この記事でわかること
- 有期雇用契約の概要と主な種類
- 有期雇用契約の3つのルールと対応方法
- 人事・労務担当者が注意すべきポイント
この記事でわかること
労働契約法は頻繁に改正されており、有期雇用契約から無期労働契約への転換など、契約社員やパートタイム・アルバイトといった有期雇用契約者に対する配慮が必要です。
今回は有期雇用契約者を雇用する場合の事業主が配慮すべきポイントや、雇用前に知るべき基礎知識、注意点を解説します。
目次
有期雇用契約とは、事業主と労働者が労働期間(1年間、6カ月間)など定めのある労働契約を結ぶ契約です。労働基準法14条1項では、有期雇用契約の期間の上限は原則3年です。
ただし、高度な専門的な知識・技術または経験を有する者や、満60歳以上の者と有期雇用契約を締結する場合、例外的に5年の契約期間が認められています。
有期雇用契約と無期雇用契約の違いは以下のとおりです。
有期雇用契約 | 無期雇用契約 | |
---|---|---|
契約期間 | 原則3年 | なし |
給与 | 原則契約時に決めた給与のまま昇給しないことが多い | 能力に応じて昇給の可能性がある |
雇用の安定性 | ー 契約更新月に打ち切られる可能性がある |
〇 契約更新する必要なし |
福利厚生 | △ 正社員や無期雇用に比べて適応範囲が狭い |
〇 |
契約期間が定められている有期雇用契約には、以下の種類に分けられます。
契約社員という名称ではなく、事業主によっては、パートタイム・アルバイト、臨時、非常勤、嘱託という名称を用いる場合があります。
有期雇用労働契約を結んだ事業主は、以下3つのルールを遵守しなければなりません。
有期雇用契約の通算契約期間が5年を超える場合、その契約期間の初日から末日までの間に、有期契約労働者には「無期労働契約への転換申込み」をする権利が発生します。
有期雇用契約者が無期労働契約への転換を申し込んだ場合、事業主は申し込みを承諾したものとみなされるため、無期労働契約の締結を拒否できません。
雇止め法理とは、有期雇用契約の従業員の雇用を雇用契約の期間が終わるタイミングで更新しないで契約を打ち切る「雇止め」に法律上の制限を課すルールです。
雇止めとは、事業主が有期雇用契約の更新を拒否し、契約期間の満了により雇用契約を終了させることです。
有期雇用契約を更新しない場合、一定の条件を満たす場合には少なくとも契約期間満了の30日前までに、その予告をしなければなりません。雇止めについては、労働者保護の観点から一定の場合において無効となる場合があります。
何度も契約を更新しており、実質的には無期雇用契約している状態と変わらない場合や、有期雇用契約者が「契約が更新されるだろう」と思うに足る理由があった場合で、事業主が雇止めをすることが 「客観的に合理的な理由を欠き、 社会通念上相当であると認められないとき」は雇止めが認められません。
この場合は従前と同一の労働条件で、有期雇用契約が更新されます。
同じ事業主で労働契約を締結している有期雇用契約者と無期雇用契約者の間の、不合理な労働条件の相違は禁止されています。賃金や労働時間だけでなく、災害補償や服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生などすべての労働条件に適用されます。
労働条件の相違が不合理だと判断されるポイントは、以下の3つです。
企業規模に問わず、正社員と非正規社員の待遇格差をなくす同一労働同一賃金が原則となります。
現在の派遣法では、6つのポイントを遵守しなければなりません。
派遣元が派遣社員と雇用契約を締結する際、教育訓練やキャリアコンサルティングの実施体制に対して、希望者には説明義務が発生します。
また、派遣先に事業主責任があると定められている場合、派遣先が誠実かつ主体的に苦情対応をおこなわなければなりません。基本的に労働者を保護する目的で、職場環境を整備する必要があります。
事業主は有期雇用契約者に対して、安定的な雇用関係を確保するため以下のような点に配慮しなければなりません。
配慮するべきポイント
有期雇用契約者の募集時または契約時には、書面または電子メールによって、契約期間に関する事項を明示しなければなりません。
また、労働者に対して「自動的に更新する」「更新する場合があり得る」「契約の更新はない」と更新の有無を確認し、更新時にはその判断基準を明示しなければなりません。
労働トラブルを回避するためには、明示だけではなく事業主および労働者の双方で契約内容について合意した証として、雇用契約書を締結しましょう。
