この記事でわかること・結論
- パタハラとは男性が育児休業などを取得することにより嫌がらせを受ける行為のこと
- パタハラの主な発生要因は価値観のズレや、育児休業への体制不備など
- 育児・介護休業法で防止対策を講じることが義務づけられている
この記事でわかること・結論
パタニティハラスメント(パタハラ)とは、男性が育児休業などを取得することに対しての嫌がらせ行為などを指します。
男女のこういった役割であるべきという価値観が残っていることや、育児休業について組織内での体制が整っていないことなどがパタハラ発生の要因です。
企業は法律に準拠してパタハラを防ぐ必要があります。本記事で解説するパタハラの意味や事例、法的責任や防止対策をよく理解しておきましょう。
目次
パタニティハラスメント(パタハラ)とは、男性労働者が育児休業などを取得することによって受ける嫌がらせや中傷行為などを指します。英語の「paternity(父性)」が名前の由来となっています。
育児休業を取得しようとする男性労働者に対して、異動を命令する・減給対象とするなどの不利益な行為をすることや、そもそも育児休業を取得させないようにすることなどが挙げられます。
パタハラは主に育児制度にまつわるハラスメントであり、「男性が育児のために休業することをよしとしない考え」の方が加害者となることで発生します。育休を取得予定の方に嫌がらせをする、脅迫じみた言動をする、減給する、取得を拒否するなどがパタハラの例です。近年、法改正によって男性の育児参加が促進されていることもあり、その流れを断ち切るようなパタハラは一層問題視されています。
また、パタハラは職場において上司などの優位的な立場の人から受ける事例が多く、パワーハラスメントにも該当することがあります。加害者が裁量権をもっているため、言いなりになってしまうパターンがよくあるケースです。
職場ではさまざまなハラスメント行為がありますが、国や厚生労働省ではパタニティハラスメント・マタニティハラスメント・ケアハラスメントの3つを総合して「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と呼んでいます。
厚生労働省は、2022年のパワーハラスメント防止措置の義務化に関連して、「職場のハラスメント対策について」という資料を公開しています。職場のハラスメントには以下が該当します。
同資料では、パタハラを「育児休業等に関するハラスメント」に含まれるものとして、以下のように定義しています。
職場における上司・同僚からの言動により、育児休業等を申出・取得した男女労働者の就業環境が害されること。
上記のように、厚生労働省および法令などではパタハラという言葉では表記されておらず、「職場における妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメント」としてまとめて扱われています。似ている言葉であるマタニティハラスメントも同様であり、国の方針で説明される際には上記の表記でまとめられます。
では、一緒に問題視されているマタハラはパタハラとどう違うのでしょうか。
パタハラとマタハラの違いは「被害対象者が男性か女性か」というポイントです。マタニティハラスメント(マタハラ)は、妊娠や出産、育児をする女性労働者への嫌がらせ行為のことです。対してパタハラは、育児をする男性労働者への嫌がらせ行為のことです。
定義 | |
---|---|
パタハラ | 「育児」をする男性労働者が受けるハラスメント |
マタハラ | 「妊娠・出産・育児」をする女性労働者が受けるハラスメント |
どちらも育児について受けるハラスメントを含んでいますが、マタハラには妊娠や出産についてハラスメント行為を受けることが含まれます。
育児休業の取得にまつわるハラスメント行為とは、どんなものがあるのでしょうか。パタハラの具体例を挙げてみました。
加害者の権限によっては、実際に異動や減給がおこなわれてしまうケースもあります。そういった状況下では被害者が言い出せず、何カ月間もパタハラを受けてしまうということも考えられます。
パタハラは男性が育児休業などを取得することに関して、不利益な言動を受けたり、休暇制度の取得を拒否されたりすることです。一体どのような要因があってパタハラは発生するのでしょうか。
これまで日本では「男性は働く者」「女性は家事・育児をする者」という価値観が重視されてきました。専業主婦という言葉があるように、男女間での役割をはっきりと区分するような認識が広く伝わっています。
そのため、男性が育児をすることへの価値観を受け入れないという雰囲気もまだまだ残っており、結果としてそのような価値観によってパタハラが発生している現状があります。
