安倍政権が昨年肝いりで発足させた「働き方改革実現会議」により、先般「同一労働同一賃金ガイドライン案」が示されたところですが、ここにきてこれまでの就業慣行である「正規・非正規の別」や、直接に能力や成果と結びつかない「転勤の有無・労働時間数・就業場所による待遇差」などといった枠組みが、大変革を迎えようとしています。最近のワークライフバランス政策などの動向もふまえ、就業管理の最新キーワードを解説します。
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多様な正社員というのは、職務や勤務地、労働時間を限定した正社員のことを指します。労働者側の、正社員として雇ってもらいたいけれど、勤務地や勤務時間はきちんと制限してほしいといったニーズに応えられる新たな制度です。そして、企業側にとっても、今までよりも低い待遇で雇用でき、さらに採用もしやすいため、メリットがあります。
ただし、職務限定正社員は、与えられた仕事だけしかできないという正社員であるため、仕事の効率が悪くなったり、企業競争力の低下などにもつながる可能性があるというのが注意点ではあります。
テレワークとは、情報通信技術を活用した、場所にとらわれない柔軟な働き方の総称で、自宅を就業場所とする在宅勤務もその一類型です。複数の主業に同時に従事する兼業や、主業に加え従たる業務にも副次的に従事する副業とあわせ、新しいワークスタイルの具体策として世に広まりつつあります。
特に、欧米諸国ではテレワーク導入率が他国に比べ高くなっていて、情報通信技術を活用した働き方の普及が進んでいます。在宅勤務は、業務の効果と効率の向上がメリットになります。そして社員にとっても気楽に働けますし、通勤時間の削減にもつながります。
勤務間インターバル制度とは、時間外労働などを含み、1日の最終的な勤務終了時~翌日の始業時までに、一定時間のインターバル(間隔・休憩)を保障することによって、従業員の心身ともに安らげる休息時間を確保しようという制度です。
長時間勤務、時間外労働、不規則な勤務体系の改善を目指すための制度でもあります。ワークライフバランス推進の具体策として勤務間インターバル制度は注目を集めています。
労働組合の主導によって、日本の企業でも勤務間インターバル制度を導入する取り組みがどんどん進められています。特にIT関連などの情報サービス産業が積極的に導入していく方針です。この導入によって、離職者を少しでも減らそうというのが狙いでもあります。
次世代育成支援対策推進法で、事業主が従業員の子育て支援のための計画を実行に移して、それによる結果が一定の要件を満たす場合に厚生労働大臣の認定を受けることができるようになっています。その認定を受けた事業主は、くるみん認定マークを商品などに自由につけることができる仕組みになっています。
「プラチナくるみん」とは、仕事と育児が難なくできるような制度を設けている企業のうち、特に優秀な実績を上げている企業を厚生労働省が認定した証の認定マークのことです。税制面などでも優遇してもらえます。ただし、「プラチナくるみん」は、まず認定制度である「くるみん」の認定を受けている企業が対象となります。
ちなみに、名前の由来は赤ちゃんが包まれる「おくるみ」、それから「職場ぐるみ」で子供の育成を見守り、協力し合おうという意味が込められているそうです。
平成28年10月から、短時間労働者に対する社会保険の適用が拡大されました。被保険者が500人を超える事業主の適用事業所が対象となり、条件に該当するパートタイマーの方などは、10月から厚生年金保険と健康保険に新たに加入することとなります。
サラリーマンの夫の扶養に入っているというケースが一番多いでしょう。この場合、夫の扶養から外れることになるため、健康保険料を新たに納める必要が出てきます。その反面、保険給付として出産手当金や傷病手当金の受給ができますので、パート勤務であっても生活していく上でパート代が重要になってきているのであれば、この制度はとてもありがたいものになるでしょう。
そして、厚生年金保険料。これも支払う必要が出てくるため、費用の負担は増えますが、将来受け取ることのできる年金は原則として増額されます。そしてメリットはもう一つ、万が一の事故や病気で重度の障害が残ったときでも、障害基礎年金にくわえて、障害厚生年金が受給できます。
ホワイトカラー・エグゼンプションとは、ホワイトカラー労働者(企業の中・下級管理者、専門職従事者、事務、販売などの非現業部門の雇用労働者の総称)のうち、管理監督者を除く一定の要件を満たす者を対象とする制度です。詳しく説明しますと、働いた時間に関係なく労働時間規制の適用を外し、成果に対して賃金を支払う制度のことです。
勤務時間内でその人の働き方を評価することができない労働者の労働時間を自由にし、生産性を向上させるという狙いもあります。
これまで労働市場の周縁部にあった労働者層を、政府はいま矢継ぎ早にその中心部へと取り込もうとしています。育児労働者、介護労働者、障害者や高齢者のみならず、難治性疾患患者やメンタル不調者に至るまで、様々な「仕事との両立支援」ガイドラインが策定されており、それ自体は望ましい世相といえます。
しかしながら、そこには将来の日本経済を支える担い手を何としてでも確保しなければならないという政府の焦りも、同時に透けて見えてきます。