従業員の無断欠勤は会社にとって非常に困るものです。連絡が何もないと「事故にあってしまったのでは?」「何かトラブルに巻き込まれたのでは?」「今日の商談どうしよう…」など、不安になってしまいます。
単なる連絡忘れもあれば、本当に事故に巻き込まれてしまった場合や、急に体調を崩してしまった場合などその理由はさまざまです。今回は無断欠勤をした社員に対する措置を解説していきます。
目次
無断欠勤を何度も繰り返しおこなう社員がいる場合、懲戒解雇になるのでは?と思う方もいるかもしれません。まずは解雇の種類について確認しましょう。解雇には次の3つがあります。
整理解雇、懲戒解雇以外の解雇のことです。勤務成績が非常に悪く、指導しても改善が見られない、健康の理由で長期間職場復帰が見込めないなど、労働契約を継続するのが難しい事情があるときにおこないます。
会社の経営状況の悪化に伴い人員を整理する際におこなう解雇です。
という、4つの条件を満たしていなければ実行できません。
懲戒解雇とは、社員が悪質な規律違反や会社の秩序を乱したときに懲戒処分としておこなう解雇です。懲戒解雇をおこなうには、具体的な要件を就業規則や労働契約書に明記しておく必要があります。
就業規則に無断欠勤が懲戒解雇になる旨が書かれていれば、懲戒解雇をおこなうことができることもあります。しかし、実際はその処分が懲戒処分として有効なのか無効なのか、客観的合理性や社会通念上相当性があるかといった条件を満たす必要があるのです。そのため、無断欠勤する社員を解雇にする際の手段は一律ではなく、個別状況に応じて判断することになります。
たとえば、「14日以上の無断欠勤は解雇とする」と就業規則に書かれていたらそれは有効なのでしょうか?
労働契約法では第16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされています。これを前提として、次の条件を満たしていなければ解雇は無効だと判断されてしまいます。
これらはつまり、解雇となる事実を実証し、解雇の理由が社会的に妥当であると判断されなければいけないということです。労働事件訴訟においては、◯日以上の無断欠勤に伴う解雇は一律に有効とされているわけではなく、その事案をしっかりと考慮する必要があります。
ちなみに、冒頭で例としてあげた「14日以上の無断欠勤は解雇」というのは法律で定められているものではなく、行政の解雇予告除外認定の際の通達のひとつです。解雇予告除外認定を受けたからといって、必ずしもその解雇が有効であるというものではありません。あくまでも、上記の条件を満たしていることが解雇をおこなううえで必須となります。
実際に無断欠勤が発生したときに備えて、労務担当者はどのような対応をするべきなのか確認しましょう。
まず、就業規則や労働契約書に無断欠勤に関する文言(「○日以上で懲戒解雇となる」など)が記載されているか、ということです。
もし記載されていない場合は、会社として記載する必要があるのか確認しなければいけません。次に無断欠勤が発生したら、それが事実なのか確認します。連絡を忘れていただけの場合もあるので、いきなり「無断欠勤だ」と決め付けないよう慎重に確認してください。
無断欠勤が事実であれば、欠勤者に対して出勤を促す連絡を入れます。無断欠勤が長い場合は解雇も検討しなければいけないので、電話、メール、緊急連絡先などに漏れなく連絡しましょう。同時に無断欠勤が会社の業務にどのような影響を与えたのか確認し、整理しておく必要があります。
これは、もし解雇無効を訴えて裁判になった場合に備えておく意味合いもあります。先ほども説明しているように、解雇は就業規則や労働契約書に無断欠勤に関する文言が記載されたうえで、客観的合理性と社会通念上の相当性がなければ認められません。
つまり、単に◯日無断欠勤したというだけでは無効となる可能性があるのです。無断欠勤の日数が就業規則などに記載されている要件を超えた場合は、社内で審議し懲戒処分を決定します。
処分の種類は重い順に「戒告(かいこく)処分/譴責処分/訓告処分→賃金カット(減給)→出勤停止→降格→諭旨解雇→懲戒解雇」があります。
解雇となる場合、解雇通知は口頭ではなく書面で送るようにしましょう。以上が大まかな対応の流れです。
無断欠勤のなかには、連絡がまったく取れない、自宅を訪問してもいない、周囲の人間も行方を知らない、と行方不明になってしまう人もいます。こういった場合、労務担当者はどうすれば良いのでしょうか?
この場合、長期にわたって行方不明となっていることから解雇となるケースが多いのではないかと考えられます。解雇する際、会社は社員本人に対して「あなたを解雇します」という意思表示を行わなければいけません。
社員が行方不明の場合は、直接本人に意思表示を伝えることができないため、裁判所で公示という形で意思表示を行います。公示の場合、公示が行われた旨が官報に記載され、そこから2週間経過すれば相手に意思表示が伝わったとみなされ、解雇の効力が発生することになります。
公示自体は費用がかかりますし、行方不明であることを裁判所に証明しなければいけないため労務担当者にとっても負担ではありますが、手段のひとつとして覚えておいて損はありません。また、公示以外にも退職事由として「30日以上の無断欠勤は自動的に退職扱いとする」といった内容を、就業規則や労働契約書に記載しておくのも手段としては有効です。
解雇の場合、先ほども紹介した条件を満たしていないと解雇が無効とされてしまいますが、行方不明のようにやむを得ない事情であれば無効と判断される可能性は低いと考えられます。
今回は社員の無断欠勤が発生した場合にどのような対応をとれば良いのか、主に解雇を行うという視点から紹介してきました。労務担当者としては、まずはしっかりと就業規則や労働契約書の内容、勤怠を確認しておくことが重要です。
自分の会社では解雇に関する規定、無断欠勤に関する規定はどのようになっているのか知っておくことで、事案が発生した際にスムーズに対応することができます。
また、欠勤する際に従業員に提出してもらう欠勤届のフォーマットがない場合は、弊サイトが公開している無料テンプレートを下記からダウンロードのうえ、ご活用ください。
1982年生まれ、東京都豊島区出身
2016年:社会保険労務士開業登録
2018年:特定社会保険労務士付記
2019年:行政書士登録
ワイエス行政書士・社会保険労務士事務所の特定社会保険労務士
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