企業がすべき対応の流れ
- 最新の改正内容を正確に理解する
- 自社の従業員の状況を把握する
- 対象従業員に周知する
- 社会保険の加入手続きをおこなう
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ニュース2024年12月24日、5年に1度おこなわれる年金制度改革案において、「年収106万円の壁」を撤廃する方針が示され、厚生労働省の年金部会において大筋で了承されました。
106万円の壁とは、社会保険料の負担に係るボーダーラインのことで、現在、年収106万円以上の場合は、働く時間などによって厚生年金に加入する義務が発生します。
そんな106万円の壁が撤廃される背景となった問題とは何でしょうか。この記事では、今後の厚生年金の加入要件の変更点や、106万円の壁撤廃に伴い、企業の人事・労務担当者がすべき対応などをわかりやすく解説します。
目次
106万円の壁とは、社会保険料の負担に係るボーダーラインです。年収106万円以上の賃金を受け取っている労働者は、勤務先の企業規模や働く時間によって厚生年金(社会保険)に加入する義務が生じます。
厚生労働省は、社会保険制度をより公平で、現代の労働市場に合ったものにするため、2026年10月をめどにこの106万円の壁の撤廃を決定しました。
106万円の壁が撤廃される大きな理由のひとつは、労働力不足です。日本では少子高齢化や人口減少が進んでおり、人手不足の状況が続いています。
年収106万円を超えて厚生年金に加入すると、社会保険料の負担により、かえって手取り収入が減ります。そのため、年収を106万円以下に抑えようと労働時間を調整する、”働き控え”をする人が発生し、人手不足につながっていると問題視されていました。
厚生労働省は、106万円の壁を意識している可能性がある労働者は約65万人いると推計しており、106万円の壁を撤廃することで、パートやアルバイトの人々の働き控えを解消し、さらなる労働力確保を期待しています。
実際に当サイトが年収103万円以下の労働者に、働き控えをしたことがあるか調査したところ、74.7%の人が「ある」と回答しました。103万円は所得税が発生する年収ですが、このことから、年収106万円を超えないように意識して働いている人も多いことが想定できます。
また、近年の最低賃金の上昇に伴い、週20時間以上働くと年収106万円を超えるケースが増え、制度の必要性が薄れていることも理由のひとつです。
今回の改正で、厚生年金の加入要件は大きく変わります。企業の人事・労務担当者は、変更点をしっかりと把握しておきましょう。
現在、パートタイム・アルバイトの人が厚生年金に加入する要件は、賃金・勤務先の企業規模・労働時間の3つです。今回の改正では賃金要件の撤廃が決定されたほか、企業規模についても段階的に撤廃する方針が示される見込みです。
想定時期 | 変更点 |
---|---|
2026年10月 | 賃金要件(年収106万円)が撤廃 |
2027年10月 | 企業規模要件(従業員数51人以上の企業)が撤廃 |
2029年10月 | 個人事業所※も加入対象に 5人以上の従業員がいる場合 |
これらの改正案が実現した場合、将来的に学生以外で週20時間以上働く人全員が厚生年金に加入することになります。なお、「週20時間以上」という労働時間の要件は維持されるため、週20時間未満の労働者については、現状のまま加入義務が発生しません。
改定前
・企業規模が従業員51人以上
・労働時間が週20時間以上
・賃金が年収106万円以上(月8万8,000円以上)
改定後
・労働時間が週20時間以上
今回の改正で、新たにおよそ200万人が厚生年金の加入対象になると見込まれています。その内訳は以下のとおりです。
種別 | 加入者見込み | 具体的な対象者 |
---|---|---|
第3号被保険者 | 90万人 | 会社員に扶養されている配偶者などで、これまで保険料を支払っていなかった人 |
第1号被保険者 | 70万人 | 企業に雇われて働いているものの厚生年金の対象にならず、国民年金に加入していた人 |
60歳以上の非加入者 | 40万人 | 60歳以上で企業などで働いているが、国民年金にも加入していなかった人 |
今回の年金制度の改正は、働き控えや働き方による不公平感の解消、厚生年金への加入により将来の年金受給額の増加、けがや病気で働けないときに傷病手当金を受け取れるなどのメリットが期待されています。
その一方で、従業員にとっては(厚生年金に加入することで)手取りが減る、企業にとっては保険料負担が増えるなどのデメリットもあります。また、週20時間以上という労働時間の要件は維持されるため、働き控えが完全に解消されるわけではないでしょう。
そこで政府は、新たに厚生年金に加入する人の保険料負担が重くなりすぎないように、支援策を検討しています。
具体的には、労使折半となっている保険料について、年収156万円未満(月給13万円未満)の場合は、企業側がより多く保険料を負担できるしくみを導入する予定です。企業によって負担する割合を変更できるようにするとされていますが、労働者の負担をなくすことは認めないとしています。
また、保険料負担が増える企業に対しても、支援を検討する方針です。
先述のとおり、106万円の壁撤廃に伴い、厚生年金に加入する従業員が増えることが想定されます。制度の改正後、企業の人事・労務担当者は、以下のステップで対応を進めていきましょう。
企業がすべき対応の流れ
まず、今回の改正内容を正確に理解することが重要です。厚生労働省の発表や関連資料をしっかりと確認し、不明な点は社会保険労務士などの専門家に相談するようにしましょう。また、制度の内容は今後も変更される可能性があるため、企業の人事・労務担当者は、常に最新の情報を収集するようにしましょう。
次に、自社の従業員の中で、今回の改正によって新たに厚生年金に加入することになる従業員がどのくらいいるのかを把握します。従業員の賃金を調査し、今後の加入対象者のリストを作成しましょう。
その際、企業の保険料負担がどのくらい増えるのかをシミュレーションしておくこともおすすめします。加えて、新たに厚生年金の加入対象者となる従業員の手取り収入がどの程度減るのかを事前に確認しておくことで、従業員に周知する際の想定質問に備えておくことができます。
新たに厚生年金の加入することになる従業員に対し、社内説明会や必要に応じて個別面談を実施します。実施前に資料の作成を進めておきましょう。説明会を開催する場合は、質疑応答の時間も設けると、従業員の不安解消につながるでしょう。
厚生年金に加入する従業員が増えた場合は、速やかに社会保険の手続きをおこないます。詳しい手続き方法については、こちらの記事を参考にしてください。また、場合によっては、就業規則における社会保険に関する条項や賃金規定を見直しましょう。
2026年10月をめどに、厚生年金における賃金の要件が撤廃され、実質的に年収106万円の壁がなくなります。この改正により、厚生労働省は新たに約200万人が厚生年金の加入対象となることを見込んでおり、企業は社会保険の加入手続きなどの対応が必要となるでしょう。
企業の人事・労務担当者は、今回の改正内容を正確に理解し、従業員への周知、期日までに適切な手続きを進めましょう。また、2027年10月には企業規模要件の段階的な撤廃の方針が示されているため、常に最新の情報を確認する必要があります。
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