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36協定とは?特別条項・新様式・残業時間をわかりやすく解説【2023年版】

36協定とは?残業時間の上限と違反リスクを徹底解説【特別条項も詳しく】

監修者:岡 佳伸 社会保険労務士法人|岡佳伸事務所
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この記事でわかること

  • 36協定とは?基礎知識
  • 36協定違反とならない残業時間の上限
  • 特別条項付き36協定とは
  • 36協定の締結から届け出るまでの流れ

労働基準法の36条に基づく時間外労働(残業)や休日労働に関する協定、いわゆる「36協定」をご存知でしょうか?

2018年に労働基準法が改正され、大企業は2019年・中小企業は2018年から、時間外労働や休日労働を命じる場合はこの36協定を結ばなければいけなくなりました。

もし36協定を結ばずに時間外労働などをさせた場合、労働基準法違反となり罰則が科せられるおそれがあります。

そこでこの記事では、そんな36協定の基礎から2023年6月時点の最新の情報までをわかりやすく解説。違反とならない残業時間の上限は?特別条項付き36協定とは?36協定届の新様式って?など、いま知っておくべき内容をわかりやすく解説します。

目次

36協定とは?残業命令に必要な労使協定をわかりやすく解説

残業を命じるために36協定が必要な理由

36(サブロク)協定とは法定時間外労働・休日労働に関する協定です。労働基準法では、労働時間の上限である「法定労働時間」と、労働者の最低限の休日である「法定休日」が定められています。

労働基準法で定められている定義

注意点

上記の法定労働時間を超えての労働、または休日労働をさせる場合は、事前に事業主と従業員の代表間で労使協定を締結しなければいけません。

これは労働基準法第36条で定められていることから、時間外・休日労働協定を「36(サブロク)協定」と言います。なお労使間の協定締結だけでなく、36協定届を労働基準監督署に提出してはじめて事業主は時間外・休日労働を命じられるようになります。

届け出てもその36協定が有効なのは最長1年とし、定期的に見直すのが望ましいとされています。届出なしに従業員に時間外労働をさせた場合、労働基準法違反に該当するので注意しましょう。

大企業・中小企業ともに時間外労働時間(残業時間)には上限(限度時間)があり、臨時的に特別な事情がある場合でも、規定の上限を超えて従業員を労働に従事させることはできません。

36協定が必要な残業と、必要ない残業の違い

36協定の締結・届出が必要なのは、あくまでも法定労働時間外の労働を命じるケースです。

例)9時~17時(休憩1時間)勤務の場合
この方の所定労働時間は7時間です。
17時半まで働き、いわゆる30分の”残業”をした場合でも、1日の法定労働時間(1日8時間)に満たないため、法律上の”時間外労働”には該当しません。
36協定が必要ない残業

法律上では法定労働時間を基準とし、1日の労働時間が8時間を超えた時間、または1週の労働時間が40時間を超えた時間のことを「時間外労働」と言います。休憩時間については、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を付与しなればいけません。

所定労働時間を超えた=時間外労働をしたとはならないため、36協定の締結の要否は、法定労働時間を超えたかどうかで判断しましょう。

また休日労働についても、毎週土曜と日曜を所定休日とし、そのうち法定休日を日曜としている会社であれば、日曜日に労働をした時間は法定休日労働に該当します。しかし、土曜日に労働をした時間は法定休日時間に該当しません。

この章のポイント

  • 法定労働時間外に労働(残業)させる場合は36協定の締結が必要
  • 労使間で締結後、労働基準監督署へ36協定届を提出する必要がある

36協定で定める残業時間の上限は?

