この記事でわかること
- 有給休暇の基準日の変更方法や前倒しの対応
- 基準日の統一(斉一的取り扱い)について
- 労働条件の公平性を保つルール作り
- ダブルトラック発生時の計算方法
この記事でわかること
雇用主は、年次有給休暇(有休)の付与条件となる基準日を、従業員の不利にならないよう適切に設定しなければなりません。有給休暇の取得は義務のため、従業員の基準日に応じた付与日数を正しく理解しましょう。
目次
基準日とは、雇用主が有給休暇を従業員に付与する権利発生日です。通常は入社日から継続勤務6カ月間が経過した時点のことで、その時点で出勤率が8割に達していることが条件です。
有給休暇の権利発生条件
たとえば4月1日入社の場合、10月1日が基準日となります。基準日には、雇用主が従業員に有給休暇を付与する義務があります。
入社日の異なる従業員の基準日の把握・管理は手間がかかります。「労務管理の効率を高める」「従業員の説明を簡略化する」といった目的であっても、基準日の変更を雇用主の独断でおこなうことはできません。
労使間で合意の上、就業規則を変更し全従業員へ周知します。また、労働基準監督署への届出も必要となります。
規定の届出書などは無いため、所轄の労働基準監督署にお問い合わせください。
基準日を前倒しした場合、有給休暇の合計付与日数が10日に達した日から年5日の有給休暇取得義務が発生します。
また、有給休暇の付与日数(10日以上)のうち5日を、基準日から1年以内に雇用主が時期を指定して取得させることが義務となっています。
時季指定の場合、労働者の意見を聴取する必要があります。
なお、合計付与日数が10日に達する以前に、前倒しで有給休暇を従業員自ら申請・取得していた場合、取得済みの日数を義務日数である5日から除きます。
【引用】年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省
さらに、当年に基準日を前倒しした場合、翌年以降も当年と同じく、本来の基準日から同じまたはそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げなければなりません。
付与日数の合計が10日に達した日から1年以内に、5日の年次有給休暇を取得させなければならないということです。
斉一(せいいつ)的取扱いとは、従業員の基準日を一定の日に定めることです。本来、入社日から継続勤務6カ月間が経過した時点のことで、その時点で出勤率が8割に達していることが条件です。
しかし、有給休暇の管理上の手間や人的ミスが生じやすいため、基準日をまとめることで業務効率化を図ることが可能です。
斉一的取扱いについて、労働基準法には明記されていないものの、厚生労働省の通達により以下2つの要件を満たす場合に認められています。
○労働基準法の一部改正の施行について
イ 斉一的取扱いや分割付与により法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である八割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤したものとみなすものであること。
ロ 次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げること。
ただし、労働基準法は、従業員の「最低限の権利」を定めたものであり、斉一的取扱いにより、法律より不利な労働条件になる場合は、違法となる可能性もあります。
斉一的取り扱いは、年1日もしくは2日に定めるケースが多いです。年3日以上基準日を設定することも法律上は可能ですが、付与日数の算出がかえって複雑になるため、おすすめしません。
・基準日を前倒しした場合、短縮した期間中の出勤率は100%(全出勤)とする
・基準日を前倒しした場合、翌年以降にも同じ期間、もしくはそれ以上の期間を前倒しする
年1回の斉一的取扱いは従業員の基準日がバラバラで、把握・管理が難しい場合に効果的です。
運用上の注意点を、年1回と年2回の斉一的取扱いに分けてそれぞれ解説します。毎年4月1日を基準日とし、有給休暇の付与をおこなう場合を例とします。
入社と同時に、10日間の有給休暇を付与します。
通常の入社6カ月後の権利発生日よりも早く付与され、労働条件は有利になるため、法的問題はありません。翌年4月1日には、11日の有給休暇を付与します。
入社から11カ月後の翌年4月1日に有給休暇を付与します。
