この記事でわかること
- 社会保険(健康保険)の被扶養者に関する基礎知識
- 労務担当者としての作業量
- 社会保険手続きの業務効率化について
家族を社会保険(健康保険)の扶養に入れた場合、従業員は手取り金額が増えるなどのメリットがあります。
しかし、扶養家族を持つ従業員がいる場合、労務手続きも煩雑となります。
今回はそういった場合の労務手続きについてわかりやすく解説していきます。
この記事でわかること
油原 信・えがお社労士オフィス 代表 特定社会保険労務士
https://m21yuhara.wixsite.com/mysite
大学卒業後、日本通運株式会社にて30年間勤続後、社会保険労務士として独立
目次
社会保険の健康保険には、企業が設立する「健康保険組合」と「協会けんぽ」の2種類があります。
今回は利用している人が多い「協会けんぽ」を例に解説していきます。
健康保険においては、労働者である被保険者だけではなく、被保険者の被扶養者も病気や怪我、そして死亡や出産などで保険給付を受けられます。
被扶養者には、「同一の世帯」でなくても対象となる被扶養者と、「同一の世帯」でないと対象とならない被扶養者の2種類があります。
「同一の世帯」とは、被保険者と同居しており、家計を共にしている状態の家族を指します。一方で、同一の世帯でなくても被扶養者になれる対象者は、被保険者の直系尊属、配偶者、子、孫、弟妹、兄姉であり、被保険者に生計を維持されている人が対象となります。
なお、配偶者は戸籍上の婚姻届を提出していない人、つまり、事実上婚姻関係と同様の人も含まれます。
しかし、前述に該当しない被保険者の三親等以内の親族、被保険者の配偶者で戸籍上婚姻の届出はしていないが、事実上婚姻関係と同様の人の父母および子の場合は、同一世帯でなければ、対象になりません。
社会保険(健康保険)の扶養に入ると、労働者の手取り金額が多くなります。
扶養から外れた場合、健康保険を含む厚生年金などの社会保険料が差し引かれるため、必然的に手取り金額が減ってしまいます。また、収入が多いほど、社会保険料の負担も増えます。
しかし、社会保険の扶養から外れることで、将来に受け取れる年金額が増える、社会保険料を事業主が折半してくれるなどのメリットもありますが、健康保険だけに絞れば、収めた社会保険料(健康保険料)に関係なく、充実した医療サービスが受けられます。
扶養に入り、手取り金額を増やすことで、子供の教育資金や老後資金の蓄えに回すという考え方もおすすめです。
社会保険(健康保険)の扶養メリット
被保険者の被扶養者になるための前提条件として、「主に被保険者に生計を維持されている」ことが必要です。
年収が130万円未満(対象者が60歳以上もしくは障害厚生年金を受けている障害者の場合は180万円未満)であり、なおかつ被保険者の年収の2分の1未満であることが被扶養者の収入要件となります。
年収が130万円未満(対象者が60歳以上もしくは障害厚生年金を受けている障害者の場合は180万円未満)であり、被保険者からの援助による収入額より少ないことが被保険者の要件となります。
被扶養者には、厳密に年収制限が定められています。
しかし、被保険者と同一世帯に属しており、「被扶養者の収入が被保険者の収入の半分以上あった場合、被保険者の年間収入を上回らない、かつ、被保険者がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしている」と日本年金機構が認めた場合、被扶養者となることがあります。
※その世帯の生計の状況を総合的に判断した結果
女性の社会進出や働き方改革を促す社会的背景から、被扶養者の要件が緩和され、年収130万円未満までが被扶養者の対象となりました。
しかし、被扶養者になるための年収計算を間違い、被扶養者として認められないケースも見受けられます。そこで、年収計算に関しては、以下のポイントに気をつけましょう。
被扶養者の年収計算の対象は、被扶養者となる人の年間収入の合計ではなく、扶養に入る月の直近3カ月の給与の平均の12倍が被扶養者の年収となります。
失業給付や傷病手当金は、非課税の収入となりますが、被扶養者の要件としては、収入扱いとなるため、年間収入の一部と考えなければいけません。
今年は年収130万円以上だったから、社会保険の扶養対象者に入れないわけではありません。
勤め先を退職して、扶養に入る場合は、扶養に入ってからは収入0円と扱われるため、過去の収入を申告しなくても済みます。しかし、この場合、会社の退職証明書と雇用保険の離職票の提出が必要です。
被扶養者の収入が扶養となる要件を超えてしまい、健康保険の被扶養者になれない場合、収入を得ている会社の健康保険にご自身が加入しなくてはなりません。
健康保険に加入後は、対象者の給与から社会保険料の自己負担分が差し引かれます。健康保険に入っていない事業者(個人事業主など)の下で働いている場合、市区町村が窓口となる「国民健康保険」に加入することになります。
住所を届けている自治体で、国民健康保険の加入手続きをおこないましょう。
また、75歳以上の方は後期高齢者医療制度の被保険者となり、被扶養者にはなれませんのでご注意ください。
被保険者に被扶養者が発生した場合の手続き方法を解説します。
被保険者に被扶養者がいる場合、その事実発生から5日以内に被保険者から「被扶養者(異動)届」を受けとって、日本年金機構に提出します。
「被扶養者(異動)届」だけではなく、収入要件を確認するための書類も必要です。ただし、所得税法上の規定による控除対象配偶者や扶養親族となっている場合は、事業主の証明があれば、添付書類は不要です。
被保険者と別性の被扶養者の存在や同居の必要がある被扶養者がいる場合、同居確認のための書類と、内縁関係を確認するための書類(内縁関係にあたる場合)が必要です。
被扶養者の状況によって、必要な書類に違いがあるので、連絡を受けた時点で、どのような被扶養者か事前に確認をした上で、必要書類を伝えるようにしましょう。
提出書類
提出先は日本年金機構の事務センター(事業所の所在地を管轄する年金事務所)、郵送・電子申請・窓口持参での提出となります。
提出書類は以下から入手できます。
社会保険(健康保険)の被扶養者は、被保険者との関係によって、条件が異なります。
また、被保険者と被扶養者の関係に合わせて、届出書の添付書類にも違いがあるため、労務担当者は社会保険の扶養者追加を希望する社員の世帯状況を把握した上で、適切な手続きを進めましょう。
労務担当者は被扶養者の年間収入の計算方法が異なる旨や、被扶養者を加えることのメリットとデメリットを、併せて説明してあげましょう。