採用後の適性把握やより適切なマッチングを図るために、労働契約に試用期間を設けることが往々にしてあります。
そのような設定の趣旨はもとより、試用期間について雇用契約書に定めることの意味、またその設定にあたってどのような規制が存在するのか、法令に基づいて解説していきます。無制限な試用期間を定めて、いたずらに試用期間という不安定な地位を長引かせることのないよう、この記事で理解を深めていきましょう。
目次
「試用期間」とは採用後の一定の期間、従業員としての適格性を判断するために企業が設定した期間をいいます。試用期間の間は基本的に「解約権留保付労働契約」が成立しています。
試用期間の間、企業側が解約権を保持すること(解約できる旨)を約した労働契約のことをいいます。
この契約は、通常の解雇よりも広い範囲において解雇権の行使が認められており、能力面など採用当初には知ることができなかった事実が試用期間中に判明し、従業員としての適格性に欠け、継続雇用が不適当と企業が判断した場合、留保解約権が行使できます。
また、試用期間を有期労働契約に定め、期間満了後に無期雇用とするケースにおいては、一定の有期労働契約について雇止めを無効とする「雇止め法理」が働くほか、客観的かつ合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合には、「解雇権濫用法理」が働きます。したがって、当然に本採用拒否が可能というわけではありません。
試用期間は、その企業が従業員としてふさわしいかどうかを見極めるための期間といえます。適合と認められれば、一定の試用期間の後に本採用となり、万が一不適合と認められた場合には、本採用をせずに解雇することになります。
しかし、解雇権が事業主の権利の濫用にならないために、一定の要件を満たしている場合に限り解雇が認められることになります。就業規則などに「試用期間の後、解雇する場合がある」旨の明示をしている場合で、その理由が合理的なものであることも必要になってきます。
また、試用期間が14日を経過した場合には、30日以上前に解雇予告(本採用拒否の予告)をしなければなりません。万が一直前に通知されたのであれば、解雇予告手当として平均賃金日額の30日分以上の金額を企業は支払わなければならないことになります。
試用期間の社会保険加入についてみていきましょう。2024年6月現在の社会保険の加入条件は、以下のとおりです。
上記の条件を満たさない方であっても下記の条件を全て満たす場合、社会保険に加入させなければいけません。
試用期間の設定に違法性が問われる場面には、判例上次のようなものがあります。なお、下記は過去の判例であり、絶対的な基準ではないためあくまでも参考事例として試用期間の設定に活かしてください。
合理的範囲を超えた長期の試用期間の定めは、公序良俗に反して無効であると判断された。
裁判所は、本件の雇用契約が、各研修期間終了時において使用者が解約権を行使することができる2年間を通した1個の連続した雇用契約であるとし、また、雇用契約が各研修期間満了により終了するためには再採用の拒否が許される客観的合理性・社会通念性のある理由がある場合でなくてはならないとも述べた。
しかし、本件の場合には、一連の勤務態度不良は就業規則違反に該当するとして、使用者の解約権行使を認める判断をした。
再延長中の解雇には正社員と同様の解雇事由の存在が必要とされた。
採用後の「試用期間」の設定については法令を遵守し、企業の権利濫用とならないような内容で、期間、解雇、社会保険加入などを加味して雇用契約書を作成する必要があります。
判例を見ても、適法・違法の判断がつきにくい内容もありますので、慎重に吟味し、従業員も企業もお互いに気持ち良く仕事ができるような雇用契約書作りに努めましょう。
社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー 代表社会保険労務士:
楚山 和司(そやま かずし) 千葉県出身
株式会社日本保育サービス 入社・転籍
株式会社JPホールディングス<東証一部上場> 退職
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