月45時間・年360時間の上限

2018年6月に働き方改革関連法である労働基準法が改正され、時間外労働(残業)に罰則付きの上限が設けられました。

時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別な事情がなければこの上限を超えてはいけません。なお、この上限には休日労働の時間は含みません。

改正前と改正後の36協定の違いについては、下記のとおりです。

労働基準法の改正ポイント

1 1年単位の変形労働時間制で労働する労働者の場合、月42時間・年320時間が上限。
2 休日労働の時間も含む。

この上限規制は大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用されています。ただし中には、上限規制の適用が猶予・除外されている事業や業務もあります。

残業時間の数え方と管理方法

時間外労働の上限である”月45時間”とは、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた労働時間の合計です。

時間外労働の合計が「45時間ちょうど」の場合は45時間を超えていないため、36協定違反(法令違反)となりません。

また、36協定の上限時間を管理・計算する際は「起算日」が基準となります。36協定の起算日について、法律で定められた決め方はありません。企業独自で起算日を定められますが、特別な事情がない場合は一般的に賃金計算の起算日と同じ日に設定されます。

この章のポイント

  • 2018年の労働基準法の改正により、時間外労働(残業)に罰則付きの上限が規定された
  • 36協定を締結しても時間外労働(残業)の上限は原則月45時間・年360時間

特別条項付き36協定とは?上限を超えた残業ができる条件

36協定で定める時間外労働にも上限(限度時間)があるとお伝えしましたが、この上限を延長できるのが「特別条項付き36協定」です。

特別条項を設けられるのは、予想することができなかった大幅な業務量の増加があった際など、臨時的な特別な事情がある場合のみです。

「臨時的な特別な事情」は、できるだけ具体的に定めなければいけません。下記の表に特別条項を設けられるケースの例を挙げてみました。

臨時的な特別な事情の例
臨時的な特別な事情
に該当するケース
・予算、決算に関する業務
・ボーナス商戦による業務の繁忙
・納期のひっ迫
・急な機械トラブルの対応
・⼤規模なクレームの対応 など
臨時的な特別な事情
に該当しないケース
・特定の理由を定めず、業務の都合上必要なとき
・特別な事情が年間を通じて適用されることである など

なお、特別条項付き36協定を締結する場合でも、法律で規定された上限(限度時間)があります。

上記に違反した場合は、罰則を科せられるおそれがあります。また特別条項を設けたとしても、時間外労働はできるだけ限度時間に近づけるようにしましょう。

この章のポイント

  • 臨時的に時間外労働の上限を超えた労働を命じたい場合は「特別条項付き36協定」を締結する
  • 特別条項を設けられるのは、臨時的な特別な事情がある場合のみ
  • 特別条項付き36協定を締結したとしても、時間外労働に上限はある(上限を超えた場合は罰則あり)

36協定の締結から届出までの手順を解説

36協定を締結してから届け出るまでの流れは、以下のとおりです。

36協定締結までの流れ
【引用】36協定届が新しくなります|厚生労働省

2021年4月から36協定届が新しくなりました。新様式の36協定届では、

①使用者の押印・署名の廃止(記名は必要)
②協定当事者に関するチェックボックスの新設

がされています。

新様式の36協定届

新様式について詳しく知りたい方は、36協定の新様式に関する記事を参考にしてみてください。また、36協定の届け出は電子申請が可能です。電子申請の場合、より簡単に手続きをおこなえます。

詳しい36協定の電子申請のやり方については「36協定の電子申請はどうやる?」の記事で解説しています。

1. 使用者と労働者代表の間で36協定を締結

36協定を締結するにあたって、まずは労働者の代表と使用者間で締結内容に問題ないかを協議します。新様式の36協定で協定しなければいけない事項は、下記のとおりです。

新様式の36協定の協定事項

限度時間を超える場合の36協定の協定事項

2. 新様式の36協定届の書き方と注意点

締結内容に双方で合意が取れたら、36協定届(様式第9号)を入手します。

届出の様式とその用途

届出書は、厚生労働省ホームページの主要様式ダウンロードコーナーからダウンロードできます。前述のとおり様式が変わっているので、新様式で届け出るようにしましょう。

また一般条項の36協定を届け出るのか、特別条項付き36協定を届け出るのかで記入用紙が異なります。特別条項付き36協定届の場合、2枚の用紙に記入しなければいけません。

