この記事でわかること・結論
- 2025年4月より出生後休業支援給付が開始
- 子の出生直後、夫婦ともに14日以上の育児休業を取得した場合、休業開始前賃金の13%相当額を給付する
- 最大28日間、通常の育児休業給付(賃金の67%支給)とあわせて給付率が80%になる
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ニュースこの記事でわかること・結論
かねてより検討されていた育児休業給付の給付率の引き上げが、2025年4月より開始されます。それに伴い「出生後休業支援給付」という新たな給付金が創設されることになり、条件を満たすと最大28日間、育児休業給付の給付率が80%(手取り10割相当)になります。
本記事では、出生後休業支援給付の給付内容や支給条件、現行の育児休業給付との違い、そして企業の人事・労務担当者が事前に対応すべきことを詳しく解説します。
目次
2024年6月5日、「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案」が成立し、夫婦ともに働き子育てをする「共働き・共育て」の推進や、男性の育児休業取得の促進を目的として『出生後休業支援給付』が創設されました。
出生後休業支援給付とは、かんたんに言うと夫婦ともに育児休業を取得した際に支給される給付金です。この給付金制度の開始により「育児休業を取得したことで給料が支給されない」または「一定額以下に減額された方」は、一定期間、育児休業前の手取り収入と実質同等の額が給付されることになります。
出生後休業支援給付は、通常の育児休業給付に「休業開始時賃金の13%相当額」が上乗せされる給付金制度です。現在、一定の条件を満たす方は育児休業中に休業前の賃金の67%※の育児休業給付を受けられますが、出生後休業支援給付で13%上乗せされることにより、この給付率が80%に引き上がります。
出生後休業支援給付は非課税であり、育児休業中は社会保険料が免除されることから、給付率80%は手取り収入の10割相当となります。そのため出生後休業支援給付を受ける方は実質、休業前の賃金と同等の額を受けられる仕組みです。なお、支給期間は最大28日間です。
育児休業開始から180日以内。181日以降は休業前の賃金の50%を支給。
出生後休業支援給付を受けるには、子の出生直後の一定期間内に、父親と母親の両方が14日以上の育児休業を取得しなければなりません。
男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内です。そのため男性は必然的に産後パパ育休(出生時育児休業)を利用することになります。
給付のタイミングに関しては、以下のイメージ図をご参照ください。
また、育児休業を取得することが前提条件なので、対象は雇用保険の被保険者です。週の所定労働時間が20時間未満の方や、原則として雇用保険に加入できない自営業者などの方は対象外となります。
なお、配偶者が専業主婦(夫)やひとり親家庭の場合は出生後休業支援給付の対象となり、配偶者の育児休業の取得は求められません。
現時点(2024年7月時点)において、出生後休業支援給付の申請方法に関する詳細な情報はいまだ公表されていません。ただし、現在の育児休業給付金の申請方法を参考にすると、以下のような流れで申請手続きをおこなうことが予想されます。
予想される出生後休業支援給付の申請方法
出生後休業支援給付は既存の育児休業給付に上乗せされる形で支給されるため、申請手続きも育児休業給付金の申請と同時におこなう可能性があります。育児休業給付の申請方法に関しては、こちらの記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
具体的な出生後休業支援給付の申請方法や必要書類については、制度の詳細が確定次第、厚生労働省やハローワークから公表されるでしょう。
では、出生後休業支援給付と「育休手当」とも呼ばれる既存の育児休業給付は、具体的にどこが違うのでしょうか。以下の表にこの2つの給付金制度の主な違いをまとめてみました。
出生後休業支援給付 | 育児休業給付 | |
---|---|---|
対象 休業 |
父親は子の出生後、 母親は産休後8週間以内に取得する育児休業 |
原則、子が1歳となるまでの育児休業 |
