働き方改革を取り入れる企業は増加し、多くの企業が働きやすい職場づくりに取り組んでいます。治療と職場生活の両立支援や子育て支援に前向きな企業は、傷病休暇や病気休暇のように年次有給休暇とは別枠の「有給の休暇」を付与するといった独自の制度を設けています。
仕事の満足度や仕事に対する意欲が増すような職場環境は、従業員の離職率の低下や定着率の向上の効果があり、企業にとって大きなメリットになります。ここでは、年次有給休暇の法律上の制度と取得しやすい付与の方法について学んでいきます。
目次
労働者からの相談のなかで「うちの会社には有給休暇はないといわれた」「有給休暇はあるけれど、周りでだれも取ったことがないので取りにくい」と聞くことがあるそうですが、年次有給休暇は法律で定められた労働者の権利です。
条件としては、雇った日から「6ヶ月間継続勤務」し、さらに全労働日の「8割以上」出勤した労働者に対して「10労働日」の年次有給休暇を与えることが必要となります。また、下記の点にも留意しなければなりません。
有給休暇の注意点
従業員が有休消化をするメリットは、主に以下の2点です。
従業員は自身の業務をこなす内に疲労が蓄積していき、疲労が溜まり過ぎれば病気などのリスクも上がってしまいます。有給休暇を定期的に消化することで、従業員は日々の業務で発生する疲労をリフレッシュさせられ、結果として生産性の向上が期待できるでしょう。
また有給休暇を消化しやすい環境であれば、仕事とプライベートとの両立も図りやすく、従業員の労働意欲向上も期待できます。
従業員が有休消化するデメリットは、人件費の負担が増えることです。
従業員が有休休暇を取得する場合、企業はその有休取得分の給料も支払わなければなりません。労務が提供されていない状態でも給与を支払うことになるため、企業にとっては人件費の負担が大きくなります。
また、従業員数の少ない中小企業の場合は、従業員が休むことで業務の遂行に支障が出る場合もあるでしょう。
有休消化を促進する場合は自社の業務をきちんと洗い出し、「この人が休んだら代わりに誰が業務を担当するか」を事前に決めるなど、有休消化しても問題なく業務がまわる体制を整えることが大切です。
有休消化を促すためには、半日単位・時間単位での有休消化を認めることも手段のひとつです。
特に繁忙期がある業界では、一定期間まとまった休みを取りづらいケースも出てきます。そのような1日単位での有休取得が業務上難しい場合でも、半日単位や時間単位など短時間の有休であれば、時間を調整して有休消化できる職場も多いでしょう。
時季指定の有休制度を導入することも、有休消化促進に有効です。
あらかじめ有休取得できる時季を決めておけば、有休取得時季に合わせて業務量を調整できるため、有休消化しやすくなるでしょう。ただし、原則として従業員が希望する時季に有休を付与しなければなりません。
時季指定を導入する場合は、従業員の意見を聞いた上で希望に沿った形で有休を付与するよう注意しましょう。
企業が主体となって有給休暇の取得率を向上させる方法としては「計画的付与制度」を導入するのもおすすめです。計画的付与制度には、主に下記の3種類の方法があります。
1つ目が、事業場全体の休業による一斉付与方式です。これはゴールデンウィークの平日を休みとし、長期休暇を可能にするといった方法です。この休業は以下のメリットがあります。
2つ目が、班別交代制付与方式です。班別・係別に交代で休むので、定休日を増やせない業種の企業におすすめの方法です。
そして最後に、年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式です。計画表を作成して個人ごとに計画する必要はあるものの、下記のようなメリットがあります。
これらについての注意点としては、
が必要となることです。また、年次有給休暇の権利がない人を一斉付与で休業させる場合や日数が足りない人の場合、休業手当の支払いや、特別有給休暇のように付与日数を増やすなどの措置をとる必要があるということです。
法律で定めた日数を上回る年次有給休暇を付与する制度を、独自に作っている企業も多くあります。この制度については、不合理な労働条件とならないよう、パートタイム・アルバイトの従業員にも勤務日数に比例して与えることが必要ではあるものの、従業員にとっては嬉しい制度です。
また、現在話題となっている「働き方改革」に取り組む企業のなかには、年次有給休暇の取得促進を図るために病気休暇や傷病休暇だけではなく、さまざまな制度を導入しているという例もあります。
有給休暇が取得しやすい職場環境を実現するためにも、企業独自の計画的付与を検討してみるのと併せて、全国各地の施設優待が受けられる福利厚生サービスを企業で契約し、レジャー環境を整えることもおすすめです。
