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パワーハラスメントの定義とは?6つの種類(類型)と過去の事例を紹介

パワーハラスメントの定義とは?6つの種類(類型)と過去の事例を紹介

監修者:堀 智弘 弁護士法人堀総合法律事務所
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パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場内の優位性を背景に業務の適正範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為です。人手不足や労働環境の変化により、ここ数年でパワーハラスメントが増加し、社会問題化しています。

今回はパワーハラスメントの定義や種類、パワハラに該当するポイント、過去のパワハラ事例、企業対策を中心にご紹介します。

パワーハラスメント(パワハラ)とは

パワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為です。

パワーハラスメントは職場環境の悪化や社員の離職、社員の健康被害などさまざまなデメリットを生み出します。管理職としてパワーハラスメントの定義や背景を知り、パワーハラスメントを未然に防がなければなりません。

【参考】あかるい職場応援団|厚生労働省

パワーハラスメントの定義

職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素を全て満たすものであると定義されています。

パワーハラスメントを認定する判断基準は、主に「業務の適正な範囲を超えたかどうか」が争点になります。

業務の適正な範囲とは

業務上指揮監督や教育指導において、必要かつ合理的と認められる範囲を指します。

業務の適正な範囲は各企業によっても差がありますので、各企業において具体的な事案を明示し、その範囲を定義していく取り組みが必要です。人事労務担当者や部下を持つ上司は、どういった行為が該当するかを認識しておきましょう。

また管理職だけでなく、OJTや現場でのサポート役である先輩・後輩間での言動、そして同僚間でのいじめや嫌がらせもパワーハラスメントに認定されます。

パワーハラスメントが起きる原因

パワーハラスメントが起きる原因には「経営環境の変化」「日本企業の組織体質」の2点が挙げられます。

現代の日本ではグローバル化による競争激化や人手不足など経営難に陥りやすい環境に変化していますが、利益を追求する企業の姿勢には変わりありません。

しかし、確実に業務量が増加しビジネス課題も高度化・複雑化しているため、管理職以上の社員が過度なストレスを抱えていると考えられます。その結果、立場の弱い社員への不適切な言動が増え、パワーハラスメントが蔓延するようになったといえます。

また、トップダウンによる指示や精神論を前提とした働き方など、日本企業の古い組織体質もパワーハラスメントを助長させる原因でもあります。

パワーハラスメントに当たらない指導事例

業務上、支障をきたす問題や行動がみられた場合、監督責任を有する上司は適切に指導しなければなりません。適正な指導を行うためには、以下のポイントを押さえましょう。

パワハラに認定されないためには、精神的・肉体的に過度な苦痛を与えることなく、指導・教育を行わなければなりません。客観的、および社会通念上「業務の適正な範囲」と認定できれば、たとえ部下からの異議申し立てや不満があったとしても問題ありません。

パワーハラスメントの6類型

パワーハラスメントは少なからず身体面・精神面への影響を伴いますが、身体面や精神面への直接的な攻撃だけでなく、それ以外の間接的なものもパワーハラスメントになりうることを意識しなければなりません。

ハラスメントの種類は複数あります。中でもパワーハラスメントは大きく分けて、6種類(6類型)に分けられます。

1. 身体的な攻撃

殴る・蹴るなどの暴力や罵詈雑言を浴びせる行為は、業務との関連が認められないことが多く、パワーハラスメントに認定されやすいといえます。たとえば灰皿で殴るなどは論外ですが、資料などで頭を叩くなども身体的な攻撃に該当し、パワーハラスメントとなります。

2. 精神的な攻撃

一般的に心身的に名誉を毀損する業務命令や、言葉により精神的苦痛になり得る行為もパワーハラスメントとなり得ます。

また、上司・部下の関係性の悪化は職場環境も悪化させる要因となるため、指揮監督や教育指導においては業務上不要な言動は避けるべきです。以下の点を踏まえて、精神的な攻撃に該当するか判断しましょう。

他の社員がいる前で叱る行為

見せしめの意図があれば、パワーハラスメントに認定されやすいといえます。

感情的に叱る・怒鳴る行為
人格否定、尊厳を傷つける発言

「だからお前はダメだ!」、「義務教育からやり直してこい!」、「親の顔が見てみたい!」などの発言

企業の負担や損害の発生を抽象的に伝える発言

「みんなお前のことを迷惑だと思っている」、「お前のせいでプロジェクトがダメになった」などの発言

責任や事態の重さを理解してもらうために伝えることが必要な場合も想定されます。そのため、上記の発言が必ずしもパワーハラスメントにならない場面もあります。

脅迫に近い改善指導

「次やったら、クビな」、「ぶっ飛ばすぞ」などの発言・脅迫

適正な手続きを踏まない、就業規則にない私的な懲戒処分

毎日のトイレ掃除やコピー係など直接業務に関係のない業務命令など

3. 人間関係からの切り離し

組織内での仲間はずれや無視、意図的なコミュニケーションの欠如、不平等な待遇・扱いは、職場の人間関係を意図的に悪化させるパワーハラスメントとなり得ます。

情報を共有しない、席の隔離、口頭で連絡しないなど。

4. 過大な要求

遂行不可能な業務量の押し付けや長時間労働の強要は、過大な業務要求としてパワーハラスメントとなり得ます。

5. 過小な要求

能力や経験とかけ離れた程度の低い業務の指示、強要、意図のない単純労働(コピー取りやお茶汲みなど)などの強制は過小な要求となり、パワーハラスメントに当たり得ます。

6. 個の侵害

  • 家族や交際相手などのことを執拗に尋ねる
  • プライベートな領域に踏み込んだ質問を行う
  • 携帯の画面を覗き込む

などは個の侵害に当たり、パワーハラスメントとなり得ます。

有給休暇の理由を聞いて取得拒否することも権利の侵害として、パワーハラスメントに該当する可能性があります。

実際にあったパワーハラスメントの裁判事例

ここからは、過去にパワーハラスメントとして認定された裁判事例をご紹介します。

川崎市水道局(いじめ自殺)事件

川崎市で起きたパワーハラスメントに関する事件です。裁判は2002年6月27日に行われました。

川崎市水道局の工事用水課工務係に配属されたAさんは、配属後1カ月ほど経った後、複数の上司からAさんの存在を否定するかのような発言を受け、ときには果物ナイフを突きつけられるなどのいじめを受けました。

