近年、メンタルブレイクやメンタルヘルス不調の従業員やが増えてきており、対策として相談窓口を設置している会社も多くなっています。担当者の皆さんも労働契約上においては、会社は従業員に対して安全配慮義務を負っていることはご存じでしょう。
しかし、上記のような相談窓口を従業員に用意するだけでは、安全配慮義務を果たしているというには不十分です。
今一度、安全配慮義務とメンタルヘルスについて確認してみましょう。
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安全配慮義務とは、労働者が安心して、生命や身体の安全が確保された中で働けるように、使用者が配慮する義務のことです。労働規約に明記されていなくても、安全配慮義務は守るべき義務として認められています。
2009年(平成21年)に労働契約法第5条が改正されるまでは、民法にも規定はなかったのですが、裁判での判例が積み重ねられ、コンセンサスを形成してきました。現在では、安全配慮義務について明文化されています。
使用者が安全配慮義務を怠り以下の条件を満たす場合は、労働者に対して賠償しなければなりません。
この賠償は、労災認定による治療費補償と同時に請求される場合もあります。また、労働者の安全には心身の健康も含まれることに注意してください。
厚生労働省公式サイトの「みんなのメンタルヘルス総合サイト」によると、日本人のおよそ40人に1人に当たる320万人がこころの病気で治療をしています(平成23年)。
また、同じく厚生労働省が2017年(平成 29 年)に行った「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況では、正社員でメンタル不調が原因で1カ月以上休職した労働者は全体で0.4%、メンタル不調が元で退職した労働者は0.3%いました。
こころの病気は、誰でもかかりうる病気で、生涯でこころの病気にかかる経験をする人は日本人のおよそ5人に1人とも言われているのが実態です。その一方で、じっくりと時間をかけることで治る病気でもあります。
こころの病気が厄介な点は、身体的な病気や怪我とは異なり、目に見えにくく周囲からは分かりにくいことです。使用者側からメンタルヘルスの実態を把握する方法として、「ストレスチェック」が制度化されていますので次項で解説します。
企業におけるメンタルヘルス対策については、改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度が実施されています。また、厚生労働省で指針が示されていますので順番に見ていきましょう。
メンタルヘルス対策の目的は、全従業員のこころの健康向上および、メンタル疾患に陥った労働者へのフォロー、安全衛生義務の履行です。
事業場でのメンタルヘルス対策の柱は、一次予防と二次予防、三次予防の3本になります。
これらを実現するため、4つのケアも定められています。
事業場内資源によるケアの中に「衛生推進者」があります。事業場内メンタルヘルス推進担当者の役割は以下の通りです。
<事業場内メンタルヘルス推進担当者の役割>
・心の健康づくり計画の策定・労働者への周知・実行状況の把握の実務
・セルフケア、ラインによるケアを推進するための労働者教育、管理監督者教育の計画・立案・実施・評価の実務
・事業場内のメンタルヘルスに関する相談窓口
・事業場外資源との連携の窓口
引用元:安全衛生キーワード>メンタルヘルス推進担当者|厚生労働省 職場のあんぜんサイト(http://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo87_1.html)
安全配慮義務違反を起こしたことにより労働災害などが発生した際、企業は以下の責任が問われます。
<労働災害に問われる企業の責任>
・刑事上の責任:労働安全衛生法違反、業務上過失致死傷罪
・民事上の責任:不法行為責任や安全配慮義務違反による損害賠償
・行政上の責任:作業停止・使用停止等の行政処分
・補償上の責任:労働基準法及び労働者災害補償保険法による補償
・社会的な責任:企業の信用低下、存在基盤の喪失
引用元:労働災害の発生と企業の責任について|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei14/dl/081001-1b_0006.pdf)
かなり広い範囲での責任が問われますが、民事上の損害賠償や社会的な信用失墜は、企業活動の継続にもかなりのダメージとなりえます。
長時間労働による過労死や自殺による裁判の結果、企業側に支払いを命じた判例を見ても、賠償額は高額になる場合も少なくありません。
このような状況を招かないよう、安全衛生委員会による活動とともに、メンタルヘルス対策も整えていくよう今一度自社の制度などを見直してみてはいかがでしょうか。
安全配慮義務とメンタルヘルスについて、概要と会社で必要な対策を中心に解説しました。安全配慮義務は労働規約に明記していなくても問われるものであること、メンタルヘルス対策は重要であることがポイントです。
自社の安全衛生活動やメンタルヘルス対策について、再度確認して不足している部分はブラッシュアップするなど、検討をする際にご紹介した情報をお役立てください。
上場の建設会社にて情報システムの開発、運用、管理を経験した後、人事部に異動して給与計算、社会保険手続きから採用・退職など、人事労務管理に約12年従事。やまもと社会保険労務士事務所の所長、特定社会保険労務士。
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