この記事でわかること・結論
- ジタハラとは、残業を規制して定時退社を強いるハラスメント行為
- 正しい業務量でない企業ではジタハラが発生し、従業員のやりがいや意欲が低下する可能性がある
- ジタハラはデメリットが多く、防止のために企業は現状を見直しする必要がある
この記事でわかること・結論
時短ハラスメント(ジタハラ)とは、残業規制などで定時退社を強いるようなハラスメント行為を指します。
業務量が多いにもかかわらず残業規制などをおこなっている企業によく見受けられます。業務量と労働時間が不適切であれば、従業員のモチベーション低下や離職率などにも影響してしまうでしょう。
この記事では、そんなジタハラの原因や背景、実際に起こった事例や企業ができる防止対策を解説します。
目次
時短ハラスメント(ジタハラ)とは、長時間労働を制限して定時退社を強要するようなハラスメント行為を指します。残業などが社会問題になっているなか「定時退社を強要」というのは一見良いことのように思えるかもしれません。
しかし、すべての従業員が残業について不満に感じているわけではなく、自身のスキルアップのためにその日の振り返り時間として残業する方や、業務について新しいことをインプットする時間に使っている方もいます。
一概に残業が悪いとは言い難く、上記のように時間を有効活用している方が定時退社を強いられる場合、嫌がらせやハラスメント行為に該当することがあります。
ジタハラは「時短ハラスメント」の略称であり、労働時間の短縮を強要するなどのハラスメント行為を指します。具体的には、業務が終わっていないのに退社を強要することや、残業時間をポジティブに活用しているのに定時退社を促すことなどが該当します。また、明らかに定時では終わらない業務配分をして、終わらなければ叱るという行為もジタハラのひとつです。
長時間労働が社会問題化するなかジタハラが発生するようになり、2018年のユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされたことをきっかけに、より一層認知されていきました。ジタハラは、根本的な業務量が改善されないまま定時退社を強要されるため、従業員は「業務の先回し」によってモチベーションが低下してしまうでしょう。
ジタハラの原因や背景には、主に「働き方改革」が大きく影響していると考えられています。働き方改革とは、政府がおこなっている長時間労働や少子高齢化などへの対応策全般を指します。
そのなかでも、長時間労働への対応策である「時間外労働時間の上限規制」が主に影響しています。長時間労働が必ずしも高評価ではないという認識が進み、ワークライフバランスなどの言葉と共に、残業規制をおこなう企業が増えていきました。
ですが、人材不足もあいまって「業務量」が変わらずに労働時間のみが短縮される状況がほとんどでした。結果として、従業員のモチベーションが下がるようなジタハラが発生するようになったという背景があります。
各企業が実施したアンケート調査を参考に、働き方改革におけるジタハラなどの状況を見てみましょう。
2017年に高橋書店が男女730名に実施したアンケート調査では、「働き方改革(長時間労働の改善)に関する取り組みが導入されたことにより、困っていることはありますか?」という質問があります。
その回答として「仕事が終わっていなくても、定時で帰らなければならない」や「働ける時間が短くなったのに、業務量が以前のままのため、仕事が終わらない」などがありました。
ほかにも「長時間労働を改善するための、具体的な現場の対策・体制がまだ整っていないため、スタッフ間で混乱が起きたことがある」や「仕事へのやりがいが減った」などの回答もあり、ジタハラが発生していることがわかります。
2022年に女の転職typeが女性677名に実施したアンケート調査では、「職場で感じたことあるハラスメントは?」という質問に対して、「ジタハラ(時短ハラスメント)」と回答した方が11.2%という結果になっています。
セクハラやパワハラなどと比較すると発生状況は少ないですが、ジタハラによる問題を抱えている企業はまだまだ存在しているという現状が続いています。
2024年に日本インフォメーション株式会社が23〜65歳の男女1025名に実施したアンケート調査では、ジタハラの認知度は「5.6%」でした。
ハラスメントの種類は豊富ですが、実態としては少ないものも多いです。同調査では、カスハラやスメハラなどが増加傾向であると述べています。
ここではよくあるジタハラの具体例や、実際にあった企業におけるジタハラの事例を紹介します。
まずは、職場におけるよくあるジタハラの具体例を見ていきます。
よくあるのは、定時になっても業務が終わらず上司に叱られるケースです。働き方改革にて残業規制が導入されたものの、業務量に変化がないため完了することができず、上司によるジタハラを受けるというケースがあります。
また近年は「ノー残業デー」という制度を取り入れている企業も多いです。人によっては嬉しい制度ですが、業務量が多いと結局後日やらなければならないため、従業員のモチベーションが下がってしまうことがあるでしょう。
