この記事でわかること・結論
- 諭旨解雇とは懲戒処分の一種であり、違反行為があった際に従業員に同意を得てから退職届を提出させる措置のこと
- 諭旨解雇は就業規則にならって進めるが、適切な対応をしない場合は「職権濫用」扱いとされるため注意
- トラブルを回避するためにも、違反行為が発覚したら事実確認や弁明機会などの対応を適切におこないましょう
この記事でわかること・結論
諭旨解雇(ゆしかいこ)とは、従業員が違反行為などした際におこなわれる懲戒処分の一つです。一方的な解雇ではなく、企業から従業員に対して退職を勧告し、同意を得たうえで退職届を提出してもらいます。
諭旨解雇の判断や実際におこなう際は、その企業における就業規則に沿って対応を進めます。諭旨解雇について明記のない場合は認められないため、あらかじめ記載しておく必要があるということを覚えておきましょう。
本記事では、諭旨解雇についてトラブルにならないための適切な流れや注意点、そして懲戒解雇との違いなどについて解説します。
目次
諭旨解雇(ゆしかいこ)とは、企業における懲戒処分の一種であり、対象の労働者が解雇にも匹敵するほどの大きな違反などをした際におこなわれます。
会社からの懲戒処分と聞くと、一方的に退職にするような印象があります。しかし諭旨解雇においては、対象従業員が重大な就業規則違反などをした際にまず解雇事由など伝え退職を勧告します。そして対象従業員が納得したうえで、退職届を提出させます。
万が一、勧告後に対象従業員が納得しないという場合は「懲戒解雇処分」となることが一般的です。また、企業が諭旨解雇をおこなうためには、あらかじめ就業規則にて諭旨解雇に相当する違反例や、企業が懲戒処分として諭旨解雇をおこなう可能性がある旨などを記載しておく必要があります。
企業が労働者に対して、就業規則そのものや記載内容を周知しなければならないという義務は労働基準法第106条にて定められています。また、労働契約法第15条には懲戒処分などが「客観的に合理的な理由を欠いている」と判断される場合は無効になるという明記があります。
そのため、就業規則に記載がないもしくは周知されていないにもかかわらず諭旨解雇を実施しようとする場合は「懲戒権・解雇権の濫用」に該当するものとされ、その諭旨解雇は無効となり認められません。
使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則(中略)並びに第四十一条の二第一項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
そもそも諭旨解雇は就業規則に則りおこなわれるものであるため、周知されず上記法令のうち「社会通念上相当であると認められない」というケースに該当します。仮に裁判に発展した場合でも、労働者が有利になることがほとんどでしょう。
諭旨解雇は、企業によっては諭旨退職と呼ぶところもあります。対象従業員に退職届を提出してもらったのち「解雇扱い」となるか「退職扱い」となるかの違いです。
上記2つの措置を別々で設けている会社はほとんどありません。字面では異なりますが、実態的に見ればどちらも退職届の提出を勧告し合意のうえの措置という同じ意味合いとなります。
諭旨解雇とは、懲戒処分のなかでは従業員が犯した過ちが比較的軽微であるか、改善の余地がある場合に用いられるものであり、事前に複数回の勧告などを経て実施されます。以下の懲戒処分の段階の図のとおり、懲戒解雇よりも処分の重さは軽いものとなります。
対して懲戒解雇とは、従業員が重大な違反行為や不正を犯した場合に適用される厳格な措置であり、雇用契約を企業が即時的かつ一方的に解約することが可能です。両者の違いは企業が人事管理をおこなう上で非常に重要です。
諭旨解雇や懲戒解雇を含めて、懲戒処分には全部で以下の7種類があります。
企業は上記7つの懲戒処分について、それぞれの意味や違いについて理解しておく必要があります。そのうえで、実施を検討する場合は「客観的に合理的な理由の有無や妥当性」などを確認することが求められます。各処分について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
諭旨解雇とは、就業規則などに決められた違反行為などをおこなった際に実施される懲戒処分ですが、7種類のうち2番目に重い処分です。具体的には以下のような違反行為が諭旨解雇の対象となります。