▼36協定届(一般条項)

36協定届記入欄

36協定届(一般条項)様式第9号のダウンロードはこちら

▼36協定届(特別条項)

36協定届(特別条項)記入例
36協定届(特別条項)記入欄

36協定届(特別条項)様式第9号の2のダウンロードはこちら

(任意)と書かれている欄に関しては、記載しなくても構いません。上記画像内、黒塗り以外の部分は記載が必須です。

36協定届には、主に以下の事項について記入します。

この有効期間とは、前述のとおり定期的に見直しをおこなう必要が考えられることから、最長でも1年間とすることが望ましいとされています。

具体的な書き方・記入例については、厚生労働省が公開している「36協定届の記載例」「36協定届の記載例(特別条項)」をご参考ください。

36協定届の書き方・記入例

もし作成が難しい場合は、厚生労働省の作成支援ツールの活用もおすすめです。

3. 労働基準監督署への提出方法

36協定締結後は、所轄労働基準監督署への届出が必要となります。協定書そのものに関しては提出する必要はありません。

また、協定書と届出書は兼ねることもでき、この場合は届出書に労働所の署名または記名押印し、その協定書の写しを事業場に3年間保存しておくとされています。

届出書は2部提出することになっています。提出の際に受付印が押され、届出書の1部は所轄労働基準監督署へ、もう1部は事業場の控えとして返されます。

そして、36協定はこの届出をもって有効となるため、必ず有効期限の開始までに届け出るようにしましょう。

36協定の締結・届出は事業場単位で必要

36協定は、事業場ごとに締結・届出をおこなわなければいけません。たとえ労働者が1人でも、時間外労働を命じる場合は36協定の締結は必要です。

一つの会社で複数の支社や支店を構えている場合は、原則それぞれの事業場で36協定を結び、所轄の労働基準監督署に届け出ましょう。

36協定届を本社一括届出ができる条件

ただし、例外的に本社などと一括で届け出ることができるケースもあります。36協定の本社一括届出が利用できるのは、下記以外の協定内容が同一である場合です。

なお、電子申請の場合は協定の労働者側の当事者が事業場ごとに異なっていても、本社一括届出の利用ができます。

4. 労働者への周知義務

36協定の届け出までおこなったら、労働者に締結完了の旨を周知しましょう。周知する方法は、社内の掲示板に掲載する、メールで周知する、書面を交付するなどが挙げられます。

この章のポイント

  • 36協定は労使間で締結内容の協議を行い締結した後に、36協定届(様式第9号)を自ら入手し届け出る
  • 36協定届(様式第9号)の書き方・記載例は厚生労働省が公開している
  • オンライン上で届出が完了する電子申請も可能

36協定は誰と締結する?労働者代表の条件と選出方法

36協定の締結は、使用者と労働者の代表間でおこなわれるものです。

36協定を締結する相手
事業場に労働者の過半数で
組織する労働組合がある場合
当該労働組合と協定
事業場に労働者の過半数で
組織する労働組合がない場合
労働者の過半数を代表する者
(以下:過半数代表者)を選出し、
労働者側の締結当事者とする

過半数代表者を選出する場合は、いくつかの注意点があります。

過半数代表者になれる条件と選出方法

過半数代表者の対象者となるには、以下の条件を満たしていなければいけません。

「管理監督者」とは、経営者と同じ立場で労働条件の決定や労務管理などをおこなう方のことを指します。上記の条件を満たしている人の中から、過半数代表者の選出を目的とした投票あるいは挙手などで選出します。

万が一、使用者の意向による選出や親睦会の幹事などを自動的に過半数代表者にした場合、その協定は無効となるため注意が必要です。

この章のポイント

  • 36協定は使用者と労働者の代表間で締結する
  • 労働者の過半数が組織する組合がない場合は、労働者の中から過半数代表者を選出する
  • 管理監督者は、過半数代表者になれない

