2024年10月から社会保険の適用範囲が拡大され、従業員数51人以上の企業に勤める特定の条件を満たしたパートタイム・アルバイト従業員は、社会保険の加入対象となる予定です。
人事・労務担当者はこの適用範囲拡大に伴い、社内の社会保険加入対象者を再確認し、新たな加入対象者がいる場合は社会保険の加入手続きをおこなわなければいけません。
この記事では、社会保険の加入手続き方法と必要書類を解説していきます。
大学卒業後、鉄鋼関連の企業に総合職として就職し、その後医療機関人事労務部門に転職。 約13年間人事労務部門で従業員約800名、新規採用者1,000名、退職者600名の労務、社会保険の相談対応にあたる。 社労士資格取得後にみのだ社会保険労務士事務所を開設し、独立。
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社会保険とは、国民の生活を保障するために設けられた公的な保険制度のことを指します。具体的には病気やけが、または高齢化や失業などの保険事故によって発生する経済的困難などを支援する目的として設けられています。
また、正確に言えば社会保険は社会保障制度のひとつとして存在しています。ほかには公的扶助や社会福祉、保険医療/公衆衛生などが社会保障制度に含まれており、それぞれが国民のセーフティネットとして機能しています。
社会保険には以下5つの種類があり、被保険者は保険事故などの状況に応じてそれぞれ保険給付などを利用することができます。
会社員であれば社会保険に加入しているため、どんな保険内容があるのか理解しておくと利用する際にもスムーズに対応できるでしょう。そもそも給付金など受け取れることを知らないままいる方も多いため、必ずチェックしておきましょう。
先ほど紹介した、会社が加入する5つの保険制度を総称して「社会保険」と呼びますが、これには
の2パターンがあります。
そのため一口に「社会保険」といっても、労働保険(労災保険・雇用保険)を含むケースや含まないケースがあることを覚えておきましょう。
社会保険には種類があり、それぞれ加入手続きが必要です。ここでは、各種社会保険への加入タイミングと手続き・必要書類について解説していきます。
新規会社設立をして法人登記まで終われば、社会保険のなかでも「健康保険・厚生年金保険への加入手続き」をする必要があります。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する際は、強制適用事業所は会社設立から5日以内、任意適用事業所は従業員の半数以上の同意を得た後に、以下の必要届出と添付書類を日本年金機構へ提出しなければなりません。
強制適用事業所 | 任意適用事業所 | |
---|---|---|
加入タイミング | 会社設立時 | |
提出期限 | 会社設立から5日以内 | 従業員の半数以上の同意を得たあと |
必要な届出 | 健康保険・厚生年金保険 新規適用届 | 健康保険・厚生年金保険 任意適用申請書・同意書 |
添付書類 | 法人(商業)登記簿謄本※コピー不可 法人番号指定通知書等のコピー 事業主の世帯全員の住民票※コピー不可 |
|
提出先 | 日本年金機構 | |
提出方法 | 窓口持参/郵送/電子申請 |
各種申請書類は、日本年金機構のWebサイトよりダウンロードが可能です。記入例を記したExcelファイルも入手できます。また「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を提出する際は、以下の書類を添付しなければいけません。
健康保険・厚生年金保険 新規適用届の添付書類 | |
---|---|
法人事業所 | 法人(商業)登記簿謄本 ※コピー不可 |
事業主が 国・地方公共団体 または法人 |
法人番号指定通知書等のコピー |
強制適用となる 個人事業所 |
事業主の世帯全員の住民票 ※コピー不可、個人番号の記載がないもの |
申請書類の提出方法は、各都道府県の事務センター、または所在地を管轄する年金事務所に郵送・窓口持参・電子申請のいずれかが可能です。
従業員を新たに採用した場合、その従業員が社会保険の加入条件を満たしていれば、原則社会保険に加入しなければなりません。
事業所は雇用した従業員の被保険者資格を取得するために「被保険者資格取得届」を提出します。事業主は加入対象従業員を雇用してから5日以内に、新たに必要届出を事務センターまたは日本年金事務所に提出しましょう。
加入タイミング | 従業員の採用事 |
---|---|
提出期限 | 事実発生から5日以内 |
必要な届出 | 被保険者資格取得届 |
提出先 | 事務センター または管轄の年金事務所 |
提出方法 | 窓口持参 郵送 電子申請 |
被保険者資格取得届を作成する際には、基礎年金番号通知書(年金手帳)またはマイナンバーカードが必要となるため忘れずに準備しましょう。
なお、社会保険加入手続きでは従業員の状況に応じてそれぞれ申請書の様式が異なり、法改正や特例がある場合はその都度様式が変更されるため注意をしましょう。
被保険者資格取得届の提出によって手続きが完了すると、従業員は正式に事業所の被保険者となります。ただし、この被保険者となった従業員に扶養家族がいる場合には別途手続きが必要です。
新入社員に扶養家族がいる場合「被扶養者(異動)届」を被保険者が事業主を通して提出しましょう。被扶養者(異動)届の提出期限は特に設けられてはおらず、事実が発生した時点で、その都度提出します。
提出先と提出方法に関しては前項の「被保険者資格取得届」と同様です。
新たに雇用した従業員に扶養配偶者がいる場合も、別途の手続きが必要です。新入社員に扶養配偶者がいる場合、被保険者が事業主を通して、被扶養者(異動)届に加えて「国民年金第3号被保険者該当(種別変更)届」を提出します。
配偶者が被扶養者になるためには、被保険者により主として生計を維持されていることと、次の要件を満たす必要があります。
提出期限は、雇用の事実の発生から5日以内です。書類の提出先と提出方法は、上記と同様です。
従業員を雇用したとき初めて雇用保険適用事務所となり、労働保険(雇用保険・労災保険)に加入する必要があります。
労働保険は、雇用保険料と労災保険料を一元管理する「一元適用事業所」か、区別して扱う「二元適用事業所※」とで分かれおり、それぞれ手続きや提出先が異なります。
一元適用事業所とは、労災保険と雇用保険について、その保険料の申告と納税を一元的に扱う事業所のことを指します。一元適用事業所が労働保険に加入する際の各種必要な届出などをまとめました。
必要な届出 | 提出期限 | 提出先 |
