この記事でわかること
- 育児・介護休業法は、労働者が子どもの誕生や介護のために一定期間仕事を休む権利を認める法律であり、育児休業や介護休業などが含まれる
- 育児・介護休業法改正では、育児休業の取得を促進するための対策が施行されており、育児休業の分割取得や産後パパ育休の創設などが含まれる
- 企業は就業規則の整備や育児休業取得状況の公表などの準備を行う必要がある
この記事でわかること
2019年の統計では、統計開始後初めて、出生数が90万人を下回り、当分の間少子高齢化社会が続くことが浮き彫りとなりました。
そこで今回は、子育て世帯にとっては注目度の高い「育児・介護休業法」について、2022年4月以降に改正された内容をもとに解説します。
目次
育児・介護休業法は、労働者が子どもの誕生や病気、障害者家族の介護などの理由で一定期間労働を休んだり、労働時間を短縮したりすることを認める法律です。労働者と家庭の両立を支援し、働きやすい環境を整えるために重要です。
育児休業法5つのポイント | |
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育児休業 | 子どもの誕生後、労働者が一定期間仕事を休む権利を与える |
介護休業 | 障害者家族の介護を理由に一定期間仕事を休む権利を与える |
条件 | 労働者は所定の手続きを経て申請し、一定の条件を満たすことが必要 |
給与 | 休業中も一定の給与や手当が支給される |
雇用保護 | 休業後、復帰する権利が保護される |
2022年4月以降、育児・介護休業法の改正内容が順次施行されます。人事労務担当者は育児・介護休業法改正の目的やポイントを押さえて、適切に対応方法を検討しましょう。
現在、育児休業の取得率は女性が約8割、男性が約1割半ばの水準で推移しています。
男性の育児休業には、女性と比べて必要性が乏しいのではないかとの声も挙げられますが、女性の「ワンオペ問題」を契機に、女性の社会進出の遅れを招き、ひいては労働力人口の減少にまでつながる要素を含んでいます。そこで、男性が育児休業を取ることで、女性のワンオペ問題や女性の社会進出の遅れを解消できると期待されています。
今回の育児・介護休業法の改正は、複数の施行年月日に分かれており、段階的に改正されるという特徴があるため、就業規則の改正にあたっては注意が必要です。
施行日
育児休業は、労働基準法や最低賃金法と比較して、周知されているとは言い難く、労働者目線でも制度への理解が十分でない、制度の取得に消極的であるといえます。特に男性はその傾向は強く、有給休暇も残っている中「あえて育児休業をどのように取得すればよいのか」という課題があります。
また、ビジネスパーソンである以上、並行して仕事を進めていかなければならず、一時的ではあっても現場を離れる後ろめたさもあり、実際の取得に至る足枷が複数存在していると考えられます。そのため、企業として後述するいずれかの措置を講ずることが求められます。
下記の制度をいずれか一つ、または、可能であれば複数の制度を並行して講ずることが望ましいとされています。
1.育児休業・産後パパ育休(後述)に関する研修の実施
2.育児休業・産後パパ育休(後述)に関する相談体制の整備など(相談窓口設置)
3.自社の従業員の育児休業・産後パパ育休(後述)取得事例の収集・提供
4.自社の従業員へ育児休業・産後パパ育休制度(後述)と育児休業取得促進に関する方針の周知
具体的な方法として、1の研修の実施と併せて、2の相談窓口の設置を整備することです。実際に研修で理解しただけでは取得に至るとは断言できず、研修のなかで解決できていない問題点を相談窓口で解決し、実際の取得に至るというケースが想定されます。
また、妊娠判明後は家庭内のライフスタイルが一変することが通常で、3の「取得事例」があれば自身のライフスタイルと重ね合わせ、具体的なイメージを抱きやすいというメリットが挙げられます。
妊娠が判明した際に、将来的に育児休業の申し出があれば、個別の周知・意向確認をする必要があります。全体周知だけでは、制度の深い理解には至らないことも想定され、個別周知を経て理解を深められること、特に男性であれば、育児休業はさまざまな時期に取得の可能性があります。
時期的にいつ頃の取得を想定しているのかを確認することが求められますが、これは企業としても体制の早期見直しを図れるメリットがあります。
なお、周知にあたっては以下の項目が必要となります。
1の面談は時代背景上、オンライン面談も可能です。3、4は労働者が希望した場合のみとされています。「産後パパ育休」は施行年月日が2022年10月1日であるため、同日以降対象となり、育児休業とは別に取得できる制度です。
施行日
有期契約労働者が育児休業をするには、一定の要件があります。
育児・介護休業法の改正後は、以下の要件のみとなります。
育児・介護休業法の改正後、有期契約労働者も育児休業が取得しやすくなります。
施行日
産後8週間以内に男性が取得する育児休業は、パパ休暇と呼ばれています。原則育児休業は、1回しか取得することができません。また、改正前でも「パパ休暇」は1回として数えられず、パパ休暇取得後、一定期間経過後に、再度本来の育児休業を取得することが可能でした。
しかし、改正後は「産後8週間以内に最大4週間を分割して2回まで」取得できる制度として、産後パパ育休(出生時育児休業)が創設され、申出期限は休業の2週間前までとされています。
また、労使協定により1カ月前までとすることが可能となり、併せて、労働者が合意した範囲内で労使協定により、育児休業中に働くことも可能となります。
(1)労働者が労働してもよい場合、事業主にその条件の申し出
(2)事業主は労働者が申し出た条件の範囲内で候補日、時間を提示(候補日などがない場合はその旨)
(3)労働者が同意
(4)事業主が通知
しかし、働くことができる時間などは下記のとおり上限があります。
▼働くことができる時間などの事例
・所定労働時間が週5日勤務
・(労働基準法上の上限である)1日8時間が所定労働時間
上記の場合を例にとります。
事例 | 労働可能な日数など |
・育児休業が2週間 ・休業期間中の所定労働日が10日 ・育児休業期間中の所定労働時間が80時間の場合 |
・就業日数の上限は5日 ・就業時間の上限は40時間 ・休業開始、終了予定日の就業は8時間未満 |
産後パパ育休についても育児休業給付金の対象となりますが、休業期間中の労働日数が10日(10日を超える場合は時間数にして80時間)以下が対象です。
施行日
現行の法律では育児休業は分割取得ができません。
しかし、法改正により分割して2回の取得が可能となります。併せて、保育園に入園できなかった場合、パパとママの育児休業のバトンタッチについて、改正前は1歳または1歳6カ月時点と限定されていましたが、改正後は限定がなくなります。
施行日
従業員数1,000名超の企業が改正の対象となります。内容は、年に1回の育児休業取得状況の公表の義務化です。公表内容は「男性育児休業取得率」または「育児休業等と育児目的休暇取得率」です。
育児介護救護法改正への対応には、まず就業規則の整備が挙げられます。また、法律と同水準で整備したいという場合、施行年月日が複数に跨っていることを念頭におき整備することが重要です。
1984年生まれ。社会保険労務士。
都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談(病院側・労働者側双方)や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名以上。独立後は年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。
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