この記事で分かること
- 懲戒解雇が認められる条件と主な理由
- 懲戒解雇を実施する手順と解雇予告・解雇予告手当の取扱い
- 懲戒解雇した場合の退職金や失業給付の考え方

この記事で分かること
社員が会社のお金を使い込んでいたことが発覚した場合、クビにできるのでしょうか?
実は、横領など重大な服務規律違反が発覚しても、会社の判断だけですぐに懲戒解雇できるわけではありません。
懲戒解雇は、企業秩序に重大な違反をした労働者に対して行う、懲戒処分の中でも特に重い処分です。ただし、懲戒事由に該当する行為があったというだけでは足りず、就業規則上の根拠や事実関係、処分の相当性などを慎重に確認する必要があります。
また、「懲戒解雇なら即日解雇できる」と考えるのは適切ではありません。懲戒解雇であっても原則として30日前の解雇予告、または不足する日数分の解雇予告手当が必要です。
予告や手当なしで即時解雇するには、労働者の責に帰すべき事由について所轄労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受ける必要があります。
本記事では、懲戒解雇の意味や普通解雇との違い、認められる条件・理由、実施手順、退職金、解雇予告手当まで解説します。懲戒解雇を通知する際に使える無料テンプレートも紹介しますので、実務にお役立てください。
目次
懲戒解雇とは、企業秩序に重大な違反をした労働者に対して行う懲戒処分の一つで、労働契約を終了させる重い処分です。
公務員について使われる「懲戒免職」と似た言葉ですが、民間企業の労働者については一般に「懲戒解雇」と呼ばれます。
企業には企業秩序を維持するため一定の懲戒権が認められていますが、自由に行使できるわけではありません。
労働契約法第15条では、労働者の行為の性質・態様などに照らして、懲戒に客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合は権利濫用として無効になると定められています。また、解雇そのものについても同法第16条により、客観的合理性と社会通念上の相当性が必要です。
懲戒解雇と普通解雇は、どちらも会社側から労働契約を終了させる点では共通していますが、目的が異なります。
| 項目 | 懲戒解雇 | 普通解雇 |
|---|---|---|
| 主な性質 | 企業秩序違反に対する制裁 | 労働契約を継続することが困難な場合の契約終了 |
| 主な理由 | 横領・重大な服務規律違反など | 著しい能力不足・勤務不良など |
| 就業規則 | 懲戒の種類・事由などの規定と周知が重要 | 解雇事由を規定する |
| 解雇予告 | 原則必要 | 原則必要 |
| 処分の重さ | 懲戒処分の中でも特に重い | 懲戒処分ではない |
懲戒解雇は「制裁」としての性質を持つため、普通解雇以上に、対象行為と処分の重さが釣り合っているかを慎重に検討する必要があります。
「諭旨解雇」「諭旨退職」は法律で定められた名称ではなく、会社が就業規則などで独自に定める懲戒処分です。
一般的には、懲戒解雇相当の事情があるものの、本人に反省がみられるなどの事情を考慮し、一定期間内に自主退職するよう促す処分などとして設けられています。
本人が期限までに退職届を提出しなければ懲戒解雇とする制度もありますが、具体的な内容は会社の就業規則によって異なります。
懲戒解雇は「即時解雇」と同じ意味ではありません。
労働基準法第20条では、使用者が労働者を解雇するときは、原則として少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。
懲戒解雇でもこのルールは適用されます。就業規則上の懲戒解雇事由に該当しているだけで、解雇予告や解雇予告手当が自動的に不要になるわけではありません。
懲戒解雇として有効であっても、労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けていなければ、原則として解雇予告または解雇予告手当が必要です。
懲戒解雇を決定した場合は、対象となる従業員へ解雇日や懲戒解雇の根拠、具体的な理由などを明確に伝える必要があります。
