この記事でわかること・結論
- キャリアアップ助成金(正社員化コース)は有期契約労働者を正社員に転換する際に支給される
- 助成金の対象となる従業員は、特定の条件を満たした有期契約労働者等
- 助成金額は条件により異なり、正社員化に向けた具体的な取り組みを支援する
この記事でわかること・結論
数ある助成金の中でもキャリアアップ助成金(正社員化コース)とは、どのようにすれば受給できるものなのか、その金額や対象者と対象企業やその注意点などについて解説します。効果的な従業員活用を行い、会社の活性化を目指しましょう。
目次
キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは就業規則等に規定した制度に基づいて、有期契約労働者等を正規雇用労働者等に転換・直接雇用した場合に助成される制度です。
以前のキャリアアップ助成金は、「正社員化コース」「人材育成コース」「処遇改善コース」と3つだったコースが、平成29年4月より8つのコースに拡充され、正社員化コースにおいては、助成金の金額も大幅に増額されました。
働き方改革を促進する補助制度としても注目が集まっています。
以上のことが挙げられ、働く従業員の意欲や能力向上、また事業の生産性を高めて優秀な人材を確保することを目的としています。
2023年11月29日以降の助成金額は以下の通りです。
2024年以降は、企業がより制度を利用しやすくなったと言えます。
キャリアアップ助成金以外の法改正について気になる方は、2024年の法改正一覧を参考にしてみてください。
参考:キャリアアップ助成金「正社員コース」を拡充しました|厚生労働省
まず、対象となる従業員について、いくつかの要件を見ていきましょう。
(1)有期契約労働者等から正規雇用労働者に転換および直接雇用される場合、当該の転換日、直接雇用日の前日から過去3年以内に当該事業所において、正規雇用労働者として雇用されたことがある
(2)無期雇用労働者に転換および直接雇用される場合、当該の転換日、直接雇用日の前日から過去3年以内に当該事業所において、正規雇用労働者または無期雇用労働者として雇用されたことがある
・転換、直接雇用を行った当該事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族以外であること
・転換日、直接雇用日の前日から起算して1年6ヶ月前の日から、当該転換日、直接雇用日の前日から起算して6カ月前の日までの間(基準期間)に、支給対象となる事業主と資本的、経済的に密接な関係にある事業主に以下の【雇用区分】(1)または(2)のいずれかにより雇用されていない者であること。
【雇用区分】
(1)正規雇用労働者に転換または直接雇用される場合、正規雇用労働者として雇用
(2)無期雇用労働者に転換または直接雇用される場合、正規雇用労働者または無期雇用労働者
・短時間正社員に転換または直接雇用された場合は、原則、転換または直接雇用後に所定労働時間または所定労働日数を超えた勤務をしていない者であること
・障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律施行規則(平成18年厚生労働省令第19号)第6条の10に規定する就労継続支援A型の事業における利用者以外の者であること
・支給申請日に転換または直接雇用の後の雇用区分の状態が継続していて、離職していない者であること
次に、対象となる事業主についての要件は2つのケースがあり、今回はそのうちの1つである「有期契約労働者を正規雇用労働者または無期雇用労働者に転換する場合、および無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換する場合」の要件について詳しくご紹介します。
(1)有期契約労働者等を正規雇用労働者または無期雇用労働者に転換する制度を就業規則等に規定している事業主であること
(2)上記(1)の規定に基づいて、雇用する有期契約労働者を正規雇用労働者もしくは無期雇用労働者に転換した、または無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換した事業主であること
(3)上記(2)により転換後6ヶ月以上継続して雇用し、当該労働者に対して転換後に6ヶ月分の賃金を支給した事業主であること
(4)多様な正社員への転換の場合では、上記1.の制度の規定に基づき転換した日において、対象労働者以外に多様な正社員を除く正規雇用労働者を雇用していた事業主であること
(5)支給申請日に当該制度を継続して運用している事業主であること
(6)転換前の基本給よりも5%以上昇給させた事業主であること
(7)転換日前日から起算して6ヶ月前の日から1年を経過する日までの間に、当該転換を行った事業所で、雇用保険被保険者を解雇等の事業主側の都合により離職させた事業主以外の者であること
(8)転換日前日から起算して6ヶ月前の日から1年を経過する日までの間に、当該転換を行った事業所において、雇用保険法第23条第1項に規定する特定受給資格者となる離職理由のなかで離職区分1A、または3Aに区分される離職理由により離職した者として同法第13条に規定する受給資格の決定が行われたものの数を、当該事業所における当該転換があった日における雇用保険被保険者数で除した割合が6%を超えている事業主以外の者であること
(9)上記(1)の制度を含めて、雇用する労働者を他の雇用形態に転換する制度がある場合にあっては、その対象となる労働者本人の同意に基づく制度として運用している事業主であること
(10)正規雇用労働者または無期雇用労働者に転換した日以降について、当該者を雇用保険の被保険者として適用させている事業主であること
(11)正規雇用労働者または無期雇用労働者に転換した日以降について、当該者を社会保険の被保険者として適用させている事業主であること
