多様な働き方を求めるニーズが広がり、企業としては従業員のニーズに応える必要があります。平成29年4月から従業員数が500人以下の会社で週20時間以上働く短時間労働者であれば、労使で合意することにより社会保険に加入できるようになりました。年金や医療の給付を充実させることは、企業の魅力を増加させることにつながります。適用拡大と導入メリットについて確認し、従業員のニーズに応えることも大切です。
かじ社会保険労務士事務所 所長 特定社会保険労務士
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大学卒業後、地方銀行に勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務の経験あり。
在籍中に1級ファイナンシャル・プランニング技能士及び特定社会保険労務士を取得し、退職後、かじ社会保険労務士事務所として独立。
平成29年4月1日から、厚生年金保険・健康保険の加入対象が拡大しています。もともと従業員が500人以下の会社については、短時間労働者は厚生年金保険・健康保険に加入することができませんでした。
しかし、この改正により、労使で合意すれば、従業員数が500人以下の会社で週20時間以上働く短時間労働者であれば加入できるようになっています。
拡大されることによって適用される加入の条件は、次のすべてを満たす必要があります。
従業員が500人以下の場合に、前提となる必要条件である「労使合意」はどのようなものでしょうか?労使合意とは、労働条件や福利厚生について、労働者と事業主の間で交わされる取り決め事項のことをいい、働いている従業員の2分の1以上と事業主の合意によって成立します。
ここで明記されている「働いている従業員」とは、厚生年金保険の被保険者、70歳以上の被用者、そして、前述の要件を満たす短時間労働者のことをいいます。
もし、これらの従業員の過半数で組織する労働組合がある場合は、労働組合の同意が必要です。労働組合がない場合は、同意対象者の過半数を代表する者の同意、もしくは同意対象者の2分の1以上の同意が必要です。
そして、法人の場合は企業単位で同意と申し出をすればいいのですが、個人事業である場合は、社会保険の適用事業所単位で同意と申し出が必要になりますので、確認を怠らないようにしましょう。
なお、週の所定労働時間が20時間未満の従業員は、そもそもの拡大対象ではないので、同意対象者には含まれません。また、労働基準法第41条2号に規定されている監督又は管理の地位にある者は、従業員というよりも経営者と一体的な立場になるため、同意対象者の過半数を代表する者にはなれないので注意が必要です。
厚生年金保険・健康保険に加入することは、労働者に次のようなメリットがあります。
パート・アルバイトの従業員の場合、厚生年金保険・健康保険に加入することで、給料からそれぞれの保険料が控除されて、手取り給料が減少し、加入を嫌がる人も存在します。しかし、将来もらえる年金額の増加や手厚い給付などを加味すると、保険料控除があったとしても、厚生年金保険・健康保険に加入したいという短時間労働者は少なくありません。
労使合意を進める際には、これらの短時間労働者間での対立も生まれやすいです。全員が賛成の場合は、特に問題もなく進められますが、反対意見の短時間労働者がいる場合は、同意に理解してもらえるようなフォローも必要でしょう。
短時間労働者が厚生年金保険・健康保険に加入することで、会社側の負担は大きくなります。そのため、経営者の中には、加入に対して積極的ではないことも少なくありません。しかし、昨今は人材不足などで困っている企業は多いです。
短時間労働者であっても、有能な人材は非常に多く存在しています。130万円を超える収入がある場合は配偶者の被扶養者にもなれず、国民健康保険や国民年金に加入していると負担は非常に大きいものです。そんなときに、同業他社が厚生年金保険・健康保険加入のを提示してくれば、そちらに人材が流出してしまう恐れがあります。
また、短時間労働者の福利厚生を充実させることで、従業員の労働意欲を向上させる効果が期待できます。多少の費用はかかりますが、結果として会社全体の労働生産性の増進につながりうるものです。このように、厚生年金保険・健康保険の加入対象の拡大は、企業にとっても大きなメリットがあります。
厚生年金保険・健康保険は、従業員数が500人以下の会社であっても、労使合意の上で短時間労働者の加入ができるようになります。給与からの社会保険料控除が発生してしまうものの、将来もらえる年金の増額や手厚い給付を受けられるようになるでしょう。
また、会社側としても従業員のやる気や労働生産性のなどを図ることができます。積極的に社会保険の適用拡大について検討してみてはいかがでしょうか?