更新日:
人材・組織働き方改革関連法のひとつとして、中小企業では猶予されていた法定割増賃金率の引き上げが開始されます。月60時間を超える場合、従来の2倍となる50%の割増賃金を支払わなければなりません。本記事では、中小企業の法定割増賃金率の引き上げについて、わかりやすく解説します。
目次
従業員に残業をさせる場合は、36協定の締結・届出と、割増賃金の支払いが必要です。
割増賃金の支払いは、労働基準法において、法定労働時間を超えて労働させたときや深夜・休日に労働させたときは、基礎の時給に一定の割合で上乗せした賃金を支払うための割増率が定められています。
法定割増賃金率は次のとおりで、割増賃金率も決定しています。中小企業は、月60時間超の時間外労働の法定割増賃金率が引き上げられますが、2023年3月31日まで猶予されます。下記の表は、2023年3月31日までの割増賃金率の一覧です。
法定割増賃金率の種類 | 条件 | 割増率 |
時間外手当(法定外労働) | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき | 25%以上 |
時間外労働が限度時間(1カ月45時間・1年360時間など)を超えたとき | 25%以上 | |
時間外労働が1カ月60時間を超えたとき | 大企業の場合
50%以上 |
|
中小企業の場合
25%以上 |
||
休日手当 | 法定休日(週1日)に労働させたとき | 35%以上 |
深夜手当 | 22時から5時までに労働させたとき | 25%以上 |
休日手当 + 時間外手当 |
法定休日(週1日)に法定外労働させたとき | 35%以上
(1日8時間を超えても、時間外の割増は適用外) |
休日手当 + 深夜手当 |
法定休日(週1日)の22時から5時までに労働させたとき | 60%以上
(休日手当35%以上+ |
深夜かつ月60時間を超えたとき | 時間外労働が1カ月60時間を超えて、22時から5時までに労働させたとき | 大企業の場合75%以上
(深夜手当25%以上+ 中小企業の場合50%以上 (深夜手当25%以上+ |
月60時間超の割増賃金率の算定における中小企業の定義は、以下の項目で判断されます。
業種 (日本標準産業分類) |
資本金の額など | または | 常時使用する労働者数 |
小売業 | 5,000万円以下 | または | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | または | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | または | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | または | 300人以下 |
資本金の額または常時使用する労働者数のどちらかに該当すれば、中小企業となります。
例)製造業(=その他の業種)、資本金5億円、常時使用する労働者数100人は中小企業
法定割増賃金は、労働させている時間によっても、割増率が変わります。以下は、所定労働時間が9:00~17:00(うち休憩時間1時間)のときのイメージ図です。
割増賃金の計算は、次の流れです。
総支給額から、割増賃金基礎額の算定において除外できる手当に注意します。主な具体例です。
割増賃金の計算例(2023年3月31日まで。中小企業のケース)
2023年4月1日以降、中小企業も時間外労働時間が1カ月60時間を超えたときの割増率が、現行の25%から、大企業と同じ50%へ変更となります。45時間超の割増率は、中小企業であっても現行と変わりありません。
2023年4月1日以降、60時間超の割増賃金率について、中小企業も大企業と同じ50%に引き上げられます。
この引き上げは、労働基準法第138条で定めていた、中小企業における割増賃金率の特例が削除され、同法第37条第1項のただし書の適用を受けることとなるためです。なお、月60時間超の割増賃金率50%の適用を回避するために、休日振替をおこなって休日割増賃金率35%とすることは法の趣旨に照らして望ましくない、ともされています。
※変更後の割増賃金率は就業規則への記載が必要な事項です。
以下は、2023年4月1日以降の割増賃金率の一覧(下線部が改正)です。
法定割増賃金率の種類 | 条件 | 割増率 |
時間外手当(法定外労働) | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき | 25%以上 |
時間外労働が限度時間(1か月45時間・1年360時間など)を超えたとき | 25%以上 | |
時間外労働が1か月60時間を超えたとき | 大企業の場合
50%以上 |
|
中小企業の場合
50%以上 |
||
休日手当 | 法定休日(週1日)に労働させたとき | 35%以上 |
深夜手当 | 22時から5時までに労働させたとき | 25%以上 |
休日手当 + 時間外手当 |
法定休日(週1日)に法定外労働させたとき | 35%以上
(1日8時間を超えても、時間外の割増は適用外) |
休日手当 + 深夜手当 |
法定休日(週1日)の22時から5時までに労働させたとき | 60%以上
(休日手当35%以上 |
深夜かつ月60時間を超えたとき | 時間外労働が1か月60時間を超えて、22時から5時までに労働させたとき | 大企業の場合75%以上
(深夜手当25%以上 中小企業の場合75%以上 (深夜手当25%以上 |
割増賃金の計算例(2023年4月1日以降。中小企業のケース)
1か月60時間を超える法定時間外労働をおこなった場合の引き上げ分の割増賃金のかわりに、有給休暇の休暇(代替休暇と呼びます。)を付与できます。
代替休暇の対象となる法定時間外労働とは、
に限られます。代替休暇制度を導入するためには、労使協定が必要です。労使協定において、
を定める必要があります。
代替休暇の取得は、月60時間超の労働が発生した月の翌月1日から2か月間以内の期間内において、1日単位、半日単位、1日または半日単位です。代替休暇の取得は義務づけではないため、労働者が代替休暇の取得ではなく賃金での支払いを求めた場合は、賃金支払いが必要です。
残業代などの賃金未払いには、罰則があります。
給料の未払いは、労働基準法第120条により、30万円以下の罰金が科されることがあります。残業代(時間外手当、休日手当、深夜手当)の未払いは、労働基準法第119条により、より重い罰則である6か月以下の懲役または30万円以下の罰金とされています。
特に残業代は一定の分数を切り捨てにするなど、適正に計算されていないケースがあります。1日の労働時間の切り上げは問題ありませんが、切り捨てはできないことに注意が必要です。
1か月60時間を超える法定割増賃金率の引き上げは、長時間労働が多い業界の中小企業にとっては大幅な人件費の上昇を招くため、事前の準備が必要です。
長時間労働が多いといわれる業界、会社は、法定割増賃金率の猶予期間終了後、人件費の上昇が予想されています。特に深夜時間帯におよぶ残業は、基礎となる時給に75%の割増となるため、大きな負担となります。
また、長時間残業させる従業員を減らすため、人材確保も活発化しています。他社の人材確保競争に伴い、一部では人件費全体が上昇している業界や地域もあります。
間もなく適用される法定割増賃金率の引き上げに対する、主な準備です。
会社や勤務形態によってはタイムカードがないなど労働時間を把握していないことがあります。まずは、従業員の労働時間を適切に把握することが必要です。
勤怠管理システムの導入など、従業員の労働時間を正確に把握することが必要です。給与計算も複雑であるため、勤怠管理システムと給与計算システムを連動させるなど、労力が必要な業務を効率化することもおすすめです。
人員増加や業務効率化などにより、なるべく労働時間を抑制する取り組みが必要です。
人件費が多い業種・会社において法定割増賃金率の引き上げに伴う人件費の上昇は、経営を左右する可能性のある大きな問題です。また、残業代の未払いは、従業員との訴訟や法令違反による処分だけでなく、社会的な非難やその後の人材採用難にも結び付きます。法定割増賃金率は、労働条件によって異なるため、正しい理解と正確な事務をおこなう必要があります。
労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
詳しいプロフィールはこちら