(12)母子家庭の母等または父子家庭の父の転換に係る支給額の適用を受ける場合は、当該転換日に母子家庭の母等または父子家庭の父の有期契約労働者等を転換した事業主であること
(13)若者雇用促進法に基づく認定事業主についての35歳未満の者の転換に係る支給額の適用を受ける場合には、当該転換日より前に若者雇用促進法第15条の認定を受けていて、当該転換日において35歳未満の有期契約労働者等を転換した者である。また、支給申請日においても引き続き若者雇用促進法に基づく認定事業主であること
(14)勤務地限定正社員制度または職務限定正社員制度に係る加算の適用を受ける場合には、キャリアアップ計画書に記載されたキャリアアップ期間中に、勤務地限定正社員制度または職務限定正社員制度を新たに規定し、有期契約労働者等を当該雇用区分に転換した事業主であること
(15)生産性要件を満たした場合の支給額の適用を受ける場合には、当該生産性要件を満たした事業主であること
なお、「派遣労働者を正規雇用労働者または無期雇用労働者として直接雇用する場合」についての詳しい要件は、厚生労働省の「キャリアアップ助成金パンフレット」をご確認ください。
本助成制度の利用で助成される金額は以下のとおりです。なお、【 】は生産性の向上が認められる場合の金額、( )内は大企業の金額となります。
(1)有期契約労働者から正規雇用労働者
1人当たり57万円【72万円】(42万7,500円【54万円】)
(2)有期契約労働者から無期雇用労働者
1人当たり28万5,000円【36万円】(21万3,750円【27万円】)
(3)無期雇用労働者から正規雇用労働者
1人当たり28万5,000円【36万円】(21万3,750円【27万円】)
すべて合わせて1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は15人までとしており、また助成金額は以下の場合に限り加算されます。
<派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者または多様な正社員として直接雇用した場合>
上記(1)、(3)に該当する1人当たり28万5,000円【36万円】(大企業も同額)
<母子家庭の母等または父子家庭の父を転換等した場合・若者雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の者を転換等した場合>
いずれも上記(1)、(3)に該当する1人当たり95,000円【12万円】、(2)、(3)に該当する1人当たり47,500円【60,000円】(大企業も同額)
<勤務地、職務限定正社員制度を新たに規定し有期契約労働者等を当該雇用区分に転換または直接雇用した場合>
上記(1)、(3)に該当する1事業所当たり95,000円【12万円】(71,250円【90,000円】)
ここで、本助成金におけるキャリアアップ計画の概要についてご説明します。
キャリアアップ計画とは、有期契約労働者のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるために、今後のおおまかな取り組みのイメージ(対象者・目標・期間・目標を達成するために事業主が行う取り組み)をあらかじめ記入するものです。
このキャリアアップ計画は、あくまでも当初の計画を記入するため、変更届を提出すれば随時変更することも可能です。
キャリアアップ計画の作成は、まず「キャリアアップ管理者」を決めて3年以上5年以内の計画期間を定めます。そして、「有期契約労働者等のキャリアアップに関するガイドライン」に沿った、おおまかな取り組みの全体の流れを決め、計画対象者・目標・期間・目標を達成するために事業主が行う取り組みなどを記入します。
また、計画の対象となる有期契約労働者や無期雇用労働者の意見が反映されるように、労働組合などの労働者の代表の意見を聴収することも必要となります。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の手続きの流れを見ていきましょう。
そして、本助成金の申請にあたって以下の点にご注意ください。
・支給申請書などの内容によっては審査に時間がかかることがある
・支給要件に照らして申請書や添付書類の内容に疑義がある場合、審査に協力的でない場合は助成金を支給できないことがある
・不正受給を行った事業主は助成金の返還を求められることがある
・都道府県労働局に提出した支給申請書と添付書類の写し等は支給決定されたときから5年間保存しなければならない
・本助成金は同一の雇入れ、訓練を対象として2つ以上の助成金等が同時に申請された場合、同一の経費負担を軽減するために2つ以上の助成金等が同時に申請された場合は双方の助成金の要件を満たしていたとしても一方しか支給されないことがある
・本助成金の支給または不支給決定、支給決定の取消し等は行政不服審査法上の不服申立ての対象とはならない
・本助成金は国の助成金制度のひとつであり受給した事業主は国の会計検査の対象となることがある。また、検査の対象となった場合は協力をすること
・助成金制度については要件等が変更になる場合があるため取組を実施する際は最新の要件等について事前に管轄の労働局またはハローワークへ問い合わせること
いかがでしたでしょうか。このキャリアアップ助成金(正社員化コース)は、必要な要件も比較的とりかかりやすくなっています。また、助成金額のほかにもいくつかの加算要件もありますので非正規社員のキャリアアップの促進と合せ、しっかりとしたキャリアアップ計画作成と励行することにより正社員化コースのキャリアアップ助成金が支給されやすくなります。
労働者は雇用条件が良くなり、企業は助成金が支給され、双方にメリットがあります。今春からさらに条件の整ったこの助成金を活用して、優秀な人材を確保し、事業の生産性を高めていきましょう。
日本大学卒業後、医療用医薬品メーカーにて営業(MR)を担当。その後人事・労務コンサルタント会社を経て、食品メーカーにて労務担当者として勤務。詳しいプロフィールはこちら