この記事でわかること
- 勤続年数ごとの年次有給休暇付与の付与日数
- 年5日の有給取得義務があるパート・アルバイトの条件
- 年次有給休暇の使い方で労働基準法違反となるケース
この記事でわかること
2019年より、労働基準法の改正に伴い年に5日の年次有給休暇の取得が義務化されました。
有給休暇の付与日数は各従業員の勤続年数や雇用形態などで変わり、もし管理に不備があった場合、法律違反となり企業側には罰金の支払いや罰則の適用となるリスクがあります。
そんなリスクを避けるためにも、この記事で労働基準法で定められている年次有給休暇のルールについて、確認していきましょう。
企業が年次有給休暇を付与する場合、労働基準法に記載されている労働者の勤務実態を把握し、勤務年数に応じた年次有給休暇日数を付与することが義務化されています。
年次有給休暇の権利がある労働者の条件は、以下のとおりです。
年次有給休暇の付与条件
継続勤務とは事業場の在籍期間を指し、勤務の実態に即して判断されます。出勤率(全労働日の8割以上)については下記の計算式を用いて求めます。
出勤日数とは実際に働いた日数を指し、遅刻・早退した日や労働者災害による療養費、使用者の責任による休日、産前産後休暇、育児休業、介護休業も含まれます。全労働日とは、出勤率を計算する期間の総日数から就業規則に規定されている休日を引いた日数を指します。
賃金が発生しない法定休日と異なり、有給休暇中の賃金は所定労働時間を労働したときに支払われる通常の賃金が支払われます。
事業主は該当する対象者には、最低10日の年次有給休暇を付与しなければなりません。
通常の労働者(正社員)には、雇い入れの日から起算して勤続勤務年数ごとに、勤続勤務年数に応じた年次有給休暇日数を付与しなければいけません。
年次有給休暇の付与日数 | |||||||
勤続年数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
しかしパートタイム・アルバイトは、年次有給休暇の付与日数が異なります。
なお、有休取得率の最低ラインは法律で規定されていません。
2019年4月から年10日以上の年次有給休暇を付与する事業主は、年次有給休暇の日数のうち、年5日は時季を指定して取得させることが義務づけられました(時季指定を利用する場合は、就業規則への規定が必要)。また、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければいけません。
週所定労働時間が30時間未満のパートタイム労働者は、所定労働日数と週所定労働時間に応じて年次有給休暇を付与します。週所定労働日数4日以下かつ週所定労働時間30時間未満の場合、以下の年次有給休暇日数が付与されます。付与日数は、週所定労働日数と勤続年数を基準に変わります。
週所定 労働日数 |
1年間の所定 労働日数 |
勤続年数 | |||||||
0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 | |||
付与日数 | 4日 | 169〜216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
3日 | 121日〜168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | |
2日 | 73日〜120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 | |
1日 | 48日〜 72日 |
1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
2019年4月から義務づけられた「年5日の年次有給休暇の確実な取得」の対象となるパートタイム・アルバイトの労働者は、以下に該当する者です。
年次有給休暇の付与には、企業の事業特性に応じて、複数の付与方法が認められています。
年次有給休暇は原則1日単位の付与ですが、半日単位でも付与できます。また、労使協定の締結を条件に時間単位での年次有給休暇の付与も可能です。
ただし時間単位での年次有給休暇付与は、年5日を限度としています。さらに分単位の年次有給休暇は認められていません。
なお、年次有給休暇の半日・時間単位での付与は会社制度により実施できますが、法的な義務ではありません。
また、有給休暇の申請が何日前と定める法律は存在せず、会社の就業規則に従うのが一般的です。
時季変更権とは、労働者から年次有給休暇を請求された時季から、他の時季にその付与を変更できる権利です。労働者が請求した時季に年次有給休暇を与えることは、正常な事業運営を妨げる場合に認められています。具体的には、
などの事態が挙げられます。
労働者が自己都合の退職希望を出した場合、年次有給休暇の時季変更が難しい場合があります。退職日が近く、変更すべき日がほかにない場合に限り、年次有給休暇の一括取得を認めることもあります。
有給休暇の計画的付与(計画年休制度)とは、事業主があらかじめ休日を指定し、その日を有給休暇として付与する方法です。
などは年次有給休暇の計画的付与にあたります。計画的付与の対象は、付与日数のうち5日を除いた残りの日数です。もし計画的付与を導入するなら「就業規則への明記」と「労使協定の締結」が必要となります。
有給休暇取得が義務化となった現在では、計画的付与は年次有給休暇の消化率を向上させる効果的な手段として注目が高まっています。
働き方改革の一環として労働者の保護が強化されており、年次有給休暇に関係する法令は強化されています。そのため現時点での法令に則り、適切な対応が必要です。
年次有給休暇は翌年に繰り越せます。しかし労働基準法の第115条に、
おこなわない場合においては、時効によって消滅すると記載されています。年内に有給消化できなかった年次有給休暇は翌年のみ繰り越すことができ、1年間を過ぎた年次有給休暇は累積できません。
高年齢者雇用安定法(継続雇用制度)により定年退職者を嘱託社員として再雇用する場合、継続勤務として扱い、定年退職前の勤続年数を通算します。退職日から再雇用日の間に相当の期間があり、完全に労働関係が断絶している場合はこの限りではありません。
年次有給休暇の取得は労働者の権利であり、企業は法令に則り、必ず年次有給休暇を与えなければなりません。
また、時季指定をおこなう場合は就業規則への記載が義務づけられています。時季指定に関する項目が就業規則に記載していない場合、労働基準法89条違反となり、30万円以下の罰金となります。
また、有給休暇の理由も一切問われません。
年次有給休暇の買い取りは、年次有給休暇の本来の趣旨(労働者の休息)に反するため法律違反となります。しかし年次有給休暇が残ったまま退職する場合、残日数に応じて金銭を給付できます。
雇用している労働者の要件を満たせば、年次有給休暇の付与は事業主の義務となっているため、事業主は抜け漏れがないように徹底した管理が必要です。
年次有給休暇のポイント
社会保険労務士法人|岡佳伸事務所の代表、開業社会保険労務士として活躍。各種講演会の講師および各種WEB記事執筆。日本経済新聞、女性セブン等に取材記事掲載。2020年12月21日、2021年3月10日にあさイチ(NHK)にも出演。
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