この記事でわかること・結論
- 男女雇用機会均等法は性別による雇用上の差別をなくし、均等な機会と待遇を保証することを目的としたもの
- 法改正により、妊娠・出産等に関するハラスメント防止措置義務が新設され、マタニティーハラスメント対策が強化された
- 違反した場合の罰則には20万円以下の過料や企業名の公表があり、セクシュアルハラスメントには民事責任が問われる場合も
この記事でわかること・結論
1986年に努力義務として男女雇用機会均等法が施行されてから、30年あまりが経過しました。現在では育児・介護休業法や女性活躍推進法などの関連法令とあいまって、日本国憲法に定める「両性の(法の下の)平等」を実現するだけでなく、女性の社会進出の促進までを射程とした広範な権利・義務を規定する重要な法令として位置づけられています。
平成29年度に法改正された情報を交えつつ、同法の概要について解説します。
目次
男女雇用機会均等法のそもそもの主旨は、性別に関わらず労働者が均等な雇用の機会を得、1人1人の能力や仕事に対する意欲によって、均等な待遇を受けられるようにすること、企業の制度や方針において性別による差別をなくしていくということにあります。
男女の双方を保護の対象とし、雇用においてのあらゆる場面で差別を禁止する法律が均等法です。具体的に事業主は、次の項目に対して労働者の性に基づく差別的扱いをしてはいけないと定められています。
一方で、会社内で女性の数が少ないために女性のみで構成される支店を作るなど、「ポジティブ・アクション」と呼ばれる男女労働者の間で生じている差を解消するための取り組みは男女雇用機会均等法の差別に該当しません。
また、直接的な差別ではなくても、間接的に差別を行う「間接差別」というものがあります。
性別以外を理由として、合理的な理由がないにも関わらず片方の性の労働者に相当程度の不利益を与えることを指します。労働者の身長や体重、体力要件を採用基準としていたり、昇格や採用において転居を伴う転勤が可能であることを要件としていたりすることは間接差別となります。
平成29年1月に男女雇用機会均等法が改正され、妊娠・出産等に関するハラスメント防止措置義務の新設されました。
改正前 | 改正後 | |
項目 | 不利益取扱い禁止 (均等法第9条3項、育・介法第10条等) |
左記に加えて防止措置義務を新規に追加 |
禁止・義務の対象 | 事業主 | 事業主 |
内容 | 妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由とす る不利益取扱いをしてはならない。
※就業環境を害する行為を含む |
上司・同僚などが職場において、妊娠・出 産・育児休業・介護休業等を理由とする就 業環境を害する行為をすることがないよう 防止措置※を講じなければならない。 ※ 労働者への周知・啓発、相談体制の整備等の内容 を想定。指針で規定。 |
近年「◯◯ハラスメント」という言葉が頻繁に使われているように、労働者が一方的に不当な扱いを受けるというケースが多く見られるようになりました。男女雇用機会均等法では「妊娠、出産等に関するハラスメント対策」に関する法改正が行われ、平成29年1月1日に施行されました。
この改正により、妊娠や出産に対するマタニティハラスメントの防止措置を講じることが事業主の義務となりました。同様に、セクシュアルハラスメントに対しても被害者からの相談に応じる環境の整備や、防止措置を講じることが事業主に義務付けられています。
また、男性社員の育児休業なども近年増えてきていますが、男性の育児参加に対する機会の侵害をパタニティハラスメントと呼びます。いかなるハラスメントに対しても、事業主はそれを防止することや相談窓口などの環境の整備が必須となっているのです。
男女雇用機会均等法は、事業主と労働者の間で紛争が発生した際の救済措置として、次のように定めています。
事業主は労働者から苦情の申請を受けた際、各企業内に事業場における労働者の苦情を処理するための機関として苦情処理機関を設置し、その当該苦情の処理をゆだねる等、自主的な解決に努めなくてはなりません。この苦情処理機関は、事業主を代表する者および当該事業場の労働者を代表する者を構成員としています。
これは採用や配置、福利厚生やマタニティハラスメント・セクシュアルハラスメントなどのトラブルに関して、各都道府県の労働局長が紛争関係にある労働者と事業主から事情を聴取し、必要な場合は調査を行い、適切な助言や指導、勧告をして紛争解決の援助を行うというものです。
第三者による公正・中立な立場の機関によって紛争の解決を目指すというものです。この調停は指名された3名の調停委員によって、紛争関係にある労働者と事業主の双方のうち両者、もしくは一方から調停の申請があり、その必要性が認められた場合に「機会均等調停会議」が行われます。
男女雇用機会均等法に違反した疑いがある場合、厚生労働大臣は事業主に対して報告を行わせることができます。この報告によって法律違反が認められた場合、助言や指導、勧告が行われ、事業主は解決に向けた措置を講じなければいけません。
上記のいずれかに該当する事業主には20万円以下の過料が処され、勧告に従わなかった場合は企業名が公表されることになります。このように、過料や企業名公表といった社会的な制裁を用意することで、差別などの法律違反を減らす効果が出てくるのです。
ほかにも、セクシュアルハラスメントに関しては、男女雇用機会均等法違反での制裁以外に裁判によって民事責任を問われる可能性があります。実際にセクハラを行った労働者に対して、慰謝料を支払う判決が下された事例も発生しています。
いずれの場合も法律を違反すると厳しい制裁が行われるため、事業主は未然に相談窓口の設置など対策をとることが重要となります。
今回は、男女雇用機会均等法について紹介してきました。冒頭でも述べたように、男女雇用機会均等法が施行されて30年あまり経っていますが、企業内でのハラスメントが近年注目されるようになるなど、男女雇用機会均等法の意義が改めて深まってきているといえます。
男女雇用機会均等法に違反した場合、厳しい社会的制裁が行われるほか、裁判にまでもつれ込むケースもゼロではありません。労務担当者は労働者と事業主の間でトラブルが発生しないようにするためにも、改めて男女雇用機会均等法の内容について確認しておくようにしましょう。
社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー 代表社会保険労務士:
楚山 和司(そやま かずし) 千葉県出身
株式会社日本保育サービス 入社・転籍
株式会社JPホールディングス<東証一部上場> 退職
詳しいプロフィールはこちら