36協定を結ばなかったらどうなる?違反時の罰則とは

企業が36協定を締結せずに、従業員に時間外労働(残業)をおこなわせる場合、労働基準法違反として企業に罰則が科せられます。また36協定を締結していても、時間外労働の上限を超えて労働させた場合は罰則の対象です。

本章では、労働基準法違反となる例やその場合に科せられる罰則などを紹介します。

違反時の罰則:6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金

労働基準法の改正前までは、36協定で定める時間外労働の上限が告示によるもので、企業が労働者を何時間残業させようとも、違反・罰則となることはありませんでした。そのため、36協定締結によって長時間の残業を強いられるケースが問題となることも。

しかし、2018年の法改正で時間外労働の上限が罰則付きで規定されたため、下記のケースなどは労働基準法第32条・35条の違反となります。

法律違反となった場合、使用者(事業主)には労働基準法119条1号の6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科される可能性があります。

また、各種業務のうち「有害業務」の時間外労働に関しては、1日2時間を超えることができないとされており、それ以上の労働をさせた場合にも罰則が科されます。

この有害業務の内容には、有機溶剤業務や強烈な騒音を発する場所における業務などが含まれています。

36協定違反をしても原則企業側に報告義務はない

36協定違反は労働者が通報することも

時間外労働時間の管理ミスなどにより月45時間を超える残業をさせ、36協定を違反してしまった場合でも、原則企業側から労働基準監督署などに報告する義務はありません。

しかし、二度と36協定違反を起こさないように管理方法の見直しおよび改善を徹底する必要があり、労働局や労働基準監督官より報告を求められた際は、報告義務が発生するため報告要請に応じる必要があります。

36協定違反が発覚する流れ

企業において36協定違反が横行しているような場合、労働者は労働基準監督署に報告(通報)できます。

労働者から労働基準監督署に36協定違反が報告された場合、労働基準監督署による調査がおこなわれ、36協定違反が発覚した場合は企業に対して是正勧告がおこなわれます。

実際に上限規制が罰則つきとなった法改正後は、違法な時間外労働や休日労働をさせていたとして、事業主が労働基準法違反の疑いで書類送検されるニュースが度々報じられています。

2023年2月には、学校法人の教職員1人に対し36協定を締結せずに約10分間の時間外労働を命じたなどとして、同法人と人事労務の部長が書類送検されたことが明らかになりました。

提出期限を守らなかった場合のリスク

時間外労働時間の上限以外で注意すべき36協定違反

時間外労働の上限以外の36協定違反の例として「必要な手続きを踏まずに、時間外労働をおこなわせてしまった」ケースが挙げられます。

使用者が労働者に法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合は「書面による協定」が必要であり、労働基準監督署に届け出ることが義務づけられています。

書面で協定し、労働基準監督署に36協定書を届け出なければ、36協定が締結されたとはみなされません。必要な手続きを無視し、時間外労働や休日労働をおこなわせた場合、労働基準法違反とみなされるため注意が必要です。

この章のポイント

  • 時間外労働や休日労働の上限を超えると、労働基準法第32条・35条の違反となる
  • 罰則は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
  • 36協定届を提出しないと締結したとみなされないため注意が必要

36協定の適用除外・猶予が認められる業務とは?

2024年3月31日までの上限規制の猶予がある事業

以下の事業は、2024年3月31日まで上限規制の適用が猶予されています。

また、猶予後も上限規制の適用が除外となる業務があります。下記の表を確認しておきましょう。

上限規制の猶予・除外となる事業の取り扱い
2024年3月31日まで 2024年4月以降
建設事業 上限規制の適用なし ・災害時の復旧・復興事業を除き、上限規制が適用
・災害時の復旧・復興事業は月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内の規制適用なし
自転車運転の業務 ・特別条項付き36協定の場合:年960時間が上限
・月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間の規制適用なし
・月45時間超えは半年までの制限あり
医師
鹿児島・沖縄の
砂糖製造業
複数⽉平均80時間以内、
⽉100時間未満とする
規制のみが適用なし
・上限規制がすべて適用
・猶予期間中も月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内の規制あり

