この記事でわかること・結論
- 傷病手当金は私傷病で働けなくなった際の生活保障制度
- 2022年1月法改正で支給期間が通算化、より柔軟な受給が可能に
- 改正により一度復帰後再度働けなくなった場合でも1年6カ月分受給可
この記事でわかること・結論
「人生100年時代」といわれる現在の労働市場において、一定期間、私傷病により働くことが困難となる可能性は決して少なくありません。
テレワーク需要が増え、外出する機会も少なくなったことから、交通事故の可能性は低くなったとの指摘もありますが、旧来と比べて、外見からは判別し難い精神疾患への罹患はむしろ増加傾向にあります。
今回は、万が一働くことができなくなった際に確認すべき「傷病手当金」の受給における法改正(2022年1月)について解説します。
目次
傷病手当金とは、業務外の事由による病気やケガなど、「私傷病」により働けなくなった労働者がノーワークノーペイの原則(労働者が働いていない場合、会社はその期間については賃金の支払い義務を負わないという給与計算上の原則)により収入がなくなった場合や、減少した場合に、その間の生活を保障するために設けられた制度です。
要件を満たせば、健康保険から一定の給付がおこなわれ、支給される額は所定の算定方法により定められています。
傷病手当金の算定にあたっては、「標準報酬月額」を用います。
直近1年間の標準報酬月額の平均を30日で除した、その額の2/3が傷病手当金として支給される1日当たりの金額となります。端的には、給与相当額の2/3程度が受給できるという理解で問題ありません。
健康保険法などが改正され、2022年1月より傷病手当金の支給期間通算化が施行されました。
▼変更点
法改正前 | 「支給を始めた日から」1年6カ月 |
法改正後 | 途中で働けるようになった、再度労務提不能となった場合であっても「1年6カ月分」受給ができる |
法改正の対象はあくまで、支給期間の通算化であり、時効(労務不能であった日ごとにその翌日から起算して2年間)については法改正の対象外です。よって、早期の申請を心掛けましょう。また、傷病手当金の額の算定方法についても法改正の対象外です。
傷病手当金の支給期間について、法改正前は「支給を始めた日から1年6カ月」とされていました。
上記のケースでは、一度復帰したものの、一定期間経過後に再度働けなくなってしまった場合において、前述したように「支給を始めた日から1年6カ月」という制度の特性上、復帰している期間の受給ができず、再度同一疾病で働けなくなった場合には、支給限度期間である1年6カ月に到達してしまっているという事態が起こり得ます。
今回の法改正により、支給期間が「通算」で受給できるように改正されました。これにより、一度復帰したものの、その後、再度働けなくなった場合であっても「1年6カ月分」の受給ができるようになりました。
支給限度分がまだ残っているが申請を単に失念していた場合、申請することは可能です。しかし、支給を開始した日から通算して1年6カ月に達している場合、引き続き働けなくなったとしても、1年6カ月を超えての申請はできません。
また、傷病手当金にも年金などと同様に、時効があります。
傷病手当金の時効は、働けなくなった日の翌日から起算して2年間です。
早期の申請を心掛けましょう。
2019年4月1日以降、年10日以上有給休暇が付与される労働者は、付与された日から1年の間に最低5日以上の有給休暇の取得が義務づけられています。
しかし、最低5日の有給休暇を取得していたとしても、前年度からの繰り越し分や有休の病気休暇が設けられている場合、給与の支払いがされている(満額支給)ため、傷病手当金は支給対象外となります。
一事復帰し、再度働けなくなった場合であっても、支給期間は通算化されることから、改正前と比べて傷病手当金を受けることができる期間は長くなりました。
また、改正後の健康保険料の負担額は変わりません。
傷病手当金には、働けないという理由だけではなく、「待期期間」を満たす必要があります。
待期期間とは雇用保険から支給される基本手当(以下、失業保険)にも設けられている要件ですが、傷病手当金の待機期間は「継続して3日」です。
なお、継続とは、月曜日から水曜日などのように暦上連続した日を指します。
たとえば、月曜日、火曜日、木曜日の場合「通算すると」3日を満たしていても、継続はしていないことから、待期期間を満たしていないということとなります。当然、待期期間を満たしていない場合は傷病手当金の支給は始まりません。
傷病手当金を受給するには、働けなくなったということを、医師から証明してもらう必要があります。
また、障害年金を受給している場合は、傷病手当金と併給(両方受給)することができないため、注意が必要です。
傷病手当金の支給期間は減少しません。しかし、傷病手当金が一部でも支給されている場合(たとえば給与が一部支給されているような場合)は支給期間が減少するという理解です。
傷病手当金を受給していたものの、一定期間のまとまった病気療養の必要性から退職となる場合も珍しくありません。
その場合、退職後も傷病手当金を受給できるかという問題があります。
退職後は本来継続して被保険者であったならば受け取ることができたはずの期間を上限として傷病手当金を受給できます。しかし、退職時に働くことができる状態であった場合には、支給対象外となります。
失業保険を受ける前提で働けない状態の場合、失業保険の受給資格がないため、理論上、傷病手当金と失業保険の併給はできません。
▼対策
働ける状態になるまで失業保険の延長する手続きをおこなう
働き方の多様化に伴い、時代の変化に合致した保険給付サービスの改正は今後も予想されます。
傷病手当金は、私傷病により働けなくなった場合の保障であるため、業務災害や通勤災害のため働けなくなった場合には、労災保険を使用しなければなりません。混同しないように注意しましょう。
1984年生まれ。社会保険労務士。
都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談(病院側・労働者側双方)や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名以上。独立後は年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。
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