退職時に有給休暇を消化することは可能ですが、事前に正確な有給休暇の残日数を把握した上で、退職日までに有給休暇を消化する必要があります。
業務の引き継ぎなど退職日までにやるべきことも考慮した上で、有休消化できるよう退職日を決めましょう。
有休消化しスムーズに退職するためには、以下のポイントを押さえましょう。
特に重要なポイントは、退職が決まった時点でなるべく早めに上司へ退職する旨を伝えることです。「いつまでに退職を申し出ればいい?」という疑問をよく聞きますが、法律上は退職日の2週間前にその旨を伝えれば問題ありません。
次の転職先が決まったなど退職することが確定した時点で、早めに直属の上司に退職の旨を連絡しましょう。
有休消化の注意点として、以下の3つが挙げられます。
有休消化を企業で推進する際は、上記に注意しましょう。
従業員から有休消化したい旨を承った時に、拒否することは労働基準法違反となる可能性があります。
従業員から有休消化したい申し出を受けた場合は、拒否することなく取得させましょう。もし従業員の立場で直属の上司が有休を消化させてくれない場合、社内のコンプライアンス部門や労務管理部門に相談し、指示を仰ぎましょう。
従業員が有休取得義務を果たせなかった場合、罰則が発生する可能性があるため注意が必要です。
先述のとおり、1年に10日以上有給休暇を付与された従業員は、1年以内に5日間有休を取得することが義務づけられています。もし、上記義務を果たせなかった場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
企業は従業員の有休取得状況を常に確認し、取得できていない従業員に対しては有休消化できるようサポートしてあげましょう。
有給休暇の買い取りは可能ですが、認められるケースが限定的であるため注意が必要です。原則として、通常の就労状況で有給休暇の買い取りはできませんが、以下のケースでは例外的に認められています。
特に従業員の退職時に付与した有給休暇が残っている場合、業務の引き継ぎなどの関係で有休消化がどうしても難しいケースがあるでしょう。このような場合は、例外的に従業員の有給休暇を買い取ることが認められています。
ただし、従業員には有給休暇の取得義務もあり、有給休暇を問題なく取得できたにもかかわらず買い取った場合は罰則が科される可能性もあります。基本的には、普段から従業員が有給休暇を消化できるよう社内体制を整備することが大切です。
ここからは、有休消化に関するよくある質問をご紹介します。有休消化で上記の疑問が生じた場合は、ぜひ参考にしてください。
有休消化中の転職活動は、問題なく可能です。
もし転職活動する際「業務が忙しすぎて転職活動の余裕がない」場合は、有給休暇を取得し転職活動の時間に当てることも良いでしょう。ただし、転職活動は長期化するケースもあるため、場合によっては転職活動だけで有休を消化してしまう可能性もあります。
転職活動だけで有給休暇を消化してしまわないよう、転職活動中の面接日程などはうまくスケジュール管理しましょう。
派遣社員も退職時に問題なく有休消化できますが、派遣契約期間内に有給休暇を取得する必要があります。派遣契約期間が終了となった後は有休が取得できなくなるため、契約期間と有休の残日数を事前に確認し、期間内で取得できるようスケジュール調整しましょう。
もし、業務が忙しく退職までに有給休暇を消化できない場合は派遣元と相談し、有休日数分契約期間を延長してもらう必要があります。
アルバイトやパートタイムの方でも、以下の条件を満たすことで有給休暇が発生し、付与された有給休暇を消化できます。
取得できる日数は雇用契約により異なりますが、週1日シフトの場合でも半年過ぎた時点で有給休暇が付与される可能性があります。気になる方は、直接雇用主に対して有給休暇が付与される条件や日数を確認しておくと良いでしょう。
従業員なくしては事業の拡大や成長は見込まれません。従業員が意欲をもって仕事に取り組むために、有給休暇といった私生活を充実させる措置をとることは事業主にとって重要な責任でもあります。
働きやすい環境をつくり、適度に休息を取り入れることで作業効率も向上するといった例も数多くあります。ぜひ、独自の制度も含めて検討してみてはいかがでしょうか。
大学卒業後、地方銀行に勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務の経験あり。在籍中に1級ファイナンシャル・プランニング技能士及び特定社会保険労務士を取得し、退職後にかじ社会保険労務士事務所として独立。
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