通常の6カ月間より遅く付与され、4月1日入社の従業員Aに比べ、不公平な付与条件となってしまいます。
労働条件が不利になるため、法的問題が生じます。不利な労働条件または従業員間の不公平を避けるため、ルールの追加・変更をおこなうことが重要です。
状況に応じて、工夫したルール設定をしなければなりません。
ルール追加・変更の例
年2回の斉一的取扱いは、年1回の基準日を設けた場合に、不利な労働条件または従業員間の不公平が生じる場合に効果的です。毎年4月1日と10月1日に、斉一的付与をおこなう場合を例とします。
・4月1日~9月30日の入社:基準日を10月1日とする
・10月1日~3月31日の入社:基準日を4月1日とする
10月1日に10日間の有給休暇を付与します。入社から4カ月間で付与され、労働条件は有利になるため、法的問題はありません。
4月1日に10日間の有給休暇を付与します。
入社から2カ月間で付与され、労働条件は有利になるため、法的問題はありません。
しかし、従業員Cよりも従業員Dの方が早く有給休暇を取得できるため、不公平な設定となってしまいます。年1回の斉一的付与と同様に、ルールの追加・変更をおこなうことが重要です。
ルール追加・変更の例
入社日 | 入社日の付与日数 | 基準日 |
---|---|---|
4月・5月 | 2日 | 10月1日 |
6月・7月 | 1日 | 10月1日 |
8月・9月 | 0日 | 10月1日 |
10月・11月 | 2日 | 4月1日 |
12月・1月 | 1日 | 4月1日 |
2月・3月 | 0日 | 4月1日 |
斉一的付与により企業で定めた年1回の基準日を『第一基準日』、第一基準日に加えて定めた基準日を第二基準日としています。
ダブルトラックとは、第一基準日と第二基準日を設けたこと(年2回の斉一的付与)による、年5日の消化義務期間が重複する期間です。4月1日と10月1日に有給休暇を付与した場合、それぞれ翌年3月31日と9月30日までに5日間の消化義務が生じます。
ダブルトラックは、10月1日〜翌年3月31日までとなります。義務日数の管理が複雑になるため、厚生労働省は以下の特例案を設けています。
年休を前倒しで付与した場合の年休時季指定義務の特例について
履行期間(基準日又は第一基準日を始期として、第二基準日から一年を経過する日を終期とする期間をいう。以下この条において同じ。)の月数を十二で除した数に五を乗じた日数について、当該履行期間中に、その時季を定めることにより与えることができる。
(中略)
「ダブルトラック」が発生する場合には、年休の取得状況の管理が複雑になり得る。このため、「最初に10日の年休を与えた日から、1年以内に新たに10日の年休を与えた日から1年を経過するまでの期間」(=重複が生じている履行期間の第1の履行期間の始期から第2の履行期間の終期までの間)の長さに応じた日数を当該期間中に取得させることも認める。
特例案により定められたダブルトラック発生時の計算方法は、以下の通りです。
2020年4月1日 | 2020年10月1日 | 2021年4月1日 | 2021年9月30日 | 2022年3月31日 |
---|---|---|---|---|
入社日 | 第一基準日の始期 | 第二基準日の始期 | 第一基準日の終期 | 第二基準日の終期 |
ダブルトラック | ||||
Nカ月 |
上記の場合、Nは18カ月(2020月10月1日~2022年3月31日)です。これを先述した計算式に当てはめると、18カ月の間に7.5日の取得義務が生じます。
18カ月÷12×5=7.5日
なお、基準日までに既に取得していた場合、その分が取得義務日数から除かれます。
有給休暇の基準日の変更や管理には、以下のトラブルが想定されます。
想定
トラブル
・斉一的取扱いやダブルトラックの計算による工数増加
・従業員の問い合わせや申請の対応
・付与日数や取得義務日数の計算ミス
対処法
・従業員への説明
・有給休暇の適切な管理体制
・人的ミス防止や業務簡略化のための電子申請システムの導入
トラブルを回避するために、事前に対策を考えておきましょう。
雇用主は、有給休暇の付与条件となる基準日を、従業員の不利にならないよう適切に設定しなければなりません。
有給休暇の基準日のポイント
有給基準日は有給休暇の繰り越しや消化にも関わってくるので、この記事を参考にしっかり理解しておきましょう。
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