この記事でわかること・結論
- 2024年10月から最低賃金の引き上げがおこなわれる
- 具体的には、全国平均の時給は51円引き上げで1,055円になる
- この改正は特に中小企業に影響を与えることが予想されており、企業は賃金体系の見直しや生産性向上の取り組みが必要となる
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ニュースこの記事でわかること・結論
2024年10月から、最低賃金が引き上げられます。最低賃金に近い賃金で雇用されている労働者にとっては嬉しいニュースかもしれませんが、今回の過去最大の最低賃金の引き上げは「中小企業に特に大きな影響を与える可能性がある」と言われています。それはなぜでしょうか。
そこでこの記事では、2024年度の最低賃金について、引き上げの背景や都道府県別の最低賃金額、最低賃金の引き上げが企業に与える影響、そして人事・労務担当者がすべき対応を解説します。
目次
2024年8月29日、厚生労働省は最低賃金に関して協議する審議会が答申した改定額を取りまとめ、最低賃金の全国加重平均額を1,055円に引き上げることを発表しました。現在(2024年9月)の最低賃金は1,004円のため、引き上げ額は過去最高だった昨年度を上回る平均51円となります。
改定前
最低賃金の全国平均目安は1,004円
改定後
1,055円に引き上げ(51円アップ)
最低賃金の引き上げは、2024年10月以降に順次適用される予定です。発効予定日は各都道府県により異なり、早い都道府県で2024年10月1日から、最も遅い都道府県(岩手県)だと2024年10月27日から発効開始となります。
最低賃金は1978年に目安制度が始まって以来、引き上げ傾向にあります。2002年時点で最低賃金(全国加重平均額)は、663円でした。現在(1,004円)と比較すると341円引き上げられていますが、近年の物価高や食料品の値上がりを考えると「引き上げ額が足りない」という声もあります。
ちなみに日本の最低賃金は先進国のなかでは最低レベルであり、諸外国の最低賃金を見てみると、韓国は約1,160円、オーストラリアは約2,541円、イギリスは約2,128円と、物価や税制の違いがあるもののその低さが際立っています。
いずれも2024年8月時点の情報
今回、全国で一律50円の最低賃金の引き上げが目安として示されました。具体的には、東京都や大阪府などのAランク、京都府や静岡県などのBランク、山形県や鳥取県などのCランクの全ての地域において50円以上の引き上げとなる見込みでした。
2024年8月、すべての都道府県における最低賃金の改定額が決定しました。その結果、47都道府県で50年~84円引き上げられ、改定後の全国平均時給は1,055円となります(全国平均は昨年と比較して51円の引き上げ)。
最低賃金額が1,000円を超えるのは、前年度の8都道府県から16都道府県になりました。
最低賃金をランキング形式で紹介すると、下記のとおりです。
都道府県 | 改定後の最低賃金額 | |
---|---|---|
1位 | 東京都 | 1,163円 |
2位 | 神奈川県 | 1,162円 |
3位 | 大阪府 | 1,114円 |
4位 | 埼玉県 | 1,078円 |
5位 | 愛知県 | 1,077円 |
6位 | 千葉県 | 1,076円 |
7位 | 京都府 | 1,058円 |
8位 | 兵庫県 | 1,052円 |
9位 | 静岡県 | 1,034円 |
10位 | 広島県 | 1,020円 |
最も高い地域は東京都で、1,163円です。対して最も低い地域は秋田県(951円)となり、東京都との差は212円です。年間で約40万円以上の賃金差が生じる計算になります。なお、昨年と比較して引き上げ額が最も高かったのは徳島県の84円でした。
この地域間の格差は、労働者が都市部へ集中する一因となっています。そのため政府は、全国一律で最低賃金を引き上げることで、地域間格差の縮小を目指しています。
今回の最低賃金引き上げの背景としては、急激な物価高騰と、それを受けた労働者の生活への配慮、そして賃上げムードの維持・拡大といった要因が主に考えられます。
2023年から続く物価上昇は家計を圧迫し、特に最低賃金に近い水準で働く人々に深刻な影響を与えています。労働者の生活の安定を図るためにも、生活を守るセーフティネットとしての最低賃金を、適切な水準に引き上げることが急務となっていました。
最低賃金を引き上げることで低賃金労働者の可処分所得が増加し、消費の拡大につながる可能性があります。しかし、消費者の生活にゆとりを出すためには、賃金アップが物価上昇を追い越す必要があるでしょう。
