平成28年から平成29年にかけて、パート社員における厚生年金・健康保険の適用が順次拡大されました。平成28年10月には501人以上の企業に対して、平成29年10月には500人以下の企業に対して適用が進められています。
今回はこの2度にわたる法改正の内容をもう一度おさらいをしておきましょう。適用拡大に伴う変化に対する調査についても解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
油原 信・えがお社労士オフィス 代表 特定社会保険労務士
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大学卒業後、日本通運株式会社にて30年間勤続後、社会保険労務士として独立
目次
厚生年金保険・健康保険の適用拡大の第一段階である平成28年10月の改正内容をまずは見ていきましょう。
勤務先が特定適用事業所に指定されていて要件すべてに当てはまれば、これまで対象外だった短期労働者も、厚生年金保険・健康保険の適用が受けられるようになります。
この適用拡大により、年収130万円未満でこれまで配偶者の社会保険の被扶養者(第3号被保険者)になっていたパート社員も、配偶者の社会保険の被扶養者とはならず、ご自身で厚生年金保険・健康保険に加入することになります。
平成29年4月の改正では、短時間労働者の条件はほぼ変わらず、適用される事業所の条件が拡大しました。こちらも、改正内容をまとめます。
500人以下の企業は、労使の合意に基づいて厚生年金保険・健康保険の適用拡大をするという申出の手続きが必要です。具体的には、本店または主たる事業所から厚生労働省に「任意特定適用事業所該当/不該当申出書」という書類を提出すこととなります。また、短時間労働者が資格を取得したことを「資格取得届」にて提出しなくてはなりません。
地方公共団体に属する事業所の場合は、短時間労働者に関する以下の書類を提出すれば適用されるようになります。
平成28年10月および29年4月の改正による厚生年金保険・健康保険の適用拡大は、事業所にどのような影響を与えたでしょうか。
厚生労働省年金局は、この適用拡大に関して、平成29年6月末時点の状況を調査し、事業所側と短時間労働者側の両方にアンケートを実施しています。
その調査結果のポイントをまとめると、以下のとおりでした。
今回の適用拡大が選べる立場の企業ですが、パート社員の定着を図りたいため、個人が望むように対応したい、という前向きな意見が多数を占めている結果です。各企業とも、労働者確保が困難な様子がうかがえます。
一方、適用拡大に伴うパート社員等の働き方は、何か変化があったでしょうか。適用前に第1号被保険者(改正前から厚生年金などの適用対象だった人)、第3号被保険者(改正前は厚生年金などの適用外だった人)それぞれの調査結果をご紹介します。
配偶者の社会保険に入ったままでいたい、と考えて労働時間を短縮している人もいますが、もっと収入を増やしたい、と考える人が短時間労働者の半数以上を占めています。
将来のことを考えると、収入を増やす方に動きたいと考えるパート社員は多いと考えられる結果でした。
パート社員における厚生年金・健康保険の適用拡大の改正について、そのあらましと適用後の企業側と労働者側の変化を解説しました。パート社員にとってはより良い待遇となる改正なのですが、配偶者の扶養対象から外れることを気にする方も少なくない印象です。
企業側は、労働力の確保が大変になりつつあるため、待遇改善によって人材が確保できるなら対応したいという調査結果でした。この流れは今後も続きそうです。