給与明細の電子化とは、今まで紙で交付していた給与明細を電子化することです。電子化により、会社側は給与明細の作成コストを削減できる、手渡しがなくなる、また配布手段を効率化できる等のメリットがあります。
また、従業員側もいつでも給与明細を確認できるようになるというメリットがあり、これらお互いのメリットを考えて電子化を導入する企業が増えているようです。この電子化について解説していきます。
目次
かつて給与明細は、書面によって交付することが義務付けられていました。
しかし、税制改正において、平成19年1月1日以降、給与等の支払者(交付者)が受給者(交付を受ける者)への書面による給与等の支払明細書を交付する代わりに、その給与等の支払明細書を記載すべき事項を電磁的方法により提供(電子交付)することができるとされています。
あくまでも事前の承諾が必要となりますが、WEB給与明細システムを導入するなどの電子化は会社にとっては負担を大きく削減することができるでしょう。
ただし、給与等の支払明細書の電子交付について受給者から承諾を受けている場合であっても、書面による交付の請求があるときは、書面により交付しなければなりません。
給与明細を電子化するメリットとデメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
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各種税金や保険料等を給与から控除する場合、その計算内容(控除額)を通知することが義務付けられています。電子化をすることで、給与明細の印刷コストを削減できるほか、過去の給与明細の再確認が容易にできるようになるため、使用者・従業員共にメリットがあるでしょう。
ただし、給与明細を電子化するということは、従業員がパソコン等を使えることが前提になります。そのため、パソコン等を使えない環境下で働いている場合や、パソコンの操作ができない場合には、紙での交付が必要になる場合があります。従業員ごとに個別対応をしなければならない可能性があるというデメリットがあるでしょう。
給与等の支払者が受給者に対して、給与等の支払明細書を電子交付するためには、まず受給者に対し、あらかじめ、その給与明細を表示するために用いる電磁的方法の種類やその内容を示し、電磁的方法又は書面で承諾をもらう必要があります。
電磁的方法については、次の基準を満たす必要があります。
ただし、給与等の支払明細書データを受給者の使用するパソコンに直接送信する場合やフロッピーディスク等の磁気媒体等に記録して交付する場合は、その必要がありません。
給与等の支払明細書を電子交付するには、次のような方法があります。
なお、上記電子交付の方法については、次の基準を満たさなければなりません。
給与明細の電子化に同意しない、または反対する従業員がいた場合は、個別の対応が必要です。給与明細は従業員への交付が法律で義務付けられているため、万が一承諾がない従業員がいた場合、給与明細を紙で発行しなくてはなりません。
郵送代行機能を持つWeb配信システムを利用するなど、従来通りに紙明細を作成して渡す方法をあらかじめ検討しておきましょう。さらに未承諾者へ紙による給与明細を発行する際は、抜け漏れがないよう個別に管理する必要があります。
しかし業務効率化の観点から電子化を推進する場合、従業員とのコミュニケーションが大切です。同意しない理由には、従業員がメリットを感じていないことが主な原因と考えられます。理由を尋ねつつ、電子化する従業員のメリットをきちんと説明することで、同意を得られるようにしましょう。
受給者から電子交付に関する承諾を得る場合の記載事項や書式等について、特別な法令上の定めはありません。
しかし、下記の事項等を受給者に対して電磁的な方法により示し、「電子交付について承諾する旨」、「承諾日」、「承諾者氏名」を入力してもらうことで承諾を得たと判断することができます。また、一度承諾を得られれば、再度承諾を得る必要はありません。
※メール送信をする電子メールアドレスや、インターネット等を利用して閲覧に供する場合の掲載アドレスや閲覧の方法、そして交付する記録媒体等
給与等の支払明細書を会社のサーバ内に保存し、インターネット等を利用して閲覧できるような方法をとった場合は、閲覧ができることを受給者へ通知しなければなりません。具体的な通知方法は、法令上では規定されていないため、受給者に正しく伝わるのであれば電子メール、書面、口頭、電話等で通知する方法でかまいません。
ただし、受給者が給与等の支払明細書を閲覧したことを給与支払者が確認できるようなシステムを構築した場合には、通知を省略しても差し支えないこととされています。
給与明細の電子交付は、事前に従業員からの承諾を得ていれば、いつでも切り替えることができます。印刷コストや手間を省くことができる一方で、従業員が自由に閲覧できる環境を構築する必要があります。
また、従業員が自由に閲覧することができない労働環境下では紙媒体で交付しなければなりません。そして、従業員が紙による印刷を依頼した場合は、それを拒むことができませんので、十分に注意しましょう。
上場の建設会社にて情報システムの開発、運用、管理を経験した後、人事部に異動して給与計算、社会保険手続きから採用・退職など、人事労務管理に約12年従事。やまもと社会保険労務士事務所の所長、特定社会保険労務士。
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