この記事でわかること
- 懲戒処分とは、企業が従業員に対しておこなう企業秩序違反行為への制裁のこと
- 懲戒処分に関する事項を就業規則に明記し、従業員に周知したうえで違反があった場合に下される
- 1回の問題行為に2回以上の処分はできない
この記事でわかること
就業規則に反した社員がいた際、懲戒処分を実施することで社内秩序の維持と従業員のモラル向上に加え、大規模な損害を未然に防ぐことに繋がるかもしれません。
今回は、懲戒処分とはどんな処分内容を言い渡す制裁なのか、7つの種類の懲戒処分をレベル分けしてわかりやすく解説します。また規律違反事例を紹介し、懲戒処分の内容と事由の相当性を見極める判断基準と、懲戒処分実施までの流れも解説します。
目次
懲戒処分とは、使用者(企業)が労働者(従業員)に対しておこなう、企業秩序違反行為への制裁(労働関係上の不利益措置)です。違反行為とは一般的に、遅刻・無断欠勤が続くといった職務懈怠行為や従業員の犯罪行為などを指します。
懲戒処分は、懲戒処分に関する事項(懲戒事由と種類)を就業規則に明記し、従業員に就業規則を十分に周知した内容に違反があった場合におこなわれます。
懲戒に関する事項を就業規則の明記する根拠を労働契約とするかについては、学説上争いがあります。
懲戒処分をおこなうには法律や実務上の取扱いに則って、実施しなければなりません。
懲戒処分のポイント
懲戒処分は、1回の問題行為に2回以上の処分はできません※。また、懲戒処分に値する問題行為(事由)と処分の重さに相当性がなければなりません。さらに懲戒処分は、就業規則に明示されている事由に当たる場合にのみ、処分が可能です。
懲戒処分を受けた労働者に再度懲戒処分を下す場合、前回の懲戒処分と同一の問題行為を懲戒処分の対象にはできません。
懲戒処分は、戒告から懲戒解雇まで7段階あります。
ここからは1つずつの処分内容を確認し、懲戒処分となったらどうなるのかを確認していきましょう。
種類 | 主な処分内容 |
---|---|
戒告 | 文書または口頭による厳重注意 |
譴責(けん責) | 始末書の提出 |
減給 | 賃金の一部を差し引き |
出勤停止 | 一定期間の出勤を禁ずる |
降格 | 役職・職位・職能資格を引き下げる |
諭旨解雇(諭旨退職) | 退職願の提出を勧告(情状酌量の余地がある場合) |
懲戒解雇 | 労働者を一方的に解雇する |
戒告(戒告処分)とは通常、文書または口頭で厳重注意をおこない、今後の業務遂行に支障がないように将来を戒める処分のことです。多くの企業において懲戒処分のなかで最も軽いものとして位置づけられています。
具体的には、従業員の能力不足や過失による業務のミス、勤務時間中の私的行為など比較的軽微な違反や不適切な行為が対象です。注意を促し再発を防ぐため、また、今後同様の行為が繰り返されないように警告するためにおこないます。
戒告処分を書面でおこなう場合は、処分内容が明確に記載された正式な文書である「戒告書」を交付します。
企業によっては、戒告ではなく「訓告」といった言葉を使っているところもあるでしょう。その場合は戒告と同等の処分内容として「訓告」を使っているケースが一般的ですが、なかには戒告と訓告を区分している企業もあります。
後者の場合は、懲戒処分のなかで訓告が最も軽い処分とし、訓告は口頭での注意・戒告が書面注意と定めていることが一般的です。
譴責(けん責)とは、一般的には始末書を提出させ、今後の業務遂行に同じ理由で業務遂行に支障を及ばせないように将来を戒める処分です。
主に直属の上司に提出するものであり、反省文や謝罪文を盛り込むことで、誓約の効果が得られます。また、始末書の提出を拒否した場合、人事考課や昇給に影響を与えることがあります。
呼び方が異なるだけで実質的に処分の重さは戒告・訓告と同等なものとして扱われることが多く、始末書の提出有無も各社の就業規則により異なります。
減給とは、本来支給されるべき賃金の一部を差し引く処分(制裁)です。
労働基準法第91条で「1回の減給額は平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と定められているため、減給額は上限を守らなければなりません。
なお、欠勤・遅刻への対応として賃金を差し引く手続は欠勤控除に当たるため、減給には該当しません。
出勤停止とは、一定期間の出勤を禁止する処分です。出勤停止期間中は賃金が発生しません。停止期間は法律で定められていませんが、1週間以内や10~15日が一般的(菅野労働法705頁)です。処分対象の行為と停止期間を釣り合うように、検討する必要があります。
降格とは、役職や職位、職能資格を引き下げる処分です。懲戒処分としての降格の内容は、就業規則に明記しなければなりません。役職給・職務給の手当が下がったうえでの給与支払いとなるため、経済的打撃が長期に継続するため、出勤停止よりも厳しい懲戒処分となります。
論旨解雇(諭旨退職)とは、一定期間内に退職願の提出を勧告し、
とする処分です。情状酌量の余地があると認められる場合、深い反省が見られる場合になされる懲戒処分です。自主退職の場合、解雇予告手当(30日分以上の賃金)や退職金の支払いが行われます。