パタハラが発生するもうひとつの原因は、組織体制が不十分であることです。本来であれば、従業員が育児休業制度を利用しても問題なく業務が回るようにあるべきです。そういった組織体制ができていないとパタハラは発生してしまいます。
たとえば「人的リソースと業務量のバランスが悪いこと」や「そもそも育児休暇制度の取得申請についての理解が上層部まで届いていない」などの状況が当てはまります。育児休業制度を利用されては困る、という状況の組織はすぐにリソースや制度関連の周知について見直す必要があります。
パタハラは育児・介護休業法や男女雇用機会均等法にて禁止されているハラスメント行為です。特に育児・介護休業法では事業主・労働者への責務が定められています。それぞれに関連する条文を見ていきましょう。
2017年1月に育児・介護休業法と男女雇用機会均等法が改正され「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」について、以下の5つが企業に義務づけられました。
まずはパタハラなどについて、組織内での規律を決定および周知の徹底が大切です。そのうえで、実際に発生することを想定した仕組みを進めることが求められます。また、併せて講ずべき措置とは「加害者」や「調査への協力者」に対する二次被害を防ぐための措置を講じることなどが該当します。
パタハラにおける事業主への責務については、育児・介護休業法第10条にて定められています。以下内容に基づき、「解雇する・減給する・異動命令を出す」などの不利益な取り扱いが禁止されています。
事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない。
上記の内容を守れていないもしくは防止措置を講じていない場合、厚生労働大臣や都道府県労働局長が必要と判断したときに限り「助言・指導・勧告」などの行政指導がおこなわれることがあります。
その際、企業は厚生労働大臣などへの報告義務を負うことがあります。この義務に対して報告をおこなわなかったり、虚偽の報告をしたりした場合などは「20万円以下の過料」に処される可能性があります。
上記の内容は育児・介護休業法第56条および同法66条に定められています。
厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
第五十六条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。
労働者に対する内容は、育児・介護休業法第25条の2の4項に記載されています。
労働者は、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。
上記に基づき、「パタハラへの理解を深めること」「他人への言動に注意すること」「防止対策に協力すること」などの責務が課せられています。
パタハラは育児・介護休業法などに反するため企業は事前に防ぐ必要があります。具体的にはどのような防止対策があるのか解説します。
パタハラの防止対策として「育児休業の取得を促すような制度化」があります。男性労働者に対して、育児のために長期休暇の取得を義務化するなどが効果的です。
また、規定を定めるだけではなくしっかりと周知・啓蒙活動をおこなうことが大切です。就業規則への記載をおこなったうえで、研修や社内報などによって育児休業取得について組織内に共有しましょう。
育児休業制度が取得しづらい環境であり悩んでいたとしても、なかなか言い出せないという方もいます。そもそも相談できる相手がいないという場合もあります。そのため、ハラスメントの相談窓口を設置することもひとつの防止対策です。社内への設置および、万が一のために社外相談先を周知しておくことも理想です。
厚生労働省が公開している「労働基準行政の相談窓口」のページには、労働に関連する各種相談先がまとめられています。ひとつの参考にしてみるのも良いでしょう。
パタニティハラスメント(パタハラ)とは、「男性労働者が育児休業などの制度を利用すること」に対する嫌がらせや不利益な言動のことを指します。育児は女性がするもの、という昔からの価値観が主な発生要因として挙げられます。
また、育児休業を取得できるような組織体制が整っていないということもパタハラ発生の原因となります。パタハラは法律で禁止されている行為のため、企業側も育児休業取得について対策を講じる必要があります。
本記事で紹介しているパタハラ防止対策・発生時の対応策をよく理解して、ハラスメントのない健康的な組織作りを目指しましょう。
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