この記事でわかること
- 休業手当と休業補償の違い
- 休業手当をいくらもらえるのかわかる計算方法
- 休業手当の条件と対象者
会社都合で従業員を休業させる場合、労働基準法に基づき、休業手当を支払わなければいけません。しかし日本では、休業中に一定の条件を満たせば「休業補償給付」をもらえます。では、休業手当と休業補償の違いは何なのでしょうか?
この記事では、休業手当の計算方法・条件などについて解説していきます。どのようなときに休業手当の対象となるのか、ルールをしっかりと理解していきましょう。
この記事でわかること
なんば社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士
https://www.namba-office.osaka.jp/
ワークスタイルコーディネーター。社会保険労務士
社会保険労務士の中でも10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛けるの社会保険労務士。
目次
休業手当とは、会社の都合(使用者の責に帰すべき事由)により労働者を休業させてしまった場合、会社側が休業期間中の労働者に、その平均賃金の60%以上の手当を支払わなければならない制度です。
休業手当の不払いは労働基準法違反となり、30万円以下の罰金が科せられます。
休業とは、労働者が労働契約により労働の用意をなし、しかも労働の意思をもっているにも関わらず、労働することができない状態をいいます。
休日とは、土日祝日等元々労働義務がない日(所定労働日ではない日)のことです。つまり休日と休業とは「本来労働日であるかどうか」という点に違いがあります。
使用者の責に帰すべき事由とは、労働基準法第26条に基づき、使用者(会社側)の都合によって労働者が就業できなくなった事由を指します。一般的に以下の例が該当します。
例えば、会社都合で社員を早退させたケースで考えていきましょう。
社員のその日の賃金が平均賃金の100分の60に満たない場合、会社側は1日の平均賃金の100分の60に相当する額と、実際に働いた時間に対する賃金の差額を休業手当として支払う義務があります。
使用者の責に帰すべき事由による休業以外の休業には、以下のようなものがあります。
上記の休業は要件に該当した場合、労災保険法・雇用保険法・健康保険法に基づいて、育児休業給付金や休業補償などの給付・補償がおこなわれます。
休業は早退や午前休といった、1日の内の一部の休業にも該当しますが、以下の休業期間は休業手当の対象外となります。
台風などの天災により公共交通機関が利用できない場合も、休業手当の対象にはなりません。
自然災害は、使用者の責にはあたらない(不可抗力)とされます。
休業手当の計算方法は、休業日1日あたり平均賃金の6割以上を支払うという原則に従って計算をおこないます。計算式は、以下の3パターンが用意されています。
休業手当の計算方法 | |
原則 | 休業日以前3カ月間の賃金総額 ÷ 3カ月の総歴日数 |
---|---|
時給・日給の労働者 | 休業日以前3カ月間の賃金総額 ÷ 3カ月間の労働日数 × 60% |
1日の一部のみ休業 | 平均賃金の60%から一部労働の賃金を引いた額 |
時給・日給の労働者は原則の計算式ともに計算し、比較して高い方を平均賃金として計算します。
労働基準法では給与計算について「ノーワークノーペイの原則」を定めています。
何らかの理由により労働者から労働の提供がなかった場合、もしくは使用者・労働者双方の責に帰すべき事由によらずに労務の提供がおこなわれなかった場合には、企業には賃金の支払い義務が発生しないという考え方です。
休業手当の対象者は、雇用形態に関係なくすべての労働者(契約社員、アルバイト・パートタイム含む)です。派遣社員や内定者の場合は、下記の基準で休業手当の支払い対象となるのか判断しましょう。
内定者 | 労働契約が成立している場合、休業手当の支払い義務が発生 |
---|---|
派遣社員 | 派遣元企業に休業手当の支払い義務が発生 |
派遣先の使用者の責に帰すべき事由により休業を余儀なくされた場合も同様。
使用者の責に帰すべき事由かの判断は派遣元の使用者についてなされます。
休業手当は労働基準法11条で定める賃金に該当するため、所定の賃金支払日に支払わなければなりません。
休業手当と休業補償の大きな違いは、手当および給付金が会社から支払われるか・労災保険から支払われるかです。その他にも、下記のとおり明確な違いがあります。
休業手当 | 休業補償給付 | |
支給額 | 平均賃金の60%以上 |
|
---|---|---|
課税 | 課税対象 | 課税対象外 |
従業員の申出・申請 | 不要 | 労働者が申請する建前になっているが、会社が代わりに申請してくれる場合も多い |
休業補償給付とは、労働者が業務上負傷し疾病にかかり、療養のため休業した場合に、労災保険法に基づいて、休業中に給付基礎日額の100分の60の給付がされる制度です。
加えて、休業特別支給金として給付基礎日額の100分の20が支給されます。
休業補償給付は労働者災害補償保険法に基づく保険給付のため、所得税の課税対象になりません(休業手当は給与所得とみなし、所得税の課税対象)。また、会社の所定休日であっても支払対象期間となります。
休業補償給付は労災保険によって給付されますが、休業3日目までの期間を「待期期間」とし、待機期間中は会社が平均賃金の60%を休業補償として支払わなければなりません。
雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度です。
受給には、以下を含む条件をすべて満たす必要があります。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けている企業に対し、雇用調整助成金に特例措置を設け、業種を問わず休業手当の支払いの一部を助成しています。
従業員の雇用維持を図るために労使間の協定に基づき、雇用調整(休業)を実施する事業主に対して、1人1日15,000円を上限額として休業手当等のうち最大全額(100%)が助成されます。
当初は特例措置の期限を2022年6月末としていましたが、2022年9月末まで延長されました。
【参考】雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)│厚生労働省
年次有給休暇とは、労働義務がある日に、労働者が使用者から労働義務を免除された日です。そのため、年次有給休暇を利用しても給与の減額はできません。
年次有給休暇は、従業員が希望すれば休業手当(使用者の責に帰すべき事由による休業による場合)を年次有給休暇に変更することも可能です。
計算方法は、労働基準法で定められるいずれかの方法を選択し、就業規則等に定めた方法で計算した金額を支給しなければなりません。
休業手当は労働者の雇用を守り、事業を継続していくための重要な補償といえます。不確実性の高い世の中においても、積極的に活用することが事業継続の鍵となります。