新年度が始まり、多くの企業で研修が行われているのではと思います。この記事では研修時にも役立つ、労働者の職業能力の向上を目的とした企業の活動を支援する雇用関係助成金である「キャリアアップ助成金(人材育成コース)」と、「人材開発支援助成金」についてご紹介します。
なお、「人材開発支援助成金」は平成29年4月より以前の「キャリア形成促進助成金」から名称が変わりました。また、両制度ともに助成内容も変更になっていますので、再度見なおす必要があります。
目次
有期契約労働者、派遣労働者、短時間労働者などの非正規雇用者を対象にキャリアップなどの取り組みを行った企業に対する助成金です。この助成金には正社員化コース、賃金規定等改定コース、短時間労働者労働時間延長コースなど様々なコースがあります。今回はその中から人材育成コースについて説明します。
有期契約労働者及び無期雇用労働者に対して行われる訓練が対象となります。具体的には、一般職業訓練(Off-JT)と呼ばれる業務外での訓練と、有期実習型訓練と呼ばれる業務内での訓練(OJT)にOff-JTを組み合わせた3〜6ヶ月の訓練の2つの訓練があります。
Off-JT、OJTともに訓練の基準が決められており、Off-JTに関しては業務外での訓練となるため、細かい基準が設定されています。
1人1時間当たりの賃金助成額は760円、生産性の向上が認められる場合は960円
経費助成は訓練時間数に応じて1人当たり下記を限度(実費が下記を下回る場合は実費を限度)としています。
一般、有期実習型、育児休業中訓練
中長期的キャリア形成訓練、有期実習型訓練後に正規雇用等に転換された場合
Off-JTの支給額と同じく1人1時間当たりの実施助成は760円、生産性の向上が認められる場合は960円
上記は中小企業の助成額であり、中小企業以外は含まれていません。
助成額の詳細や対象となる事業所、労働者等、本助成金の詳しい要件は厚生労働省のページ「キャリアアップ助成金リーフレット」または「キャリアアップ助成金パンフレット」をご参考ください。
キャリアアップ助成金は、主に非正規社員に対象を限定した助成金ですので、まだ配属された部署での業務知識などが少なく、集中的な教育訓練が必要と考えている企業にとって活用したいものです。また、活用できる企業の業種は広範囲に及びます。
例)建設企業では労働者にフォークリフトの免許を取らせるため、外部教育機関に社外講習を申し込み、キャリアアップ助成金(人材育成コース)の活用を検討しました。この場合は外部教育機関を利用しているため、一般職業訓練(Off-JT)となります。なお、この事例では該当の事業所に勤務する労働者に、一般訓練を実施したケースとしています。(派遣労働者等では提出書類が異なります)
実際に本助成金を取り組むことが決定したら、厚生労働省が定めた申請様式に基づき「キャリアアップ計画書」、「一般訓練計画届」を作成します。
一般職業訓練、有期実習型訓練ともに提出が必要な書類です。実施する事業所の情報と代理人、社会保険労務士による提出代行者または事務代理者の情報を記入し、下記の内容に沿った計画を策定します。
キャリアアップ計画書と同じく、実施する事業所の情報と代理人、社会保険労務士による提出代行者または事務代理者の情報と下記の項目を記入します。
以上、2つの計画届を記入したら訓練開始日の前日から起算して1ヶ月前までに、管轄労働局長に提出をします。そして計画届が確認され次第、実際に訓練を行います。また、訓練開始にあわせて「訓練開始届」を開始日の翌日から起算して1ヶ月以内に管轄労働局長に提出する必要があります。
あらかじめ定めた職業訓練計画実施期間が終了した後は、終了した翌日から2ヶ月以内に支給手続きを行い、必要書類を管轄労働局長に提出します。この必要書類とは下記のものになります。
今回の例で申請が可能な支給額は次の計算のとおりです。なお、一般訓練計画届で策定した総訓練時間数を全て行った場合とします。
Off-JT賃金助成 (訓練実施時間数×760円)
Off-JT 経費助成(外部研修機関での受講料等の対象となる経費)
以上の総額を訓練終了後に申請することができます。
計画書や計画届、必要書類等は厚生労働省のホームページ「申請様式のダウンロード(キャリアアップ助成金)」からダウンロードが可能です。また、記入事項についても詳しく知ることができるので、本助成金の活用前に一度ご参考にすることをおすすめします。