口頭だけで伝えると、後から「いつ、どのような理由で解雇されたのか」をめぐってトラブルになる可能性があります。実務上は、懲戒解雇通知書を作成して書面で通知し、交付の記録を残しておくことが重要です。
労務SEARCHでは、懲戒解雇を通知する際に利用できる「懲戒解雇通知書」の無料テンプレートを公開しています。
懲戒解雇は労働者に与える不利益が大きいため、単に会社が「重大な問題だ」と判断しただけでは認められません。
実務上は、少なくとも次の点を確認する必要があります。
懲戒解雇を行うためには、どのような行為をした場合に、どのような懲戒処分を行うのかを就業規則で定めておくことが重要です。
また、就業規則を作成しているだけでは足りず、労働者へ周知していることも必要です。
厚生労働省が紹介する裁判例でも、使用者が懲戒するためには、あらかじめ就業規則に懲戒の種類・事由を定めて労働者へ周知する必要があるとされています。
次に、実際に行われた行為が就業規則に定める懲戒事由に該当するか確認します。
「横領したという噂がある」「問題を起こしたらしい」といった曖昧な情報だけで判断してはいけません。
本人へのヒアリングや関係者への聴取、メール・勤怠記録・会計資料など客観的な資料を確認し、事実関係を明らかにします。
懲戒事由に形式的に当てはまる場合でも、それだけで懲戒解雇が有効になるとは限りません。
対象となる行為の内容、故意・過失の程度、会社に生じた損害、従業員の地位や職責、過去の処分歴などを総合的に考慮する必要があります。
労働契約法第15条は、客観的に合理的な理由を欠く懲戒を権利濫用として無効としています。
懲戒解雇は懲戒処分の中でも特に重いため、問題行為に比べて処分が重すぎないかも確認します。
たとえば、軽微なミスを一度しただけの従業員をいきなり懲戒解雇するなど、問題行為と処分のバランスを欠く場合は、社会通念上の相当性が認められない可能性があります。
過去に同様の行為をした従業員へどのような処分を行ったかという社内での処分の公平性も重要です。
また、就業規則などに懲戒手続きが定められている場合は、その手続きを遵守する必要があります。規定の有無にかかわらず、正確な事実確認のために本人へ事情を確認し、弁明の機会を設けることが望ましいでしょう。
懲戒解雇の理由は会社の就業規則によって異なりますが、厚生労働省のモデル就業規則などでは、重大な経歴詐称、長期間の無断欠勤、業務命令違反、職場規律違反などが懲戒解雇事由の例として挙げられています。
代表的なケースを整理すると次のとおりです。
会社の金銭を横領・着服した場合や、会社内で窃盗などの重大な犯罪行為を行った場合は、懲戒解雇が検討される代表例です。
厚生労働省が示す解雇予告除外認定の判断例でも、事業場内における窃盗・横領・傷害などが挙げられています。
ただし、刑事事件になったことだけを理由に機械的に判断するのではなく、事実関係や会社との関係、本人の職責などを確認する必要があります。
採用条件の重要な要素となる学歴・職歴・資格などを意図的に偽っていた場合も、懲戒解雇の理由となることがあります。
厚生労働省のモデル就業規則でも「重要な経歴を詐称して雇用されたとき」が懲戒解雇事由の一例として挙げられています。
ただし、どのような経歴詐称でも懲戒解雇できるわけではありません。採用判断や実際の業務へどの程度影響を与えたかが重要です。
正当な理由なく長期間無断欠勤し、会社から出勤するよう求めても応じない場合も、懲戒解雇が検討されます。
解雇予告除外認定について厚生労働省が示す例では、「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」が挙げられています。
ただし、この「2週間」はすべての懲戒解雇に共通する法定基準ではありません。個別事情を考慮して判断します。
暴力行為や深刻なパワーハラスメント、セクシュアルハラスメントなどによって職場秩序を著しく乱した場合も、懲戒解雇が検討されることがあります。
被害の程度、行為の悪質性、継続性、過去の指導歴などを調査したうえで処分を判断します。
従業員が私生活で問題を起こしたからといって、必ず懲戒解雇できるわけではありません。
業務との関連性、会社の信用への影響、従業員の職務・地位などを考慮し、企業秩序にどの程度影響を与えたかを個別に判断する必要があります。