懲戒解雇とは、使用者が一方的に労働者を解約する最も重い懲戒処分です。解雇予告期間を設けない即時解雇にあたり、再就職に悪影響を与える傾向があります。
一方で労働基準法第20条では、労働者を解雇する場合「30日前に解雇の予告をおこなう」もしくは「30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う」と定められており、同条に基づいた適切な手続をおこなわなければなりません。労働基準監督署が「解雇予告除外認定」を受けた場合、解雇予告手当の支払いが免除されます(労働基準法20条ただし書参照)。
なお、懲戒解雇以外の解雇の種類である普通解雇や整理解雇については、こちらの記事で解説しています。
懲戒処分を下す際は、どの処分に当てはまるのか就業規則に基づいて判断しなければなりません。以下の表には、懲戒処分の種類別に該当し得る違反行為の例をまとめてみました。なお先述のとおり、懲戒処分は就業規則に明示されている事由のみ実施できます。
種類 | 規律違反例 |
---|---|
戒告 | ・遅刻や早退 ・業務中の私的行為 ・業務上の軽度なミス など |
譴責 | |
減給 | ・戒告または譴責の処分後に改善が見られない ・遅刻・早退・私用外出が極端に多い ・軽度なハラスメント行為 など |
出勤停止 | ・無断欠勤の繰り返し ・暴力行為 ・過失による重要情報の紛失・破損など企業に損害が及んだ ・転勤・重要な業務命令の拒否 ・継続的なハラスメント行為 など |
降格 | ・意図的な情報漏洩・社内ルール違反 ・不正受給 ・傷害など社外での犯罪事件を起こす など |
論旨解雇 | ・業務上横領・着服 ・14日以上の無断欠勤 ・重要な経歴詐称 ・強制わいせつなどの重大なセクハラ ・悪意ある企業機密の漏洩によって会社へ損害を与えた場合 など |
懲戒解雇 |
この表からわかるように、懲戒処分の対象となるのは主に就業規則の違反、業務怠慢、ハラスメント行為、機密情報の漏洩、不正行為、犯罪行為です。
中でもハラスメント行為は、近年よく耳にするセクハラやパワハラだけでなく、スメハラ(スメルハラスメント)、ジタハラ(時短ハラスメント)、アカハラ(アカデミックハラスメント)などさまざまな種類があります。誰もが働きやすい職場づくりを目指すために、人事労務担当者は各ハラスメントの該当行為や対応策について把握しておきましょう。
万が一懲戒処分を実施することになったら、次に紹介する手続きの流れを参考に進めましょう。
懲戒処分を実施する際、労働トラブルにならないように、適切な手続が必要です。
懲戒処分手続きの流れ
懲戒処分の対象者に問題行為・事案について、本人や関係者からヒアリングをおこない、事実確認をおこないます。客観的な裏付けを得るために、物的証拠を中心に収集していきます。また、懲戒処分が決定するまで自宅謹慎(自宅待機)を命ずる場合もあります。
ヒアリングをおこない事実確認をおこなった後、対象者に懲戒処分の理由を告知します。
処分理由を告知せず、企業が一方的に懲戒処分をおこなうことはできません。
その後、対象者に弁明の機会を与えます(懲戒処分理由の告知と同じタイミングでも可)。弁明の機会は、その後の労働トラブルを未然に防ぐ効果も期待できます。
ヒアリング、弁明の機会で得た情報も参考にしながら、最終的な懲戒処分内容を検討します。懲戒処分の内容と事実確認や弁明の機会によって認められた事実と相当性があるかを確認し、最終決定をおこないます。
懲戒処分内容は以下のポイントを押さえて、決定します。
就業規則内に懲戒委員会の決定が明示されている場合は、懲戒委員会に付議します。懲戒委員会の付議に関する事項、義務が明記されていない場合、そのような手続を経ずに懲戒処分を実施したとしても相当性の判断に影響はありません。
懲戒処分が決定後、懲戒処分通知書を作成・送付・通知し、懲戒処分を実施します。
法的義務はありませんが、手続としては妥当となります。懲戒処分通知書には、一般的に下記について明記します。
また、懲戒処分を実施した後に処分の内容や被懲戒者の氏名、対象となった行為などを公表する企業も存在します。一方で、懲戒処分の運用方法として「非公表」している企業も存在します。
懲戒処分の公表は社内秩序の維持と従業員のモラル向上の効果がありますが、被懲戒者のプライバシー侵害、情報の社外流出や関係各所への悪影響などのリスクがあります。懲戒処分の公表をおこなう際には、個人情報の取り扱いには十分注意し、記載内容を吟味した上で、社内イントラネットへ掲載するなどの対応が必要です。
懲戒処分は社内秩序を守り、従業員のモラル向上につながり、企業の利益を守る有効な手段です。一方で、就業規則に懲戒処分に関する事項の明記や、解雇予告手当の支給など労働基準法や労働契約法、実務上の取扱いに則った適切な対応が必要です。
慶応義塾大学法学部より、慶應義塾大学法科大学院へ飛び級入学。司法試験に合格後、都内の法律事務所勤務を経て日暮里中央法律会計事務所を開業。
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