この記事でわかること
- 離職票に記載する賃金の内訳
- 従業員の署名捺印が取得できない場合の対応方法
- 特定受給資格者や特定理由離職者の概要
- 離職票に関するトラブル事例と対応方法
従業員が退職した際、事業者は、離職票の発行や離職証明書をハローワークへ提出する手続きが発生します。
この記事でわかること
社会保険労務士法人岡佳伸事務所 代表 特定社会保険労務士
https://oka-sr.jp/
開業社会保険労務士として活躍。各種講演会(東京商工会議所練馬支部、中央支部、公益社団法人東京ビルメンテナンス協会)講師及び各種WEB記事執筆、日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載、NHKあさイチ2020年12月21日、2021年3月10日にTVスタジオ出演。
特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
目次
離職票(雇用保険被保険者離職票)とは、退職した従業員が雇用保険の基本手当(失業手当)や再就職手当などの受給を申請するために必要な書類です。
離職票は退職者が失業保険を受け取るための重要な書類です。
退職者の転職先が決まっている場合、ハローワークへの離職票の提出は不要です。
また、離職票と離職証明書、退職証明書は異なります。
離職証明書とは、退職する社員を雇用保険から脱退させるために、会社がハローワークに提出する書類です。一般的に離職票とともに発行されます。
退職証明書とは、従業員の要望により企業が発行する使用期間、業種、その事業における地位、賃金、退職理由を記載した書類です。
離職票には、離職票-1と離職票-2があり、退職者は両方の離職票をハローワークに提出します。
一方で、転職先が決まっている場合、ハローワークへの提出は不要です。
従業員が離職により雇用保険被保険者資格を喪失した場合、事業者は離職者の退職日の翌日から10日以内に事業所のある地域を管轄しているハローワークに離職証明書を提出して離職票の発行手続きをおこないます。その後、ハローワークが離職者に離職票を交付します。
雇用保険法により66カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が適用
離職者が離職票の発行を希望した場合や59歳以上の離職者が対象である場合に適用される罰則であり、離職票を希望しない場合は該当しません。
離職票に記載する雇用保険上の賃金額とは「総支給額」を指します。
雇用主より支給される給与から所得税・社会保険料(年金など)・その他の控除(住民税や財形貯蓄などの積立金等)などの社会保険料が天引きされていない金額です。時間外手当や通勤手当などの各種手当が含まれます。
毎月支給される給料や時間外労働手当(残業手当)はその月に支給された控除前の金額を書きますが、通勤手当など数か月に一度支給されるものは月割り計算で按分します(例:6カ月定期券を買った場合、購入金額を6で割り、毎月の支給額に加算する)。
離職票に雇用保険上の賃金額を記載する場合は、退職日までの最後の6カ月間に支給した賃金の金額を記入しますが、臨時に支払う賃金や3カ月を超えるごとに支払う賃金(賞与など)は除きます。
退職月の給与の算出方法には特に法的な決まりはなく、離職者が勤務していた会社の就業規則に準じて決められます。
離職票の発行に関する手続きは以下の手順を踏みます。
離職票に関する手続き
退職者のうち、既に転職先が決まっている労働者の場合、離職票を必要としない場合があります。退職の申し出があった場合、離職票の交付が必要かどうかを確認しましょう。
離職票の交付を希望する場合、雇用保険被保険者資格喪失届と一緒に離職証明書(離職年月、在職時の賃金額、離職理由を記載)を管轄するハローワークに届けます。
離職票(複写となっている離職証明書の3枚目)を、ハローワークから事業主へと渡されるので、退職者に渡します。
離職票や離職証明書には、企業と労働者との認識にズレが起こりやすい記載事項があります。労働トラブルに発展しないように、前もって、発生しやすいトラブルを理解して、事前に対策をしていきましょう。
離職理由には自己都合退職、会社都合退職、契約期間満了の3つの理由が考えられます。
離職理由によっては、失業保険の受給開始日が異なります。
離職票には具体的事情記入欄があるので、離職理由は詳しく書きましょう。自己都合退職の場合、社員に退職届を記入してもらい、双方の合意を得た記録を残しておきましょう。
また、特定受給資格者や特定理由離職者に該当する場合は注意が必要です。
特定受給資格者とは、雇用保険の被保険者であった退職者が、失業中の生活と再就職の支援のために支給されるのが、「基本手当(失業手当)」です。
失業手当を受給できる期間は、退職者の年齢、雇用保険の被保険者だった期間、仕事を辞めた理由などにより90日~360日の間で決められますが、倒産などの理由で退職した離職者は「特定受給資格者」となります。
特定受給資格者の対象となる離職理由
これらの理由は雇用保険法により細かく定められていますが、それによって特定受給資格者と認められた場合は、一般の退職者よりも基本手当の受給期間が長くなります。
特定資格受給者と同じく、離職者にやむを得ない理由があったと認められる場合があります。それが「特定理由離職者」です。本人の希望に反して雇用期間の延長がなされなかった場合には、一般の退職者よりも基本手当の受給期間が長くなります。
このほかにも様々なケースを想定した理由が雇用保険法により細かく定められていますが、判断が難しいケースもありますので、その場合は最寄りのハローワークに問い合わせる必要があります。
退職者から離職票の発行を希望された場合、雇用保険被保険者資格喪失届に離職証明書を添付しなければなりません。
事業主は離職日の翌日から10日以内に雇用保険被保険者資格喪失届の届出をおこなわなければなりません。雇用保険被保険者資格喪失届のほかに、離職票、離職証明書を一緒に作成するようにしましょう。
雇用保険の被保険者が退職する場合、事業者は雇用保険被保険者資格喪失届と雇用保険被保険者離職証明書(離職証明書)を、事業所のある地域を管轄するハローワークに提出しなければなりません。
離職証明書は事業主控え、ハローワーク提出用、雇用保険被保険者離職票2の3枚複写となっています。
離職証明書には退職者本人の記名押印または自筆による署名が必要です。
本人の退職後に署名や捺印が取れない場合は、「本人退職後のため」などの理由を明記した上で事業主印の押印で提出が認められます。
助成金の中には、キャリアアップ助成金やトライアル雇用奨励金など従業員の雇い入れや教育に関する助成金が存在します。
助成金の受給要件には、対象労働者の要件も定められており、離職理由によっては、助成対象外となってしまうことがあります。
従業員が退職した際のトラブルの多くは、離職理由が違うことなどから生じる離職票の発行手続きの遅れです。その結果、事業所に罰金が適用される、あるいは退職者本人が3カ月の給付制限を受けるなど、双方に不利益が生じます。
そのような事態を防ぐためにも、事業者は雇用保険法で定められた期限までに手続きをし、不明な点があれば管轄のハローワークに相談するなどの確認を怠らないようにしましょう。