この記事でわかること
- 社会保険(健康保険)の扶養に入れる対象者と扶養条件
- 社会保険の扶養に入る手続き方法・必要書類
- 扶養条件を確認する際の注意点
社会保険には「扶養制度」があります。自身の収入で生計を立てられない方は家族や親族などが加入する社会保険の扶養に入った方が、手取り金額が増えるなどのメリットがあるかもしれません。
しかし扶養に入るためには、扶養に入れる対象者であること、かつ収入などの扶養条件を満たしていなければいけません。
そこでこの記事では、多くの会社員が加入する協会けんぽの社会保険ではどのような方が扶養に入れるのか、詳しい扶養条件を解説します。
この記事でわかること
大学卒業後、日本通運株式会社にて30年間勤続後、社会保険労務士として独立。えがお社労士オフィスおよび合同会社油原コンサルティングの代表。
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目次
会社員や一定の条件を満たすパートタイム・アルバイトも加入する社会保険(健康保険)には、扶養制度があります。皆さんも「扶養に入る」という言葉を聞いたことはないでしょうか?
社会保険における扶養とは、上記のような家族・親族に代わり健康保険と厚生年金に加入することを言います。
「扶養者」とは社会保険の被保険者であり扶養する側のことを、「被扶養者」とは経済的援助を必要とする家族や親族のことを言います。なおこの扶養制度は、社会保険に加入しない方が加入する国民健康保険にはありません。
”経済的な援助”を具体的に言うと、社会保険(健康保険)の扶養に入ると被扶養者は、健康保険を含む厚生年金などの社会保険料の支払いが免除されます。
そのため、被扶養者は手取り金額が多くなります。しかし反対に、社会保険の扶養から外れることで、
などのメリットもありますが、健康保険だけに絞れば納めた社会保険料に関係なく、充実した医療サービスを受けられます。
たとえば、妻は夫が加入する社会保険の扶養に入り手取り金額を増やすことで、子供の教育資金や老後資金の蓄えに回すという考えもアリでしょう。
社会保険の扶養に入るメリット
社会保険の扶養に入るデメリットは、厚生年金加入者に比べて年金受給額が少なくなることが挙げられます。扶養に入ることで「第3号被保険者」の扱いとなり、受け取れる年金が国民年金のみとなるためです。
第3号被保険者とは、第2号被保険者(厚生年金や共済組合などに加入する会社員・公務員)に扶養され、年収130万円未満かつ20歳以上60歳未満の配偶者を指します。
扶養に入らず自身が所属する企業で社会保険に加入すれば厚生年金を受け取れるため、将来の年金受給額を増やせます。
また、扶養に入るためには「年収130万円未満」などの条件を満たす必要があり、収入管理の手間が生まれることもデメリットです。
社会保険の扶養に入るデメリット
正社員だけでなく、近年では多くのパートタイム・アルバイト従業員も加入する社会保険(健康保険)には、
の2種類があります。この記事では利用している人が多い「協会けんぽ」を例に解説していきましょう。協会けんぽの被扶養者(扶養に入れる方)の範囲を図で表すと、以下のとおりです。
ただし上記の範囲内でも、
と「被保険者と同居しているか」で、被扶養者として認められる範囲が変わるため注意しましょう。
同一の世帯 でなくても 扶養に入れる方 |
・被保険者の直系尊属、配偶者、子、孫、弟妹、兄姉 配偶者は事実上婚姻関係にある人も含む ・被保険者に生計を維持されている方 |
---|---|
同一の世帯でないと 扶養に入れない方 |
・被保険者の3親等以内の親族(叔父、叔母) ・事実上婚姻関係にある人の父母および子 |
同一の世帯とは被保険者と同居しており、家計を共にしている状態の家族を指します。同一の世帯でなくても被扶養者になれる配偶者は、戸籍上の婚姻届を提出していない人、つまり事実上婚姻関係と同様の人も含まれます。
しかし、被保険者の配偶者で戸籍上婚姻の届出はしておらず、事実上婚姻関係と同様の人の父母および子は、同一世帯でなければ扶養の対象となりません。
社会保険の扶養に入るための前提条件として、主に被保険者(社会保険の加入者)に生計を維持されていることが必要です。
被保険者との関係 | 扶養に入れる方の条件 |
---|---|
同一世帯に属している | ・年収が130万円未満 ・かつ扶養者の年収の2分の1未満 |
同一世帯に属していない | ・年収が130万円未満 ・かつ扶養者からの援助による収入額より少ないこと |
なお、75歳以上の方は後期高齢者医療制度の被保険者となり被扶養者にはなれないため、ご注意ください。
以下の条件に当てはまる方は、年収180万円未満まで扶養に入れる条件が引き下げられます。
ただし、被保険者と同一世帯の場合は「被保険者の年収の2分の1未満」、同一世帯でない場合は「被保険者からの援助による収入額より少ない」の条件を満たす必要があります。
収入が扶養となる要件を超えてしまい、社会保険(健康保険)の扶養に入れない場合、ご自身が収入を得ている会社の社会保険に加入しなくてはなりません。
社会保険に加入後は、対象者の給与から社会保険料の自己負担分が差し引かれます。社会保険の加入手続き方法については『社会保険の加入手続きの流れと必要書類』の記事を参考にしてください。
なお、健康保険に入っていない事業者(個人事業主など)のもとで働いている場合、市区町村が窓口となる「国民健康保険」に加入することとなります。住所を届けている自治体で、国民健康保険の加入手続きをおこないましょう。