懲戒解雇を検討する場合は、結論を急がず、次の手順で慎重に進めます。
懲戒解雇を実施する流れ
問題行為が発覚したら、まず事実関係を調査します。
関係者の証言だけに頼らず、可能であればメール、チャット、勤怠記録、防犯カメラ、会計資料など客観的な資料も確認します。
懲戒解雇後に労働審判や訴訟となった場合に備え、どのような調査を行い、何を根拠に事実認定したのかを記録しておくことも重要です。
認定した事実が、就業規則のどの条項に該当するか確認します。併せて、下記内容を確認します。
証拠だけで判断せず、本人にも事実関係を確認します。
本人の説明によって事実認定が変わる可能性があるほか、やむを得ない事情が判明する場合もあります。
就業規則や労働協約などに弁明手続きが定められている場合は、その手続きに従います。
行為の悪質性だけでなく、下記内容などを踏まえて総合的に検討します。
けん責、減給、出勤停止など、より軽い処分で対応できないかについても確認します。
懲戒解雇であっても、法律上解雇できない期間があります。
労働基準法第19条では、原則として業務上の負傷・疾病により療養のため休業する期間とその後30日間、産前産後休業中とその後30日間の解雇を禁止しています。
このほか、妊娠・出産や育児休業の取得などを理由とする解雇についても各法律で禁止されています。
懲戒解雇でも、原則として解雇予告または解雇予告手当が必要です。
労働基準法第20条では、少なくとも30日前の予告を原則としており、30日前に予告しない場合には不足する日数分の平均賃金を支払います。
| 解雇を予告する時期 | 解雇予告手当 |
|---|---|
| 30日以上前 | 原則不要 |
| 20日前 | 10日分以上の平均賃金 |
| 10日前 | 20日分以上の平均賃金 |
| 即日 | 30日分以上の平均賃金 |
労働者の責に帰すべき重大な事由によって解雇する場合には、所轄の労働基準監督署長から解雇予告除外認定を受けることで、解雇予告や解雇予告手当なしで即時解雇できる場合があります。
認定基準の例として、厚生労働省は次のようなケースを挙げています。
ただし、これは例示であり、個別事情を総合的に判断して認定されます。
懲戒解雇が相当と判断したら、懲戒解雇通知書を作成します。
対象者に通知した事実を後から確認できるよう、対面で交付する場合は受領記録を残すなど、交付方法にも配慮しましょう。
懲戒解雇後は、通常の退職と同様に、下記などの手続きを進めます。
懲戒解雇通知書に法律で統一された様式はありませんが、少なくとも対象者が「いつ、何を理由として解雇されるのか」を理解できる内容にします。
「会社秩序を乱したため」など抽象的な表現だけでは、どの行為を理由として懲戒解雇したのか分かりません。
対象となった日時、行為、就業規則上の該当条項などを整理し、事実に沿って具体的に記載します。
懲戒解雇の根拠となる就業規則の条項も明示しておくとよいでしょう。
ただし、就業規則に懲戒条項があるからといって、機械的に懲戒解雇が有効になるわけではありません。
労働者が解雇予告を受けてから退職日までの間に解雇理由の証明書を請求した場合、使用者は遅滞なく交付する必要があります。
また、退職後に退職理由について証明書を請求された場合も対応する必要があります。
懲戒解雇通知書を渡していることだけを理由に、法定の証明書請求への対応を省略しないよう注意しましょう。
懲戒解雇になったからといって、退職金が支給されなくなるわけではありません。
そもそも退職金制度を設けるかどうかは会社によりますが、就業規則や退職金規程などで退職金の支給条件が定められている場合は、その規定に基づいて判断します。
懲戒解雇の場合に退職金の全部または一部を支給しない旨を退職金規程等に設けること自体は可能です。
ただし、規定があればどのようなケースでも全額不支給にできるわけではありません。
厚生労働省が紹介する裁判例では、退職金には賃金の後払い、功労報償、生活保障などの性格があるため、退職金を全額不支給とするには、それまでの勤続の功績を失わせるほど重大な背信行為が必要になる場合があると整理されています。
懲戒解雇の有効性と退職金の不支給も、必ずしも同じ結論になるとは限りません。