---|---|---|
保険関係成立届 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内 | 所轄の労働基準監督署 |
概算保険料申告書 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内 | 所轄の労働基準監督署 所轄の都道府県労働局 日本銀行※ 上記3つのいずれか |
雇用保険適用事業所設置届 | 設置の日の翌日から10日以内 | 所轄の公共職業安定所 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 資格取得の事実があった日の翌月10日まで | 所轄の公共職業安定所 |
流れとしては、労働保険の適用事業所となった場合にまず「保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署へ提出します。その後または同時に「概算保険料申告書」を提出し、その年の保険料※を概算で申告・納税します。
その後に「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」を所轄の公共職業安定所に提出するという流れです。
保険関係が成立した日からその年度の末日までに労働者に支払う賃金の総額の見込額に保険料率を乗じて得た額
事業所のなかでも、農林漁業や建設業などをおこなう事業所は労災保険と雇用保険の保険料を別々で申告・納税する二元適用事業所に該当します。
二元適用事業所は、一元適用事業所と提出する書類などは変わりがありませんが、労災保険と雇用保険でそれぞれの手続きをしなければなりません。労災保険の加入手続きは、以下のとおりです。
必要な届出 | 提出期限 | 提出先 |
---|---|---|
保険関係成立届 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内 | 所轄の労働基準監督署 |
概算保険料申告書 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内 | 所轄の労働基準監督署 所轄の都道府県労働局 日本銀行※ 上記3つのいずれか |
対して事業所が雇用保険に加入する際の手続きは、以下のとおりです。
必要な届出 | 提出期限 | 提出先 |
---|---|---|
保険関係成立届 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内 | 所轄の公共職業安定所 |
概算保険料申告書 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内 | 所轄の都道府県労働局 日本銀行※ 上記2つのいずれか |
雇用保険適用事業所設置届 | 設置の日の翌日から10日以内 | 所轄の公共職業安定所 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 資格取得の事実があった日の翌月10日まで | 所轄の公共職業安定所 |
一元適用事業所と異なるポイントは「保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署と公共職業安定所それぞれに提出しなければならないというところです。
また「概算保険料申告書」については所轄の都道府県労働局であれば労災保険・雇用保険をまとめて提出することができます。ただしその場合は、必ず双方の保険関係成立届」を提出してからとなります。
代理店や歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店または支店、郵便局)でも可能です。
従業員が雇用保険に加入するためには「雇用保険被保険者資格取得届」もしくは「雇用保険被保険者資格取得届(連記式)※」を事業所のある場所を管轄している公共職業安定所(以下、ハローワーク)に提出します。
新規に同一日で被保険者番号を複数取得し、一定規模の被保険者資格を取得する場合
これまでの書類と異なり、提出先がハローワークとなっている点に注意をしましょう。提出期限は、雇用した日の属する月の翌月10日までです。被保険者資格取得届に比べて、期限に余裕があります。
提出期限を過ぎてしまった場合や、事業主として初めて資格取得をおこなう場合は、雇用保険被保険者資格取得届のほかに従業員名簿やタイムカードなど、当該従業員を雇用していることがわかる書類を一緒に提出しなければなりません。
契約社員をはじめ有期雇用の従業員には、労働条件がわかる就業規則や雇用契約書等の提出が必要です。
従業員が社会保険に未加入のままであった場合でも、2年間までさかのぼって加入することが可能です。事業側と従業員側はそれぞれ以下の必要書類を準備し、所轄の年金事務所で手続きをおこないます。
企業側 | ・健康保険・厚生年金保険 新規適用届 ・法人登記簿謄本(コピーは不可) |
---|---|
従業員側 | ・被保険者資格取得書 ・基礎年金番号が記載されている書類 ・勤務時間や賃金が確認できる書類 |
本来は加入義務のあるものであるため、長いこと放置していると罰則・罰金が科せられるリスクがあります。従業員の未加入が発覚した時点で、すぐに加入手続きをおこないましょう。
従業員が社会保険の加入対象者かどうかの判断は「社会保険の加入条件を徹底解説!2024年の変更点や手続き方法を紹介」の記事で、最新の社会保険の加入条件を確認してください。
社会保険の加入義務がある従業員の未加入が発覚した場合、年金事務所の立入捜査などが実施されることがあります。また保険料に対する虚偽の申告など、悪質な違反をした事業所に対しては「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されます。ほかにも、
など社会保険未加入(未納)によるリスクは大きなものです。社会保険の加入漏れ(滞納)がないよう、日頃から加入対象従業員の確認・把握を怠らないようにしましょう。
社会保険は従業員の健康や将来の生活を守るために必要不可欠、かつ条件によっては事業主の義務となります。そのため、事業主は社会保険の加入条件を十分に理解しておかなければなりません。
万が一、各種社会保険について未加入であるものがある場合は罰金や追徴金などを課されることもあるため、加入発生のタイミングや手続きについてはよく理解しておいてください。
本記事を参考に従業員と事業主(担当者)はそれぞれ必要な書類などをよく確認して、速やかに適切な手続きができるようにしておきましょう。