上記のような違反行為が諭旨解雇の対象となります。いずれも企業の信用度や業務に悪影響をおよぼすような行為です。横領などの職権濫用やハラスメント関連などは、社会問題にもなっている違反行為であるため特に企業への影響が大きいでしょう。
また、このなかでは無断欠勤や遅刻はそこまで珍しいものではないかもしれません。ですが、本業務に支障をきたす程の状態や戒告を受けてもなお改善が見受けられない場合などは、無断欠勤や遅刻であっても諭旨解雇になることがあります。
ここからは企業が実際に諭旨解雇をおこなう際に、どういった流れで進めるのかを解説します。
諭旨解雇の流れ
諭旨解雇の実施には、就業規則違反となるような違反行為が実際にあったことを証明する必要があります。
万が一、違反行為をしたという事実について証拠不十分である場合は諭旨解雇が認められません。さらには職権濫用とされることもあるため注意が必要です。
具体的には、諭旨解雇対象の従業員本人や場合によっては被害者および関係者などに事情聴取などをおこないましょう。また、繰り返し戒告などをしているのであれば書面などを残しておくと有効的です。
違反行為が確認できたら、当該行為について就業規則で再度確認をしておきましょう。就業規則には、違反行為およびその事実が明らかになった場合の懲戒処分について記載があるはずです。対象の従業員について、就業規則と照らし合わせながら諭旨解雇に該当するケースかどうかを判断することが大切です。
冒頭でも説明したとおり、就業規則への記載がないまま進めてしまうと「懲戒権・解雇権の濫用」となりトラブルに発展する可能性があります。一つ前の事実確認、そして就業規則の確認は丁寧におこないましょう。
事実確認と就業規則内容の確認ができたら、諭旨解雇対象の従業員に弁明の機会を設けます。弁明の場を設ける目的は、仮に裁判などに発展した場合に企業側の証拠として残しておくためです。
諭旨解雇では「不当な解雇」として訴えられることもしばしばあるでしょう。その際に弁明の機会を与えていなかったということが不利になる可能性が十分にあります。
面談などの機会を用意して、記録などをちゃんと残しておきましょう。
違反行為の証拠および弁明内容などが集まったら、改めて諭旨解雇処分とするかどうかの決定をします。最終確認となるため誤認など企業側に不備がないかを慎重にチェックしましょう。
諭旨解雇が決定したら、「懲戒処分通知書」を退職する30日までまでに対象従業員に対して交付します。この告知期限については労働基準法第20条にて定められているため必ず遵守しましょう。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。
また、懲戒処分通知書とあわせて従業員には退職届の提出をしてもらう旨を伝えましょう。退職届の決まったフォーマットがない場合は、こちらの無料テンプレートをご活用ください。
違反行為をした従業員を諭旨解雇とする場合に、付随して覚えておきたいポイントがあるため解説します。
諭旨解雇の場合の退職金については、就業規則に準拠して対応を進めます。そのため、諭旨解雇時の退職金についてはあらかじめ就業規則に明記しておきましょう。
多くの企業では「退職金を支給しない、もしくは正当額からの減額」としていることが一般的です。また、懲戒解雇がもう一段階重い処分として存在しているため懲戒解雇時は不支給とし、諭旨解雇時は減額と区別している企業も多いです。
諭旨解雇で退職する場合も失業保険給付を受けることができますが、通常の解雇とは異なり「自己都合退職扱い」としての給付日数になります。これは「自己の責めに帰すべき重大な理由による退職」に該当するためです。
また、年次有給休暇については諭旨解雇に関係なく従業員は退職日まで取得することができます。申請された有給休暇についてはこれまで同様に受理する必要があります。
諭旨解雇とは、就業規則に記載のある違反行為などをした従業員に対して退職を勧告し、同意の上で退職届を提出してもらうという懲戒処分の一種です。また、企業は違反行為や諭旨解雇の旨を就業規則に必ず明記しておく必要があります。
就業規則への不記載および周知されていない状態での諭旨解雇は認められません。さらに、事実誤認や弁明の機会を与えないなども含めすべて「職権濫用」として扱われてしまう可能性があります。
仮に諭旨解雇を促した従業員から不当解雇として訴えられた際は、不利になることのないように慎重に進める必要があります。また、諭旨解雇における退職金や失業保険など周りの関連業務についてもよく理解しておきましょう。
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