退職金を減額・不支給とする場合には、下記などを踏まえて判断する必要があります。
懲戒解雇されたからといって、失業給付を受け取れなくなるわけではありません。
ただし、ハローワークにおいて「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇(重責解雇)」と判断された場合は、7日間の待機期間に加えて3か月の給付制限があります。
なお、会社が「懲戒解雇」としただけで、雇用保険上の離職理由が自動的に確定するわけではありません。
ハローワークが本人・事業主双方の主張や証拠書類などを確認したうえで、最終的な離職理由を判断します。
懲戒処分には、懲戒解雇以外にも複数の種類があります。
具体的な名称や内容は会社によって異なりますが、一般的には次のような処分があります。
| 懲戒処分 | 主な内容 |
|---|---|
| 戒告 | 将来を戒める比較的軽い処分 |
| けん責 | 始末書等を提出させ、将来を戒める処分 |
| 減給 | 賃金の一定額を減額する処分 |
| 出勤停止 | 一定期間出勤させない処分 |
| 降格 | 役職・職位などを引き下げる処分 |
| 諭旨解雇・諭旨退職 | 一定期間内の退職を促すなど会社が定める処分 |
| 懲戒解雇 | 懲戒処分として労働契約を終了する重い処分 |
問題行為があった場合でも、すぐに懲戒解雇を選択するのではなく、行為の程度に応じた処分を検討することが重要です。
懲戒解雇は、労働者に大きな不利益を与える処分であるため、就業規則に懲戒事由があるという理由だけで安易に実施してはいけません。事実関係の調査や処分の相当性、社内手続き、解雇予告の取扱いなどを一つずつ確認し、適正な手順で進める必要があります。
また、同じ問題行為に対する処分の公平性や、本人への弁明機会の確保も重要です。懲戒解雇後に労働審判や訴訟へ発展する可能性もあるため、判断が難しい場合は専門家へ相談しながら慎重に対応しましょう。
すでに特定の問題行為について懲戒処分を確定・実施した後、同じ行為だけを理由として再び懲戒処分を行うことはトラブルの原因となります。
新たな事実が判明した場合などを除き、一つの非違行為について処分を繰り返さないよう注意が必要です。
同じ程度の問題行為をした別の従業員には軽い処分をしているにもかかわらず、特定の従業員だけ懲戒解雇とすると、処分の相当性を争われる可能性があります。
過去の懲戒事例も確認し、処分基準に一貫性を持たせましょう。
業務上必要な関係者へ人事異動や退職の事実を知らせることはありますが、懲戒解雇となった詳細な理由を必要以上に社内外へ広めることは避けましょう。個人情報や名誉への配慮も必要です。
懲戒解雇は、無効と判断された場合に雇用関係の存続や未払い賃金などをめぐって大きな労務トラブルになる可能性があります。
次のような場合は、社会保険労務士や弁護士などへ事前に相談するとよいでしょう。
懲戒解雇とは、企業秩序への重大な違反行為に対して行う、懲戒処分の中でも特に重い処分です。
就業規則に懲戒解雇事由を定めていれば自由に実施できるものではなく、規定の周知、事実関係、客観的合理性、社会通念上の相当性などを慎重に確認する必要があります。労働契約法では、合理性や相当性を欠く懲戒・解雇は権利濫用として無効になるとされています。
また、懲戒解雇であっても原則として30日前の解雇予告または解雇予告手当が必要です。予告や手当を行わず即時解雇する場合は、労働基準監督署長による解雇予告除外認定について確認しなければなりません。
懲戒解雇を通知する際は、対象者や解雇日、具体的な懲戒理由、就業規則上の根拠などを整理して書面化すると、後のトラブル防止につながります。
労務SEARCHでは、懲戒解雇の通知に使える無料テンプレートを用意しています。自社に様式がない場合は、就業規則や個別の事情に合わせて編集してご活用ください。

1982年生まれ、東京都豊島区出身
2016年:社会保険労務士開業登録
2018年:特定社会保険労務士付記
2019年:行政書士登録
ワイエス行政書士・社会保険労務士事務所の特定社会保険労務士
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