給付率 | 通常の育児休業給付金に休業開始前賃金の13%相当額が上乗せされ、合計で80% | 休業開始前賃金の67% (181日以降は50%) |
支給 期間 |
最大28日間 | 原則、子が1歳となるまで |
支給 条件 |
子の出生後または産休後8週間以内に、夫婦ともに14日以上の育児休業を取得している | 雇用保険の被保険者が1歳未満の子を育てるために育児休業を取得している 配偶者の育児休業取得は不問 |
育児休業給付は、一定条件を満たす雇用保険の被保険者が、1歳未満の子どもを育てるために育児休業を取得した場合に支給されます。支給期間は原則、子どもが1歳となるまでですが、保育所に入れないなどの事情により育児休業を延長する場合、その延長期間中も育児休業給付を受けることが可能。最大延長期間は子どもが2歳となるまでです。
出生後休業支援給付と育児休業給付は支給条件においても大きな違いがあり、前者は夫婦ともに育児休業を取得しなければいけませんが、後者は配偶者の育児休業の取得は求められません。
このように通常の育児休業給付は、支給期間が長いことから長期的な育児支援を目的としていることがわかります。
対して出生後休業支援給付は、支給期間が子の出生直後の一定期間のみであることから、男性の育児参加の促進や経済的負担を理由に育児休業を取得しない人を減らす狙いがあることが伺えます。またこのような子育て支援を強化することで、深刻化した少子化問題の対策のひとつにもなるでしょう。
女性だけでなく男性の育児参加者を増やすことで、出産直後から夫婦で協力して育児に取り組む環境が整備され、女性の就労継続支援につながることも期待できます。
出生後休業支援給付の開始後、適切に対応していけるようにするためにも企業の人事・労務担当者は事前準備を進めておきましょう。主に以下のような準備が必要です。
新たな給付金制度に対応するため、社内の育児関連の制度や関連規定を見直し、必要に応じて改訂しましょう。特に出生後休業支援給付の支給要件にあたる、
に関する規定を整備する必要があります。
職場の育休取得率を上げることは、企業のイメージアップにもつながります。従業員のニーズに合った柔軟な働き方を実現するためにも、積極的に出生後休業支援給付を利用できるような施策を検討しましょう。
たとえば、育児休業取得者へのインセンティブの提供や、取得しやすい職場環境の整備などが挙げられます。また、管理職への研修を通じて、部下の育児休業取得を支援できるような職場づくりも重要です。
従業員に対しては、出生後休業支援給付の給付内容や受給資格、申請方法などの概要をわかりやすく説明します。もし従業員から妊娠や出産の申し出があった場合、通常の育児休業給付に加えて出生後休業支援給付に関しても、個別に周知しなければなりません。
出生後休業支援給付は特に男性の育児参加を促進させることが狙いであることから、男性従業員にも周知徹底を図りましょう。必要に応じて個人面談や説明会などを開き、周知方法を複数検討することも効果的です。また出生後休業支援給付の開始に伴い社内制度や関連規定を見直した場合は、その内容についても就業員へ説明しましょう。
出生後休業支援給付の申請手続きをスムーズにおこなえるよう、社内の手続きフローを整備します。具体的な申請方法や必要書類に関する情報を収集しておき、申請手続きを担当する者の教育もおこなっておくのがおすすめです。
出生後休業支援給付とは、子の出生直後に夫婦ともに育児休業を取得した場合、最大28日間、休業開始前賃金の80%相当額(手取り10割相当)が支給される給付金制度です。給付を受けるには、男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内に育児休業を14日以上取得しなければなりません。
出生後休業支援給付の開始は2025年4月から予定されており、それまでに企業の人事・労務担当者は社内規程の見直し、従業員への周知、取得促進策の検討、申請手続きの準備などの対応が必要となってきます。
企業は単に法令遵守のためだけでなく、従業員のワーク・ライフ・バランス向上と企業のイメージ向上を両立させる良い機会と捉え、積極的に取り組みましょう。
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