厚生年金保険料は、対象事業所に勤務している場合に加入する「厚生年金保険」にかかる保険料のことを指します。けがや病気、さらには老後の年金として加入している人はお金が受け取れます。
給与から差し引かれている厚生年金保険料はどのようにして計算されるのでしょうか。また、厚生年金保険料を支払い続けた場合、どのくらいの受給額になるのでしょうか。
この記事では、厚生年金の基本から保険料の計算・実際の受給額などについて解説していきます。
冒頭でも触れましたが厚生年金保険料は「厚生年金」に加入している場合に支払う保険料のことを言います。ではそもそも、厚生年金とはどういったものでしょうか。
厚生年金は、社会保障制度のひとつであり公的な年金制度です。厚生年金は事業所単位で適用という形であり、適用される事業所を「強制適用事業所」と呼びます。強制適用事業所は、以下のような事業所が該当します。
上記、強制適用事業所に所属している従業員は社会保険(健康保険や厚生年金保険)の被保険者となります。
厚生年金保険料は、使用者である会社との折半になり自己負担分は毎月の給与から差し引かれます。そして、被保険者が65歳以上になった際に年金としてお金を受け取ることができます。
年金にはもうひとつ「国民年金」というのもあります。同じように、保険料を支払い続けることで年金として老後にお金が給付されるという制度です。では厚生年金と国民年金との違いには、どういった内容があるのでしょうか。
主に保険料や保険負担者、年金受給額などが、厚生年金と国民年金の異なるポイントです。一覧表で詳細を確認しておきましょう。
項目 | 国民年金 | 厚生年金 |
---|---|---|
加入対象者 | 20〜60歳のすべて国民 | 会社員や公務員 |
保険料 | 一律16,980円/月額※1 | 所得に応じて異なる |
保険料の支払い者 | 加入者が全額負担 | 事業主と労働者が折半 |
最低加入期間 | 10年 | 1カ月 |
支給開始年齢 | 65歳 | 65歳※2 |
国民年金基金の加入可否 | 加入できる | 加入できない |
年金給付額 | 加入期間に応じて一律 | 所得と加入期間によって異なる |
1:国民年金の保険料は2024年度の金額
2:生年月日により異なる
年金支給開始日は、国民年金は65歳からです。厚生年金は生年月日と性別によっては65歳前からの支給があります。受給期間はどちらも規定が特になく生涯にわたり年金をもらうことができます。
また、厚生年金は「年金制度でいう2階層目」と呼ばれることもあり、これは国民年金(1階層目)に上乗せして年金がもらえるという意味になります。
厚生年金保険料は、被保険者の所得によって異なります。ここでは、厚生年金保険料の計算方法について解説します。
厚生年金保険の保険料率は、被保険者の給与(標準報酬月額)・賞与(標準賞与額)にそれぞれ一律の保険料をかけて計算します。かける保険料率は2023年現在時点で「18.3000%」です。
厚生年金保険の保険料率は、年々改正されてきました。段階的に保険料率は引き上げられてきましたが、2017年9月の年金制度改正に伴い「18.300%」を上限として完了しました。厚生労働省のWebサイトでも引き上げ終了のアナウンスがあり、厚生年金保険の保険料率は現在まで18.300%で固定とされています。
では毎月の保険料と、賞与にかかる保険料についての計算式を見ていきましょう。
上記の計算で算出した保険料を、保険者である所属会社と折半で支払います。毎月の給与明細にも、厚生年金保険料の金額が記載されているため、確認しておきましょう。
次から計算式のなかにある、標準報酬月額と標準賞与額についてもう少し詳しく解説します。
標準報酬月額とは、被保険者が所属会社などから支払われる報酬(毎月の給料と賞与など)を一定の等級で区分したものです。この数値を参考に健康保険料や厚生年金保険料が決まります。
厚生年金保険料は、上記画像のような報酬を1〜32等級で区分したものを使用します。自身の報酬額に応じた保険料が一目で分かるようになっています。
厚生年金保険料額表(2023年度版)の一番右側には、会社との折半額が記載されています。これが実際に給与から差し引かれる厚生年金保険料の金額です。
標準賞与額は、税引き前の賞与額から1千円未満の端数を切り捨てたものを指します。
また、1回の支給賞与につき150万円が上限とされています。150万円を超える場合は150万円が標準賞与額となるため覚えておきましょう。
厚生年金保険料の計算は「標準月額報酬・標準賞与額それぞれに18.300%をかける」という求め方でした。それでは実際に、以下の会社員を例に厚生年金保険料の計算をしてみましょう。
まずは、給与分の厚生年金保険料から計算します。毎月の給与が26万4,000円であるため、厚生年金保険料額表(2023年度版)を見てみると標準月額報酬は17等級目の26万円となります。
次に、賞与分の厚生年金保険料を計算します。今回の例では標準賞与額が45万3,000円です。
これで標準月額報酬・標準賞与額それぞれの厚生年金保険料が計算できました。
厚生年金保険に加入している方で、自分がどのくらい厚生年金保険料を支払うのか確認したい場合はこの計算方法で算出してみましょう。最新の標準月額報酬は日本年金機構のWebサイトで確認できます。
厚生年金でもらえる年金額は、標準月額報酬で規定されている保険料に応じた金額が支給されるため、金額は個人ごとに異なります。
厚生労働省のWebサイトにまとめられている「厚生年金保険・国民年金事業の概況」を参照してみると、老齢厚生年金における2021年時点の受給権者平均年金月額は「14万3,965円」でした。
厚生年金は、主に強制適用事業者に所属している方が被保険者となり、保険料を会社と折半で支払うことで65歳から年金が受給できるという制度です。
支払う厚生年金保険料は、被保険者の報酬(給与所得と賞与の合計)によって異なります。あらかじめ報酬金額で区分された「標準報酬月額」などを参考に、毎月の保険料や賞与の保険料を、保険料率「18.300%」をもとに計算します。
計算した金額の折半額が、実際に毎月引かれている厚生年金保険料となります。報酬には賞与も対象であるため、支給される月は忘れないようにしましょう。自身の厚生年金保険料について気になる方はこの記事を参考に計算してみてください。
1984年生まれ。社会保険労務士。
都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談(病院側・労働者側双方)や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名以上。独立後は年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。
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