この記事でわかること
- 年次有給休暇付与の基本知識と年5日の取得義務の概要
- 雇用形態による付与タイミングと日数
- 人事・労務担当者が知っておくべき効果的な運用方法
この記事でわかること
労働基準法第39条第7項には、全ての事業者に対して、年次有給休暇が10日以上発生した従業員に年5日の年次有給休暇を取得させなければならない旨が定められています。
罰則規定も設けられており、違反事業者には対象となる労働者1人あたり30万円以下の罰金が科されることがあります。
今回は、従業員のワークライフバランスや柔軟な働き方の実現を促すために必要不可欠な、年5日の年次有給休暇の確実な取得に役立つ情報を解説します。
目次
2019年の労働基準法の改正により、事業者は従業員ごとに年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に、従業員の意見を尊重した上で取得時季を指定して、年5日の年次有給休暇を取得させなければなりません。これを「年次有給休暇の時季指定義務」と言い働き改革推進が期待されます。
2024年4月現在、有給休暇の年5日の取得義務化がされてからしばらく経っていますが、認知度はどのくらいあるのでしょうか?そこで認知度について、弊サイトで独自調査をしてみたところ、「知っている」方は78.7%、「知らなかった」方は21.3%の結果となりました。
年5日の年次有給休暇取得義務の対象者は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者です(管理監督者や有期雇用労働者を含む)。年5日の年次有給休暇取得義務では、以下の内容を遵守しなければなりません。
年5日の年次有給休暇取得義務のポイント
年次有給休暇の時季指定義務では、企業はできる限り労働者の希望に沿った取得時季になるように、労働者の意見を聴取する義務があります。
また、時季指定となる労働者の対象範囲や時季指定の方法は、就業規則に記載しなければなりません。さらに、事業者は従業員ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間の保存が義務付けられています。
年5日の年次有給休暇の未取得や時季指定に関する事項の就業規則への記載漏れ、従業員の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合は、有給休暇の法律違反となり対象となる従業員1人につき30万円以下の罰金などの罰則が科せられる可能性があります。
従業員に年次有給休暇取得を確実に取得させるためには、人事・労務担当者は以下のポイントを押さえましょう。
年次有給休暇取得義務に
対応できる運用方法
年次有給休暇取得計画表を作成し、大まかに年次有給休暇付与や取得のタイミングを記載しておくことで、付与漏れや有給休暇未消化によるコンプライアンス違反を防げます。また、従業員も希望日に有給休暇を申請しやすく、企業もどの従業員が、いつ有給休暇を取得するか可視化できます。
年次有給休暇の管理は、年度の後半になるほど管理がしにくくなります。そのため、年間ではなく、四半期・月間で計画表を作成することもおすすめです。
計画年休制度とは、企業が従業員に対して事前に有給休暇の取得日を割り振る制度です。付与方法には次の3種類があります。
計画年休制度における付与方法
事業部・グループごと(交替制付与方式)の繁忙期・閑散期を見極めて、従業員の年間業務状況に合わせて、柔軟に有給休暇を取得させることができます。
また、個人の裁量(個人別付与方式)で計画年休制度を導入した場合、結婚記念日や子供の誕生日などのアニバーサリーを活用でき、事業者も事前に有給休暇取得日を把握できるため、業務調整がしやすくなります。
育児休業に入る従業員や定年による退職予定者は、計画年休制度の対象者から外しておきます。
作成した年次有給休暇取得計画表を基に、期限までに年5日の有給休暇を取得していない従業員または該当従業員の管理者へ、人事・労務担当者からアナウンスをおこなわなければなりません。
法定で定められた年5日の有給休暇未取得の従業員を出さないためにも、確認やアナウンスがおこなえる体制や従業員が自発的に有給休暇を取得できる職場づくりが必要です。
労働基準法では、年次有給休暇管理簿の作成と3年間の保存が義務付けられています。年次有給休暇管理簿には、年次有給休暇を付与した日(基準日)、取得した日付(時季)、基準日から1年以内の期間における取得日数を明記します。
労働基準法では、事業者に対して一定の条件を満たした従業員に年次有給休暇の取得を義務付けています。以下の条件を満たした従業員は、年次有給休暇の取得が可能となります。
年次有給休暇が付与される条件
年次有給休暇が付与される最初のタイミングは雇い入れの日から6カ月継続勤務した日であり、以降1年ごとに継続勤務年数に応じて有給休暇日数が付与されます。
年次有給休暇の付与日数 | |||||||
勤続年数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
月の途中で入社した場合においても入社日(雇い入れ日)を基準とし、6カ月継続勤務した日のタイミングで有給休暇が付与されます。
例えば、4月20日に入社した場合の有給休暇付与タイミングは10月20日であり、翌月1日(5月1日)を基準日とはしません。
しかし、労働者それぞれの異なる入社日による有給付与タイミングの管理は複雑となるため「斉一(せいいつ)的取り扱い」により、基準日を一定に定め本来の法定付与日より前倒しすることが可能です。
斉一的取り扱いによる有給休暇付与の統一をおこなう際は、以下の要件を満たす必要があります。
パートタイムやアルバイトなど、所定労働日数が少ない労働者(週1日であっても)については所定労働日数に応じた日数の有給休暇が付与されます。
また年次有給休暇の付与には、タイミングや繰り越しも規定されています。
年次有給休暇の付与ルール
勤続年数に応じた年次有給休暇の付与と年10日以上の有給休暇を保有する労働者へ年5日の有給休暇を取得させることは事業者の義務です。
違反した事業者には、対象従業員1人あたり30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。適切な有給休暇管理をおこなうためにも、管理体制の強化と有給休暇を取得しやすい環境づくりが必要です。
社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
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