなっています。
もともと年金制度は、5年ごとに制度を検証することになっています。早ければ2024年に改革内容の結論が出て、2025年の通常国会での法改正成立が見込まれています。
今回の国民年金を65歳まで支払う制度改正についてだけでなく、厚生年金や退職金に関する事柄は、経営者や60歳を超えて働く社員の関心も高い分野ですので、今後の議論の方向に注意しておく必要があります。
また、社会保険事務は複雑で、頻繁な法改正の見落としで徴収漏れが発生する可能性があるなど、的確な処理をおこなうためにはコストがかかる業務です。
法改正内容をスピーディに把握し、必要に応じて専門家に相談する、クラウドサービスの導入で社会保険事務を効率化するなど、適切な対応が大切です。