離職理由は本来ある一定の事実に基づく以上、一義的に定まるものです。しかしながら、その事実について労使の認識が食い違い、結果として合意に至らないままなんとなく離職が成立した…ということが往々にして起こりえます。
特に離職が解雇による場合に比べ、退職勧奨による場合は、その程度や方法等によってその後の離職者との関係が大きく左右されます。無用なトラブルを避けるため、離職者の雇用保険上の利益を把握しましょう。
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離職票に記載する離職理由の内容によって、雇用保険の基本手当(失業手当)の金額が変動することはありませんが、給付日数は受給資格に係る離職の日における年齢や離職理由等によって、90~330日の間で変動します。
給付日数はいずれも就職困難者である場合を除く。
「離職理由等」とは、主に早期退職と退職勧奨にわけられます。それぞれの基本手当についてと、2つの差異については以下のとおりです。
早期退職とは、人員整理等の際、希望退職者の募集に応じて離職した人のことをいいます。特に常設型の制度に応募して退職した場合は、自ら希望して退職したものと見なされるため「特定理由離職者」としては扱われず、給付日数は最大で150日となります。
退職勧奨は会社都合によっての退職と見なされるため、不本意ながらそれに応じた場合「特定受給資格者」となり、給付日数も最大330日と長くなります。
早期退職と退職勧奨の差は非常に大きく、たとえば5年勤めた会社を退職する場合、特定理由離職者の扱いであれば、給付日数は90日です。しかし特定受給資格者としての扱いになれば、年齢による違いはあるものの同じ条件でも以下の給付期間となるのです。
特定理由離職者の年齢 | 失業手当の給付期間 |
---|---|
30歳未満 | 120日 |
30~44歳 | 180日 |
45~59歳 | 240日 |
60~64歳 | 180日 |
給付日数はいずれも就職困難者である場合を除く
上記のことから、離職票に記載する離職理由によって給付日数は大きく異なるため、離職後のトラブルにならないよう、上記の内容を使用者側が従業員にきちんと説明しておくべきでしょう。
退職勧奨は、もちろんそれ自体が違法な行為というわけではありません。しかし、以下の例をとって見てみると、その内容や手段によっては違法性を帯びてくるということはあります。
当時、公立学校の教員には定年退職こそないものの、市の教育委員会は慣習から、ある教員が57歳になった際に退職を求めました。しかし、教員はこれを拒否して、そのまま学校に残り続けたのです。
しかし、ここから市教育委員会は、教員に対して3ヶ月間で11度程の出頭要請をだし、20分~2時間15分にわたる執拗な退職勧奨を繰り返します。さらにその後も、この勧奨は退職するまで続ける旨の発言を繰り返す、講習期間中ですらも出頭要請を出す、職務には関係ないと思われるレポートや研究物の提出の命令、といった行為が何度も行われました。業を煮やした教員は、とうとう市を相手に裁判を起こします。
そして、高等裁判所・最高裁判所ともに、教員に対して慰謝料の支払いを市に命令しました。この退職勧奨が違法であると認められたのです。以上のように、長期間にわたって執拗に退職勧奨を行った場合は違法となってしまうことがあります。また、損害賠償請求の対象ともなり、企業としての信用性も大きく失ってしまうので、勧奨には慎重を期すべきでしょう。
整理解雇をおこなうこと自体は、違法ではありません。経営状態によっては、人員削減を行う必要も出てくるかと思います。
とはいえ、継続を希望する人に解雇通達を行う前に、希望退職者の募集や臨時社員の削減などの行うべきことを行っているでしょうか。この整理解雇においても違法性を帯びてくる場合があります。整理解雇の違法性を確認するべきポイントは以下の4点です。
また、被解雇者の選定基準に不当な理由がないかどうかなどにも気をつけなければなりません。基準が曖昧かつ合理性がない場合は、違法性を帯びてしまう可能性があります。労働組合や被解雇者との話し合いも、きちんと対応しましょう。
従業員が離職する場合、やはり互いに遺恨は持ちたくないものです。離職票に記載する離職理由によって基本手当の給付日数が変わることを周知させることはもちろん、退職勧奨や整理解雇を行う場合においても、違法性がないかどうかの確認はしっかりと行っておき、トラブルの種は作らないようにしましょう。
もちろん、なるべく離職者が出ないように、環境改善などに努めるということが大切です。
社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー 代表社会保険労務士:
楚山 和司(そやま かずし) 千葉県出身
株式会社日本保育サービス 入社・転籍
株式会社JPホールディングス<東証一部上場> 退職
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