新入社員の入社が決まると、社員と企業の間で結ばれる雇用契約。
ここで必要となるのが「労働条件通知書」です。
企業と労働者の間で交わす雇用契約書は既に電子化されているのに、労働条件通知書は書面(紙)でやりとりする必要があるのは「二度手間ではないか」「もっとスムーズに手続きができないものか」…。
そんな企業の声に応えるためにスタートしたのが、労働条件通知書の電子化です。
2019年4月1日の法改正により、書面で交付することが義務付けられていた労働条件通知書の電子化が解禁されました。
では、労働条件通知書の電子化に伴い、どのような変更点があるのか、どのような対応をすれば良いのかを企業サイドから詳しく解説していきます。
目次
労働条件通知書とは、企業が労働者を新たに雇い入れる際に交付が義務付けられている文書のことです。2019年3月31日までは、企業は労働者に対して労働条件を紙に印刷して交付する必要がありました。(労働基準法施行規則第5条第3項)
労働条件通知書には、絶対的明示事項として以下の点を記載しなければならないことになっています。
労働条件通知書は、正社員だけでなくパートやアルバイトなど全従業員に対して交付する必要があります。企業が内定・採用の段階で労働条件をしっかりと明示させることによって、労使間に生じる食い違いをなくして双方が合意のうえで雇用契約を締結できるのはもちろん、雇用後に労働条件が一方的に変更されて労働者が不利益をこうむるといったトラブルの回避へ繫がります。
このほか「雇用契約書」と「労働条件通知書」に関する詳しい内容は、
関連記事「労働条件通知書とは?雇用契約書との共通点や違い、明示すべき労働条件を解説!」をご確認ください。
2019年4月1日に施行された労働基準法施行規則により、労働条件通知書をメールなど書面以外の方法でも交付することが認められるようになりました。
では、具体的にどのような変更点があるのでしょうか。
(出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 「労働基準法施行規則」改正のお知らせ)
◆改正前(2019年3月31日以前)
これまで労働条件通知書は、企業が労働者に対して労働条件を明示した書類を印刷して交付する必要がありました。
労働基準法第15条には、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金および労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」と記されています。
さらに、労働基準法施行規則第5条第3項には、「厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする」とはっきり明記されています。
◆改正後(2019年4月1日以降)
ファクシミリやメールサービス、SNSメッセージサービス機能を利用して労働条件を明示すること。詳細は後述します。
2019年4月1日に施行された労働基準法施行規則により、労働条件の電子メールやファクシミリによる明示が認められるようになりました。
労働基準法施行規則第5条第4項では、
法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第816号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。
と記されています。
(参照:厚生労働省「「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について 『省令改正条文(平成30年9月7日公布)』 」)
労働条件通知書は原則「書面」での交付が義務付けられていますが、所定の要件を満たせば以下の様な交付方法も認められることになりました。
なお、電話番号宛に短い文字メッセージを送信できるSMS(ショート・メッセージ・サービス)による労働条件通知書の交付は禁止されていませんが、「PDF等の添付ファイルを送付することができないこと」「送信できる文字メッセージ数に制限があること」「原則である書面作成が念頭に置かれていないサービスであること」から、法律の趣旨からすると労働条件明示の手段としては望ましくありません。
労働条件通知書の電子化を認める要件には、以下の3つの条件が定められています。
労働条件通知書の電子化には、まず労働者がFAXや電子メール等での交付を希望していることが条件となります。
本人の意向を確認せずに電子メール等で労働条件通知書を送信してしまうと、労働基準関係法違反により、最高で30万円以下の罰金となることがあるため注意が必要です。
新たな労働者を採用する際は、内定段階で労働者に対して「FAXまたは電子メール等で送りますか? それとも書面で送りますか?」と確認しましょう。
労働条件通知書を労働者に送信する際は、「受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信による」、つまり本人のみ閲覧できるように送信する必要があると考えられます。
誰でもダウンロードできるような共有フォルダなどに労働条件通知書をアップロードするようなことのないよう細心の注意が必要です。
電子メール等により発行した労働条件通知書は、「労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成できる」、つまり紙にプリントアウトできるものでなければなりません。
たとえば、SNSなどの印刷を前提としないツールを用いた送信や、特定の電子デバイス上でしか閲覧できないもの、期限付きのファイルなどはこの要件を満たさないことがあります。
労働条件通知書を送信する場合は、印刷を前提としたツールで送信するよう心がけましょう。
それでは労働条件通知書を電子上で交付する場合、上記条件以外でどのような点に注意したらよいのでしょうか。
SNS本文に直接記載し労働条件を細切れに明示すると、印刷する際に途切れてしまうことがあります。
PDFファイルなど、できるだけ印刷しやすい形式で送信するようにしましょう。
労働条件を明示した日付や送信した担当者の氏名、事業所や法人名、使用者の氏名等を記入しないと、後でトラブルに発展する可能性があります。義務ではありませんが、書類を作成・送信する際は、詳細情報を送りましょう。
労働人口が減少している今、電子タイムカードやWEB給与明細、社内SNSなど、人事労務領域におけるペーパーレス化が加速しています。
今回の労働条件通知書の電子化もその一つ。便利になり業務効率化が図れる反面、内容をしっかりと理解しておかなければ罰則の対象になることもあり得ます。対応方法や注意点を確認しておくようにしましょう。
また入社手続きのフローをはじめとするペーパーレス化に対応するため、クラウドソフトの活用もオススメです。労働条件通知書の電子化の解禁を機に、クラウド人事労務ソフトの導入を進めてみてはいかがでしょうか。
ソビア社会保険労務士事務所の創業者兼顧問。税理士事務所勤務時代に社労士事務所を立ち上げ、人事労務設計の改善サポートに取り組む。開業4年で顧問先300社以上、売上2億円超達成。近年では企業の人を軸とした経営改善や働き方改革に取り組んでいる。
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