女性の社会進出や働き方改革を促す社会的背景から被扶養者の要件が緩和され、年収130万円未満までが被扶養者の対象となりました。
しかし被扶養者になるための年収計算を間違い、被扶養者として認められないケースも見受けられます。そこで年収計算に関しては、以下のポイントに気をつけましょう。
被扶養者の年収計算の対象は、被扶養者となる人の年間収入の合計ではなく、扶養に入る月の直近3カ月の給与の平均の12倍が被扶養者の年収となります。
扶養条件には、以下のように「含まれる収入」と「含まれない収入」があるため、注意が必要です(以下は一例)。
扶養条件に 含まれる収入 |
・給与収入:給与、ボーナスなど ・年金:厚生年金、国民年金、遺族年金など ・事業収入 ・不動産収入:物件や駐車場などの賃貸収入 ・利子・投資収入:国債の利子や株式配当など ・生活費や養育費といった仕送り ・雇用保険健保給付金:失業給付や傷病手当など |
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扶養条件に 含まれない収入 |
・出産一時金など、継続しない一時的な収入 |
基本的には、継続して得られる収入が扶養条件に含まれる収入です。企業に勤めてもらえる給与などはもちろん、失業給付や傷病手当金などの保険給付も継続的な収入として扱われます。
一方で、出産一時金や退職金などの継続しない一時的な収入は、扶養条件の収入として含まれません。
今年は年収130万円以上だったから、社会保険の扶養対象者に入れないわけではありません。
勤め先を退職して扶養に入る場合は、扶養に入ってからは収入0円と扱われるため、過去の収入を申告しなくても済みます。しかしこの場合、会社の退職証明書と雇用保険の離職票の提出が必要です。
社会保険の扶養に入るタイミングと、扶養から外れるタイミングの具体例は、以下表のとおりです。
扶養に入る タイミングの例 |
扶養から外れる タイミングの例 |
---|---|
・被保険者が結婚する ・扶養対象者の雇用保険受給が終了する |
・被扶養者が死亡した ・被扶養者の年間収入が130万円を超える ・被扶養者が75歳以上で後期高齢者保険に加入する ・被扶養者が雇用保険を受給する |
など、いずれの場合も上記事実が発生した日から5日以内に扶養に入る・扶養から外れる手続きをおこなう必要があります。
被保険者に被扶養者がいる場合、その事実発生から5日以内に被保険者から「被扶養者(異動)届」を受けとって、日本年金機構に提出します。被扶養者(異動)届だけではなく、収入要件を確認するための書類も必要です。
被保険者と別性の被扶養者の存在や同居の必要がある被扶養者がいる場合、
が必要です。被扶養者の状況によって必要な書類に違いがあるため、連絡を受けた時点でどのような被扶養者か事前に確認をした上で、必要書類を伝えるようにしましょう。
扶養手続きにおける提出書類
提出先は日本年金機構の事務センター(事業所の所在地を管轄する年金事務所)で、郵送・電子申請・窓口持参での提出となります。提出書類は、日本年金機構の公式サイトから入手できます。
被扶養者が増えた場合、手続きでは以下の点に注意しましょう。
被扶養者が増えた場合の手続きの注意点
被扶養者が増えた場合は、その事実が発生した日から5日以内に手続きを済ませる必要があるため、早めに手続きしましょう。
また、協会けんぽ以外の健康保険の被保険者である場合は、被扶養者の手続きとして日本年金機構に提出する書類は「国民年金第3号関係者届」のみであるため注意が必要です。
社会保険(健康保険)の扶養から外れる場合、以下2つの手続きが必要です。
手続き内容 | |
---|---|
企業側 | 扶養から外れる人の保険証と健康保険被扶養者異動届を提出する |
扶養から外れる人 | 別途保険に加入する |
企業側は、扶養から外れる人の保険証と健康保険被扶養者異動届を預かり、日本年金機構に提出する必要があります。この異動届も、扶養が外れる事実が発生した日から5日以内に提出しなければなりません。
2022年10月より法改正で、以下のように社会保険の適用範囲が拡大となりました。
2022年9月30日まで | 2022年10月1日以降 | |
---|---|---|
従業員数 | 501名以上 | 101名以上 |
労働時間 | 週20時間以上 | |
月額賃金 | 月額88,000円以上 | |
勤務期間 | 1年以上の見込みがある | 2カ月を超える見込みがある |
適用範囲外 | 学生 |
また2024年10月以降は、従業員数が「51人以上」まで適用範囲が拡大される予定です。
企業は社会保険の適用範囲拡大に際し、以下における対応をおこなう必要があります。
企業が取るべき対応
特に新たに適用範囲に該当し社会保険に加入する従業員は、社会保険の支払いが発生するため事前の説明がないとトラブルになる可能性があります。自社の従業員数や新規加入対象者を早急に確認し、速やかに加入対象者への説明と加入手続きを進めましょう。
社会保険(健康保険)の被扶養者は、被保険者との関係によって条件が異なります。
また、被保険者と被扶養者の関係に合わせて、届出書の添付書類にも違いがあるため、労務担当者は社会保険の扶養者追加を希望する社員の世帯状況を把握した上で、適切な手続きを進めましょう。
労務担当者は被扶養者の年間収入の計算方法が異なる旨や、被扶養者を加えることのメリットとデメリットを、併せて説明してあげましょう。