この記事の結論
- 自己都合退職でも条件を満たせば失業保険を受給できる
- 自己都合退職の場合は失業保険を受給できるまでに、原則として2カ月の給付制限期間がある
- 失業保険の給付日数は、自己都合退職と会社都合退職で異なる
この記事の結論
雇用保険に加入していた方が退職した後、就職する意思があるにもかかわらず就職できない場合は、条件を満たすと失業保険(失業手当)を受け取れます。ではこの失業保険は、自己都合で会社を退職した場合でも受給できるのでしょうか。
本記事では、自己都合退職における失業保険の受給について、条件や給付のタイミング、計算方法などを詳しく解説します。
目次
失業保険は、自己都合退職でも条件を満たしていれば受け取ることが可能です。ただし、会社都合退職の場合とは条件が異なるため、事前に確認しておくことが大切です。
雇用保険における失業給付のうち、求職者給付に含まれる「基本手当」のことです。雇用保険の被保険者が、離職後の生活に経済的な不安を感じることなく次の仕事を見つけ、1日も早く再就職するために支給されます。
この記事では便宜上、基本手当を「失業保険」と表記します。
職を転々としている方でも、複数の職場における雇用保険の加入期間の合計が条件を満たしていれば、失業保険を受け取れる可能性があります。
失業保険をもらうためには、次の3つの条件を満たす必要があります。
失業状態とは、就職に対して積極的な意思があるうえに就業できる能力をもっているにもかかわらず、努力やハローワークによるサポートがあっても就職できていない状態のことです。
就職する気持ちがない・予定がない場合は失業状態とは言えないため、退職理由を問わず失業保険は受給できません。
そのほかにも、下記のようなケースは失業状態とは認められません。
就職の意思があるにもかかわらず、病気やけが、妊娠・出産、育児、家族の介護などの理由で働けないのであれば、失業保険の受給期間延長手続きをおこなうことで、働けるようになってから失業保険の給付を受けられる可能性があります。
失業保険を受給するには、一定期間の雇用保険の加入が必要です。退職理由によって必要な加入期間が異なります。
雇用保険の加入期間 | |
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会社都合の場合 | 退職日以前の1年間に6カ月以上 |
自己都合の場合 | 退職日以前の2年間に12カ月以上 |
失業保険の給付を受けることを目的に退職を繰り返す事態を防ぐために、自己都合退職の方が必要な加入期間が長く定められています。
失業状態にあり、雇用保険の加入期間が一定以上であっても、自動的に失業保険が給付されるわけではありません。就職に対して積極的な意思があることを証明するためにも、ハローワークに求職の申し込みをする必要があります。
ハローワークの求職申し込み手続きの流れ
また、自宅のPCからハローワークインターネットサービスを通じてアカウントを登録し、求職情報を入力してマイページを開設することによっても、求職の申し込みが可能です。
自己都合退職の場合、失業保険の給付が始まるタイミングが会社都合退職よりも遅いです。
失業保険の給付のタイミング | |
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会社都合退職の場合 | 離職表をハローワークに持参して求職の申し込みをおこなうと、7日間の待機期間を経て給付が開始されます |
自己都合退職の場合 | 7日の待機期間に加えて原則2カ月の給付制限期間が設けられています |
従来では、自己都合退職の給付制限期間は3カ月でしたが、2020年10月1日に施行された失業等給付の制度改正に伴い、5年で2回までの離職では給付制限期間が2カ月になりました。なお3回目以降の離職では、給付制限期間が2カ月ではなく3カ月と長くなることに注意が必要です。
自己都合退職の場合でも、以下のケースでは失業保険をすぐにもらえる可能性があります。
それぞれのケースについて、詳しく見ていきましょう。
ハローワークに「特定理由離職者」の認定を受けると、2~3カ月の給付制限期間を待たずに失業保険を受給できます。
従来から存在する制度等一定の要件を満たす場合は特定理由離職者に該当しないケースがある
ただし、特定理由離職者になるかどうかはハローワークが判断するため、まずは相談しましょう。
職業訓練を受講すると、自己都合退職による2~3カ月の給付制限期間が訓練開始日前日で解除されるため、失業保険を受給できます。
職業訓練とは、再就職に必要な知識やスキルを習得するために受ける訓練のことです。訓練機関は3カ月~2年程度です。
また、失業保険の所定給付日数が終了した後も、ハローワークから認められることで訓練終了まで支給が延長されます。ただし、職業訓練をおこなう必要があることをハローワークが認めたうえで、入校選考を通過する必要があります。
自己都合退職の場合、失業保険の給付額は以下の手順で計算します。
賃金日額は下限額が2,746円で、上限額が以下のように定められています。
賃金日額の上限額 | |
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29歳以下 | 13,890円 |
30~44歳 | 15,430円 |
45~59歳 | 16,980円 |
60~64歳 | 16,210円 |
基本手当日額の給付率は、年齢と賃金日額に応じて45~80%の範囲で定められています。基準は変更される可能性があるため、正しい給付額を知りたい場合はハローワークの窓口に問い合わせましょう。
また、基本手当日額にも上限額と下限額が定められています。下限額は2,196円で、上限額は以下のとおりです。
基本手当日額の上限額 | |
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29歳以下 | 6,945円 |
30~44歳 | 7,715円 |
45~59歳 | 8,490円 |
60~64歳 | 7,294円 |
失業保険の手続きは、次の流れでおこないます。
失業保険の手続きの流れ
自己都合退職の場合は、2~3カ月の給付制限期間が経過した後の認定日から支給されます。また、失業保険の給付を継続的に受けるためには、退職理由を問わず4週間ごとにハローワークで失業認定を受ける必要があります。
失業認定を受けるためには求職活動をおこなっていることを証明しなければなりません。たとえば、ハローワークによる職業相談、職業紹介を受ける、セミナーを受講する、再就職に関わる国家試験や検定の受検などがあります。
ハローワークによって事実確認がおこなわれる場合もあるため、虚偽の申告には十分に注意しましょう。
失業保険の手続きには、次の必要書類が必要です。
雇用保険被保険者離職票-1・2と雇用保険被保険者証は、退職後に会社から送付されるか手渡されます。
自己都合退職の場合、7日間の待機期間に加えて、2~3カ月の給付制限期間があります。給付制限期間中にアルバイトなどをおこなう場合は、報酬の有無に関係なく実施した日を失業認定申告書に記載します。
給付制限期間中に週の所定労働時間が20時間以上で、なおかつ31日以上の雇用が見込まれる労働をおこなった場合は就職扱いとなります。失業保険の受給ができなくなる代わりに、再就職手当が支給される可能性があります。
すぐに就職すると失業保険を受け取れないため、損をするイメージをもつ方もいるでしょう。しかし失業保険の受給資格をもつ方が早期に再就職した場合は、ハローワークに申請することで再就職手当を受け取れる可能性があります。
再就職手当は就職までの期間が短くなればなるほど、給付率が高くなる仕組みです。失業保険同様、受給するには一定の条件を満たさなければいけません。
自己都合退職の場合、失業保険を受給するまでには7日間の待機期間に加えて2~3カ月の給付制限期間があります。すぐに失業保険を受給できないことで生活に困窮する可能性があるため、なるべく預貯金がある状態で退職することが大切です。
今回解説した内容を参考に、自己都合退職の際の失業保険について理解し、適切な手順で手続きをおこないましょう。
1984年生まれ。社会保険労務士。
都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談(病院側・労働者側双方)や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名以上。独立後は年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。
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