2023年の春闘では、大手企業を中心に高水準の賃上げが実現しました。
春季労働闘争の略で、労働組合が賃上げなどの労働条件改善を求めておこなう交渉のこと。
この賃上げムードを、中小企業を含めた幅広い企業に波及させていくためには、最低賃金の引き上げが重要な役割を果たすと考えられています。また賃上げの動きを全国に広げて日本経済全体を底上げすることで、持続的な成長を実現しようとしていると言えるでしょう。
今回の最低賃金の引き上げは、労働者の生活水準向上や消費拡大など、経済面でプラスの影響を与える可能性が示唆されている一方で、企業収益の悪化や雇用への影響など、マイナス面も懸念されています。特に「中小企業への影響が大きい」と予想されており、企業は賃金体系の見直しや生産性向上の取り組みが必要となるでしょう。
最低賃金の引き上げは、人件費(雇用コスト)の増加につながります。特に飲食店などでは、光熱費や食材費の高騰に加え、最低賃金の引き上げによる人件費増加が経営を圧迫する可能性があります。
そのほか、中小企業や小規模事業者、多くのパートタイム・アルバイト従業員を雇用している業界でも、最低賃金引き上げの影響は大きいでしょう。人件費の増加により雇用を削減し、新規採用を控える企業も出てくる可能性があります。特に経営が厳しい中小企業では、人員削減や採用抑制をしなければならないかもしれません。
最低賃金引き上げに伴い人事・労務担当者がすべきことは、主に以下の3つです。
まずは従業員の賃金を確認し、2024年10月以降、最低賃金を下回る従業員がいないかを把握しましょう。大企業や中小企業など企業の規模にかかわらず、最低賃金を下回ると違法になります。現状のままだと10月以降に最低賃金を下回る従業員がいた場合は、賃金の引き上げが必要です。
最低賃金に近い水準で雇用している従業員だけでなく、そのほかの従業員の賃金もあわせて確認しましょう。
その理由は、最低賃金が引き上げられることで、企業内の賃金格差が縮小する可能性があるからです。これはたとえば、勤務歴が長い正社員と、短いパートタイム・アルバイト従業員の給与の差が、最低賃金の引き上げに伴い縮まる可能性があるということです。
勤務歴や能力の差があるにもかかわらず、賃金の差があまりなかった場合、従業員から不満の声が出てくる恐れやモチベーションが下がってしまう可能性があるでしょう。全体のバランスを保つため、そして人材確保のためにも、改めて賃金体系の見直しが必要です。
具体的には、賞与の額は最低賃金に関係してこないため、社員の賞与の比率を下げて月給を上げる、または業績・成績に連動した部分だけ賞与として残すなどの方法が挙げられます。
月給(基本給)が上がると、求人への応募が増えるメリットもあります。基本給の引き上げは人手不足の解消にもつながる可能性がある一方で、残業の単価が上がるので残業代が増えやすい点には注意が必要です。
政府は、企業が最低賃金の引き上げに対応できるよう、労務費の価格転嫁を支援する方針を示しています。これは、最低賃金の引き上げ分を企業がそのまま負担することになると、特に中小企業や小規模事業者において、経営を圧迫する可能性があるためです。岸田総理大臣は以下のように述べています。
賃上げについては、中小・小規模企業が最大の鍵を握っている。政府としては、労務費の転嫁のためのあらゆる制度を総動員するとともに、生産性向上のための自動化、省力化投資に全力で取り組み、支援を行っていきたい
生産性を向上させるには、自動化設備の導入や業務プロセスの改善をおこない、人手に頼っていた作業を効率化することで、効果が期待できるでしょう。従業員一人当たりの生産性を向上させることができれば、人件費全体の増加を抑えながら、従業員の賃金を上げることが可能です。
政府は、このような投資に対する補助金や税制優遇などの支援策を提供することで、企業の負担を軽減し、投資を促進しようとしています。中小企業などは必要に応じてこれらの支援制度を活用しましょう。
2024年8月、厚生労働省は最低賃金の全国加重平均額を1,055円に引き上げることを決めました。これは過去最大の51円引き上げとなり、都道府県ごとに10月から順次適用されます。
この引き上げは物価高騰や労働者の生活改善を背景としており、特に低賃金労働者の生活向上を目指しています。消費拡大などの効果も期待されますが、特に中小・小規模企業においては、人件費増加や企業内の賃金格差の縮小などの課題も出てくるでしょう。
企業は賃金体系の見直しや政府の支援制度を活用して、最低賃金の引き上げに対応する必要があります。まずは最低賃金を下回らないように、従業員の賃金の確認を進めましょう。
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