有期雇用契約について、やむを得ない事由がある場合でなければその契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができません。
また、労働契約の締結に際して、退職に関する事項(解雇の事由を含む)を書面にて明示しなければなりません。解雇する場合は少なくとも30日前に予告する必要があります。
以下の場合、退職する際に退職証明書を交付しなければなりません。
試用期間とは、正社員を採用した後、入社後その社員の人物・能力を評価して本採用とするか否かを決定するための期間です。
雇用した社員に適正がないと判断された場合、就業規則に本採用拒否事由を定めておくことで、早期に本採用拒否や試用期間の延長を決定することが可能です。
有期雇用契約であっても、その契約実質的に試用期間にあたると判断された場合、通常の試用期間と同様の扱いとなり、期間満了という理由だけでは雇止めができなくなるという判例があります。
正社員の解雇と同様に、
などの合法的な解雇理由がない限り、本採用拒否は認められません。
採用をおこなう際は、業務内容、賃金、労働時間、そのほかの労働条件を明示しなければなりません。
また労働契約を締結する際は、以下の項目を書面または電子メールにて明示しなければなりません。
パートタイム・アルバイトを雇い入れた場合は、上記の事項に加え、下記も明示しなければなりません。
「契約期間や更新の有無の明示」と同様、明示事項は書面にまとめて、雇用契約書という形で契約を取り交わすことが大切です。
有期雇用契約者を含め常時10人以上の労働者を雇用する事業主は、就業規則を作成し、労働監督署に届け出なければなりません。
就業規則の作成・変更をおこなう際は、その事業場の過半数で組織する労働組合、または過半数代表者の意見を聞き、就業規則の届け出の際に添付する必要があります。
有期雇用契約の雇用契約書には、契約期間を記載しなければなりません。契約期間を定めずに(合意無しに)労働契約を締結した場合は、雇用期間の定めがない契約となって、解雇事由などがなければ定年まで雇用することになります。
また、契約を更新する場合の条件などの明確な更新基準を示しておかないと、不当な雇止めとして労務トラブルに発展する可能性があります。事業主は以下の点に注意して、有期雇用契約を結びましょう。
有期雇用契約の注意点
契約期間中は、労働者の雇用を継続しなければなりません。
ただし、倒産や店舗閉鎖などにより雇用を維持する場所がないなど、やむを得ない理由があり契約を解除する場合は、解雇にあたるので、労働基準法第20条に従って、30日前の予告、もしくはそれに代わる解雇予告手当を支払う必要があります。
契約を更新する際は、基本的に契約更新の有無を従業員に対して通知しなければなりません。ただし「期間満了時に異議がない場合は自動的に更新される」といった条項が契約に盛り込まれている場合、自動的に契約が更新されます。
上記の契約がなくても、契約期間経過後に更新の手続きをすることなく働き続けていた場合、「黙示の更新」として契約が更新されたものとして扱われます(民法第629条1項)。
契約の自動更新の繰り返しには注意が必要です。従業員に「同じ労働条件で期間の定めのない雇用契約が締結された」と誤解を与え、万が一の際、雇止めが難しくなります。
労働トラブルを回避するためには、自動更新の条項に「ただし、労働条件見直しの可能性がある」という文言を追記しておきましょう。また自動更新であっても、更新の都度面談をおこない、従業員と会社との意思確認の場を設けることも有効です。
有期雇用契約の場合、2カ月以内の雇用期間以内であれば、社会保険の被保険者とする必要はありません。
しかし、2カ月以内の雇用契約でも「自動的に更新する」「更新する場合があり得る」など雇用継続に関する更新条項にある場合は、社会保険への加入が必要です。
有期雇用契約の期間の上限は原則3年です。また、
の3つのルールを厳守しなければなりません。事業主は「契約期間や更新の有無の明示」「雇用契約の明示」「労働条件の明示」「就業規則や制度の整備」が求められます。
契約期間中の解雇(契約解除)や契約の自動更新、雇止め、社会保険への未加入には特に注意が必要です。
社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
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