36協定を締結できないケース

満18歳に満たない労働者には、労働基準法第60条に基づき、36協定を結んだとしても時間外労働や休日労働を命じることはできません。

また妊婦の方は、時間外労働や休日労働の免除を請求することが可能です。申し出があった場合、1日8時間・1週40時間を超える労働を課すことはできなくなります。

育児や家族の介護をおこなう労働者が請求した場合も、1カ月24時間・1年150時間を超える時間外労働は命じられません(事業の正常な運営を妨げる場合を除く)。しかし対象となる労働者には、条件があります。

時間外労働の制限
対象者となる条件 対象外となる条件
育児を
おこなう労働者
小学校就学の始期の
子供を養育している
・継続雇用期間が1年に満たない
・1週間の所定労働日数が2日以下
介護を
おこなう労働者
要介護状態にある
対象家族を介護している

管理監督者も36協定を締結できない

また、使用者と同じ立場であると認定される管理監督者(管理職)も、36協定が適用されません。
この場合の管理監督者とは、労働基準法によって定められた要件に該当する管理監督者のことを指します。

そのため管理監督者は労働時間(時間外労働時間)の制限を受けず、時間外労働や休日出勤などをおこなっても残業代や割増賃金は発生しません。

この章のポイント

  • 建設業・医師・自転車運転の業務などについては、2024年3月31日まで時間外労働の上限規制が猶予されている
  • 2024年4月以降も、一部上限規制の適用が除外となる事業・業務がある
  • 満18歳に満たさない未成年の労働者には時間外労働・休日労働を命じられない
  • 妊婦や育児・介護をおこなう労働者は時間外労働について、免除や時間の制限を請求できる

36協定のメリット・デメリットを解説

36協定の締結によって、生産性の向上などが期待できる一方で、労働時間の計算や管理などの関連業務は、複雑で手間がかかります。

このように36協定には、企業側と従業員側のそれぞれにメリット・デメリットがあります。双方にデメリットが生じる可能性があることを理解したうえで、必要な改善点を見いだし、適正な運用を心がけましょう。

企業側のメリット・デメリット

36協定における企業側のメリットは、次の3点が挙げられます。

 コンプライアンスの強化

人手不足や繁忙期などさまざまな事情により、ほとんどの企業では法定労働時間を超える時間外労働(残業)がおこなわれています。

しかし36協定を締結せず、従業員に時間外労働をさせることは「労働基準法違反」です。36協定を締結した場合、企業は法の範囲内で時間外労働をおこなう義務が生するため、コンプライアンスの強化につながります。

労働生産性の向上

無駄な時間外労働(残業)を減らすことで必要・不要な業務の洗い出しができ、労働生産性の向上につながります。労働生産性の向上は、業務改善だけでなく人件費削減につながることもメリットです。

離職率の低下

時間外労働(残業)の多い企業は従業員が抱える業務負担が多く、精神的・体力的にストレスを抱えやすくなるため、離職率も高くなる傾向があります。

そこで36協定の締結により時間外労働の上限を設けることで従業員の業務負担を減らし、結果的には従業員の離職リスクを下げるためにも有効的です。

反対に36協定における企業側のデメリットは、以下の3点が考えられます。

労働時間および人件費の増加

36協定の締結により、時間外労働(残業)が可能となることで、労働時間と人件費が増加します。時間外労働は時間数によって「割増賃金」も発生するため、やむを得ない場合を除き、極力法定労働時間内で従業員が業務を終わらせられるよう努力することが大切です。

