この記事でわかること
- 休業手当と休業補償の違い
- 休業手当をいくらもらえるのかわかる計算方法
- 休業手当の条件と対象者
この記事でわかること
会社都合で従業員を休業させる場合、労働基準法に基づき、休業手当を支払わなければいけません。しかし日本では、休業中に一定の条件を満たせば「休業補償給付」をもらえます。では、休業手当と休業補償の違いは何なのでしょうか?
この記事では、休業手当の計算方法・条件などについて解説していきます。どのようなときに休業手当の対象となるのか、ルールをしっかりと理解していきましょう。
目次
休業手当とは、会社の都合(使用者の責に帰すべき事由)により労働者を休業させてしまった場合、会社側が休業期間中の労働者に、その平均賃金の60%以上の手当を支払わなければならない制度です。
労働者の収入が減少してしまった場合でも、生活への支障をきたさぬようにという目的があります。労働基準法第26条では以下のように規定があります。
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
労働基準法で定められている以上、休業手当の不払いは労働基準法違反となり30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
休業とされるケースはさまざまあり、法律内では「使用者の責に帰すべき事由による休業」が対象とされています。詳細は次で解説しますのでチェックしておきましょう。
使用者の責に帰すべき事由とは、労働基準法第26条に基づき、使用者(会社側)の都合によって労働者が就業できなくなった事由を指します。一般的に以下の例が該当します。
上記のような事由による労働義務の免状などであれば、事業主側は休業手当を支払うことになります。たとえば、会社都合で社員を早退させたケースで考えていきましょう。
ほかにも法律で定められている休業や、不可抗力により使用者の責に帰すべき事由として見なされないケースもあります。
使用者の責に帰すべき事由による休業以外の休業には、以下のようなものがあります。
上記の休業は要件に該当した場合、労災保険法・雇用保険法・健康保険法に基づいて、育児休業給付金や休業補償などの給付・補償がおこなわれます。
休業補償は労働基準法第76条に詳細がありますが、業務上で発生した労働災害による休業が主に該当します。休業手当と休業補償の違いは後述していますので必ず確認しておきましょう。
休業は早退や午前休といった、1日の内の一部の休業にも該当しますが、以下の休業期間は休業手当の対象外となります。
また、台風などの天災により公共交通機関が利用できない場合も、休業手当の対象にはなりません。自然災害は使用者の責にはあたらない(不可抗力)とされるためです。
詳しく言うと、事業外部に原因がある場合や事業主が注意を払っていても防ぐことのできない場合などが休業手当の対象外となります。
休業とは、労働者が労働契約により労働の用意をなし、および労働の意思をもっているにもかかわらず労働することができない状態をいいます。先述した「使用者の責に帰すべき事由による休業」や、労働者事由である介護や疾病などが該当します。
ほかにも休業と似たような言葉に「休日」や「休暇」がありますがどう違うのでしょうか。
休日とは、土日祝日等元々労働義務がない日(所定労働日ではない日)のことです。つまり休日と休業とは「本来労働日であるかどうか」という点に違いがあります。休日は原則、雇用契約書や自身の働いている組織の就業規則などで定められています。
休暇は休業とほぼ同じニュアンスで利用されることが多く、労働義務がある日に会社側がその労働義務を免除する日のことを言います。
法律上で規定があるわけではないため、言葉の使われ方は会社によって異なります。一番パターンとして多いのは「休暇は1日単位でのお休み、休業は連続した日数でのお休み」という認識です。
休業手当の計算方法は、休業日1日あたり平均賃金の6割以上を支払うという原則に従って計算をおこないます。計算式は、以下の3パターンが用意されています。
休業手当の計算方法 | |
原則の計算 | 休業日以前3カ月間の賃金総額 ÷ 3カ月の総歴日数 × 60% |
---|---|
時給・日給の労働者 | 休業日以前3カ月間の賃金総額 ÷ 3カ月間の労働日数 × 60% |
1日の一部のみ休業 | 平均賃金の60%から一部労働の賃金を引いた額 |
原則として、休業日ごとに「平均賃金 × 60%以上」の休業手当を支払います。平均賃金を計算する際の「賃金総額」には以下のような対象外もあるため注意しましょう。
時給・日給の労働者は原則の計算式ともに計算し、比較して高い方を平均賃金として計算します。また、休業手当は賃金として支給するため、所得税の課税対象となることもおさえておきましょう。
賃金計算における、労働者と企業との関係をあらわす言葉に「ノーワークノーペイの原則」というものがあります。ついでに覚えておきましょう。
「ノーワークノーペイの原則」とは、何らかの理由により労働者から労働の提供がなかった場合、もしくは使用者・労働者双方の責に帰すべき事由によらずに労務の提供がおこなわれなかった場合には、企業には賃金の支払い義務が発生しないという考え方です。
端的に解説すると「労働がない場合、使用者は賃金支払いの義務を負わない」ということです。このノーワークノーペイ原則は、給与計算の基本として労働基準法第24条で定められています。
