この記事でわかること・結論
- 最低賃金制度について
- 2022年の最低賃金の引き上げ額
- 最低賃金引上げによる企業側の課題と対策
毎年10月1日に発表される最低賃金の引き上げ額。
昨年度、最低賃金の引き上げは、全国平均28円と過去最大の上げ幅でした。その流れは今回も続き、上げ幅は31円となりました。これから最低賃金の目安に基づき各都道府県の審議会が行われ、都道府県ごとの最低賃金が決まります。
「これ以上最低賃金が引き上がると、資金を圧迫し必要な労働力を確保できずに人手不足に陥ってしまう……」
「企業の業績が好転すればいいけど、長い目でみるとまだ課題が山積みなのでは……」
など、賛否両論の最低賃金の引き上げは、一体企業にどのような影響を与えるのでしょうか。
最低賃金引き上げのメリット・デメリットと、これから企業がとるべき対策とまとめてみました。
この記事でわかること・結論
キャンバス社会保険労務士法人・創業者兼顧問
https://www.canvas-sr.jp/
税理士事務所勤務時代に社労士事務所を立ち上げ、人事労務設計の改善サポートに取り組む。
開業4年で顧問先300社以上、売上2億円超達成。
近年では企業の人を軸とした経営改善や働き方改革に取り組んでいる。
目次
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者はその最低賃金額以上の賃金を従業員に支払わなければならないとする制度です。
政府は働き方改革実行計画で「年率3%程度を目途に最低賃金を引き上げ、全国加重平均が1000円になることを目指す」ことを掲げており、引き続き最低賃金の引き上げが行われることが予想されています。
これに伴い厚生労働省では、最低賃金の引き上げに向けて、中小企業・小規模事業者に対する生産性向上等の支援を行っています。
支援制度について詳しくは記事の後半で紹介します。
使用者は、国が定める最低賃金額以上の賃金を従業員に支払わなければなりません。
仮に最低賃金額より低い賃金を使用者と従業員の合意により定めたとしても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとされます。
最低賃金額未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。
また、地域別最低賃金額以上の賃金を支払わない場合には、最低賃金法により50万円以下の罰金が科せられ、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法により30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
企業が支払うべき賃金が最低賃金に達しているかどうかは、最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を以下の方法で比較して確認します。
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、
日給≧最低賃金額(日額)
月給÷1カ月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
総賃金額÷当該賃金計算期間の総労働時間数≧最低賃金額(時間額)
出来高払制やその他の請負制の場合は、上記計算式によって時間当たりの賃金額に換算し、最低賃金額と比較します。
【出典】最低賃金額以上かどうかを確認する方法 – 厚生労働省
2021年には、前年から28円引き上げられ930円となった全国平均の最低賃金。
全国的にも毎年24~27円前後の最低賃金引き上げが行われており、2022年も大きな経済的混乱が無ければ、従来どおり10月1日に賃金が引き上げられる予定です。
2022年は過去最高となる31円の引き上げが、最低賃金額を検討する中央最低賃金審議会で決まりました。
最低賃金の引き上げは、国内の消費を盛り上げて景気を良くするために有効な手段の一つです。企業が労働環境を改善し従業員に対して高水準の賃金を支払うことで、生活が安定し消費活動も盛んになります。
また一方で、働き方改革の推進によって労働時間の圧縮を求められているため、給与水準を上げながら労働時間を短くする、つまり生産性を向上させることを、強制的にハードルを高くして実行させようという意図があります。
最低賃金の引き上げには、企業が注意すべき課題点が多数あります。
従業員の最低賃金が上がると、当然企業が負担する人件費は増大します。
現状で最低賃金よりも高い賃金を設定している企業は構いませんが、最低賃金ギリギリのラインで非正規労働者を雇用している企業は、人件費に大きな変化が生じて耐えきれなくなる可能性があります。
非正規労働者の多い飲食業やコンビニチェーン店などにとっては、大きな痛手となるでしょう。
最低賃金の引き上げによって増大した人件費を捻出するために正社員の給与を減らす、そこまでいかなくとも正社員とパートタイムの給与差が少なくなると、正社員のモチベーションが低下するリスクが高まります。
モチベーションの低下は生産性低下につながるため、注意が必要でしょう。
最低賃金の引き上げに向けて、企業はどのような対応をとるべきなのでしょうか。
最低賃金の引き上げによる企業への負担がどの程度か予想できないため、新たな設備投資を抑制する動きがみられます。
生産性向上のための設備投資を行う場合は、後ほど紹介する「業務改善助成金」をうまく利用しましょう。
最低賃金の引き上げによる人件費増大への対策として、正社員の残業時間を削減して残業代を抑える企業が増えるといわれています。
日本におけるサラリーマンの年収のおよそ4分の1が残業代だというデータもありますが、これから残業代の削減により、報酬が下押しされるリスクは否めません。
企業にとって退職一時金制度は一般的なものですが、財政面では大きな負担となっているのが現実です。
そこで負担を軽減する策として、退職一時金を「年金化」する企業が増えています。
退職一時金は、企業の純利益から税金や配当金、役員賞与などを差し引いた内部留保型の預金のため、負債計上しても財政上の損金算入ができませんが、年金化することで年金の掛け金を損金算入できるようになります。
損金化による税金の低減により、企業の財務負担の軽減が期待できます。
最低賃金の引き上げに向けて、厚生労働省では中小企業・小規模事業者対する生産性向上等の支援を行っています。
業務改善助成金とは、中小企業・小規模事業者の業務の改善を国が支援し、従業員の賃金引き上げを図るために設けられた制度です。
生産性向上のための設備投資(機械設備、POSシステム等の導入)などを行い、事業場内で最も低い賃金を一定額以上引き上げた中小企業・小規模事業者に対して、設備投資などにかかった経費の一部を助成してくれます。
【引用】業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援 – 厚生労働省
時間外労働等改善助成金とは、労働時間短縮や賃金引き上げに向けた生産性向上に資する取り組みに要した費用を助成してくれる制度です。
以下のとおり、3社以上で組織する中小企業の事業主団体等が対象です。
【事業主団体】
【共同事業主】
事業主団体等において中小企業事業主(※)の占める割合が、構成事業主全体の2分の1以上である必要があります。また、労働者災害補償保険の適用事業主である必要があります。
中小企業事業主とは、以下のAまたはBの要件を満たす中小企業になります。
また、支給対象となる以下の取り組みのうち、いずれか一つ以上実施する必要があります。
【引用】時間外労働等改善助成金(団体推進コース) – 厚生労働省
良くも悪くも社会的影響力のある最低賃金の引き上げは、企業の人材不足を解消する切り札の一つ。
企業がメリットを実感するためには、デメリットをうまく回避しながら長期スパンで経営戦略を練る必要がありそうですね。
ソビア社会保険労務士事務所 代表社労士/ホワイト財団 代表理事 | 五味田 匡功
人事・労務設計と共に、ビジネスモデルの改善もサポートし、ソビアグループ創業者兼顧問に就任する。
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