労働生産性の低下

時間外労働(残業)が可能となることで「残業が当たり前」となってしまい、従業員ひとりひとりが「定時時間内に業務を終わらせる」という意識が薄くなる可能性があります。

必要のない時間外労働は労働生産性を下げ余分な人件費もかかるため、時間外労働が増えている場合は注意が必要です。

労働時間管理業務の増加

企業は、従業員ひとりひとりの労働時間(時間外労働時間)を正確に把握・管理しなければなりません。特に雇用形態の異なる従業員を複数雇っている場合や、変則的な勤務体制を導入している企業は、労働時間の計算ミスが発生しやすいため注意をしましょう。

従業員側のメリット・デメリット

次に、36協定における従業員側のメリットとデメリットを紹介します。

健康維持およびワークライフバランスの向上

36協定の締結により過度な時間外労働(残業)を防止することで、従業員の過労を防ぎ、健康維持につながります。

また、時間外労働が一定の時間に制限されることによってプライベートの時間が増え、ワークライフバランスの向上にも効果的です。結果、従業員の身体的・精神的ストレスが軽減され、心身ともに健康な状態で仕事に従事することができます。

労働時間が増加する可能性がある

36協定の締結により時間外労働(残業)が可能となるため、場合によっては労働時間が増加することとなります。法定時間内では終わらない業務を抱える可能性が高くなり、従業員にとっては大きなストレスとなるでしょう。

36協定違反を防ぐための企業が注意すべきポイント

36協定違反とならないためには「時間外労働時間の管理」と「労働者の健康と福祉の確保」を徹底管理することが大切です。

残業時間の管理方法

36協定を締結していても、法律で時間外労働の上限規制が定められた今、時間外労働時間についてより一層注意して管理する必要があります。

時間外労働時間の管理方法はさまざまですが、労働者が多ければ多いほど管理者の負担も増え、管理作業も複雑化しミスが起きやすいです。

業務効率化を図り、人的ミスによるリスクを回避するためには、勤怠管理システムの導入による時間外労働時間の管理がおすすめです。

労働者の健康管理と36協定の適用

特別条項付きの36協定を締結する場合、企業は労働者の「健康福祉確保措置」を記入することが義務づけられています。健康福祉確保措置では、

  • 終業から始業時間までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること
  • 労働者の勤務状況および健康状態に応じて、健康診断を実施すること

などが定められています。

労働者の健康を考慮し、時間外労働を最小限におさえるよう努力することは、企業にとっての重要な責務のひとつです。

36協定の留意すべきポイントとは?

36協定を締結する際は、上記で述べた「時間外労働時間の徹底管理」「労働者の健康と福祉の確保」に留意するほか、労働基準法第5条で定められている「安全配慮義務」に留意しましょう。

安全配慮義務では、企業は従業員の安全・健康について合理的に配慮しなければならないとされています。

36協定の締結によって長時間労働が課される場合は従業員の健康被害のリスクを高める傾向があるため、従業員の健康について十分に配慮しなければなりません。

安全配慮義務の違反について罰則は定められていませんが、違反により従業員の健康被害をおよぼす可能性があります。それだけでなく「損害賠償請求の可能性」や「企業の社会的信頼の損失」のリスクを高めてしまうため、注意が必要です。

36協定を締結した場合においても、時間外労働は最小限におさえる努力をしましょう。

まとめ:36協定の重要性と適切な運用方法

今回は、36協定の基本的な情報を解説しました。

使用者として労働者に労働をさせる場合には、法定で定められた労働時間を遵守するとともに、時間外労働をおこなう場合の届け出も正しく理解しておく必要があります。

また、協定の作成や届出を怠ると罰則が科せられる可能性もあり、そうなると企業のイメージダウンにもつながります。36協定について理解を深めるとともに、労働時間の管理をしっかりとおこない、労働者との関係を強固なものにしていきましょう。

社会保険労務士法人|岡佳伸事務所 監修者岡 佳伸

社会保険労務士法人|岡佳伸事務所の代表、開業社会保険労務士として活躍。各種講演会の講師および各種WEB記事執筆。日本経済新聞女性セブン等に取材記事掲載。2020年12月21日、2021年3月10日にあさイチ(NHK)にも出演。
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