休業手当の対象者は、雇用形態に関係なくすべての労働者(契約社員、アルバイト・パートタイム含む)です。派遣社員や内定者の場合は、下記の基準で休業手当の支払い対象となるのか判断しましょう。
内定者 | 労働契約が成立している場合、休業手当の支払い義務が発生 |
---|---|
派遣社員 | 派遣元企業に休業手当の支払い義務が発生 |
派遣先の使用者の責に帰すべき事由により休業を余儀なくされた場合も同様。
使用者の責に帰すべき事由かの判断は派遣元の使用者についてなされます。
休業手当は労働基準法11条で定める賃金に該当するため、所定の賃金支払日に支払わなければなりません。
冒頭でも解説したとおり、休業手当の未払いは30万円以下の罰金が科せられてしまいます。企業としてのペナルティを受ける可能性も十分にあるため担当者は漏れのないように対応する必要があります。
休業手当と休業補償の大きな違いは、手当および給付金が会社から支払われるか・労災保険から支払われるかです。そのほかにも、下記のとおり明確な違いがあります。
休業手当 | 休業補償給付 | |
支給額 | 平均賃金の60%以上 |
|
---|---|---|
課税 | 課税対象 | 課税対象外 |
従業員の申出・申請 | 不要 | 労働者が申請する建前になっているが、会社が代わりに申請してくれる場合も多い |
休業補償給付とは、労働者が業務上負傷し疾病にかかり、療養のため休業した場合に、労災保険法に基づいて、休業中に給付基礎日額の100分の60の給付がされる制度です。
加えて、休業特別支給金として給付基礎日額の100分の20が支給されます。
休業補償給付は労働者災害補償保険法に基づく保険給付のため、所得税の課税対象になりません(休業手当は給与所得とみなし、所得税の課税対象)。また、会社の所定休日であっても支払対象期間となります。
休業補償給付は労災保険によって給付されますが、休業3日目までの期間を「待機期間」とし、待機期間中は会社が平均賃金の60%を休業補償として支払わなければなりません。
雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度です。
受給には、以下を含む条件をすべて満たす必要があります。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けている企業に対し、雇用調整助成金に特例措置を設け、業種を問わず休業手当の支払いの一部を助成していました。
こちらの特例措置における経過措置は2023年3月31日をもって終了していますが、雇用調整助成金の制度自体は2023年4月以降も継続しています。
これまで雇用調整助成金は、前年度の雇用保険料を参考に1日あたりの助成額を決める平均賃金方式を採用していました。ですが、2024年1月より廃止となり実際に支払った休業手当等の総額を用いた算定方法(実費方式)になります。
休業手当に係る賃金が、授業支給賃金と明確に分けられている賃金台帳を作成する必要があります。また、具体的な算定過程がわかる書類なども用意して労働局が求める際に対応できるようにしておかなければなりません。
社内の業務フローにも大きく影響する部分であるため、企業の担当者はしっかりと覚えておきましょう。
年次有給休暇とは、労働義務がある日に、労働者が使用者から労働義務を免除された日です。そのため、年次有給休暇を利用しても給与の減額はできません。
年次有給休暇は、従業員が希望すれば休業手当(使用者の責に帰すべき事由による休業による場合)を年次有給休暇に変更することも可能です。労働基準法第39条では以下のように定められています。
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
計算方法は、労働基準法で定められるいずれかの方法を選択し、就業規則等に定めた方法で計算した金額を支給しなければなりません。
休業手当は事業者側の都合で従業員を休業にして手当を支給します。そうなれば企業の担当者は休業手当に関する支給金額の計算や、そこに係る社会保険料や所得税なども計算する必要があります。
ひとつひとつ手入力などで計算していくと複雑で大変です。さらに人為的なミスも可能性が高く、重要な業務ではありますが正確性を維持することが難しいかもしれません。
ITソリューションとも呼ばれる業務システム/ソフトは、あらゆる会社の計算を自動的におこなってくれます。たとえば、
などの計算を、事前に従業員のデータを登録しておくことで毎年自動的に計算が済ませられます。算出した数字や金額は、電子申請可能な提出書類などにもそのままデータを活用できるため、業務効率と並行してミスの削減も実現します。
法律改正における割合変更などは、システム/ソフトをアップデートするだけで引き続き運用が可能です。休業手当などあまり計算式に変更がないものであれば、スムーズに従業員分の正確な平均賃金が計算できます。
休業手当に限らず、各種計算業務に課題のある企業さま・担当者さまは、「給与計算システム」などの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
休業手当は労働者の雇用を守り、事業を継続していくための重要な補償といえます。不確実性の高い世の中においても、積極的に活用することが事業継続の鍵となります。
社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
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