実際にジタハラによって起きてしまった企業の事例を紹介します。特に印象的だった事件に「ホンダ子会社店長過労自殺訴訟」があります。
2017年「ホンダカーズ千葉」の当時店長だった方が、部下の残業を肩代わりするなどして長時間労働をおこなっていました。結果その店長はうつ病を患い、最終的には自殺し、その後は遺族がホンダカーズへ慰謝料を請求するなど民事訴訟にまで発展しました。のちに和解しています。
上記の例は、ジタハラによって溜まった部下の業務を店長が肩代わりしたことによって起こってしまいました。各種ハラスメント行為は、過労死などにも発展してしまう可能性が十分にあります。このようなことが絶対にないように、企業は後述している防止対策を必ず確認しましょう。
ジタハラがもたらすデメリットについて、企業と従業員それぞれの目線で解説します。
まずはジタハラが企業に与えるデメリットを見てみましょう。
ジタハラが発生していると、隠れて残業することや持ち帰り業務をすることが起こるかもしれません。そうなれば、法定労働時間を超えてしまうことや、社内情報が漏れてしまうことなども可能性として考えられます。
また、ジタハラによって業務が滞ってしまえばシンプルに生産性が下がります。従業員のモチベーション低下によって、離職率が上がってしまうこともあるでしょう。これらの状況が続けば、取引しているクライアントからも信用を失うことになります。
次に、ジタハラによる従業員のデメリットを見ていきましょう。
ジタハラによって業務が残っているのに帰らされる場合、モチベーションが下がります。1日で終わるはずない業務量を任されることで、働くことへのやりがいも失ってしまいます。
また、これまで支給されていた残業代もなくなってしまうため、収入が下がるというデメリットもあります。転職をすることは対処法ですが、応募や面談などそれなりの手間がかかります。
ジタハラは企業にとってもデメリットがあります。経営状況にも大きく関わってくるため、ジタハラの防止対策を積極的におこないましょう。ここでは、企業ができるジタハラの防止対策例を紹介します。
ジタハラの根本的な要因となっている「業務量」が適正であるか見直しをします。また、業務量を再検討するうえでまずは上層部が現場を知ることが大切です。
社内の情報が把握できていれば、従業員ひとりひとりに適切な業務量を与えられるでしょう。従業員ごとの適性なども考慮して決められるように、まずは全体の見える化をおこなうことがジタハラ防止のために大切です。
業務量を決めることも大切ですが、そもそも業務効率化ができているのかを見直すことも重要です。具体的な見直しには、「業務の優先順位が適切にできているかどうか」や「システムなど自動化できる範囲はないか」などが挙げられます。
特に、バックオフィスなど時期によって忙しさが変動する部署はジタハラの影響をかなり受けてしまいます。労務管理システムや給与計算ソフトなどを導入して、業務効率化を図ることもおすすめです。
会社によっては、現状の業務量を改善することが難しいというケースもあります。そのような場合は、社内の人員体制を見直しすることも防止対策のひとつです。主に「労働力を増やすこと、再配分すること」が大切です。
もちろんコストとの相談ですが、中途採用やアウトソーシングなどで人員確保することもジタハラ防止に繋がります。また、従業員ひとりひとりの業務量や労働時間など現状のリソースを見直すことも必要です。
ハラスメント行為の被害者は「ハラスメント行為に該当するかどうかわからない」や「どこに相談したら良いかわからない」などの理由から、溜め込んでしまうケースが多いです。
そのため、意識改革として従業員へハラスメント教育をおこなうことが大切です。問題意識を持ってもらうことによって、ジタハラの早期発見にも繋がります。
ジタハラに限らずハラスメント行為の被害を受けている場合、人へ言い出せずに精神的に追いやられてしまうことも多いです。最悪のケースだと事件に発展してしまうことなどもあり得るため、従業員の精神ケアはなにより重要です。
また、ハラスメント教育で共有できるように社内相談窓口を設置しましょう。すでにある場合は、各種ハラスメント行為について相談できることを再度周知します。
社内相談窓口の設置が難しい場合は、労働局や労働基準監督署などで無料相談ができる旨を周知しましょう。厚生労働省の「労働基準行政の相談窓口」もおすすめです。
ジタハラとは、定時退社を強いるなど「労働時間の短縮」によるハラスメント行為のことを指します。一見すると嬉しいように思えますが、意欲のある従業員や残業代が支給されている従業員からすれば嫌がらせに該当することもあります。
ジタハラは、政府がおこなっている「働き方改革」によって長時間労働が見直しされたことが原因とされています。多くの企業が残業規制などをすると同時に、ジタハラが見受けられるようになりました。
ジタハラは従業員や企業にとってかなりデメリットです。業績不振や従業員を失ってしまう可能性すらあります。本記事を参考に、ジタハラの防止対策などをおこないましょう。
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