主に中小企業が雇用している従業員に対して、より専門的な力を身につけさせるための職業訓練や、人材育成制度を利用した際にかかる諸経費の一部を助成してくれる制度です。簡単に言うと、従業員のキャリアアップにかかる経費を一部助成してもらえるということになります。
訓練関連
制度導入関連
以上のメニューより訓練の実施、制度を導入した場合が助成対象となります。
事業内訓練(事業主が企画し主催する訓練)の場合
事業外訓練(事業主以外の者が企画し主催する訓練)の場合
国や都道府県から補助金を受けている施設が行う訓練の受講料や受講生の旅費などを除く受講に際して必要となる入学料や受講料教科書代など、あらかじめ受講案内などで定めているもの
グローバル人材育成訓練において海外で実施する訓練の場合
事業主団体等が実施する訓練の場合
事業内訓練の場合
事業外訓練の場合
特定訓練コース
・1人1時間あたりの賃金助成額は760円、生産要件を満たす場合は960円
・経費助成率は45%、生産要件を満たす場合は60%
・1人1時間あたりの実施助成額は665円、生産要件を満たす場合は840円
一般訓練コース
・1人1時間あたりの賃金助成額は380円、生産要件を満たす場合は480円
・経費助成率は30%、生産要件を満たす場合は45%
上記は中小企業の助成額・助成率であり、中小企業以外は含まれていません。
キャリア形成支援制度導入コース、職業能力検定制度導入コース
制度導入助成額は47.5万円、生産要件を満たす場合は60万円
従業員のキャリアアップに係る職業訓練等を考えている企業にとっては、利用してもらいたい制度ではありますが、対象になる事業主・事業主団体等も確認しておく必要があります。
人材開発支援助成金は、主に正規社員に対象を限定した助成金ですので、中長期に社員のキャリア形成を考えている企業にとって活用したいものです。
例)介護事業を行っている企業で、介護職員の離職を防止するために段階ごとのスキルアップを目的とした教育訓練を行うと同時に、人材不足を防止するための人材育成を図り、人材確保につなげていく必要がありました。この場合、人材開発支援助成金を活用し、以下のような内容を実施すると助成金が支給されます。
助成金のコース
このケースでは、外部の教育訓練機関を必要とするため一般訓練コース(Off-JT)となります。また、この具体例では中小企業を対象に生産性要件を満たしている場合としており、その助成額と助成率については前項で説明したとおりです。
訓練の内容
教育訓練機関:外部教育訓練機関
受講コース:介護福祉士実務者研修
訓練目標:介護福祉士国家資格を受験するため
訓練時間:1人あたり、45.5時間
受講料等:1人あたり、97,200円
1人あたりの助成金額
上記の訓練内容から助成金の対象となる経費、賃金および実施助成
介護福祉士実務者研修受講料等 97,200円
訓練時間に対する賃金助成(480円/h)
経費助成 43,700円(受講料×45%)
賃金助成 21,800円(45.5h✕480円)
支給総額 65,500円(100円未満切り捨て)
介護事業のほかにも、建設業、理容業、製造業など広範囲な業種で、関係先が行っているそれぞれの事業で必要とされるスキルや資格を取得する研修に、人材開発支援助成金の活用ができます。詳しくは厚生労働省のホームページ「人材開発支援助成金 活用事例集」をご参考ください。
以上、2つの助成金制度について紹介してきました。事業主の方々にとって、従業員の能力開発は会社の将来にかかわる非常に重要なものだと言えます。一方で、そこに割けるだけの十分な予算と時間がない事業主も少なくないのではないでしょうか?
そういった場合に、役立つのがこれらの助成金制度です。事業主にとっては会社のために、また従業員にとっても自分のキャリア形成のために役立つものとなっています。助成金を活用するにあたっては、計画書の作成や対象となる社員など細かい規定も多いので、専門家である社会保険労務士にお願いするのもひとつのやり方です。
ぜひ、貴社にあった活用の仕方を検討していただければと思います。
大学卒業後、日本通運株式会社にて30年間勤続後、社会保険労務士として独立。えがお社労士オフィスおよび合同会社油原コンサルティングの代表。
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