いじめは約6カ月間も続き仕事を休みがちになったため、医療機関で治療を受けました。しかし、その後配属から約2年後に「かつての上司複数人への恨みの気持ちが忘れられない」と遺書に書き残して自殺しました。

Aさんのご両親は「上司によるパワーハラスメント行為がAさんのいじめが自殺につながった」と主張、訴えを起こしました。約2年後、いじめと自殺には事実上の因果関係があると認められました。

中でも責任者である課長もいじめ行為に加担したことや、適切に対処しなかった責任者も安全配慮義務を怠ったと判断されていることから、社内いじめへの適切な対処は管理職の責任といえます。

【参考】公益社団法人全国労働基準関係団体連合会

航空会社退職強要事件

Bさんは、〇社に勤める客室乗務員として昭和48年から18年以上勤務を続けていましたが、タクシーで勤務に向かう際に事故に遭い労災認定を受け、約4年間休業・休職しました。

その後、復職訓練を受けましたが3回とも不合格と判断。その間、上司にあたるC氏はBさんに仕事を与えず、30回以上の面談を行って退職を迫り、復職訓練3回目の不合格となった後に、労働能力が低下したことなどを理由に就業規則の解雇事由である「労働能力の著しく低下したとき」に該当するとして、Bさんを解雇しました。

Bさんはこの解雇の無効を主張、それにくわえてC氏の退職強要により精神的苦痛を受けたとして慰謝料請求を行いました。

本件について「労働能力の著しく低下したとき」に該当するような労働能力の低下は認められず、就業規則に規定される解雇事由「準じる程度のやむを得ない理由があるとき」にも該当しないと判断されました。

また、C氏のBさんへの対応について、面談の頻度・その時間の長さ・言動などは社会通念上許容しうる範囲を超えており、退職勧奨の違法性を認めた裁判例となっています。

こちらは、直接的なパワーハラスメントの裁判例ではありませんが、退職勧奨の過程でパワーハラスメント行為に該当する行為が発生する可能性があるため、注意が必要です。

2020年6月から労働施策総合推進法が改正

2020年6月から労働施策総合推進法の改正が施行されます。大きな改正のポイントは2つあり、職場におけるパワーハラスメント防止のため、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となります。

パワーハラスメント対策の法制化

パワーハラスメントが起きないよう、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となります。

2020年6月1日に施行され、パワーハラスメント防止措置等の実施義務については、中小企業は公布(令和元年6月5日)後、3年以内の政令で定める日(令和4年3月31日)までの間は努力義務となることが決まりました。

【参考】パワーハラスメント対策等 厚生労働省 東京労働局

セクシュアルハラスメント等防止対策の実効性の向上

セクシュアルハラスメント等の防止対策実効性の向上のために、

の改正も行われます。

従来よりもパワーハラスメント・セクシャルハラスメントなどのハラスメントに対して厳しく、また明確化された法律に改正されることとなります。

【参考】職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)│厚生労働省

パワーハラスメントをなくすための企業ができる対策

パワーハラスメントに明確な定義や基準がない以上、普段から部下との接し方には注意が必要です。そのため、日頃から以下のポイントに注意しましょう。

業務の適正範囲を定義する

パワーハラスメントには明確な定義がないため「業務の適正な範囲」を拡大解釈する管理職も少なくありません。具体的な事案の提示や管理職自らが自分の言動を確認できるチェック表を作成し、対象となる管理職に周知していくことが大切です。

研修を通した意識改革をおこなう

世代間の価値観が異なる現代では、働き方や仕事・業務に対する考え方、意識も社員毎に異なってきます。

世代間のギャップを解消するためには、研修を通して管理職が自身の言動や意識が職場に合っているかを振り返る機会の設置が効果的です。

自省を促す適切な対応をする

懲戒を通じて、部下の自省を促すことは効果的な教育・指導です。しかし、一方的な感情表現や恣意的な言動、対象者の人格や尊厳を傷つける行為・懲戒は明確なパワーハラスメント行為にあたり得ます。

また、上司・部下の関係性によってもメッセージの受け取り方が異なります。そのため、受け手によって異なる感情(忠誠心や復讐心)や印象を持たれないように、普段から信頼関係をしっかりと築くことが重要です。

まとめ

パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場内の優位性を背景に業務の適正範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為全般を指します。身体的・精神的な攻撃だけでなく、人間関係や個人・人権を毀損する行為もパワーハラスメントと認定されます。

しかし明確な定義や基準はなく「業務の適正な範囲」も線引きが難しいため、企業が率先して、研修を通じた管理職の意識改革をおこなうべきでしょう。

弁護士法人堀総合法律事務所 監修者堀 智弘

2017年に堀総合法律事務所を開設。2020年に弁護士法人堀総合法律事務所を設立。詳しいプロフィールはこちら

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